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派遣の人格  作者: 神村 律子
二日目
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驚愕続き

 律子は眩暈がしそうになっていた。


 もし、小松との話が野崎の知るところとなったのだとしたら、小松が先に出て行ってしまったのも頷ける。


 真相を暴露してしまった小松は、野崎に責められたのかも知れない。


(でも、まだその話と決まった訳ではないし)


 暴走しかけている自分の思考にストップをかけようとするが、それ以外に野崎が自分に話があると言うとは思えないので、疑惑が確信に変わりかけた時だった。


「神田さんが本当に好い方なので、もうこれ以上自分を偽るのがつらくなりました」


 野崎は心なしか涙ぐんでいた。


「え?」


 全く想定していない方向からの危険球を受けた心境の律子は、間抜けな顔でポカンとしてしまった。


(自分を偽るのがつらくなったってどういう事?)


 律子には野崎の言葉の意味が理解できなかった。


「えっと、どういう事でしょうか?」


 顔が引きつっているのを感じながら、律子は尋ねた。すると野崎は律子に近づいて、


「昨日から、とても失礼な態度を取っていた事をお詫びします。今更でしょうけど、私の真意ではないんです」


 更に謎の言葉が続く。


(真意ではない? 訳がわからない……)


 律子はパニックになりそうだった。


「あ」


 他の部署の女性達がドヤドヤと入ってきたので、


「ごめんなさい、神田さん。続きはまた後で」


 野崎は化粧道具をバッグにしまい込むと、そそくさとトイレを出て行ってしまった。


(こんな中途半端な状態で、しばらく我慢するの?)


 そこまで考えてから、自分が何をしに来たのか思い出した律子は、空いている個室に駆け込んだ。


 トイレから作業室までの間、律子はいろいろと考えてみた。


 もし、野崎の言っている事が真実であれば、小松が嘘を吐いた事になる。


 だとすると、小松が何故そんな嘘を吐いたのかがわからない。


(仕事に集中しよう)


 いくら考えても、真相に辿り着けそうにないと感じたので、頭の中を切り替える事にした。


(ひっ!)


 作業室に入っていくと、小松が律子を見た。


 決して睨まれた訳ではないのだろうが、小松に対する後ろめたさのようなものを感じて、律子はいたたまれなくなった。


 対する野崎は顔を上げずに資料に目を通している。


(考えない、考えない)


 律子は小松に会釈して、隣の席に腰を降ろした。


「では、午後の研修を始めさせていただきます」


 長谷部が入って来て、野崎の隣に座った。


「ええと、連絡事項があります。システムの件ですが、クライアントとのデータの共有は難しくなりましたので、メールでのやりとりを中心にして、詰めていく形になりそうです」


 野崎、小松、律子の視線が一斉に長谷部に向けられた。


 三人共一様に、「話が違う」という顔をした。長谷部もそれを感じ取ったのか、


「昨日の今日で大変申し訳ないのですが、クライアントとウチで使っているシステムが違っておりまして、データを共有させる事が時間的に無理だと先程判明したそうです。皆さんにはご迷惑をおかけする形になりました。大変申し訳ありません」

 

 テーブルに額をこすりつけるようにして頭を下げた。


「そうなると、時間的な余裕がほとんどなくなってしまいますね。こちらの意図を伝えるのはメールでも差し支えないでしょうが、PDF(印刷ページと同じ状態を保存するファイル形式)を使うにしても、クライアント側が、どういう態勢なのかによって、かかる時間が変わりますね」

 

 野崎が長谷部を責めるような口調で言った。


「確かにそうなってしまいますね。こちらが問い合わせるのは、クライアントの窓口ではなく、個人のパソコンです。部署によっては、PDFを使っていないところもあるかも知れませんし、PDFそのものを理解されていない方もいらっしゃるかも知れません」


 長谷部は、こんな時でも相変わらずゆったりとした口調で話す。野崎がイラッとしたのが律子にはわかった。


「それから、こちらも誠に申し上げにくいのですが、皆さんにご使用いただくパソコンなのですが、納入の日程がずれ込むようです」


 長谷部は申し訳なさそうにゆっくりと告げた。


「はあ?」


 今度は野崎だけではなく、小松までもが声をあげた。律子も叫びそうになったが、何とか堪えた。


「どれくらいですか?」


 律子は、野崎が何かを言おうとしたのを遮るように長谷部に尋ねた。


「今のところ、一週間程遅れそうです。予定では、今月の中旬には届くはずでしたが、下旬になりそうです」


 長谷部はおどおどしているようにも見えた。野崎が更に、


「それは確実ですか? 一週間経って、また延期になるって事はないでしょうね?」


 長谷部に詰め寄った。長谷部はビクッとして身を引き、


「それは今の時点では何とも……」


 顔を引きつらせ、それだけ言うと口籠もってしまった。


「そんな事では昨年の二の舞になりますよ。だとしたら、とてもこの業務、やっていけません!」


 小松が声を荒らげて言った。律子は思わず彼女の顔を見てしまった。


 野崎も長谷部を睨みつけている。


 前年度はいなかった律子には小松と野崎の怒りがどれ程のものなのか測りかねた。

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