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狐の章 13 一瞬の塵

13 一瞬の塵


膝が落ちたとき

弘樹は本気でだめだと思った。

相手が六家の皇子と知ったときから、勝算なんてなかった。嘘じゃない。

相手は、自分以上に「戦」を知っている。六家の皇子たちはそういう宿命を背負う。

弘樹はそれを放棄した、いわば名ばかりの皇子。

ただ、可能性がゼロではないとも考えていた。たった数パーセントの可能性に賭けた。

自分がこの可能性を放棄すれば、ガラス越しの人たちを放棄するのと同じだ。

けど。甘かった。

すべての考えにおいて、橘の皇子は、弘樹の上を走っていた。

目の前が、急にぼやけた。

このままだと、身体が崩れ落ちるのは時間の問題だ。

樹里の泣き声が聞こえる。

・・・なくなよ。

弘樹は目を閉じてわらった。

・・・あとは、たのんだからな。

弘樹は、そのまま胸の鎖を両手で強く握った。きつく瞳を閉じる。

持ちうるすべての力を、その鎖に集中させる。

そのときだった。

大きなシャンデリアの落下のような、ガラスの割れる音。

そして。

握った鎖が、手のひらで爆ぜた。

弘樹は、これが自分の最期だと信じて疑わなかった。



爆風が、収まった。

舞い上がった埃や塵が、静かに地面に落ちていく。

誰もが鎖の中央に視線を集中させた。

弘樹は、うつむいたまま動かない。

橘は、これ以上なく目を剥いている。驚愕の顔をぴくりとも動かせずにいる。

そこには、ひざをつき、地に突き刺した刀に寄りかかるかのようにしたゆきの姿があった。

まるで、祈りをささげるかのような姿だった。

しばらくすると、ゆきのもとからすすり泣くような声が聞こえてきた。

「やっぱり、、、だめ、、、」

ゆきの目の端に、ひざをついたまま、うつむいたまま微動だにしない弘樹の姿が映っていた。

今更のように、弘樹の言葉がよみがえる。

誰もが死を逃れることはできない。と。

祈りは、届かなかった。宙ではじけとんだ。

ゆきは目を閉じた。次から次へ感情の波が押し寄せてくる。

閉じた目の端から、あふれ出す、涙。

「だめ、、、なん、で、、、」

ただただ。涙があふれた。

しなないで、その想いは届かずに。

ころさないで、その想いは聞き入れられず。

すべては、自分勝手な想いだった。想いがとどかないのは、自分に下った罰。

けど、

「ひどい、、よ、、こんな、、、」

ゆきは、声を上げた。これ以上ない声で泣いた。

泣くことしかできなかった。

自分の無力さを、力のなさを、激しく悔いた。

銀妃だったら、どうしただろうか。彼女と同じ力を持っていながら、それでも、銀妃なら助けられたはずだ。

こんな無謀なことをせずとも。

鎖は、塵となって舞い上がったのに。

思いは、願いは、塵となった。

「ごめん、、なさい、、、。」

そのゆきの震える肩に、そっと手が置かれた。

隣にしゃがみこんで、そっとゆきの頭に手を置く。

なきじゃくる子どもを、あやすかのように。

ゆきは、一瞬咲かと思った。

けど、その手は大きくてやさしくて。

「・・・もうなくな。」

顔を上げると、弘樹が前にいた。

心配そうに、ゆきの顔を覗き込んでいる。

一瞬、ゆきは心臓が止まったと思った。

自分も弘樹と同じように死んだんだ、とすら思った。

けど、違う。

「・・・死人を見る目で俺を見るな。生きてるよ。」

そう弘樹は、自分の後ろ頭をぽんぽん叩きながら言う。

鎖は、一切なかった。傷だらけだったけど、それでも笑顔だった。

さっきとは別の感情が、心の奥からこみ上げてきた。

涙。けど、それは安堵の涙。

「だぁあ、なくなって。」

弘樹は困ったように眉を寄せて、ゆきの肩をぽんぽん叩いた。

そんな二人の背後に、立ちはだかったものがいた。

「隙だらけだよ。」

橘は、手にしたナイフを振り上げている。

弘樹は、ゆきをかばうように自分の胸の前に寄せた。

「まだ、やるのか。」

弘樹は振り返らず、低い声で問いかける。

「ずるいですね。」

橘は、そういうと手にしたナイフをそのまま下ろした。

「そんな、最終兵器、僕は聞いてません。」

心底悔しそうな声だった。

「ま、最終兵器は、隠し持つのが常だ。」

弘樹はさらりと返した。

弘樹もこの展開を、この結末を想定していたわけではない。けど、正論として返した。

「やめておきます。いまは若干僕のほうが分が悪いようだし。」

そういうと、橘はゆきがにぎる刀を見やった。

「大切に、するといい。」

さもなくば、自らの手を大切な人の血で染めることになる。

橘は、そう言い捨て、背を向け消えていった。




これで狐の章は・・・おわり。

書き足す可能性大です。

(なんせ、書きたいところだけ書いたという乱暴な執筆のため、ほんますみません)



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