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RE/INCARNATER  作者: クロウ
第一幕 英雄再誕
26/84

第024話 第一回強敵対策会議


「本当に何がしたかったんですか、あなたたちは……」


 ミスティとアトラの治癒(ミスティも普通に治癒魔法が使えた。やはり万能)によって外傷はほぼ完治。魔法使い二人分の魔力を空っぽにするほどの怪我ってなんだよと思いつつ、ハザマと顔を見合わせて笑うしかない。

 ちなみに木刀は返してきた。武器屋のおじさんはへし折られた木刀を見て愕然としていた。ちゃんと謝って代金を払った。


「……さて」


 それも終わり、顔面が包帯でぐるぐる巻きの僕とハザマ、呆れ顔のミスティ、なぜか満足げなアトラと、四人のパーティメンバーが車座になって座る。


「作戦会議だ」


 精一杯の神妙な面持ち(顔面包帯だらけだと迫力もないけど)で僕は切り出した。議題はもちろん、ルインフォード攻略についてだ。


「今度こそ、奴を倒す」


 これまでの二回に渡るループ、どちらも僕一人で思考錯誤していた。だが違ったのだ。最初からみんなを頼ればよかった。

 思えば、二回目のループなんて酷いものだ。僕はあの時、「上手くいった」と思っていた。でも、目の前にあるルインフォードという壁に囚われすぎて、きっと夜中に辛さで涙を流していたであろうアトラを支えてやることすら忘れていた。最悪だ。視野が狭すぎる。

 もう一度冷静になろう。アトラ、ミスティ、ハザマ。今目の前には、仲間たちがいる。僕なんかより余程頼れる、強き仲間たち。


「僕だけじゃ、あいつには勝てないんだ。だからみんな、力を貸してくれ」


 頭を下げる。




「どうしようもなく強いあいつに、勝ちたい」




 それを聞いた、みんなは。


「もちろん! もともとは私の問題なんだから、協力するに決まってるわ!」

「私も恩義がありますのでー。できることであればお助けしますよ」

「強え奴と戦えるんだろ? ならなんでもいいッ!」


 三者三様の返事だったが、しかし方向は一致していた。


「……ありがとう、みんな」


 作戦会議。僕が持っている情報を全て出す。余さず、一つ残らずだ。あの竜狼に勝つために、全てのピースを共有する。


 勝利の鍵、それは『連携』だ。


 奴は一。こちらは四。単純だが、間違いなく奴を上回っている点。数の利。一人では勝てない強敵だって、みんなで力を合わせれば倒せる。これもまた、ゲームの基本だ。

 さて、まず行いたいのは『自分たちを知ること』。僕が知る、パーティメンバーのステータスを書けるだけ書き出してみることにする。

 宿に備え付けてある羊皮紙的なものと、ペンを借りる。言語は日本語でも大丈夫なはずだ。

 まず一人目は僕。一応ステータスはブライト・シュナイダー準拠、ということになる。


☆★☆


 ブライト・シュナイダー


 職業:剣士(アタッカー)


 装備:旅人の服 ロングソード


 アビリティ:

【英雄の眼】大精霊より授けられし権能、未来視の力。基本回避率が30%上昇、被クリティカル率を30%ダウン。この数値はマイナス補正を受けず、打ち消されない。


 習得技:なし


 臨壊:???/習得条件:不明


☆★☆


 レベルや攻撃力、体力などの数値的ステータスはさすがに不明。判明しているのは【英雄の眼】の能力くらいになるか。職業のカッコ内は僕の補足だ。このパーティにおける役割について記してある。

 さて、まずはアビリティから見ていこう。【英雄の眼】、これはゲーム上では『基本回避率の上昇』という形で能力化されている。


「でもこれって、ゲーム? での話よね。この数字は意味を成さないんじゃない?」


 アトラの質問に、僕は頷く。


「うん、その通り。だから、書き直すとすれば──」


 僕は二重線を引き、能力の詳細を書き改めた。


『未来視の力。使用者の判断能力に応じて、危機回避を行うことができる』


 こうなるだろうか。重要なのは使用者の判断能力に応じて、という点だ。つまり僕がポンコツならば、この能力はまるで意味を成さない。


「なるほど。だからお前、あんなに避けられたんだな?」


 先の決闘から推察した様子のハザマは得心がいったようだった。

 未来視の上限は、現状7秒程度だろうか。それだけに集中すればもっと先も見えるかもしれないが、戦闘中は現実的ではない。

 また未来視の仕様だが、僕が行動を起こすことによって刻一刻と変化する。未来が見えた上で、それを考慮して別の行動を起こすことで別の未来になる。秒単位で塗り替えられていく未来に対応し、思考をしなければならない。

