表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
派遣の人格  作者: 神村 律子
七日目
24/37

不安要素解消

 しばらくして、関より先に草薙が戻ってきた。


「できるだけ早く解決しますので」


 草薙は申し訳なさそうに席に着くと、パソコンに向かい合った。


 律子達は作業を続けた。やがて、関が戻ってきた。


「電話応対のマニュアルは長谷部は作っていなかったようです。別の部署のマニュアルが流用できそうなので、それを持ってきました」


 関はそのマニュアルを三人に渡した。


「電話をしてくる方は不安に駆られているので、できるだけそれを和らげる話し方で応対してくれれば、後はあまり細かい事を気にしなくても大丈夫だと思います。言葉遣いは、一般常識をはみ出さなければ、差し支えありません。過度な敬語は、むしろバカにしていると思われる可能性もありますから」


 関は三人を順番に見ながら説明した。


「もちろん、個人差がある事ですから、臨機応変に対応してください。中には最初から喧嘩腰の方もいらっしゃるかも知れませんが、決して感情的にならないように注意してください」


「わかりました」


 律子達は異口同音に応じた。


「それから、ここはおかしいとか、こういう風にした方がいいと思った時は、気兼ねなく言ってくださいね」


 関は草薙を見て、


「社長、会議がありますので、お願いします」


「わかりました。キリがついたらすぐに行きます」


 草薙はチラッと関を見て言い、作業を続けた。関は律子達に会釈して、作業室を出て行った。


「電話の応対、去年もしたけど、緊張します」


 小松がマニュアルを読みながら言う。野崎は頷いて、


「相手が何を聞いてくるのかわからないから、ドキドキしちゃうよね」


「そうなんですか」


 律子はその話を聞き、すでに緊張している。


「取り敢えず、さっき、関さんが言ってくれた事、そして、わからない事はわからないと伝えて、調べてお返事するのを徹底すれば、問題はないと思いますから、神田さん、あまり深刻にならないでください」


 野崎が言ったので、律子はギクッとして、


「私、そんなに追い詰められた顔していましたか?」


 すると野崎は笑って、


「そんな事はありませんけど、考え過ぎると、返って失敗しますから」


「そうですね」


 律子は苦笑いして応じた。


「皆さん、申し訳ありませんが、少し失礼します」


 キリがついたのか、草薙が言った。


「わかりました」


 野崎が代表する形で応じ、律子と小松は会釈をした。草薙は微笑んで作業室を出て行った。


「そう言えば、電話がないですね」


 律子が作業室全体を見渡して言った。小松が、


「そうですね。以前は最初に来た時から電話があったのですけど」


 首をかしげる。野崎が壁の配線を見て、


「ここに電話機を持ってくれば、すぐにつながる状態だとは思うんだけど。関さん、気づいていないのかな?」


「関さんが来たら、訊いてみましょう」


 小松が言った。


 


 律子達がマニュアルの吟味を続けていると、草薙と関が一緒に戻って来た。


「遅くなりました」


 草薙はそれだけ言うと、またパソコンに向かった。


「マニュアルはどうですか?」


 関が尋ねたので、律子達は修正してほしい箇所と追加してほしい箇所を述べた。そして、


「電話機はいつ来るのでしょうか?」


 小松が尋ねた。関はハッとして中を見回し、


「そうですね、電話がないですね。すぐに手配させます。それから、マニュアルも修正しますね」


 作業室を出て行った。律子達はまた手持ち無沙汰になってしまった。


「ごめんなさいね。私が仕事が遅いせいで、皆さんにご迷惑をおかけしてしまって」


 草薙が申し訳なさそうに言ったので、


「そんな事はありませんよ。むしろ、社長の仕事が早いので、私達、びっくりしているのですから」


 野崎が微笑んで告げた。


「ありがとう、野崎さん」


 草薙はホッとした表情で応じると、また作業を開始した。


 


 それからしばらくして、


「終わりました。これで大丈夫だと思います」


 草薙が言ったので、律子達は一斉に彼女を見た。


「原因を特定するのに時間がかかってしまいました。修正しましたので、更新に時間がかかる事はもうないと思います。ご迷惑をおかけしました」


 草薙は立ち上がって頭を下げた。


「いえ、とんでもないです。ありがとうございました」


 野崎が言った。


「お疲れ様でした」


 律子と小松が同時に言った。


「では、よろしくお願いします」


 草薙は心なしか涙ぐんでいるようだった。もう一度頭を下げると、作業室を出て行った。


「よし、これで本格的に仕事ができる」


 野崎が言い、パソコンに向かう。律子と小松は目配せして、それぞれパソコンの前に座った。


「作業マニュアルを出しましょう」


 野崎が言い、プリントをしようとして、


「取り敢えず、私たちの分だけでいいですよね?」


「そうですね」


 律子が応じた。野崎は複合機へデータを送った。複合機は少しの間を置いてから動き出し、マニュアルをプリントした。


 これで本来の業務が進められる。律子の不安の虫は鳴かなくなっていた。


 その日は作業マニュアルのプリントを出して、入力ミスがないか検討し合ったところで時間になった。


「お疲れ様でした」


 律子達は退社した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