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派遣の人格  作者: 神村 律子
四日目
19/37

別ルート検討

 律子達はシステムが出来上がるまで手をこまねいている訳にもいかないので、何とか他の方法で先に進む事を考えてみた。


「生命保険や地震保険はその多くが前年以前に加入しているものが多いと思われるので、昨年の保険料控除申告書をプリントして、事前に備えてみてはどうでしょうか?」


 律子が提案した。すると野崎が、


「私もそれを考えていました。本来なら非効率的な方法ですが、今はそれすら有効だと思います」


「そうですね。やりましょう」


 小松も賛成してくれた。ちょうどそこへ関が戻ってきた。


「パソコンはリース会社を別に探して見つけられたので、購入はせずにすみそうです。それから、草薙から連絡があり、容体は重くないので自宅で作業を進めているそうです。来週には出勤できるから、それより前に社内サーバにアップして共有できるようにするので、進められるだけ進めて欲しいとの事です」


 関は作業室を出て行った時とは違う晴れ晴れとした顔で告げた。


(草薙さん、凄い)


 律子は感動してしまった。


「草薙は、以前は別の会社でシステムエンジニアをしていました。ところが、一昨年、父親である先代の社長が倒れてしまい、ここを引き継ぐ事になり、エンジニアを辞めて、ここの社長に就任したのです。ですから、余計に会社の事を考えてしまうのですよ」


 関は律子達を見渡しながら教えてくれた。それは野崎も小松も知らなかった事のようで、驚いていた。


 そして、野崎が先程考えた事を関に話した。関は、


「その作業、進めてください。草薙もいつまでにアップできるかはわからないと言っていたので、別ルートで進む事も必要だと思います」


 チラッと腕時計を見てから、


「そういう事であれば、プリンターが必要ですね。他の部署から都合をつけてくるので、少しだけお待ちください」


 作業室をまた出て行った。


「他の部署って、あのおば様方のところですかね? だとしたら、回してもらえないかも」


 小松が小声で言った。野崎は溜息を吐いて、


「そこまではしないと思うけど、可能性はあるなあ」


 それを聞いて、律子は更に不安になった。


「とにかく、そうなったらそうなったで考えるしかないから、今は先に進む事だけを考えましょう」


 野崎がパンと手を叩いて、モヤモヤしている雰囲気を打ち払うように言った。


「はい」


 律子と小松は異口同音に応じた。そして、数あるファイルの中から、クライアントの申告書が保存されているものを探した。


 その作業は、想像以上に困難だった。ファイルに名前がつけられていないものが多く、ファイルの中に更にファイルがあるものもあって、探し出すだけで骨が折れた。


「長谷部さんて、片付けられない人だったんですかね?」


 小松がうんざりした顔で言った。野崎は、


「もしかすると、明日やればいい事は今日できても明日になってからする。そういうタイプの人だったのかもね。そう考えると、いろいろ放置していたのも、悪意からではなくて、たまたまそういう結果になったとも考えられるね」


「その方がたち悪いですよ。いっそ悪意があった方がまだいいです」


 小松は苦笑いしていた。律子もそう思った。


「結果的には同じ事だけど、精神的にはそうね」


 野崎も同意した。そして、三人は探索作業に戻った。


「お待たせしました」


 三人がようやくファイルを発見した直後、関が二人の男性社員と共に大きなコピー機を運んできた。


「分解しないと、ドアを通れないので」


 関は額に汗を滲ませて、男性社員一人とコピー機の上部を運び入れた。


 コピー機とは言っても、複合機らしく、ファックスとプリンターも兼ねている。


 その後ろから二人の男性社員が、やはり汗まみれになって、下部を運び込んだ。


 関達がその下部に上部を取り付け、折りたたんであった箇所を開き、完成した。


「無線LANでプリントできますから、ここで大丈夫ですね」


 関は位置を決めると、律子達を見て言った。


「ありがとうございます」


 律子達は関と他の男性社員に礼を言った。


「では、よろしくお願いします」


 関達は作業室を出て行った。


「早速、プリントしてみましょうか」


 野崎が言い、マウスを動かした。少し間があって、複合機が動き始め、サッとプリントを完了させ、吐き出した。


「大丈夫みたいですね」


 文字化けも不具合もない事を確認すると、三人は次々にプリントを進め、出てきた申告書の内容を吟味し、訂正箇所は赤ペンで直した。


 これも想像以上に数が多く、律子は手が痛くなってきた。


「酷いね。前年度は作業者の人数が多くて、チェックし切れていないようね」


 野崎も時々てのひらや腕を揉んだりさすったりしながら言った。


「頑張るしかないですね」


 小松が自分に言い聞かせるように呟く。


「そうですね」


 律子も右手を揉みながら言った。


 何度か休憩を挟みつつ、律子達はかなりの数の申告書を修正していった。


「お疲れ様でした」


 終業時刻となり、三人はプリントし終わった申告書を鍵がかかるレターケースに納めて、作業室を出た。


 律子は少しだけホッとした。

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