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RE/INCARNATER  作者: クロウ
第一幕 英雄再誕
29/84

第027話 最終決戦/フェーズ3 負けたくないと、心の中の誰かが叫んだ

 風が止んだ。

 永遠にも感じられる一瞬の静寂。

 かの竜狼ですら、その空白に身を委ねていた。


「……やった」


 思わず僕が呟いたのを境に、呆気にとられていた者たちも行動を再開した。

 パーティメンバーは全員健在。僕を除きほぼ無傷。前回とは比べ物にならない展開に思わず笑みが溢れる。

 勝利は決して、夢物語ではないと。

 一つ前のルインフォード戦を思えば、奇跡としか思えないこの戦況。事前の準備と対策があるだけで、これほどまでに差が生まれるとは。


「ハッ」


 ハザマが大剣を地面にガンッと突き立て、指をパキポキと鳴らす。


「これでようやく──テメェを殴り飛ばせるってわけだ」


 ニヤリと口元を歪めるハザマの気持ちが痛いほど分かる。この時を待っていた。


「……」


 しかし、ルインフォードは尚も冷静だった。静かに、鋭く息を吐き出す。


「──今の(おれ)に、制御しきれるか」


 両手に構えていた二刀を天高く放ると同時に、背に備えた最後の一対を鍔鳴りに乗せて抜き放った。


「認めよう。貴様らはただの人間ではない」


 ルインフォードを中心に、まるで仏像の超越性を示す後光のように円を描いて並び浮かぶ、四本の刀。


「なればこそ、己も己の限界に挑戦しよう」


 爆風が、僕ら四人の肌を打った。


「六刀流、竜狼── 『理想郷委員会(エル・ドラド)』が一人、ルインフォード・ヴァナルガンド。推して参る」


 目に見えぬ圧が全身を貫いた。気を抜けば膝を屈してしまいそうになるほどの強烈な重み。


「……ここからは総力戦だ」


 気圧される仲間たちに言葉をかける。自分だって感じているこの恐怖を、どうにか紛らわせるために。


「畳み掛けるぞ、みんな……!」


 耐久は終わりだ。あとはひたすら削って削って削りまくるだけ。このダメージレースに打ち勝った者が、最後に笑う。

 アトラも攻撃に参加し、四人の波状攻撃で一気に削り飛ばす。六刀流となって攻撃力も極限まで上昇した今のルインフォードは、耐えるよりも先に倒す方が良い。


「行くぞ──ッ!」


 ハザマと息を合わせて突貫。連撃を大剣で受け止めてくれている間に、僕が横をすり抜け斬撃を入れる。背後から逐次飛んでくる魔法攻撃もダメージを加速させていく。


「よし……っ」


 四人でバラけることで、うまく六本の刀を凌ぐことができている──ものの、そう一筋縄ではいかないのがこの竜狼なのだ。


(よし、挟み撃ち──!)


 背後に回った僕は、正面のハザマとアイコンタクトを取る。即席ながらも瞬時に息を合わせ、前後からの挟み撃ちの形を作り出した。

 このタイミングで怖いのは『六傷・天羽々斬(フィンブル・ヴィント)』だ。


☆★☆

 

六傷・天羽々斬(フィンブル・ヴィント)』風系上級全体魔技。計六本の刀を一斉に放ち、周囲の敵を斬撃の渦に飲み込む。ガード不可。/使用条件:第六制御機構(リミッター)解除

 

☆★☆


 この技は高威力のガード不可周囲攻撃なので、二人同時にカウンターを食らい、一気に形成逆転される可能性がある。それだけは避けねばならない。

 その対策として、僕は思い切り地を蹴った。上方から打ちおろす斬撃。ハザマとの高さをズラすことで、周囲攻撃の的を絞らせない。


(これで──)


 そう。大丈夫なはずだった。


「唸れ──『二四合傷・風夢羽々斬フェンリス・フォーレンガルム』ッ!」


 突っ込んだ瞬間脳に浮かんだ、失敗の文字。しかし空中にいる僕は引けず、そのまま謎の攻撃を食らった。


「ぁ……が、はァッ……!?」

「エイジくん、ハザマっ!?」


 アトラの悲痛な叫び声が聞こえたが、返事をする余裕すらなかった。

 痛み、ではない。


(何が起きた……!?)


