表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
派遣の人格  作者: 神村 律子
十日目
30/37

獅子身中の虫?

 気分が晴れての翌日。金曜日。明日は休みだと思うと、更にテンションが上がる。


 朝は夫の陽太が出張で早出だったので、律子も出勤までの時間ができた。


 娘の雪を保育所まで送り、その足で駅へと向かった。


(仕事にも慣れてきたし、進捗状況も順調だし、ホッとできる)


 律子は上機嫌で勤務先へ行った。


(あれ、早過ぎたかな?)


 ロビーに入ろうとしたら、まだ自動ドアが作動していなかった。


「今、開けますね」


 そこへ関がやって来た。


「おはようございます」


 律子は申し訳ない気持ちになって頭を下げた。何だか急かしたみたいだったからだ。


「おはようございます。神田さん、昨日は本当にお疲れ様でした。あの後、クライアントからお礼の連絡がありました。社内でもトラブルメーカーで、始末に困っていたんだそうですよ」


 関が嬉しそうに言うので、律子は、


「そうなんですか」


 若干引き気味に応じてしまった。


「どうぞ」


 関がドアのロックを解除して、自動ドアを作動させてくれた。


「ありがとうございます」


 律子は会釈をして中に入ると、タイムカードに打刻をした。


「もう、あんなクレーマーは出現しないと思いますので、よろしくお願いしますね」


 関は入ってすぐにある階段を上がって行った。律子はもう一度頭を下げてから、作業室へと向かった。


「ちょっと」


 作業室のドアを開けた時、背後から声をかけられた。振り返ると、そこには小松と口論したおば様がいた。


「おはようございます。何でしょうか?」


 律子は微笑んで尋ねた。するとそのおば様は、


「貴女達、長谷部さんのお見舞いに行ったの?」


「え? お見舞いですか?」


 意外な事を言われて、律子は思わずおうむ返しに尋ねてしまった。すると、そのリアクションにご機嫌を損ねたのか、


「知らないの? どういう神経しているの? もういいわ」


 勝手に怒り出し、勝手に立ち去ってしまった。


(ええっ?)


 律子は何が何だかわからず、ポカンとしてしまったが、


「おはようございます、神田さん。どうかされたんですか?」


 小松が声をかけてくれたので、ハッと我に返り、


「長谷部さんのお見舞いに行ったのかって、訊かれたんです」


「はあ? どういう事ですか?」


 後から来た野崎が言った。律子は簡単に事情を説明した。


「長谷部さんのお見舞いって、どこかの病院に入院しているんですかね?」


 小松が言う。すると野崎は、


「例えそうだとしても、私達が率先してお見舞いに行く必要はないと思うわ。迷惑を被っているのはこっちなんだから」


「そうですよね」


 小松が同意した。


「関さんに訊いてみましょうか?」


 律子が言うと、


「そうですね。事情を把握していないと、また言いがかりをつけられそうですから」


 野崎が神妙そうな顔で応じた。


 三人は作業室に入り、昨日の続きを始めた。


 しばらくして、関がプリントを何枚か抱えて入って来た。


「おはようございます」


 野崎は挨拶もそこそこに、すぐに長谷部の事を切り出した。


「もうそんな話が出回っているのですか?」


 関はうんざりしたような顔になった。


「長谷部と公私共に仲が良かった女性が何人かいて、あれこれ長谷部から聞き出しているみたいなんですよ。その中で、まだ次の仕事が決まらなくて、体調も悪くなっていると言われた人がいるらしいのですが、長谷部がそう言ったのか、その人が勝手に解釈したのかわからないのですが、弊社から嫌がらせをされていると触れ回っているみたいなんです」


 律子達はあまりの内容に唖然とし、互いに顔を見合わせた。


「とにかく、長谷部の件は貴女方には一切関係はないし、責任もないので、取り合う事なく、業務を遂行してください。何かあったら、私に連絡をください」


「はい」


 律子達は声を揃えて応じた。関は持って来たプリントを三人に手渡して、


「クライアントから、よくある質問のテンプレートをいただきましたので、それをお渡ししておきます。その辺りの質問に関しては、クライアント内で収めているようなので、それ以外の問答集みたいなものを作ってみてください。用意してあると、答えが簡潔になって、時間もかからなくなると思われますので」


 関は三人を見渡してから、


「では、よろしくお願いします」


 作業室を出て行った。


「またおばさま達がざわついているって、嫌ですね」


 小松が身震いしながら言った。野崎は、


「昨日も言ったけど、相手にしないしか、方法がないと思うわ。言いたい人には言わせておけばいいのよ」


 プリントをめくりながら応じた。


「そうですね」


 律子もそうするしかないと思った。


 律子達は気持ちを切り替えて、作業に入った。


 テンプレートはかなりよくできており、それ以外の質問はあまり考えられなかった。


「後は考えられるとすれば、配偶者の方の所得見積額ですね」


 小松が質問内容をチェックしながら言った。野崎は頷いて、


「多くなりそうな質問はそんな感じね。神田さんはどうですか?」


「後は、扶養控除等申告書と配偶者特別控除申告書の整合性ですかね?」


「ああ、そうですね」


 野崎と小松が異口同音に応じた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