7話「コーヒー」
「コーヒーが飲めるカッコいい大人になりたい」
自動販売機ががこん、とパックジュースを吐き出す音とともに絵空ちゃんが言った。
「あれ? 絵空ちゃんコーヒー飲めなかったっけ?」
絵空ちゃんが飲んでるのはオレンジジュース。
わたしが今買ったのはイチゴ牛乳だ。
「あたしの舌をなめんじゃねーぞ? 舌だけに!」
「…………」
「あれ? 伝わらなかった? 今のは舐めると舌を」
「いいから。説明しなくていいから」
絵空ちゃんに失敗という言葉はないのだろうか。
「おーかはコーヒー飲めるだろー?」
「別に好んで飲んでるわけじゃないけどね」
と言う桜花ちゃんの手にはカフェオレ。
残念ながらこの自販機にはブラックコーヒーは置いてなかった。
なにが残念かはわかんないけど。
「そうなのか? おーかのイメージにぴったりなのに」
「どちらかというと紅茶派だし」
「あ! なんかそっちの方がカッコいい!」
基準がわからない。
「でもわたしも飲めるよ?」
「うっそ。ななめーるはあたしの味方だと思ったのに! 裏切り者!」
「牛乳と砂糖がないとだめだけど。あと飲むと寝れなくなっちゃう」
「ちくしょう! かわいい! 許す!」
「まぁある程度は慣れだと思うわよ。私だって初めは苦くて飲めなかったし」
「え? 苦くて飲めなかったのに飲み続けたの? なにそれ修行?」
「飲まないと大魔王に勝てる力が身につかなかったからね」
「え? 定められし宿命を背負ってるの?」
閑話休題。
「絵空ちゃん、最近コーヒー飲んだのいつ?」
「あ? んーっと……十五年前くらい?」
「小学生にもなってないじゃん! いや、物心すらついてないよ!」
それは飲んだことがないのと同義なんじゃないだろうか。
「だって苦いんだろ? 飲む気になんねーよ」
「どの口がコーヒーの飲める大人になりたいなんて言うのかしらね?」
「そこはほれ」
ほれ?
「未来の自分に期待してるっつーか。ん? 未来? あ、味蕾だけに!」
「ホント絵空ちゃんは思い付きだけで喋るなぁ……」