『未来』の映像は、脳内に直感的に送られてくる。理解をする前に理解をしている、というようなイメージだ。

 難しいが、これに慣れれば全ての攻撃を回避することだって夢じゃない。

 次に『習得技』の項目。

 まず、エストランティア・サーガにおける『技』には三種類ある。


 それが『魔法(まほう)』『魔技(まぎ)』『術技(じゅつぎ)』だ。


 魔法とは、アトラの『ボルテクス・レイ』などに代表される、魔力=MPを行使して発動する技。主に魔法使い系の職業が使用可能で、魔力の消費が大きい分規模も大きく、様々な属性を付加させることができる。


 魔技とは、ルインフォードの『双傷・風羽々斬(フェンリス・フォルガ)』などがそれに当たる。魔力を消費する行動に、自らの剣技その他の技術を掛け合わせて生み出される、ハイブリッド型の技。

 技術でカバーをする分魔力消費が少ないというメリットがある。しかし、武と魔の両面で己を鍛えなければいけない上に、それを同時に使わなければいけないため習得できるキャラクターが限られるという難点もある。また、繊細な技術を必要とするために出が遅い(モーションの起こりが遅く、攻撃判定の発生速度が遅い)という特徴がある。


 最後に術技。一切魔力消費を行わない、己の鍛え上げた技量のみで繰り出される技。魔法適性のないキャラクターでも扱える上に、いくらでも連発可能ということで使い勝手の面では最強。しかし、その要求される技術力の高さから魔技よりさらに覚えるキャラクターが少ない。加えて基本的に物理属性になるため、硬い敵には相性が悪い。範囲攻撃もできないため、数の多い敵とも相性が悪い。


 それぞれ一長一短。場面によって使い分けていくスタイルとなる。


「……思いっきり、なしって書いてありますね」

「はい……」


 ミスティの鋭いツッコミに、僕は俯くしかない。

 本来のブライト・シュナイダーはレベルアップにより術技を覚えるのだが、僕はそんなもの知らない。なのでナシ。堂々のナシ。恥ずかしい限りだ。

 長々と説明しておいてなんだよ! というツッコミはしないでください。


「臨壊……ってなに? はてなってなってるけど……」


 続くアトラの質問。僕は噛み砕いて説明する。

 臨壊。端的に言うところの必殺技。


 弱き己を『壊』し、強き己を『臨』む。それが臨壊だ。


 魔力とは別に存在する臨壊ゲージが、ダメージを受けるかダメージを与えることで貯まっていく。それが100%に到達することで発動可能になる。一人につき一つしか存在せず、効果はどれも強力。場をひっくり返すだけの力があると思って間違いない。


 ここでミソになるのが、「魔力とは違うゲージである」という点。魔力は、じっとしていること──つまり戦闘のない状態で落ち着いている時に回復する。対する臨壊ゲージは戦いの中で、まるでボルテージが上がるように貯まっていく。相反するのだ。


 下がって魔力を貯めるか、前に出て臨壊ゲージを貯めるか。ここが駆け引きのポイント、またプレイヤーの腕が問われる部分になる。


 臨壊の能力は、キャラクターの心象によって決まる。弱き己、壊したい自分。キャラクターの中にある、そういった『弱さ』を能力に昇華する──という、設定がある。

 ……とは言ったものの、どのキャラクターも最初は臨壊を使えない。キャラクターごとに用意された『習得条件』をクリアすることで、ようやく扱えるようになるのだ。

 そして謎なのは──ブライト・シュナイダーの『臨壊習得条件』は一切不明な点。wikiや設定資料集にも明記されていない。なぜかは分からないが、ゲームをプレイしていると、ふとした瞬間にブライトが習得する。何を満たしたのか、どういう条件をクリアしたのかは誰も分からない。エストラ七不思議の一つに数えられている。僕の中で。

