第036話 でっち上げ
案内されたその屋敷は、外観から得られる印象に違わず内装も雑然としていた。用途不明の機材や、謎の液体が詰まったビーカー、試験管……マッドサイエンティストの研究室を想像したとき、まさにこんな部屋になるのではないだろうか。
僕らはその部屋の中心にあるソファに案内された。整頓はされているが物が多すぎて足の踏み場がない。
メイに「どうゾ」と手渡されたのはビーカー。中の黒い液体は、香りからしてコーヒーなのだろうが……ビーカーのせいでヤバい液体にしか見えない。
「国を救うための旅、か……なるほどのう」
ヒゲをさすりながら、レイノルドが頷く。
「ならば、わしと目的は同じということになる」
「レイノルドさんは、何を研究しているんですか?」
それはアトラの何気ない質問だったが、どうやらそれがレイノルドの研究者魂に火をつけてしまったらしい。
「おお、よくぞ聞いてくれたッ! 君たち、『輪廻学』についてはどれだけ詳しい?」
「いえ、そういう名前の学問があるってことくらいしか……」
アトラが答えるのだが、この段階ですでに興味をなくしたのか、ミスティとハザマは二人で部屋の中の機械をいじったりして遊んでいる。危なくはないのか……?
「そうかそうか! ならばこのわしが! 輪廻学の第一人者たるこのレイノルド・グレイハーツが一からレクチャーして差し上げよう!」
俄然気を良くしたのか、博士がノリノリで解説を始めた。
輪廻学。それはゲームにも存在はしたが、詳しい内容までは語られなかった学問だ。ここから先の話は、僕も初めて聞くものだった。
「まず始めに、この世界に存在する生命体の魂は全て円環の上にある。どういうことか分かるかね?」
「死んでも転生するってことですか?」
「そう! もちろん普通の人間は前世の記憶をなくしてしまうので、そのことに気づけはしないがね」
少し引っかかる物言いだったが、黙って続きを待つ。
「大精霊ユグドミスティアがこの地を創造して以来、わしら生命体と円環は非常に深い繋がりを持ってきた。だが、わしらは円環について何も知らない。それが一体何なのか、誰一人として理解をしていない。そこで輪廻学だ!」
ますます白熱するおじさんの勢いに圧倒される二人。
「普段使っている魔法。君たちはその仕組みを理解しているかね?」
僕とアトラは顔を見合わせる。
「ええっと、血の巡りを円環と捉えて、そこからエネルギーを取り出すことで──」
「うむ。そこまでしか知らんだろうな」
「?」
博士はおもむろに紙を取り出すと、ソファの前に置かれた机にどんと置いた。そしてスラスラとペンを走らせる。
「君たちが理解しているのは、魔法という概念のうち半分程度だ」
「ええっ?」
博士が書いたのは……二つの、歯車?
「黒い歯車が魔力。もう一つは、輪廻力だ」
「り、輪廻力……?」
初めて聞く単語だった。ゲームにはそんなもの存在しなかった。
「君たちが扱っているエネルギーは、その半分が無駄になっていると言っても過言ではない。なにせ、二つの歯車のうち片方しか使われていないのだからな」
博士はその歯車の絵に、こう説明を付け足した。
「魔力とは時計回りのエネルギー。自然由来で、物理法則の延長線上にある力のことじゃ。身体に眠る生命エネルギーは『流れ』。生命エネルギーを流し込むことで歯車は廻り、魔法としてこの世界に現出する」
もう一方。水色のペンで描かれた歯車を指す。
「輪廻力とは反時計回りのエネルギー。自然に反し、物理法則の外にある力のことじゃ。生命エネルギーによって魔力を生み出す際、それと噛み合ったもう一つの歯車が廻ることで輪廻力は生まれる。普通の人間は、この歯車がうまく噛み合っていないせいで輪廻力を扱えない、というわけじゃな」
…………知らなかった。一言で魔力と言っても、そこに二つの属性が存在したなんて。
ゲームにおける魔法の概念については、一旦忘れてしまったほうがいいのかもしれない。おそらく正しいのはこちらだし、混乱してしまう。
