1話「職業」
「世の中で最強の職業ってなんだと思う?」
いつものように絵空ちゃんが言った。
わたし達の話は大体絵空ちゃんから始まるのだ。
「質問が曖昧過ぎるわよ……えーっと《核のボタン押す人》」
いつものように桜花ちゃんが答えた。
文句を言いつつも桜花ちゃんはきちんと答えてくれる。
や、きちんとかどうかは微妙だけど。
「え? それって職業なのか?」
「絶対違うわね」
「だよなー! あっぶねぇ! 騙されてクラスのみんなに言いふらすとこだった!」
「そこからどう話を広げる気なのよ」
「将来なりたい職業アンケートで一位を取らせるとか?」
「社会問題!」
思わず口を挟んでしまった。
いや、わたしも会話に参加しているのだから間違いではないけど。
「ななめーるは? 最強の職業」
「え? え? う、うーんと……」
今ので話が一段落したと思っていたわたしは急に振られてどぎまぎとしてしまう。
あ、どうしよう思い付かない。
「さ」
「さ?」
「さ……さむらい?」
「……七芽。昨日、大河ドラマ見たでしょ?」
「う、うん」
「ななめーるはドラマ好きだなー。それにしても侍って……侍って!」
「恥ずかしいから何回も言わないでよぅ! それなら桜花ちゃんの答えだって変でしょ!」
「まぁ私は初めから真面目に答える気ないし」
「え。それはそれで傷付くんだが」
「じゃあ絵空ちゃんは? 絵空ちゃんはなんだと思うの?」
いつものように。
適当な会話をしながら登校する。
登校してもずっと雑談して。
学校が終われば世間話をしながら帰るのだ。
それがわたし達の日常。
ずっとずっと続く日常。
一歩前に出た絵空ちゃんが振り返った。
「そんなの決まってんじゃん」
太陽みたいな極上の笑顔を浮かべて言った。
「あたし達【ジョシコーセー】だよ」