 ちなみに僕はブライトの臨壊の内容を知っているが、ここには書かない。余計な内容を教えても混乱させるだけ──というのは建前で、ゲーマー的な心境で「現状出ていない情報のネタバレはあんまりしたくないな……」というのが本音だった。

 ルインフォード戦でもどうせ臨壊は使えないので、まあいいだろうという判断である。

 さて、僕についてはこのくらいか。次は──


「俺だ俺だ俺だ! 俺のすてーたす? を教えてくれ!」

「分かった、分かったから落ち着け」


☆★☆


 ハザマ・アルゴノート


 職業:守護騎士(タンク)


 装備:旅人の服 鉄の胸当て バスターソード


 アビリティ:

戦闘狂(バーサーカー)】戦いを求め続けた男のたどり着いた境地。交戦時、敵のレベルに応じて自身のステータスに補正がかかる。自分より高いレベルの敵と戦う場合、高ければ高いほどステータスにプラス補正。最高1.5倍。逆に低ければ低いほどマイナス補正。最低0.75倍。


 習得技:なし


 臨壊:???/習得条件:自分の弱さを認める


☆★☆


「おい! 自分の弱さを認めるってなんだよエイジ!」

「僕に言うなよ! 文句があるならこの条件考えたゲームデザイナーに言ってくれ!」


 詰め寄ってくるハザマだが、僕に習得条件を変える力はない。もちろんこれはゲームでの話であって、この世界では違う可能性もあるが……今までの傾向からいえば、このままなのだろう。

 自分の力を信じきっているハザマが弱さを認めるシーン……必見である。

 っと、これ以上のネタバレはしないぞ。


「この【戦闘狂(バーサーカー)】ってアビリティ、もしかしなくてもめちゃくちゃ都合がいいのでは?」


 やはりミスティは察しがいい。これまででも散々語られている通り、やはりルインフォード戦で最も重要になるであろうアビリティだ。


「ハザマ……ルインフォード戦の行方は、君にかかっている」

「お、おう……任せろ! どんな奴か知らねえがぶちのめしてるぜ!」


 まんざらでもなさそうなハザマ。実際彼に頼る部分は大きい。

 また、習得技についてだが、現状ハザマは何も覚えていないということになっている。

 しかし、ハザマは一つ、おそらくちょっとレベルが上がればすぐにでも習得するであろう『魔技』がある。

 彼が後に『灼熱の騎士』と呼ばれるようになる所以。その一端。ハザマには後ほど、これを覚えてもらうことになるだろう。


「ねえ、私のも見たい! エイジくん!」


 元気に手をあげるアトラ。どうやら現地の人からすると、自分の能力が客観的にステータスとして表示されるのは面白いらしい。


☆★☆


 アトラ・ファン・エストランティア


 職業:魔法使い(アタッカー兼ヒーラー)


 装備:旅魔導師の外套 ウッドスタッフ


 アビリティ:

【大精霊の言霊】大精霊の持つ権能の一端。強い気持ちを込めた言葉に魔力が乗る。熟練することで固有技能『聖詩(スクリプト)』が使用可能になる。

【???】/習得条件:大精霊との対話を重ねる


 習得技:

『ボルテクス・レイ』雷系単体初級魔法。直線上に稲妻を放つ。

『キュアレ』初級単体治癒魔法。対象を小回復する。


 臨壊:???/習得条件:アビリティ2の習得 自分にできることと、できないことを知る


☆★☆


「わあ、すごい面白そう!」


 メインヒロインなのでそりゃたくさん技能がある。


「言霊……? 私、言霊なんか使ってたの?」


 アトラはこてんと首を傾げる。実際、このアビリティは単体ではあまり意味を成さないものだ。『聖詩(スクリプト)』──要は彼女専用の技を習得するためのトリガーになるもの。現状はもちろん熟練度不足。『聖詩(スクリプト)』習得には程遠い。ここだけの話、コレめちゃくちゃ強いので早く習得していただきたい。


