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派遣の人格  作者: 神村 律子
六日目
21/37

さあ、アクセル全開?

 会社の上層部に自分達が作成したマニュアルを見てもらう事になった律子達は、期待と不安を抱きながら、その日の業務を終了した。


 


 そして週明け。いよいよ、パソコンが人数分納品されて、各自がそれぞれの業務に集中する事ができると思い、律子は少しテンション高めで出勤した。


「おはようございます」


 社員証で扉のロックを解除して、ロッカーに向かう途中で他の部署の人達に遭遇した。しかし、その人達は律子の存在を認識していないかのように無反応にすれ違った。


(まだ反感買われているのかな?)


 悲しくなったが、考えないようにしようと思い、ロッカーにバッグを入れ、水筒を取り出すと、作業室に向かった。


「おはようございます」


 中に入ると、関ともう一人の男性社員がいて、パソコンを起動させていた。


「おはようございます」


 二人が笑顔で挨拶を返してくれたので、


(よかった、私、見えてないのかと思った)


 少しホッとした律子である。


「今、草薙が完成させたシステムを取り込んでいるところです。主なソフトはインストール済みなので、メールやエクセル、ワードは問題なく使用できます」


 関が告げた。


「はい」


 律子は嬉しくなって、つい大きな声で返事をしてしまい、恥ずかしくなって俯いた。


「おはようございます」


 そこへ野崎と小松が入ってきた。二人も、パソコンが三台起動中奈緒を見て、ホッとしたようだ。


「よかった。これで全力で作業を進められるわね」


 野崎が言った。小松は頷いて、


「そうですね。システムも入るから、本格的に作業ができますね」


 ところが、関達が慌てているような雰囲気なので、律子達は顔を見合わせてから、二人に近づいた。


「何か問題があるのですか?」


 小松が尋ねると、関が、


「問題という程ではないのですが、どうやら、長い間起動されていなかったものみたいで、プログラムの更新をされていないらしいのです。ですから、頻繁に更新中になって、作業に支障が出るかも知れません」


「大丈夫なんですか?」


 野崎が不安そうに尋ねる。すると男性社員が、


「OSは最新のものなので、その点は心配要りません。その後の更新がされていないだけですから、起動しなくなるという事はないと思います」


「そうですか」


 野崎は小松と顔を見合わせた。


「しばらくすれば、更新も終わると思いますので、もう少し様子を見てから、作業に入ってください」


 関はテーブルの上に置かれていたプリントを持つと、三人に手渡した。


「先日、お預かりしたマニュアルです。いくつか、疑問点が出ましたので、まずはそこを確認してください」


「はい」


 律子達はプリントを受け取りながら、すぐに目を通し始めた。


(そうか、こういうところ、年末調整の仕組みがわかっていない人には理解しづらいのか)


 自分達としては大丈夫だろうと考えた事でも、仕組みを知らない人には意味が通じないところがあるのを思い知った。


「会議がありますので、一度失礼します」


 関と男性社員は作業室を出て行った。


 律子達はテーブルに着き、戻ってきたマニュアルを精査した。それ程たくさん「ダメ出し」があった訳ではないが、独りよがりになりがちな部分に気づけて、勉強になった気がした。


「なるほど。流石に経営陣の目のつけどころは、違うわね」


 野崎が苦笑いして言う。律子もその通りだと思った。


「そうですね。勉強になります」


 小松も苦笑いしている。上層部が指摘してきたのは、責任の所在が明確になるマニュアルの作成だった。


 税務調査等で、不備が指摘された場合、あくまでもそれは本人の申告ミスであるとならないとまずいという事なのだ。


 例えば、本人あるいは扶養親族が障害者である場合、それを証明する手帳等のコピーがない場合、企業側としては、その控除を認める訳にはいかないという「非情な区分け」が必要だという事なのだ。


 また、年払いの保険料の場合、控除証明書が届くのが十二月の下旬の引き落とし後になるので、年内の年末調整には間に合わないため、通知書で確認し、翌年に控除証明が届いた時、必ず本人に提出させる事を徹底させるなどもある。


(確かにその辺は気をつけないといけない事項だよな)


 律子は気を引き締めてかかろうと思った。


 しばらくその作業をしていて、昼食の時刻になったので、席を立った。野崎が、


「まだ更新中ですね」


 作業室の壁に向かって備え付けられたパソコン用のテーブルで起動しているデスクトップ型のパソコンを覗いて言った。


「まだですか」


 小松が溜息交じりに応じた。


「でも、思ったよりパソコンが早く届いたのだから、よしとしましょうか」


 野崎が肩をすくめて言ったので、律子と小松は、


「そうですね」


 異口同音に応じた。


 三人はロッカーまで弁当を取りに行き、二階の休憩室で昼食を摂った。その日は何故か、おば様方の一団はいなかった。


「どうしたのかしら?」


 野崎が階段の向こうに少しだけ見える別部署を見ながら言った。


「お昼休みがずれたみたいですよ」


 小松が休憩室の張り紙を見て告げた。野崎と律子は納得した。

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