想いのしずく
「さあ、これが糸でございます。」
カオリは紅葉の葉っぱに巻き付けた糸をゴローに渡した。
「ありがとう。」
ゴローはボソッとそう言って糸をしまいました。
嬉しそうなゴローの様子をカオルは観察しました。
「それにしても、本当に主さんが、ビーズの指輪を作るのでございますか?」
「うん。だって、綺麗でしょ?アキコさんは、いきなり指輪はドン引きするから、ネックレスにしろって言うんだけど、指輪の方が簡単でしょ?」
ゴローは屈託無い答えを返しました。
「はぁ…。簡単なんでしょうか、ねぇ。」
カオリは、指輪を貰ったルミちゃんのリアクションの答え方を想像して、少し考え込んだ。
「簡単だよ!だって、ルミちゃんの首を囲むビーズなんて、集めるだけでも大変なんだもん。俺には無理だよ。指輪なら、大きなビーズは一つでいいでしょ?」
ゴローは得意気に言いました。
「でも、失礼ですが、熊の指に指輪なんて、邪魔なだけだと思いますけどねぇ。ネックレスと言っても、それほど難しいものではありませんよ。悪いことは言いません、ちょっと、考え直したらどうですか?」
カオリはゴローを心配して言ったのですが、ゴローには迷惑だったらしく、面倒くさそうに首を左右に振りました。
「無理だよ。俺の力じゃ、ビーズを探すだけで夏が終わっちゃうよ。それに、デザインはもう決めてあるんだ。」
ゴローは、はじめ面倒くさそうに言いましたが、デザインの話をするときは、浮き浮きしたような口ぶりに変わりました。
「どんなデザインなんですか?」
カオリは興味深くゴローの顔に近づいて、ゴローは少し驚いて後じさりしました。
「ユリの朝露でビーズを作るんだ。ほら、こんなやつ。」
ゴローはフサフサとした胸毛の中からアキコから借りたビーズの指輪を取り出しました。
すると、指輪は暗い林の中で誰かを思って淡く青い光を放ちました。
「ね、綺麗でしょ?」
ゴローは自分の事のように自慢しました。
が、少し前まで地獄の底にいたカオリには、その指輪の光に、物悲しい人間の情を見たようで、複雑な気持ちになりました。
「ああ、綺麗ですね。」
感情のこもらない返事を返しながら、カオリはこの指輪の想いのヌシが、いい状態にいない事を感じました。
「山ユリの谷に行くのですね?それじゃあ、私も連れていってはくれませんか?」
カオリは、何か考えがあるようにゴローに提案しました。