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2話



4月の最後の週、その月曜日が今日だ。

そう考えると、俺が2年生だということを踏まえ、凛華が新入生だと分かる。

入ってまだ1ヶ月も経っていないのに学校トップを誇るのは、男子が飢えているのか凛華が凄いのか。


幾つかの道を曲がった先の道から、遠目に学校が映った。

家からは20分程度で着く距離にあるのだが、10分程度で着いている気がする。

まあ、気がするだけであって、本当は20分経っているのだが。



「それじゃ」


「おう、またな」



短い言葉と共に少し早足で歩いて行く凛華を見送ってから、俺も歩き出す。

1人になった途端、周囲の景色が目に入るようになった。



(桜、綺麗だな)



俺の通学路には、よく桜が植えられていて、この場所もその1つだ。

今が満開に咲く時期であり、あと数日くらいで散り始めると考えると、なんだか感慨深いものが・・・・・・・いや、浮かばなかった。


気分を入れ替えて、今度は学校の方に目を移す。


自慢する訳では無いが、ウチの学校が建てられたのは16年前で、俺の生まれた年だ。

そのお陰か、校舎は他の場所と比べると綺麗で、設備も整っている。

エアコンが各教室にあるのには、知り合いの親が嫉妬しているとかなんとか。


エアコンの話題で思い出したが、最近肌寒い時期が多い。

春が明ける頃に近いというのに、冬を少し思い出してしまうような涼しい時が多く、俺は常時上着をバックにしまっている。


基本校則として制服かジャージ以外は禁止だが、この上着、優秀なのだ。

ウチの学校のジャージとまったく同じ柄で作ってくれたので、違和感はほとんど無い。

材質は違うので、触られるとバレるが、そこは技量の問題。


どちらにしろ、教室から出ず、しかも友達もほとんどいない俺には関係無い。


学校の校門が見えてきた辺りから、人の通りが一段と増えてくる。

部活に入っている人は既に登校しているが、それでも在校生は700人とかなり多い。

校舎や特別なクラスも用意されるほどで、偏差値からは想像出来ないような学校だ。



「テメェラァ!!制服は整ってるだろうなぁ!?」



体育の顧問を連想させるような恐喝的な声音と、不良顔負けの恐ろしい顔をした教師が、校門でそう怒鳴っていた。

勿論、この教師は体育関連でも、ましては恐喝するような人ですら無い。



「はい!しっかりと整えてあります!!」


「よぉし通ってよし!!」



1人の男子生徒が通過するのを見届けると同時に、教師が見えなくなるほどの女子軍団が押し寄せていった。

あの教師の名前は”優嶋和斗(ユウシマカズト)”であり、生徒――主に女子――からは”衣服先生”と呼ばれている。


このあだ名から推測出来る人もいるかもしれないが、和斗先生は家庭科の教師である。

さらに細かく言えば、服の裁縫とファッションセンスに関して特化した先生だ。



「おはようございます」


「おはよう!!」



横を通る時に小さく挨拶すると、数倍のボリュームで返ってきた。

木霊も泣いて逃げるレベルだな。

そんな事を本人に言えば、見た目から540度反対のガラスに時限爆弾仕掛けたような心が傷付くだろう。


既に他の場所へ視線を向けた和斗先生の横を通り過ぎて、俺は校舎の中へと踏み入れた。

何時もと変わらない下駄箱に靴を仕舞い、上履きを取り出して履く。


そのまま、6階建ての5階とかいう運動部顔負けの体力を使う階段を上っていく。


この学校の階段の嫌らしい部分として、なんと折り返しが4回もあるのだ。

上の階に上るために4回も階段を上らないといけない。

さらに、それを5階まで繰り返す・・・・・・・・・


帰宅部も卓球部などと同じくらいの運動力を持つ所以がこれだ。

いったい、この下と上の階の間には何があるのやら。


七不思議にも例えられるほどに疲れる階段を上りきった俺を待つのは、女神の様に微笑み女子――ではなく、学校代表の不良――でも無く・・・・・・・



「修哉さん、貴方また先日アルバイトをしていませんでしたか?」



無慈悲なまでの、生徒指導を告げる生徒会の人である。



今のウチに説明するが、この高校はアルバイトやスマホを持ってくることなどは禁止している。

それでも、スマホはほとんどの生徒が持って来ているし、バイトをしている人も少なくない。

それでもこの学校にそんな部分が露点しないのは何故か。


それは(ひとえ)に、この学校が真の意味では校則を気にしないからだ。


言葉にすると悪いが、あまり強くは注意していない。

先生達もスマホを使うことが偶にあるくらいなので、それが更に拍車を掛けているわけだ。



(そんな中、よく頑張るよなぁ・・・・)



この環境の中、生徒会、さらに言えば目の前で仁王立ちしている賢くて運動できておまけに顔は天上のお方だ。凛華に並んで、彼女の顔はほとんどの生徒が覚えているだろう。


違う点で言えば、この少女――名前は”峯島由理(ミネシマユリ)”はどちらかといえば女子からの人気が高い。

男子にも熱狂的なファンは多くいる・・・・・いや盛ったけれども、それでもこの高校という小さな世界の中で表せばかなり高い位置に居る。


女子の中には、共学もあって校則を守ろうという風習の人も少なからず居る訳で、そんな人たちからの支持もあって彼女は生徒会をしている。



「いやー、何故バレたし・・・・・・」


「言い訳すら吐かないのは褒めてあげるけど、バイトは駄目なのよ!」



同情の気持ちが強いせいか、あまり強くは言えない。

本当は、俺の家事情を教えれば理解してくれるのだろうが・・・・・・



(由理のことだ。どうせまた頑張ろうとするからな)



彼女とは、今も含めて1年から同じクラスだ。

それに応じて、彼女の性格も大体は分かっている。

良くも悪くも、誰かの助けになろうとする人だ。



「次からは気をつけるよー」


「ああっ!?そう言って前回止めなかったんだから、今回許す訳には――」


「由理せんぱーい!!」




下の階から聞こえた少女の声に、由理の声はかき消された。

それと同時に、何だか寂しそうな、躊躇ったような表情をされた後――



「バイトは絶対辞めなさいよー!!」



そんな言葉を残して去っていった。

正確には、俺の横を通ってあの無駄に長い階段を降りて行った。



「損な性格してるよなぁ・・・・きっと」



本人に自覚は無いだろうけど、それでも俺から見れば損な性格だ。

嬉しいかどうかも分からない他人のために自分の時間を割く真似は到底出来ないと思う。



「さ、今日も昼寝からだなー」



そんな呟きを廊下に残して、俺は教室に入った。

2年1組。人数は()()()

何時も通りの1日が、今日も始まった。




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