 アビリティを見ても分かる通り、この子は大器晩成型。強力な固有技能を習得するまでは、どちらかというと守られる側の存在ということになる。まだ『ただのお姫様』なのだ。──まあ、ある日を境に怪物みたいな性能を獲得し、親しみを込めて……


『鉄血皇女』

『主人公よりも強い女』

『もうお前一人で世界救いに行け』

『モンスタープリンセス』


 などと呼ばれるようになるのだが、それはまだ先の話。

 話を戻すと、この【大精霊の言霊】というアビリティ。ゲームでは先ほどの「文章通り」な能力しかないわけだが、この世界ではちょっと事情が異なるのではないかと見ている。

 というのも、僕の【英雄の眼】と同じく、このアビリティには数値を超える力がある。ゲームでは単なるフレーバーテキスト──つまり雰囲気を出すための文章に過ぎなかった「強い気持ちを込めた言葉に魔力が乗る」という部分だが、それがそのまま反映されるとしたら……何らかの効果を持つのではないだろうか?

 間近に迫るルインフォード戦では意味を持たないかもしれないが、いつか熟練度が上がって、効力も強まった日には……何か別のことにも使えるかもしれない。


 ……もしかしたら。あの日、僕を救ってくれた彼女の言葉にも、案外魔力が乗っていたのかもしれないな。


「二個目のはてなは何なの?」

「まだアトラが習得してないアビリティだよ」

「大精霊との対話を重ねる……? どうすればいいのかしら。いつも行っているような礼拝でいいの?」

「なんだか次の町でヒントが得られるような気がするなあ!」


 メタい。


「臨壊……私の習得条件は、『自分にできることと、できないことを知る』か。ハザマのもそうだけど、なんだかアバウトね」

「そうなんだよ。プレイヤーにもそれしか情報をくれない。とりあえずそれをバッチリ覚えておいて、物語の途中でその条件に合うような選択が来た時に、ちゃんと正解を選べれば臨壊を習得できるイベントが発生するんだ」

「よく分からないけど、エイジくんちゃんと正解選んでね」

「任せてくれ……」


 何回僕がそのシーンをプレイしたと思っているんだ! まさか間違えるなんてそんなはずがない! フラグじゃないぞ!


「あの、エイジさん」

「どうした、ミスティ」


 そこに、おずおずと最後の一人がやってくる。


「私のステータスは?」

「よかろう」


 僕は得意げに筆を取った。


☆★☆


 ミスティ


 職業:シーフ(神の化身)


 装備:斥候の軽装 ツインダガー


 アビリティ:

【???】存在するのかも不明


 習得技:

『アイシクル・ロンド』氷系中級全体魔法。自分を中心とする半径8メートルに存在する敵を対象とし、氷柱で氷漬けにする。氷系ダメージプラス行動阻害効果。

『キュアレ』初級単体治癒魔法。対象を小回復する。


 臨壊:???/習得条件:??? 多分あると思う


☆★☆


「はてなばっかりじゃないですかぁ!!」

「しょうがないだろぉ!? お前のことは何も分からないんだから!」


 彼女も何か面白いアビリティとかに期待していたのかもしれないが、そもそもミスティなんてキャラはゲームに出てこないので何一つ分かるわけがない。


「なんですか、『多分あると思う』って! 適当じゃないですか!」

「そんなことないよ。臨壊は一人のキャラに一つ必ずあるものだから、そこから推測して……まあ神の化身でも一個持ってるでしょっていう」

「ていうか、神の化身ってどういうことですか!? ちゃんと説明してくださいよ!」

「………………あ」


 そうか。完全に忘れていた。

 僕とアトラの話を聞いていたと言っていたから完全に頭から抜け落ちていたが、僕はまだミスティに事の顛末を何一つ説明していなかったんだった。


「実は──」


 僕は懇切丁寧にユグドミスティア様が遣わした神の化身がミスティさんです、と説明。


「なるほど……」


 口元に手を当て、ふむふむと頷くミスティ。


「全く意味が分かりません」

「こっちのセリフだよ」


 まあ、彼女が神の化身なのはこの際どうでもいい。いやどうでもよくはないが、今話していても仕方ない。重要なのは、彼女は桁外れに強いということ。きっと彼女にも、たくさん仕事をしてもらうことになるだろう。