「このように生命エネルギーを流して魔法へと変換できる生命体の位階を、『第一輪廻軸』という」
「じ、軸……?」
続けざまに博士が発した謎の言葉。輪廻軸? またも意味の分からない単語が登場して、僕の頭はそろそろ限界だ。
「おうおう。分からん、という顔をしておるな。よかろう解説してやるとも! それが研究者の務めだからな! あっはっはっ」
愉快そうに笑う博士だったが、僕らは未知に押しつぶされそうだ。
「輪廻学には柱となる二つの理論があるッ! それが、『霊魂階層論』と『輪廻軸理論』じゃ!」
──そこから続く博士の説明を、簡単に表すのであればこうだ。
輪廻学の二大理論、『霊魂階層論』と『輪廻軸理論』。
まず霊魂階層論とは、人間の記憶を構成する要素は『意識領域』と『無意識領域』に分かれているとする理論である。
簡単に言えば、大切な記憶を無意識領域に保存し、多少忘れても平気な記憶を意識領域に保存する──ということらしい。
無意識領域とは、人間の生体情報にあたる記憶のこと。母国語や歩き方、箸の持ち方など、人間が生きるために必要な情報が集まっている。
意識領域とは、それ以外の記憶。他人の名前や身の回りで起きた出来事、忘れても生きる上で支障のない情報が集まっている。
この世界において、人間の魂とは記憶のことを表す。人が人らしく生きていくために必要なものは記憶だ。それが抜け落ちれば、喋ることも歩くこともできない。だからこそ、魂は記憶にある。無意識領域が土台となり、その上に意識領域が乗る。これが霊魂階層論であった。
もう一方、輪廻軸理論。これが現代人には非常に難解な理論だった。
曰く、生命体の魂には位階が存在するらしい。
その位階を軸と呼び、合計四つある。
第一輪廻軸、人生軸。
第二輪廻軸、運命軸。
第三輪廻軸、時間軸。
第四輪廻軸、世界軸。
生命体は必ずこの四つのうちのどれかに属しており、そこに属す者のことを『●軸転者』と呼ぶ。しかし、九割以上の生命体は第一輪廻軸に属しているらしい。
第一輪廻軸、人生軸。これは一般的な人類で、魔法を使ったりしながら生命活動を行い、やがて死を迎えて来世へと旅立つ者たちを指す。
第二輪廻軸、運命軸。寿命の概念を超えた者を指す。死を超え、運命から逃れた者たち。簡単に言えば、限りなく『不死』に近い存在たちの位階。
第三輪廻軸、時間軸。その名の通り、時間を支配した者たちの住む位階。運命軸までの生命体では逆らうことのできなかった時間の流れにすら抗うことのできる存在。自由に時間を渡れる者。
第四輪廻軸、世界軸。ここまでくればもはや神の次元だ。つまり、世界を渡る者たちの位階。異なる世界へと魂を移動させることができる者。
ここまで聞いた僕は。
「なるほど分からん」
輪廻学の世界は難解すぎる。さっぱりだ。この理論を提唱した人はさぞ頭が良いのだろう。一般ゲーマーの僕が立ち入れる場所じゃないことは明らか。
しかし、一つ気になる点があった。
第四輪廻軸、世界軸。世界を渡り歩く者の次元。
この解説を聞く限りでは……日本からやってきた僕は、四軸転者ということになるのか?
目の前の老人なら答えをくれるのか。どうやら只者ではないことはようやく分かってきた。試しに聞いてみるのはアリ、か。
「あの、博士」
僕は意を決して尋ねる。
「もし僕が別の世界からやってきた存在だと言ったら、どうしますか?」
「ふむ。唐突じゃな」
言いつつも博士は驚いた様子もなく、ヒゲをさすって答えた。
「四軸が存在するとしている以上、君の発言を否定することはできない。もし君が本当に異世界からやってきた存在なのであれば……神に等しい存在だと言える。この世界を自在に操れるほどに」
「この、世界を……」
確かに、言いようによっては『ブライト・シュナイダー』という存在を操って主人公として世界を危機から救うというのは、神のような行いなのかもしれない。『プレイヤー』視点から見たエストラ世界ではなく、エストラ世界から見た『プレイヤー』。それはまさしく、神と呼ぶべき存在なのでは……?
