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派遣の人格  作者: 神村 律子
四日目
15/37

パソコン足りない

 律子が仕事を再開して四日目。派遣先に出勤すると、すでに小松と野崎が来ており、


「おはようございます」


 初めて朝の挨拶を交わした。お互いが少し照れ臭そうになり、律子はホッとした。


 業務の方もうまくいくのではないかと期待して、三人揃って作業室に向かった。


「おはようございます」


 作業室には関が来ていて、別の男性社員とパソコンのセットアップをしていた。


「他の部署で使っていたパソコンを流用しています。基本のソフトをインストールして、メールだけはやり取りできるようにしますので」


 関が律子達に説明する。


「システムの連動は草薙がしています。来週中には導入できると思いますが、パソコン本体の確保の見通しがまだ立っていないので、そちらは模索中です」


 関は申し訳なさそうに告げた。


「私達はできる事をするだけです。今の段階で何ができますか?」


 野崎が尋ねた。関はテーブルの上に置かれていたクリップ留めの数枚のコピー用紙を手渡して、


「皆さんに年末調整に必要な書類のチェックを検討していただいたのですが、長谷部がそれをまとめたものを自分のパソコンに入力していたものが今朝ようやく見つかりました。それの再チェックをお願いします」


「今朝ようやくって、どういう事ですか?」


 コピー用紙を受け取りながら、小松が訊いた。関は溜息を吐いて、


「これは長谷部に悪意はなかったと思うのですが、彼が使っていたパソコンには整理されていないファイルが無数にあって、その中のどれに必要なデータがあるのか、探すのに時間がかかったのです」


「そうですか」


 小松は律子と野崎と顔を見合わせた。


「そこにあったデータを出力したものが、それです。その中で足りないものがあれば、教えてください。まだチェックできていないファイルが結構な数ありますので、更に調べてみます」


「はい」


 律子達は早速テーブルに着き、中身を確認し始めた。


「あの」


 野崎が関の顔を凝視して声をかけた。関はハッとして野崎を見た。


「何でしょうか?」


 野崎は探るような目で、


「もしかして、関さん、徹夜ですか?」


 律子はその言葉にぎょっとして、改めて関の顔を見た。目が充血していて、髪もややべたついた感じがする。少しだけ見えているうワイシャツの襟が汚れていた。昨日からずっと会社にいたようだ。


「いや、徹夜ではないですよ。家には帰りましたから」


 関は慌てた様子で、野崎の推理を否定した。


「そうですか?」


 野崎は納得がいかない顔をしたが、本人が認めない事をそれ以上追及しても仕方がないと思ったのか、何も言わなかった。


「これから、必要な備品を発注しますので、ちょっと空けますね」


 関は苦笑いをしたままで、作業室を出て行った。もう一人の男性社員は、無言でパソコンのセットアップを続けている。


「何かできる事はありませんか?」


 律子がその男性社員に声をかけると、


「ああ、ありがとうございます。大丈夫です。もう終わりますから」


 おどおどした表情でキーボードを叩き、マウスを動かした。律子は、


「わかりました」


 それだけ言うと、コピー用紙に目を戻した。


「特に抜けている箇所はないようですね?」


 メモを取っていた小松がそれと付き合わせながら言った。野崎も自分のノートを見て、


「そうみたいね。大丈夫ですよね、神田さん?」


 律子に振って来たので、律子はひきつり笑いをして、


「大丈夫のようです」


 自分の分かる範囲での答えを返した。


「パソコンのセットアップ終わりました。クライアントとのメールのやりとりはこれでできます。あと、先方から、社員コード順の一覧がアップされるはずですので、それを使っていただければ、メールアドレスなども迅速に探せると思います」


 何故か異常に汗を掻いている男性社員が言った。


「お疲れ様です。ありがとうございました」


 律子達はお礼を言って、逃げるように出て行く男性社員を見送った。


「私達、どんな目で見られているのかしら?」


 野崎が肩をすくめて独り言のように言うと、


「きっと、あのおば様達に、鬼か悪魔のように触れ回られているのかも知れませんね」


 小松も肩をすくめた。律子はそれを聞いて、つい吹き出してしまった。


 それを見た野崎と小松も吹き出した。


「まあ、それくらいの方が仕事はやりやすいですね」


 律子は笑い過ぎて溢れ出て来た涙を拭いながら言った。


 そして、早速パソコンを起動してみた。二台だけなので、前年度も関わっている野崎と小松は一緒に、今年度からの律子は一人で起動した。


 メールソフトは律子が個人でも使っているものと同じなので、問題はない。エクセルやワードもバージョンが同じで、扱いに支障はない。


「ここは、会社自体にサーバーがあるので、無線LANを使って、同時にシステムのインストールができます。共有もそこでできます」


 小松が律子のパソコンを覗いて教えてくれた。


(何とかなるでしょ)


 律子がそう思った時だった。蒼ざめた顔の関が作業室に入って来た。


「草薙がインフルエンザにかかってしまいました」


 律子達は驚愕した。

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