5話「都市伝説」
「前の席の知り合いの隣のクラスの人が言ってたらしいんだけどさ」
「その時点で信憑性ゼロね」
「【願いを叶える魔女】って噂が今流行ってるらしーぜ」
「すごいね、絵空ちゃんめげないね」
全く言いよどまずに続けた。
こういうのを胆力っていうんだろうか。
「それ都市伝説としては三流じゃない? 捻りもなにもないし」
「誰も都市伝説なんて言ってないだろ? 噂があるっていうだけでさ」
「フォアフな時点でほぼ都市伝説でしょ」
「え? ガチョウの肝臓?」
「はいはいフォアグラフォアグラ」
「うわーん! おーかが冷たいよななめーるぅ!」
「よしよし……わたしも今のは無いと思うけど」
「慰めながら否定すんなこんちくしょう!」
いや、だってさすがに安直すぎるというか。
絵空ちゃんならもっと上手いこと言えたんじゃないかなっていう謎の期待感。
「あーもう……で? フォアフってなんだよ」
「Friend Of A Friendでフォアフ。友達の友達ってこと。都市伝説とか大体そうでしょ? 友達の友達から聞いた、とか」
「ははっ。全部が全部そうじゃねーだろ」
「もちろん。だけどさっきの話はそうよね?」
「あ、あたしが悪いってのか!」
「そうは言ってないわよ」
友達の友達、か。
確かにそう言った出だしから始まる話はたくさん聞いたことがある。
「話の出所をわからなくさせるため、みたいな意味もあるらしいけど。友達の友達って言われても誰だかさっぱりわかんないでしょ?」
「フォアフ自体が都市伝説みてーな? 【存在しない友達】って言えばそれっぽいじゃん?」
そこで何かに気付いたのか、絵空ちゃんは首を傾げた。
「あれ?」
「どうかしたの、絵空ちゃん?」
「いやー、あのさ」
絵空ちゃんがわたしを見る。
「あたしとななめーるは友達じゃん? もちろんななめーるとおーかも」
「うん」
「おーかはあたしにとって友達の友達になるの? ななめーるの友達としてのおーか? いや、あたしとおーかも友達なのはわかってんだけどさ」
「まぁ言い方の問題でしょうけど……間違いではないかもしれないわね」
「じゃあおーかは存在しないの? あれ? じゃああたしも? ななめーるからしたらおーかの友達としてのあたしは存在しないの? あれ?」
「ちょ、ちょっとやめてよ絵空ちゃん。わけわかんなくなってきたよ」
「そう言うななめーるも存在しないの? 友達としてのななめーるはいても友達の友達としてのななめーるはいないの? え。じゃあこの場には誰がいるんだ? あたしは誰と話してるんだ?」
「…………」
「…………」
「……こわぁ」
「こわいね」
「こわいわね」
本当にわかんなくなってきた。
きっとこれは考えちゃ駄目なやつだ。
「でもあたしはななめーるのこともおーかのことも大事な友達だと思ってるぜっ!」
「あ、無理矢理締めた」