4話「午前午後」
「午前中の授業と比べて午後の授業は眠いと思うんだ」
「うん。まぁそうよね」
「あ。午前は【午前中】って言うのに午後は【午後中】って言わないのなんで?」
「絵空ちゃんはいっつも唐突だなぁ……」
ちなみにわたしも眠気と戦っている最中だった。
お腹いっぱいになった後に眠気を誘う授業があるのが悪い。古典とか。
食べてすぐに体育もそれはそれで辛いものがあるけど。
次の授業の予習をしようって言ったのに眠気がそれを遮っていた。
「調べてみようか?」
「ばっきゃろい。調べたらすぐに答え出ちゃうじゃん。もっと想像力を膨らませよーぜ? 眠気が覚めるような突飛な発想しよーぜ?」
「絵空ちゃんはハードル上げるなぁ……」
でも確かになんでだろう。
うーん……。
「語呂が悪いから?」
「おいおい。それじゃあたしの発想と一緒だぞ?」
あ、絵空ちゃんもそれ考えたんだ。
じゃあ……そうだなぁ。
「……もしかしてわたし達はとんでもない勘違いをしてるんじゃないかな?」
「ほう。聞かせてもらおうか、七芽嬢」
「うん。今までわたし達は【午前中】と【午後】の二つで別れてると思ってたけどそれがそもそも違うんじゃない?」
「というと?」
「つまり本来は【午前】と【中】と【午後】に別けられるとか。考えてよ? 【午】の【前】と【後】があるのならその丁度中間は? どっちになるの?」
「た、たしかに!」
あ、言っててなんかちょっとノってきた。
「中間とはすなわち正午。午前と午後の境目。それを【午前】と無理矢理くっつけて【午前中】と言ってるだけにすぎないんじゃない?」
「す、すげーぜななめーる! あたし達は自力で正解を見つけちまった! なんてこった……っ! やればできるじゃねーか!」
ぱぁん、とハイタッチ。
わいわいと騒いでいると桜花ちゃんが呟いた。
「~中という言葉は明確な終わりがある場合に使う。正午は朝の終わりとして強く認識されているため【午前中】と言うのに対し、【午後】というのは正午から夜中十二時までと正午から夕方までの二つの意味がある。明確な終わりがないため、【午後中】という言葉は使われないのである……だってさ」
「…………」
「…………」
「…………」
「……ばーか」
「な……っ! なんでわたしが馬鹿って言われるの!?」
「うるせえ! 適当言いやがって! 黙ってあたしに馬鹿にされとけ!」
「いーやーでーすー! むしろお礼言ってほしいくらいだよ? 話広げてくれてありがとうって!」
「はー? それこそ嫌ですけどー? 意味わかんないですけどー? 絶対お礼なんて言いませんけどー?」
「……あー。眠たいわね」
結局、予習なんて出来ないまま授業開始を告げるチャイムが鳴り響いた。