「さて、じゃあ最後に──」


 そう言って僕は、最後にこの人物のステータスを書き込んだ。

 次は、『敵を知ること』だ。


☆★☆


 ルインフォード・ヴァナルガンド


 職業:竜剣士・魔術的人工生命(ホムンクルス)


 アビリティ:

竜風狼牙(りゅうふうろうが)】風の精密制御によって物を操ることができる。制御機構リミッター解除に応じて、最大4つまで。使用中は数に応じて徐々に魔力が減少する。

【風界】常時展開される風の守護壁。残存体力が70%を切るまで、物理属性の攻撃を完全ガードする。

魔術的人工生命(ホムンクルス)】人間に存在するあらゆる制約から解放される代わりに、暴走する危険性がある。


 習得技:

双傷・風羽々斬(フェンリス・フォルガ)』風系初級単体魔技。二刀による斬撃に加えて風による追加ダメージと打ち上げ効果。/使用条件:第二制御機構(リミッター)解除

四傷・夢羽々斬(フォーレン・ガルム)』風系中級単体魔技。両手に持った二刀に加えて風で操る二刀、計四本の刀による連続攻撃。ガードブレイク効果。/使用条件:第四制御機構(リミッター)解除

六傷・天羽々斬(フィンブル・ヴィント)』風系上級全体魔技。計六本の刀を一斉に放ち、周囲の敵を斬撃の渦に飲み込む。ガード不可。/使用条件:第六制御機構(リミッター)解除


 臨壊:『終焉譚の伝承者(ヴァルド・ラグナロク)』20秒間の竜化。竜化中は以下のステータス変化。

 ・移動性能が20%アップ

 ・攻撃力が300%アップ

 ・防御力が50%アップ

 ・魔力消費なしで六刀を使用可能

 竜化終了後20秒間、以下のステータス変化。

 ・命中率が50%ダウン

 ・防御力が50%ダウン

 ・六刀操作ができなくなる


☆★☆


「うわあ……(ドン引き)」


 ミスティの反応も致し方ない。これはヤバい。どう見てもこんな序盤でぶつかるような相手ではない。能力の充実具合がおかしい。


「心が躍るなあエイジ!」

「それは君だけだと思うよ、ハザマ……」

「これ、本当に勝てるの? エイジくん」

「勝つんだよ! どうにかして!」


 涙目になりながら弱々しい反論をするしかない。実際、コレに勝つために何が必要なのか、どうすればいいのか、改めて見てもさっぱり分からない。


「エイジ、前回の戦いの詳細を教えてくれ」


 そうして頭を抱えている時だった。


「詳細、というと?」


 ハザマは真剣な表情で、一言。


「全部だ」


 そう言って、僕の書いたメモに再び視線を落とした。

 そこから僕は、前回の戦いの流れを詳細に語り尽くした。マルギットに向かう道中の山脈に奴が現れたこと。そこから激戦を経て、ミスティの奇策によって【風界】の解除に成功したものの、ダメージの蓄積によってゲージを貯められて臨壊発動、瞬殺された──という一連の流れ。


「岩を巧みに使って攻撃! さすがですねぇ私!」

「否定はできない……」


 いつにも増して調子に乗りまくっているミスティだが、前回の戦闘における最大の功労者であるためにあまり大きな口も叩けない。ミスティ様……。


「なるほど、こりゃ確かにヤバいな。特に……【風界】がどうにもならねェ」


 続いてハザマがコメントする。まさに前回の戦いを一言で言い表すものだった。


「そう。そうなんだよ。これに殺されたと言っても過言じゃない」

「魔法攻撃なら通るんだよな? でも、ミスティの『アイシクル・ロンド』、姫さんの『ボルテクス・レイ』一発ずつじゃ足りねえと」

「あの巨岩激突がどれだけのダメージだったのかは想像するしかないけど…………僕の感覚では、おそらく70%切るのに必要なダメージは『アイシクル・ロンド』で三発、『ボルテクス・レイ』なら六発くらいかな。単純に移動性能も高いルインフォードに全部当てるのは、正直かなり厳しい」

「うう、力不足……」


 ちょっと落ち込み気味なメインヒロインさん。落ち込む姿も可愛いが、ちょっと申し訳ない。

 耐えてくれ、アトラ! 君が花開くのはもう少し先だ……!


