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山ユリの谷

「どうしてついてくるんだよぅ。」

くまのゴローは、ゴローの背中で嬉しそうに鼻唄をうたう蜘蛛のカオリに言いました。


草木も眠る丑三刻(うしみつどき)、と、人間は言いますが、夜行性の動物や虫は(せわ)しなく動いているのです。


「楽しそうだから、ですよ。主さんも一人より、話し相手がいた方が道中、寂しくないでしょう?」

カオリは少しはしゃいで言いました。


「あんまり楽しくないよ。」

と、ゴローはぼやきましたが、三回はカオリの適切なナビのお陰で迷子にならずにすんだので、強く文句も言えません。


山ユリの谷は、逆さ虹の森のはずれありました。

人間の入れる山と、妖怪や妖精の住む山の境目にあり、この辺りには、たまに人間が誤って入り込む事があり、それを監視するために天狗のような、人間の姿の妖怪や妖精が多い場所でもありました。


谷には橋がかかっていますが、生きている人間が見るとボロボロの渡れ無い橋にみえ、死んだ人間には綺麗な赤い吊り橋に見えるのだそうです。


橋をわたれば、死んだ人間の世界になり、死者の世界の空気が谷に流れるためか、この辺りには見たことの無い不思議な蘭やユリが、夏になると咲き誇り、時には生きている人間を惑わせます。


まあ、たまには熊も迷ってしまい、蜘蛛に道案内をされたりもするようですが。


「カオリさんもビーズを作るの?」

カタクリのアーチを潜りながら、ゴローは趣味の仲間に話しかけるように言いました。


「いいえ。私は主さんが気に入ったのです。ついていったら、なんだか楽しいことがありそうですからね。ほら、もうすぐ、『月神様の夏至の御渡り』があるじゃないですか。」

「夏至の御渡り?なに?それ。」

ゴローはカオリの話が気になって足を止めました。


「あれ?知らないのですか?夏至祭りの事ですよ。冬至は、うさぎが中心で祭りをはじめますが、夏至は月神様の御渡りで、キツネが中心で祭りをするのですよ。確か、今年の役員は、アキコさんの息子がやるとか聞きましたよ。」

カオリは、アキコが自慢げに鼻を空に向けながら話していたのを思い出しました。

「そうなんだ…。知らなかったよ。見たいね。」

ゴローはアキコの子供たちと友達だったので、その晴れ舞台をとてもみたくなりました。

「でしょ?今年の夏至は半分のお月さまだから、うっすらと赤みのある白い肌に、様々な宝石を身につけた美しいお姿でユリの谷の辺りをお出ましになるはずですよ。」

カオリは月神様の姿を思い浮かべてうっとりと、ため息をつきました。


「なんだか、すごそうだね。」

ゴローは見た事のない月神様の姿を思い浮かべてみました。

「なんだか、すごいんです。」

カオリは少し興奮ぎみに言いました。


「さあ、そうと決まれば早く行きましょう。」

カオリはゴローを()かしました。


ゴローも月神様を見たくなったので、急いで歩き出しました。


しばらくして、吊り橋が見えはじめる頃、緩やかにのびる崖肌に、ユリの群生が見えてきました。


空がしらみかけ、爽やかな空気が谷間を清めて行きます。


「綺麗なユリの朝露が沢山とれそうだね。」

ゴローは嬉しそうにカオリに言いました。


「どうでしょうかね?」

静かにわき上がる朝もやを見つめながら、禍々しい何かを感じて、カオリは用心深く辺りの空気に気を配りました。


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