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RE/INCARNATER  作者: クロウ
第一幕 英雄再誕
32/84

第030話 エピローグ

 そうして、僕らは『理想郷委員会(エル・ドラド)』の刺客、ルインフォード・ヴァナルガンドを退けた。

 いくつもの奇跡が重なり合って勝ち取った、みんなの勝利だ。


「でも……まだ終わっていない」


 僕は町の外壁に背を預けて、治癒の魔法を受けながら三人を見渡す。


「僕らは、この街にやってきた幹部であるルインフォードを倒してしまった。それはつまり、本来壊滅するはずのこの街を、救えるかもしれないってことだ」


 ゲームでは、主人公たち一行が訪れた時にはすでに街は廃墟と化している。しかし、本来とは違う道筋を辿ってルインフォードを倒すという奇跡を成し遂げた今、頭を失った残党を狩るのはそう難しいことではないかもしれない。

 一つ言えることは、今街を襲っている黒いローブの魔導師たちは間違いなくルインフォードより遥かに弱いということだ。


「行こう」


 僕は、剣の鞘を杖にして立ち上がった。

 やることは、まだ終わっていない。


☆★☆


 それから僕らが向かったのは、ルルーエンティの街中心にある円環連座星天騎士団の部隊が一つ『白羊宮(アリエス)』の駐屯地だ。

 そこの中庭は簡易の避難所になっていて、騎士団の助けを求めた非戦闘員の多くが集っていた。


「怪我人が多いな……」


 真っ先にその門をくぐり、状況を確認するハザマ。辺りを見回しながら、誰かを探している。


「っ、いた!」


 そして目的の人物を見つけたのか、一目散に駆けていく。そこにいたのは、少し頰がこけて髭の生えたガタイのいい男性だった。


「あ、もしかして……」


 ビシッと姿勢を正すハザマの姿に、僕はその人物の素性が思い当たった。

 きっと彼は、ハザマの慕う部隊長だ。


「ん、んなあっ!?」


 その部隊長の素っ頓狂な声が響いてきた。

 かと思うと、ドタバタと慌ててこちらに向かってやってくる……。


「あ、あ、アトラ姫、ご無事だったのですかぁ!?」

「た、隊長落ち着いてくださいッ!」


 ハザマが必死に宥める。その言葉に冷静さを取り戻しつつ、一回咳払い。


「し、失礼しました。申し遅れましたが私、円環連座星天騎士団・第三部隊『白羊宮(アリエス)』部隊長、ユーガ・リビングレイと言います。お初にお目にかかり、光栄であります……っ」

「そ、そんなにかしこまらなくていいですよ」


 アトラが慌ててユーガの顔を上げさせる。


「アトラ・ファン・エストランティアです。ごめんなさい、今は皇族の身分を示すものを持っていなくて……」

「いえ! そんなもの結構です! 私、首都での騎士団会議で遠目からそのお姿を拝見したこともございますので!」


 興奮気味にそう語るユーガ。


「ハザマァ! お前まさか姫様を守ってここまで来るなんて、超お手柄じゃねえか!」

「俺だけの手柄じゃねえっすよ! こいつらがいたからです!」

「あ、ようやく出番ですか?」


 散々治癒魔法を使わされてクタクタらしいミスティはもう自分では歩きたくないらしく、僕におんぶされている。僕だって死にそうな目にあったんだから少しは労ってほしい。

 僕らはユーガさんと挨拶を交わした。ユーガさんは人柄が良く、ハザマが慕うだけあって気持ちのいい性格をしている男性だった。


「それで、一つ聞きたいのですが……街の現状は?」


 アトラが真剣な表情で聞く。それに対してユーガも、部隊長の顔に戻って答えた。


「街の各地に突然現れた黒いローブの集団のせいで、至る所で大混乱状態です。団員たちが奔走して非戦闘員を避難させてはいますが……冷静さを失った民衆を動かすのは簡単じゃない。現状、収拾がつかないというのが本音です」

「それは、そうでしょうね……」

「黒ローブの奴ら自体はさほど強くはないんで、ぶっ倒せるんですが……このパニックが収まらないことには、どうにも……」


 この混乱を一気に終息させるためには、何か大きなアクションが必要だ。民衆を安心させられるような何か……。


「……本部の屋上を貸してもらえませんか?」


☆★☆


 屋上。ここらの建物では一番高い場所にある『白羊宮(アリエス)』本部からは、街中に広がる街並みと本部の中庭に集う避難者たちが一望できた。皆一様に不安な面持ちで事態を終息を待っている。