「でも、どうするんですか? なんか私、あの魔法三発も打てない感じなんですけど」


 そう。ミスティの言う通り。現状彼女は『アイシクル・ロンド』一発で魔力を使い果たしてしまうべ○ーサタンみたいな奴なのだ。


「その対策は既にある」


 ベッドの裏から僕が取り出したのは……大量のマジックポーション。総数37。きらめく小ビンたち。


「これを飲み続けてもらう」

「本気ですか? 胃が爆裂しますよ?」


 ごもっともである。


「わりかし美味しいよ」

「そういう問題ではなくてッッ!!!!」


 ごもっともである。


「今思えば、ボス戦でポーションがぶ飲みさせられるパーティメンバーもたまったもんじゃないな……」


 話が逸れたが、つまりは『アイシクル・ロンド』を撃ったそばから全力で魔力回復に努めてもらうという、単純明快な作戦だった。


「まるで固定砲台ですね」

「……実際間違ってない」


 ミスティはこのパーティのメイン火力。回転率を上げるためにも、できれば攻撃に集中してほしい。前回のようにミスティを切り捨てるような戦い方で活路を切り開いても、そこに未来はない。


「俺は……盾だな?」

「さすが、察しがいいね」

 ミスティがメイン火力ならば、ハザマはメイン盾。戦線を支える強固なタンクとして、戦闘狂(バーサーカー)補正を生かして正面からルインフォードの相手をしてもらうことになる。


「いいぜ! 真っ正面からブチ当たる! 大変俺好みだ!」


 ハザマらしい熱気に溢れる返事に、僕も安心する。きっと彼ならば任せても大丈夫だ。


「私は……特に役割なし?」


 ちょっと寂しげな瞳を向けてくるアトラ。可愛い……じゃなくて。


「アトラはヒーラーとして立ち回ってもらおうと思う。ミスティはでかい魔法撃つので手一杯、僕ら二人で前線を支えるにしてもヒーラーは必須だ。アトラの治癒は、回復量自体はそこまで多くない。でも魔力量の多さを生かして傷を負ったそばからこまめにヒール、絶対にハザマを落とさない。これを意識してほしい。後半、【風界】解除に成功した後はミスティにも前線に加わってもらう。そこからは総力戦だ。魔法攻撃もブチかまして、畳み掛ける」

「が、頑張るわ!」

「うん、頼んだ」


 グッと両拳を握りしめるアトラ。気合十分の様子だ。

 役割の明確化。ネットゲームなんかではよくある光景だが、前回までの僕らはそれができていなかった。

 基本に立ち返る。冷静に理を詰めていく。最高率でパーティメンバー全員が回転すれば、きっと。

 ならばこそ、必要になるのは潤滑油。三人を繋ぎ、より効率良くエネルギーを伝達するためには誰かが間に立たなければならない。

 それが僕。


 格好をつけて言うのであれば──『軍師』。


 指揮するのはたった三人。相対するのはたった一人。しかし一手打ち損じれば仲間が死んでいく。そんな極限の駆け引き、僕にできるのか。

 ……いや、やるんだ。大丈夫、知識ならある。必要な情報は揃っている。


「……さて、次に作戦だけど────」


 僕はみんなを見回して次の段階に移る。


 ──勝ちたい。素直にそう思えた。


 僕のためじゃない。ついてきてくれるみんなのためにも、勝ちたいと思った。

 安藤影次として生きればいいと背中を押してもらった。納得するまでぶつかり合ってくれた友がいた。

 だからきっと、進める。

 決戦の日は近い。それまでにやれることは限られている。

 恐怖はあったが、同じだけの勇気があった。

 絶望はあったが、同じだけの希望があった。

 ──できることをしよう。全部を出し切ろう。



 

 後悔だけは、したくないから。



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