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派遣の人格  作者: 神村 律子
五日目
20/37

再検討

 そして、翌日。律子達は前日の前年度申告書のチェックをして、気づいた事を話し合った。


「前に考えたマニュアルでは、防げないミスがありますね」


 小松が言った。律子もそれを感じていた。


「そうね。私達はわかっているから気にならなかったけど、作業者の人達には伝わらない事が想像以上にあった事がわかったね」


 野崎が応じた。


「マニュアルをもう一度検討する必要がありますね。そして、作成後に、私達以外の人に読んでもらって、理解できない点を挙げてもらうようにしないと、本当の意味でのマニュアルになりませんから」


 律子は言ってみた。


「そうですね」


 小松と野崎が同意してくれたので、律子はホッとした。


 早速、三人は前に作ったマニュアルが入っているファイルを探し出してプリントし、再検討を始めた。


「おはようございます」


 そこへ関が顔を出した。これ幸いと、野崎が先程話し合った事を告げた。


「なるほど。それはどのようなマニュアル作りでも共通して必要な事ですね。完成したら、私に見せてください。素人代表ですから」


 関が笑顔で言ってくれたので、三人は是非とお願いした。


「リースのパソコンは明日納品されますので、今までご不自由をおかけしましたが、一人一台でできるようになります」


 関はリース会社から送られてきたメールのプリントを見せてくれた。


「ありがとうございます」


 三人は顔を見合わせてから、関に礼を言った。


「それから、草薙からもメールがありまして、明日にはシステムをアップできるそうです」


 あまりにも早い草薙の仕事に、律子は彼女の健康を心配した。


「大丈夫なんですか、社長は? いくら病状は重くはないと言っても、根を詰めるとお身体に障るのでは?」


 野崎が代表する形で尋ねた。関は苦笑いして、


「私もそう思って、草薙に言ったのですが、聞いてくれないのですよ。私にとって、この仕事は楽しくて仕方がないのだから、病気だからって立ち止まってはいられないって」


「そうなんですか……」


 野崎は溜息混じりに呟くと、律子と小松を見た。


(草薙さん、責任感強過ぎるなあ。お父さんに託されたのが大きいのかなあ)


 律子は余計なお世話かも知れないと思ったが、それでも草薙の身体を心配した。


「では、マニュアルの再検討、よろしくお願いします」


 関は作業室を出て行った。


「社長の思いに応えないとね」


 野崎が言った。律子と小松は黙って頷き、作業を再開した。


 集中して作業をしていたせいか、律子は昼休みになるのが早い気がした。


 三人で二階の休憩室へ行き、他の部署のおば様達の視線を浴びながら、端のテーブルで弁当を食べた。


 おば様達は、チラチラ見てはいるが、何か言ってくる人はいない。


 先日、律子に絡んできて、その後小松に反論された人も、恨めしそうに目を向けはするが、何も言わない。


「まだ、長谷部さんが辞めたのは、私達のせいだと思っているんですかね?」


 小松が弁当箱の蓋を閉じながら呆れ顔で呟く。


「さあね。考えても仕方ないし、それは事実じゃないんだから、無視しましょうよ」


 野崎は弁当箱を専用の手提げ袋に入れて言った。


「そうですね」


 小松と律子は異口同音に言い、席を立つ。それを切っ掛けにして、おば様達の視線が三人に集まるが、近づいてくる人はいない。


 三人は目配せし合って、休憩室を出て、階段を降りた。


 すると、関とは別の管理職の男性に声をかけられた。


「ちょっといいですか」


 関はスーツ姿だが、その人はポロシャツにチノパンというカジュアルな服装だ。基本的にその会社は服装は自由であるが、男性の多くはダーク系のスーツが多い。


「何でしょうか?」


 野崎が応じた。律子と小松は顔を見合わせてから、チノパンの男性を見た。


「長谷部の辞職の件で、妙な噂を立てている人達がいるので、今朝、朝礼の時に厳しく注意しました。今後、皆さん方に何かを言う人がいたら、遠慮なく私に申し出てください」


「わかりました。ありがとうございます」


 三人は男性に頭を下げた。男性は右手を上げて応じると、立ち去った。


「私達が告げ口したと思われたのですかね?」


 小松が言った。野崎が、


「かもね。でも、もう今後は何も言ってくる事はないでしょ? あの人達だって、上司に楯突く程の威勢はないでしょうから」


 チラッと休憩室の方を見て言った。


「ですね」


 小松も二階を見て応じた。


 三人は作業室に戻り、再チェックを始めた。


「ここは詳しい人でないと、理解できないかも」


「何故これが問題なのか、説明をつけないと読み飛ばされるかも知れませんね」


 いろいろと意見を出しながら、再チェックは進んだ。


 しばらくして、関がまた顔を出した。


「ほぼ出来上がりましたので、見ていただけますか?」


 小松がプリントしたマニュアルを関に手渡した。


「拝見します」


 関は長谷部が座っていた席に着き、マニュアルと読み始めた。


 律子達は固唾を呑んで見守る。関は顔を上げて、


「よくできていると思います。これを上の者に回して見てもらおうと思います」


 関の言葉に律子達の顔に緊張が走った。

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