表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
37/40

終わりの始まりの章 4

悪夢に一番最初に気づいたのは、樹里だった。

弘樹の家に、入っていく人がいた。樹里お手製の結界が警告を鳴らした。

正体がゆきだとわかって、一瞬気を緩めたのだが、その直後ゆきの気配がきれいに消えたのだ。

樹里は息を呑んだ。そして、思い出した。

ゆきは、狙われている存在だ。孤血を所持している。神の血を持っている。

弘樹のことにかまかけすぎて、ゆきへの目がすべて消えていた。

樹里は、その場のことをすべて投げ捨て、一番早いスピードで、弘樹の家に向かった。

だが、遅かったのだ。

リビングに入った樹里の目に飛び込んできたのは、悪夢というにふさわしかった。

血塗れのゆきが、倒れていた。

横になって、右手を胸に添えている。

その右手に握られているもの、背中を貫いているもの。

血にすら穢れず、薄水色の光を反射する、すすぎ。

「ゆ、き、、、。」

樹里は夜目が利く。あちこちに血が飛び散っていることも、床に大量に血が広がっていることも

ゆきのきている服が、どす黒くなっていることも、

ゆきが、ぴくりともうごかないことも、全部わかった。

樹里は、ゆきの脇にしゃがみ込んだ。

ゆきの右手に触れる。瞬間、すすぎが消えた。

「ねぇ、冗談、でしょ?」

ゆきの右手は、ひどくひんやりとしていた。

樹里の頭の中は真っ白だった。

何をどうすればいいのか、最善が全く分からない。

「樹里、どうしたって言うんだ。いきなり飛び出して行って。」

そう言いながら、高志が部屋に入ってきた。何の疑問もなしに、部屋の電気をつけた瞬間。

暗闇の悪夢は、表に引きづり出された。



病院特有のエタノールの香りが、ひどく強く感じた。

一瞬絶句した高志も、すぐにゆきの状況を確認し、病院へ運びこんだ。

瀕死、ただ、高志が見た限りだと、まだ死んではいなかった。

かすかに息をしていて、脈も弱弱しく打ち続けていた。

表面的な傷も、すすぎが貫かれていた胸の傷だけのため、高志は応急処置的に術で傷をふさぎ、

病院へ行くなり、佐伯をたたき起したのだ。

ゆきの処置が行われている間、樹里はずっと泣いていた。

高志もいらだちを隠せなかった。

まさか。だった。

こうなるのは弘樹のほうだと思っていた。

ゆきを狙うメリットよりも、弘樹を狙うメリットが大きいはず。

「違うよ。高志。私たちは、忘れてたんだよ、ゆきのこと。」

弘樹が大切すぎて、無論、身内だから当たり前なのだが、ゆきのことを完全に失念していたのだ。

自殺と見せかけた、術による他殺。

高志でなければ、判別つけることは不可能だったろう。それほど巧妙な術であり、何よりも高度な術だった。

高志が判断できたのは、高志が皇子だからに他ならない。それはすなわち術者も皇子であることを意味している。

下手人が誰だかはわからないが、ゆきを狙っていたのは六家のうち一条を除くすべてだ。

もともと、狙われていた人間だ。守りがなくなれば、それを好機と思う人間だっている。

その時、処置室の扉が開いた。

高志が顔をあげると、出てきたのは佐伯だった。

「自殺、か。なんでそういう悲惨な方向に逃げるのかな。」

ぽつりと漏らした言葉は、棘があるようで、佐伯自身も相当悔しいことを暗に示していた。

「残念だがこれ以上の処置は出来ない。」

佐伯の言葉が、夜の病院の廊下に響く。

淡々と佐伯が説明をした。

何らかの形で傷を負った場合、先に失うのは人間の血液ではなく孤血のほうであること。

ある種の興奮状態に追い込まれると、人間の血液の輸血は一切受け入れてくれないこと。拒絶反応が起こること。

孤血のストックは、弘樹のものが若干あるのだが、それでは量が足りなすぎること。

「傷は大きくない。深い傷だけどな。臓器への損傷もそこまででもない。なのに、失血が酷過ぎる。」

まるで、血を失わせることを目的にしているかのように。そうすることで死を呼び込むかのように。

「彼女の親族に連絡を取ってくれないか。時間が、ほとんどないが。」

そう言われて、高志は、下を向いた。

「・・・知らない、か。」

高志の反応を予測していたのだろう。佐伯はそう呟くと、処置室に戻ろうとした。

その時、遠くから、足音が聞こえた。

こんな夜遅くにと、佐伯が顔をあげて、そのまま止まった。

「おい、お前・・・」

高志が、佐伯が向いたほうへ顔を向けた。そのまま止まる。

「孤血、届に来ましたよ。必要でしょ?」

そこにいたのは、黒いコートを羽織って、穏やかな笑みを浮かべた弘樹だった。

樹里も、目を見開いた。

あれだけ探しても、見つからなかった人間が、いま目の前にいる。

「ヒロ!!」

「お前ちょっと待て!!」

樹里と高志が、ほぼ同時に大声を上げた。

それを弘樹は右手で制した。

「あとで、盛大に怒られます。愚痴も聞きます。罰も受けます。けどその前にやらなきゃならないことがあるんで待ってください。」

そういうと、弘樹は佐伯に向き合った。

「俺の自己血ストックブラッドじゃ足りないんでしょ?今日はいくらでも献血しますよ。死なない程度にね。」

弘樹のその言葉に、樹里は何かを言おうとしたが、それすらも弘樹の右手が止めた。

「あ、ああ。助かる。道が開けるよ。」

そう言いながら処置室に入る佐伯を、弘樹は追いかけた。

一瞬だけ、振り返ると、樹里に何かを含んだような笑いを向けて。

樹里には、その「何か」をきちんと理解することは、できなかった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