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RE/INCARNATER  作者: クロウ
第二幕 魂の在処
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第033話 魔法都市マルギット

「……着いた」

「ここが、マルギット……」

「噂にゃ聞いてたが、ここは同じ円環大陸だよな……?」


 マルギットの景観に感嘆の声を漏らすパーティ一行。ちなみに僕は一人だけ、「一分の一スケール、マルギットジオラマ完全版だ……」などとちょっと方向性の異なる感動の仕方をしていた。

 町の入り口には、例の本がぽつんと無造作に置いてあった。僕はそれに飛びついて手に取る。


「『3412231511』、か」


 新たに記されたそれが、おそらく『セーブ』の証。これでようやくあの戦いが保存された。家に帰るまでが遠足。セーブするまでがゲーム。


「ふぅ~~~~~~……」


 僕は大きなため息を吐き出した。緊張がするすると抜けていくのを感じる。周りに敵影なし。安全確保。無事にセーブ成功。次もし死ぬことがあっても、最悪戻されるのはここからということになるはず。

 ということで、ここまでの物語を振り返って一言。

 セーブはこまめにしましょう。

 さて、気を取り直して。ゲームにおいて新しい街に来てまずやることと言えばなんだろうか?

 もちろん、人によるだろう。それぞれのポリシーがあって、考え方があって街を探索するのであろう。

 しかし! 安藤影次17歳、長いようでまだまだ道半ばにあるゲーマー人生において見つけた解答は、一つ。

 新しい街に来たら…………まずは装備の更新!!!!!!


「装備屋に行こう!」


 そういうことになった。

 

☆★☆

 

 マルギットに並ぶ装備は、もちろん魔法装備だ。魔法装備は、金属などの一般的な素材で作られた装備に円環の魔法陣を刻み込み、魔力を込めることで超常現象を付与した装備の総称である。

 作り手に魔法の技術も問われるため割高だが、その性能は折り紙付きだ。属性付与は定番として、魔法防御力の向上や素早さなどの基本身体能力底上げなど、様々な特殊能力を使用者に授けてくれる。もちろんこれは使用者の能力に左右されないので、安定した強さを持つのも特徴だ。


「ふむ」


 僕は防具屋のラインナップを眺めながら、性能を見比べて吟味する。

 魔術的人工生命(ホムンクルス)は魔獣扱いであるため、ルインフォードを倒した際に大量の精霊石を獲得している。換金を済ませて、懐は多少の潤いを得ていた。


「うん、こっちの方が防御力が高かったはず」


 僕はたくさん種類のある甲冑やらローブやらを比較検討。メンバーの役職ごとに適した装備を模索していく。

 にしても、この世界において数値上のステータスはどれだけの意味をなすのだろうか? ハザマのアビリティ【戦闘狂(バーサーカー)】などを見るに、僕の持つ知識との互換性はあるようだが実際どれだけの数値が変動しているのかを見るすべはない。

 防具にしてもそうだ。この防具の防御力はいくつで──という知識はあるが、実際にその防御力がこの世界でどれだけの効果を発揮しているのかは分からない。

 例えば。


「……うん、アトラが装備できるものだと、これが一番ステがよかったはず」


 僕は壁に掛けられた装備を指差す。


「エイジくん」

「ほら、布地に魔法陣が描いてあるだろ? これが魔法防御力を高めているんだ。各種属性耐性も優秀だし、性能で見ればこれが一番良い」

「……エイジくん」

「性能が良いんだ」

「エイジくんッ!」

「僕は何も間違ったことは言っていない!」


 顔を真っ赤にしたアトラは、僕のオススメした装備を指してわなわなと震えている。


「こ、こここ、これを着ろと言うのっ?」


 羞恥で涙目になりながら必死に抗議するアトラ。完全拒絶。心の底から「無理」と叫んでいる。

 理由、それはこの装備にあった。


「こ、こここここんにゃ布面積の少ないもの、着れるわけないでしょっ!」


 三角形の布地を二つ繋いで、金属を縫い付けた胸当て。同じく小さな布に金属板を繋いで作ったアイアンスカートとでも言うべき腰装備と、鉄製ブーツ。それらによって構成される女性用防具──

 通称『ビキニアーマー』。


「エイジさん、これは立派なセクハラですよ」


 若干身を引いたミスティが半眼でこちらを睨んでくる。


「失望したぜ、エイジ……」


 ハザマの野郎はニヤニヤと笑いながらそんなセリフを吐いてくる。こいつは確実に分かってやっている確信犯……。


「本当に性能が良いんだぞ。この先の魔獣戦は楽に勝てるようになるぞ」

「どんな理屈があっても女の子にこれを着せようとした段階で犯罪者確定ですよ」

「驚くべきことにこの街で一番性能がいい装備はビキニアーマーなんだよね。回り回ってパーティ全体の機能も上がって──」

「うっ、うう……」

「あー、泣かしたー。女の子を泣かすなんて最低ですねー」

「え? あ……いや……冗談……」


 エストラプレイヤーはみんな一度ここでアトラをビキニアーマーにする。そしてそのグラフィックを隅々まで堪能し両手を合わせて拝む。これはプレイヤーの誰もが通る道、大定番、なのだが。

