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カオリ

ドングリの池を抜けると、宵の林と呼ばれる昼でも暗い林がある。


そこは、蜘蛛達の住みかで、杉の林のあちこちに蜘蛛の糸が絡んでいる。


夏のはじめの林の中は、冒険をしたいと胸踊らせる小蜘蛛達の飛ばす、しおり糸があちこちに張り散らかされ、わずかばかり入り込む月の光と夜風を身にまとい、プラチナのように輝いていました。


月はあるとて半月か、宵の林の底は闇。

深夜ともなると、獣道に光はなく、人の目からは、文字通りの一寸先は闇、それでも、ツキノワグマのゴローは迷うことなく、この深い闇を進んで行きます。

アキコに言われて、糸を取りに来たのです。


宵の林の女主(おんなあるじ)カオリに、ビーズ糸を分けて貰うのです。


カオリは、少し大きい雌の蜘蛛です。


かつて、ギリシアの女神アテナの父ゼウスの不貞を嘲笑するタペストリーを作り蜘蛛に変えられた、アラクネの子孫……。と、本人は思っています。


人の恋路を無神経に作品にした彼女は、黄泉を統べる月神様の元で、人の恋路を見守る仕事をしています。


夜のうちに巣を張り巡らせて、朝霧に立ち上る悲しい恋の気持ちをその糸で回収するのです。


霧は糸に絡まり滴となって、お日様とお月様の光に清められて細かいクリスタルに変わるのです。


それをキツネが指輪に変えて、恋を知らずに黄泉に向かう善男善女に渡すのです。


しかし、今回はおかしな客が来たものだ。


林の一番高い杉から辺りを見ていたカオリは、美しい黒い毛並みのツキノワグマが、林をうろつくのを観察していました。


客人は、しばらく彼女の名前を呼び、うろうろと獣道を歩いていましたが、疲れたのか、やがて上等の苔の生える倒木のベッドを見つけて、これ幸いと寝てしまいました。


「まったく、最近の若いものときたら辛抱がたりなくて困るわ!」

カオリは少し腹をたてながら、移動時につかう「しおり糸」を尻から出しながら、風にあおられ、優雅に宙を舞い降ります。


「林を渡る夏風さん、あの無礼なツキノワグマの元に私を届けておくれでないか。」


月の光に照らされた、華やかな毒色のカオリの体は、やがて、林の闇をまとい、音もなく、色もなく、静かに眠るゴローの背中に降り立つのでした。


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