 聞き覚えのない技名。見ればハザマもカウンターを食らって飛ばされている。


(フェンリス・フォーレンガルム……)


 僕が食らった二刀による打ち上げ攻撃と、ハザマが食らった四刀による連続攻撃。それぞれを見れば、それはよく知る技で。

 まさか。まさかとは思うが──


「技の、同時発動……」


 確かに、理屈は成り立つのかもしれない。僕の方を向きながら両手の二刀で『双傷・風羽々斬(フェンリス・フォルガ)』、背後は見ずに風邪で操った四刀で『四傷・夢羽々斬(フォーレン・ガルム)』。2+4=6。六本に収まっているんだから、同時に発動できたっていい、のかもしれない。だけど……。


「聞いてねえぞ、そんなの……ッ!」


 ハザマの一言が僕の気持ちを代弁していた。前後に同時に技を放つなんて曲芸、ゲームで実際にやったらクレーム続出でクソゲー扱いされること必至だ。


「ぐっ、お、おおおおおッ」


 ルインフォードは止まらない。苛烈に、冷静に、まず落とすべきタンク──つまりハザマを集中攻撃する。


「まずい……っ」


 その隙に全力でダメージを稼いでいくが、攻撃が止まない。この間もアトラとミスティの魔法が次々と被弾しているのだが、一切動じず。ここが勝負所と分かっているのだろう。僕の攻撃は宙を舞う刀で牽制しつつ、ただひたすらにハザマだけを狙い続ける。

 ゲームならばシステム的にタゲを外す──狙いを引きつけることができた。しかしこの世界では、ルインフォードがそうと決めたからには狙いは変わらない。

 一人を狙われれば、必然瓦解する。


「──吹き飛べ」


双傷・風羽々斬(フェンリス・フォルガ)』の打ち上げ効果がハザマを捉えた。粘り強く耐えていたが、ついに限界だった。二刀がハザマを思い切り弾き、道沿いの木に叩きつけられる。


「ぐ……ぁ……」


 崩れ落ちる赤髪の青年。


「……そん、な」


 起き上がらない。


「たった、一手で……」


 思考が、停滞する。


「エイジくんっ」「エイジさんっ!」


 誰かが呼ぶ声がする。

 ハザマが倒れた。彼なしでどうにかなるか? 敵の体力はどこまで削った? 耐えられるのか? ここからどうすればいい? 二人になんと指示を出せば……?


「……っ、」


 迷宮に囚われる。思考の渦に飲み込まれ──


「しっかりしてッ!」


 凛と響く声で、我に帰った。


「あなたがちゃんとしないと、勝てるものも勝てないッ!」


 ……そうだ。その通り。


「……エイジッ! 俺は……俺は大丈夫だ。だから」


 必死に起き上がろうとしながら、ハザマが声を絞り出す。


「だから、後は……頼む……っ」

「……」

「私が前に出ますっ」


 ミスティはポーションのビンを咥えながら、体勢を低くして一気に距離を詰めた。


「当たらなければどうということはないのですっ!」


 言葉通り、前線を張るミスティ。



 ……そうだ。



「まだ終わってない」


 戦える。


「なら……」


 諦めちゃダメだ。

 心は折れていない。仲間がいる。一人でテレビの画面に向き合っていた頃の僕とは違う。

 だから──!




「いや、終わりだ」




 言葉が、思いを遮った。


「──『臨壊(リンカーネイト)』──」


 竜狼は無情、故に強かった。


「──『終焉譚の伝承者(ヴァルド・ラグナロク)』──」





 そして、戦場は廻る。





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