そこらへんまで考えたあたりで、頭が痛くなってきた。
でも……。
(この人ならば、もしかして……)
僕がこの世界にやってきた謎について解明してくれるかもしれない。そんな期待を抱かせるような知識量だ。ゲームでは出会わなかった人物というのも大きい。もしかすれば、鍵になる何かを手に入れられるかもしれない。
「僕のいた世界では……この円環大陸は、ゲームと呼ばれる機械の中に存在する仮想の世界でした」
「!」
これまで平静貫いていた博士の眉が、ようやく動いた。
僕は、かつてアトラに話したのと同じようにして自分の出自を語った。日本という国の東京からやってきた高校二年生であるということ、そんな自分が『ブライト・シュナイダー』という人物の体を借りてこの世界にやってきたこと──全て包み隠さず話してみた。
これは賭けだ。あまり多くの人間に異世界からやってきたことを話すべきではないと思ったが、話さなければヒントもやってこない。レイノルド博士の持つ知識ならば、何か……。
「にわかには信じがたいことじゃな。──じゃが、面白い」
再び研究者魂を揺さぶられたのか、続けざまに質問してくる博士。
「セーブ&ロードとな。言葉の意味は判りかねるが、死ぬとある一定のポイントまで時間が戻される、か。それが本当ならば、二軸三軸の能力もきちんと説明がつく」
またもや紙を広げて、なにやらメモを書きまくる博士。今この老人の脳内はどのようなことになっているのだろうか。
「地球。別の星。そこからやってきた少年。ゲーム、盤上の遊戯、セーブとロード……。少年、君はどうやってこの世界にやってきたのかね?」
「それが分からないんです。目覚めたらブライトの体になって、この世界にいて……」
「……妙じゃな」
何かが引っかかるのか、博士はヒゲをさするのを止めた。
「では、もう一つ。思い出せる範囲で構わん。この世界に来る直前はどうしていた?」
「直前? 直前……ええと……」
記憶を掘り返す。
「ええ、と……」
掘り返す。
掘り返す。
掘り返す。
だが…………何も、出てこない。
「あれ、何で、何も…………」
「やはり」
博士は結論を得た様子だった。書きなぐったメモを取り上げて、読み返しつつ、僕にこう告げた。
「君の記憶は、意識領域がかなり抜け落ちている」
霊魂階層論における意識領域。つまり、「忘れてもいい記憶」が消えている……?
「──────」
言われてぞわりと鳥肌が立った。
なぜ気づかなかったのか──
自分の中に、細かいエピソード記憶が全く存在しないことに。
いつかの会話を思い出す。
『起きたら突然?』
『そう。目が覚めたらもうこの世界にいた』
『向こうの世界で最後に寝る前は何をしていたの?』
『え、なんだっけな……あれ、思い出せない』
軽く流してしまっていたが、最後に自分がどんな状態だったのか全く思い出せない。それだけじゃない。学校でのエピソードも、「一人で食事をしていた」「ゲームのことばかり考えていた」みたいな、抽象的で曖昧で、具体性の欠けた情報しか出てこない。クラスメートの名前すら、思い出せない。
──唯一親しい少女がいた気がするが……それすらも思い出せない。
ノイズだらけで、そこにあるはずの少女の表情、名前が出てこない。学校に通っていた。その事実は分かるのに、学校の名前や細かい出来事、固有名詞その一切が分からない。まるで、その記憶を詰め込んだ引き出しだけ、すっぽりと抜け落ちてしまったみたいに……。
最初はあの世界に思い入れがないからだと思っていた。僕はあの世界にそれほど執着がないから、学校のことや友達のことを深く思い出そうとしなかったのだと。
だけど違う。そうじゃないのだ。これは、僕の中にその記憶がないから、話すことができないだけだ。
これまで僕が気づかなかった矛盾を的確に突いてくる。僕は、死の直前とはまた違う気持ちの悪い冷や汗をかいていた。
「この段階で言えることは二つじゃ」
博士は指を一つ立てる。
「君は四軸転者だが、世界を渡り歩いたタイミングで記憶に何らかの障害が発生した。もしくは──」
そして、もう一本指を立てて。
「君は四軸転者でもなんでもなくて……地球という星の日本という国の東京という街に住む『安藤影次』という少年の記憶を植え付けられただけの、ただの『ブライト・シュナイダー』であるという可能性じゃ」
思考が、止まった。
「そんな、ことが……」
ない、と否定することができなかった。その可能性がゼロではないということに、自分で気づいてしまったからだ。
地球も、日本も、東京も、全部作り物の記憶? なんらかの要因によってでっち上げられただけの、偽物? 仮想の世界は円環大陸ではなく、地球の方だった……?