 そう、この世界の彼女はまだ17歳程度の女の子だ。恥ずかしいものだってあるし、着たくなければ着たくないと意思表示してくる。もちろん分かっていた。すぐに「いや冗談だよ。エストランティア・サーガでは定番ネタでね」と説明する、はずだったのだが……。

「分かった。分かったわ。これがみんなのためになると言うのなら、なんだってする。私──」


 ぎゅうううっと拳を握りしめて、決意を固めるアトラ。何を言い出すのかと思った矢先、


「アトラ・ファン・エストランティア17歳。脱ぎますっ!」

「やめろーーーーーーっっ!!!!」


 暴走を開始した。


「これが一番良いんでしょ! なら着るっ! 着るからー!」

「冗談だから! エストランティアジョークだから!」

「私がおへそ出すだけでみんなが幸せになるなら、それくらい──」


 みんながどうかは知らないがアトラがおへそを出したら僕は幸せになるな……などと女性陣に知られたら本当に殴られそうなことを考えつつ、暴れ始めたアトラを羽交い締めにして止める。


「一個下の性能のやつにしよう! それなら普通の魔法使い用ローブだ!」

「ビキニアーマーが私を呼んでいる……」


 ダメだ、目が据わっている。


「戻ってこいアトラ!」


 あれだけエストランティア・サーガをプレイしたのに、知らなかったことがまだあったとは。

 アトラは…………純粋すぎて、冗談が通じない。

 

☆★☆

 

「怒った」


 頬をぷくーっと膨らませて、腕を組み眉間にしわを寄せる少女。


「ごめんって……」


 ずんずん前を歩いて行ってしまうアトラを追いかけながら、僕は平謝りするしかない。

 結局、次点で優秀だった紺色のローブ『夢見の羽織』を購入。アトラはビキニアーマーを着ることなく済んだのだが、星天旅団のお姫様はご立腹であった。


「私の覚悟をなんだと思っているの」


 どうやら本気だったらしいアトラは、着たくないものを着させられようとしたことよりも、せっかくの覚悟を不意にされたのが気にいらないらしかった。


「まあ、いいけど」


 とは言いつつも、全くよくなさそうな雰囲気のアトラ。僕は身体中に嫌な汗をかきながら追いかけるが、ひたすらに肩身が狭い……。


「エイジさん……あなた、彼女できなさそうですよね」

「おっしゃる通りすぎて返す言葉もないよ」


 平気で痛いところを突いてくるミスティだが、言葉を選ばないのが逆に今は嬉しかった。


「僕は女性との距離感が…………分からない……」


 まともに女の子と会話もしたことがなかった陰キャラが突然大好きな女の子と一緒の班になってしまった時のあの動揺。あれだ。どうにかして会話したくて頑張るも、全てが裏目にでる感じ。あれだ。もう世界の終わりかってくらい会話が下手くそになり、地雷原でカバディを始めてしまうやつ。


「いやあ、あなたと付き合ってくれる女性がいたなら、どれだけ心の広い素晴らしい女性なんでしょう~」


 ミスティが手を広げてくるくる~っと回りながら茶化してくる。天然なのか小悪魔なのか、言葉がチクチク刺さる……。


「どこまで行っても僕はダメ人間、か……」


 どれだけの出来事を経ても、僕の本質は変わらない。最近はちょっとだけ前向きになれたけど、『情けない自分』という認識を覆すには、まだ時間がかかりそうだった。



【TIPS】円環大陸と大霊杯

(第2幕では、専門用語・固有名詞が非常に多くなります。そのため、この【TIPS】という形で逐次解説を入れていきたいと思います。面倒なら読み飛ばしてくれて構いません! 基本的に大きくお話に関わる設定は本編で解説しますので、ご安心ください。)




 円環大陸とは、エストランティア皇国を中心として円状に広がる大地の名称。この物語の舞台。周囲は『外なる海』と呼ばれる海に囲まれており、非常に海流が激しく漁に出ることは難しい。


挿絵(By みてみん)


 エイジたちが冒険したのはこのマップ上に表示されている部分。すでに三つの町を回っているということからも分かる通り、そこまで大きな大陸ではない。

 円環大陸には四季がある。四つの季節が円を描くように一年をかけて大陸を巡っている。中心にあるエストランティア城周辺は首都らしく、常に過ごしやすい気温で快適である。この季節を生み出しているのは、『大霊杯』という装置の影響。


 大霊杯とは、エストランティア城の地下奥深くに封印されたこの国を守護するシステム。常に円環大陸全土に強大な魔獣を退ける聖なる力を放っており、人々の生活に安寧をもたらしている。

 この力は周期的に強まったり弱まったりする。強い影響が表れるときは『冬』、影響が弱まると『夏』といった具合だ。その強弱が『北→東→南→西→北→……』と、時計回りでぐるぐると回転している。このように、日本のそれとは異なる仕組みで四つの季節が廻っているのである。夏は魔獣の活動が活発になるので、円環大陸に住む人々はなるべく出歩かないようにしている。

 大霊杯はかつてこの国を興した者たちが作った装置であるが、その経緯については建国神話についても触れる必要があるため、ここでは割愛する。


 三百年この国を完璧に守り通してきた装置だが、グリムガルドの襲来によりその平穏は脅かされ始めている。この波紋広がる円環大陸に再び平和が訪れる日は来るのだろうか?

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