「アトラ……」


 屋上に立つのは、一人の少女。僕ら三人とユーガさんは、それを見守っている。


「大丈夫。これは私の役割」


 アトラは一度頷くと背を向けて、屋上の端ギリギリに立った。


「…………」


 深呼吸。そして羽織っていたススだらけのローブを脱ぎ去り、フードに隠れていた金髪が露わになって。






「聞けええええええええええええええええええええええええええええええええっっっ!!!!!!」






 皆に聞こえるような大きな声音で、叫んだ。


「我が名はアトラ・ファン・エストランティア! この国を統べる皇帝の娘だ!」

「な、なんだ?」

「アトラ……アトラって、あのアトラ様か?」

「なんでこんなところに!?」

「お、俺の見たことあるぞ! あれ、本物だ……!」


 ざわつく中庭の民衆たち。屋上を見上げてこちらを指差す者や、周りの避難者と顔を見合わせる者。皆に共通しているのは、驚きという点だ。

 そんな民衆の心に直接訴えかけるように、アトラは声を張り上げる。


「この国は今、未曾有の混乱の最中にある! 首都、エストランティア城はグリムガルドという魔法使いの手に落ち、黒いローブの集団が各地でこの国を荒らし回っている!」

「そ、そうだ! 一体どうなってるんだこの国は!」

「私たち助かるの!?」

「お願いだ、早くどうにかしてくれっ!」


 民衆の不信感が高まる。生活を追われた者や、家族友人と別れた者たちの溜まった不安・不満が、矢面に立ったアトラに向けられていく。

 その不満を、アトラは正面から受け止めてみせた。


「ごめんなさい。私には、この騒乱を沈めるのほどの力がない」


 皆の痛みを分かち合うように、アトラは痛ましい表情で胸を押さえる。


「私の両親……皇帝も行方は知れない。今この国は、完全に機能を停止してしまっている──でも!」


 それでも前へ向き直って、アトラは演説を続けた。


「今ここに、新たな種が芽吹きつつある!」


 スッと振り返り、僕に視線を合わせてくる。僕は彼女の求めるままに、一歩踏み出した。

 アトラの隣に並ぶ。すると、眼下に広がる中庭から大勢の人と視線が合った。こんな場所に立ったことがない僕は、とたんに気持ち悪い汗がぶわっと吹き出してきて──


「大丈夫」


 小声でアトラが囁いて、静かに僕の手を握ってくる。


「あ、アトラ!?」


 別の意味で変な汗が出てきた僕だが、そんなのおかまいなしにアトラは思いの丈を綴りあげる。


「彼らは私の頼れる仲間たち。共に国を救うと立ち上がってくれた、勇気ある者たちだ!」


 その時、気がつく。



 彼女の手もまた、震えているのだと。



「……」


 僕は、彼女の手を強く握り返した。


「──」


 少しだけこちらを見て、にこりと笑うアトラ。その表情は清々しさに満ちていて。


「私にできることは少ない! でも、彼らとなら! 彼らと一緒ならば! きっとこの国に再び安寧を取り戻すことができるだろう!」


 ミスティ、ハザマも僕らの隣に並ぶ。

 もちろん、こんなシーンはゲームには存在しない。

 でも今というこの瞬間は、まさに物語みたいに劇的で。

 信じられないほど、胸を震わせて。


「私たちは、この街を襲っていた組織『理想郷委員会(エル・ドラド)』の幹部が一人、ルインフォード・ヴァナルガンドを討ち取った!」



 再びどよめきが湧き上がる。不安と不満に満ちていたはずの民衆の間に、何か変化が生まれ始める。



「安心してほしい! この街を襲うのは頭を失った集団! すでに統率は取れていない!」



 その『揺れ』は波となり、波紋が一人また一人と隣人に伝わっていく。



「皇女アトラ・ファン・エストランティアの名の下に誓おう! 今はまだ芽吹いたばかりの種だとしても──きっとこの国に再び、大輪の花を咲かせてみせると!」



 波紋はやがて大きくなり、爆発する。





「我らは『星天旅団』! 我らがいる限り──エストランティア皇国は! 希望は! 決して潰えない!」





「「「「オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!!!!!!」」」」


 拳を掲げ、希望に顔を綻ばせる民衆たち。

 ここに錦の御旗は立った。

 それは希望という名の旗。この国に再び光を取り戻すために邁進する、希望の象徴だ。