自分の中にある情報のディティールを比べれば、一目瞭然だった。実際に肌に触れて体感しているこの世界。曖昧でぼやけており、ノイズだらけの記憶しか情報源のない『現実世界』。どちらが正しいかと言われれば……間違いなく……。
あの日安藤影次として生きていくと決めたのに、再びその決意が揺らぎそうになる。
だって、その根底にあった前提そのものが、消えようとしているのだから。
「……」
アトラが心配そうにこちらを見つめている。僕は弱々しい声で「大丈夫」と言うしかない。
「安藤影次という少年の記憶が君の中にあるのは間違いないじゃろう。作り話にしてはリアリティがありすぎる。だからこそ、記憶の有無ではなく記憶の正否が怪しい」
博士の言葉はどれも理屈を持っていて、反論することはできない。
「君から見ればこの世界を偽物だと疑いたくなるのだろうが、わしらからすれば君の話す世界の方が偽物にしか見えない。何せわしらはこの世界で何十年と暮らしておるからな」
もっともな話だ。突然口で語られただけの世界を信じろという方が無理な話。アトラのような考えを持つ人の方が貴重なのだ。
「なぜ記憶が植え付けられたのか、その理屈はまるで分からん。これも仮説の一つでしかないのは間違いない。じゃが、それを差し引いてもまだ四軸転者の存在可能性よりは高いと、わしは考える。四軸転者とは神の存在じゃ。そうやすやすと現れていい存在ではない」
本当に存在するのかも怪しい四軸転者よりは、僕の記憶が偽物だとする方が現実的であるのは間違いない。僕から見てもそれは確定的だった。
「突然の出会いだったが、こうして非常に興味深い議題を持ち込んでくれた君に問おう」
博士はコーヒー入りのビーカーを片手に、僕へ視線を投げかけた。
「君は、誰だ?」
「僕、は……」
自分の中の記憶が偽物……?
僕は────安藤影次じゃないのか?
ならば、何を信じればいいんだ。
「まあ、それを抜きにしてもセーブ&ロードの機能は三軸レベルの何かを秘めている。研究のしがいがあるのう」
快活に笑う博士だったが、僕は同じように笑う気にはなれなかった。自分という存在を成す根幹を揺るがされたような衝撃。
僕は言葉を失い、ただ自分の手のひらを見るしかなかった。
この手のひらさえも偽物かもしれない。
そんな疑念に、囚われながら。
TIPS 霊魂階層論と輪廻軸理論
(本編中でもありました二つの理論についての補足説明です。非常に長いので、面倒という方は読み飛ばしていただいて全く問題ありません。この長ったらしい設定を読まずとも面白い物語に仕上げていく所存です。ただ、ここまでの物語で何かに気づいている方や、世界の真実に対してなんらかのヒントが欲しい方は、この解説を熟読していただければ幸いです。とりあえず、トップクラスに重要であるとだけ……。)
『霊魂階層論』
輪廻学を構成する二大理論の一つ。
生命体の魂を構成する要素は、『意識領域』と『無意識領域』であるとする論。
この世界における魂とは、≒記憶である。人間を人間たらしめているのは、出生から積み重ねられていく情報記憶だからだ。
例えば喋ったり、箸で食事をしたりといった活動は、『無意識領域』にある記憶が作用している。人間が人間らしく生きるために必要な情報が含まれているのが無意識領域である。
それに対して意識領域は、無意識領域をベースとした生体活動において発生した出来事などのエピソードなどを保存する領域である。
分かりやすい例を挙げるならば、人の名前だ。自分の名前は『無意識領域』、他人の名前は『意識領域』に保存される。これは、自分の名前は生きていく上で必要になる重要な情報であるのに対して、他人の名前は(もちろん日常の中で覚えなければならない名前はあるにしても)極論覚えなくても生活自体はできるという点からきている。
つまり魂の活動とは、無意識領域を土台として意識領域に新たな記憶を詰め込んでいくことを意味する。
無意識領域は生体情報と言い換えることができるほどに肉体と強く結びついているため、ほとんど忘れることはない。
意識領域は、自分でない外部で発生した記憶が多く保存される領域であるため、無意識領域と比べると記憶の保持力が低い。また、次々と新しい情報が入ってくるため、古い記憶ほど魂がアクセスしにくくなる。記憶自体が消え去るわけではないが、アクセスしにくくなると人はその記憶を忘れたと錯覚してしまう。
