3話「春巻き」
「うあー。ようやくご飯だぁ。腹減ったぁ」
ぐだーっと背中を曲げ、手を下に垂らしながら絵空ちゃんがわたしの席に近付いてくる。
「どうする? 購買で買ってくる? それとも食堂行く?」
「んーめんどいからななめーるの弁当食べる」
「…………」
「無言で断られた! にこやかに首振られた!」
だって今日のお弁当は春巻き入ってるし。
「で? 結局どうするのよ」
気付けば桜花ちゃんもわたしの席に来ていた。
どうもわたしの席には二人を引き寄せる引力があるらしい。
「おーかこそどうすんだよ。あたし達が早く決めないとななめーるが大好きな春巻き食べれないだろ」
「え? なんでばれたの?」
まだお弁当広げてないどころか鞄から出してもいない。
エスパー?
「んーそうね。購買のパンも飽きちゃったし食堂にしましょうか。七芽、悪いけど春巻きはもう少し待ってね」
「だからなんでわかるの!?」
それには答えてくれずに二人とも教室から出て行く。
慌てて春巻き……じゃなくてお弁当を持って二人を追いかけた。
「そういや春巻きってなんで春巻きって言うんだろうな」
食堂へ向かう途中、ぼそりと絵空ちゃんが呟いた。
「春の食材を巻いてるとかじゃない?」
「お。それっぽい。それっぽいけど安直じゃねーか?」
「名前の由来なんてそんなもんでしょ」
「そりゃそーだ。えーっと、春巻きの具材ってなんだっけ? はるまきーる?」
「わたし? それわたしなの?」
もう【―る】しか残っていない。いや、それだってわたしとはほぼ関係ない。
「えっと……豚肉とかたけのことか? しいたけもあったりキャベツも入ってたり?」
「たけのこは春っぽいな。でもしいたけは秋だろ。きのこだし」
「間違ってはないけどすがすがしいほどの偏見ね……じゃあ豚肉は?」
「豚肉は夏に決まってんじゃん」
「……冷しゃぶ?」
「お。ななめーる正解! 四エソラ獲得!」
「またいらないやつもらっちゃった……」
ちょこちょこと謎のポイントを貰うがどうにかなった試しがない。
ちなみに今ので合計四百三十二エソラだ。
「キャベツの季節っていつ?」
「私は春ってイメージだけど」
「でも夏キャベツとか冬キャベツとかあるよね」
「すげーなキャベツ。商い中じゃん」
商い中?
あきないちゅう。
あ、春夏冬中だ。
「でも春巻きの具って言われてもぴんと来ないよな。聞かれてさっと答えれるなんてさすがはるまきーるだぜ」
「うん。その呼び方やめない?」
このまま定着しそうでいやだなぁ。
「別にわたしの家のレシピだから他がどうかは知らないよ?」
「家のレシピ知ってるだけでもすげーと思うけど。ちなみに他にはなに入ってんの?」
「え? うーん。白菜とか?」
「完全に冬だ!」
「完璧に冬ね」
あ、この流れはもしかして。
「じゃあ春巻きじゃなくて四季巻きだね! ……って」
あれ? 思った以上に冷ややかな目で見られてる?
わざとらしくわたしから離れて二人はひそひそと話している。話すらもわざとらしく聞こえるように、だ。
「聞きました桜花さん? ダジャレですわよダジャレ」
「ええ、絵空さん。七芽さんもそういうこと言うのね」
「もー! 絶対そういう流れだったじゃん!」
そうこうしている内に食堂へと着いた。
二人が食券を買ってる間に席を取っておく。食堂のときはお決まりの窓際の席。
お弁当を机の上に置いて、まだ広げずにそわそわしながら待っていると二人が仲良く帰ってきた。
「いやー話してたら食べたくなっちゃったな」
「そうね」
そのメニューは――
「豚の生姜焼き」
「ロールキャベツ」
「そっち!?」