「星天旅団って、俺たちのことか?」

「そりゃそうでしょうよ。大仰ですけどねえ」


 たった四人だが、このきっとこの光は目を覆うほどに眩く輝いているに違いない。


 長い、長い冒険の始まり。


 激動と騒乱の最中に生まれた、たった一つの希望の種。


 ああ、間違いない。きっとこの種は、大きな花を咲かせるだろう。


 そうしてここに、『星天旅団』は成立した。



☆★☆


 中庭に降りて、民衆の話を直に聞くアトラ。僕らは遠いところから、その様子を眺めていた。


「大人気だな、アトラ嬢は」


 中庭の木にもたれかかったハザマが、取り囲まれるアトラを見ながら呟いた。


「うん……よかった」


 少しでも民衆の心を和らげようと楽しげに話すアトラの姿に、僕は安堵する。


(この笑顔も、僕らが守ったんだな……)


 この光景が見たかったんだな、と再確認する。


「あ、あの、アトラ様!」


 そんなアトラの元に、小さな女の子が走っていった。


「どうしたの?」


 座り込んで目線を合わせるアトラ。緊張した面持ちの女の子はもじもじしながらも、すっと包みを差し出した。


「これは?」

「あの、あのね。さっきお花の話をしてたから好きなのかなって思って」


 どうやらその包みには花の種が入っているようだった。


「私のママ、お花屋さんしてるの! だからこれ、持って行きなさいって」

「わあ……」


 アトラもまた顔を綻ばせる。

 彼女は言っていた。「花を植えたい」のだと。天の采配か、その願いを叶えるように──彼女の元に、それは訪れたのだ。


「ありがとう。それじゃあ……一つは、ここに植えていこうかしら」


 それを横で聞いていたユーガさんが、ならばと前に出る。


「私が責任を持って育てましょう! この街を救ってくれた皇女の残した花とあれば、枯らすわけにはいきますまい!」

「はい。よろしくお願いしますね」


 民衆に囲まれながら、アトラはその種を一つ取り出して、地面に植える。大きな拍手が生まれて、アトラは恥ずかしそうにしていた。


「アトラ様、頑張ってね!」


 たたたっ、と走り去っていく少女の背中を目で追いながら、アトラは愛しげにその包みを撫でる。


「良かったね」


 僕らの元に帰ってきたアトラに声をかけると、少女は頬を染めつつ確かに頷いた。

 これはきっと、あの激戦を勝ち抜いたご褒美だろう。幸せそうにするアトラ、それだけであの辛さも苦しさも報われる。



 ルルーエンティ。ゲームでは壊滅するはずのこの街を、僕らは救うことができた。

 しかし僕らの旅は続く。次なる土地に、舞台を移さなければならない。


「次は……うん。今度こそマルギットだな」


 慌ただしいが、僕らは一刻も早く先に進まなければならない。



 

 ──その後、僕らはルルーエンティに一泊し、傷を完全に癒した。そして翌朝、旅立ちはすぐにやってきた。

 一日かけて黒ローブの集団は掃討され、町には平穏が取り戻されていた。正門前には噂を聞きつけた街中の人々が集まり、僕らの新たな門出を祝福してくれていた。


「頑張れー!」「応援してるぞー!!」


 そんな激励の言葉が次々と飛んでくる。


「よし、行こうか」


 僕は荷物を背負い直す。ルルーエンティのみんなからもらった様々な物資だ。

 次なる目的地は魔法都市マルギット。魔法研究の最先端を行く、これまでとはまた色の異なる街だ。

 さて、何が待ち受けているのか。

 ルインフォードを超える想定外の事態なんてきっとないだろうが、何でも受けて立つ構えだ。


(──勝負だ、世界)


 そうして僕らは旅立った。


 新たなる絶望の影が待ち受ける大地へと。






☆★☆






























「へえ、これくらいの負荷実験なら耐え切れるんだ」






「それじゃあ、次はどうしようかなぁ」






「もっともっと苦しんだら、壊れてくれるかな?」






「楽しみだなぁ、楽しみだなぁ」






「ねぇ、エイジくん?」


























「やっと逢えた、私の大切な────────」











      星立救天次元調整局 印


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