この作品らしく、ゲームでの例えを用いるとするならば、意識領域はメモリーカードで無意識領域とはゲームハードである。メモリーカードが抜けても、ハードの機能は使うことができる。本文中のレイノルド博士の考えが正しいのであれば、エイジは今まさにメモリーカードが抜けた状態であると言えるだろう。
意識領域はその人間を個人たらしめる情報でもある。意識領域の存在しない魂は、生まれたばかりの赤子か『人間』というだけの単なる無個性な生命体でしかない。
ともかく、これら『意識領域』『無意識領域』によって構成された魂が生命体の核となる。
『輪廻軸理論』
輪廻学を構成する二大理論の一つ。
円環大陸に住む生命体は、全て廻る円環の上にある。そしてそれらの段階を、四つの軸に分類することができる……というのが輪廻軸理論の骨格である。
それぞれ四つの軸に該当する人物を「第●転者」と呼称する。
円環大陸では、行動を起こすためのエネルギーも、生と死も、全てが円の力によって生み出されているとされる。これは円環神話に由来する。円環大陸が正円の形をしているのは、かつて創造神たる大精霊が円環を用いて大地を築き上げたからだとされている。
【第一輪廻軸=人生軸】
一周廻る円環。出生し、死に至る一連の流れを行う生命体を指す。生命活動によって生まれるエネルギーにより魔法を扱うことができるが、死に抗うことはできず、新たな命へと輪廻転生する。扱える魔法は個人規模から都市規模まで様々である。
【第二輪廻軸=運命軸】
何度も廻る円環。体の中にあるエネルギーを効率よく運用できるようになったことで老化が遅くなったり、各種能力が上昇したりなどの恩恵がある。記憶を保持したままであることが条件(そうでない場合は輪廻転生、つまり第一輪廻軸と同じになってしまう)。不死に近いもの、または完全に不死である者たちの位階。一軸転者とは違い、二軸転者は全員必ず輪廻力に習熟している。また、都市規模の魔法を扱える。
【第三輪廻軸=時間軸】
逆向きに廻る円環。理論上、三軸転者は時間の流れに左右されない。完全に老化が止まったり、肉体年齢を操れたりなど人によって様々であるが、共通して言えるのは世界の理から外れ始めているという点だ。二軸まではまだ生命体としての枠組みに収まっているが、三軸以上になると同じ生命体として扱うには異質すぎる存在になっていく。全ての生命体はある一定の方向(時間)に従って回転をしているが、それを逆走できるのが三軸転者である。また、国家規模の魔法を扱うことができる。
【第四輪廻軸=世界軸】
軌道を無視して廻る円環。一言で言い表すとすれば、神の次元。
CDが何枚も積み重ねられたディスクケースを想像してほしい。CD一枚一枚が世界、ディスクケースはいわば大宇宙である。
世界は無数に存在するが、CDとCDは互いに不可侵だ。常に並行であり、干渉することはない。CDの上では、一から三軸までの生命体がぐるぐると廻りながら生命活動を行なっている。一軸転者ならば一周廻ってゴール。二軸転者ならば何度も廻り続ける。三軸転者なら逆走している。四軸転者はその時、CDという名前の地面を無視して自由に廻っている。
そうすると何が起こるか? 本来平行線を辿るはずの、積み重なっている別のCDに着地するのである。この力によって、四軸転者は世界を渡ることができる。また、世界規模の魔法を扱うことができる。
三軸までの流れで『四軸転者』と呼称されているが、その実この位階に至った者は軸の存在(CDの中心点、言うなれば世界の理)を完全に無視している。三軸転者ですら従っていた軸に囚われないということがどれだけ異質かは、想像に難くないと思われる。
総括すると、これら二つによって構成される輪廻学とはつまり、「二つの階層を持つ魂が四つの位階に分かれて生命活動をしている」ということを前提とした学問であると言える。
この世界の理を解き明かす学問、輪廻学。エイジたちが踏み入った深淵は、軽く覗き見ただけでは決して見通せないものであった。闇の底に、真実はあるのか。徐々に明らかになる世界の外観、貴方だけが知ることのできる物語。
今回の解説はここまでとする。解を求めて彷徨う旅人に幸あれ。




