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飛空士の空  作者: もるもる
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生まれてから飛べるまでの時間は

今回会話が殆どありません。説明会みたいなものです。

かなり飛ばしてます。

俺は死んだ。

何を唐突にと思うかもしれないが、俺は死んだ。電車事故によって。

享年32歳。奥さんや子供もおらず、空と飛行機が好きなただのおっさんだった。

 

 そして転生。転生先は良くありそうなファンタジー色の強い世界だ。魔法もあるし魔物もいる。一つ違うとすれば、剣で戦うのではなく銃や大砲で戦う事くらいだろうか。ああ、もう一つあった。大きな島が空に浮いている。しかもそこに人が住んでいる。

 ちなみに、よくある神様に会うとかはなかった。だから多分転生特典なんてものはない。あるとすれば前世の記憶くらいだろうか。


 生まれた家は地上の片田舎の街の普通の家。何ら特徴のない平和な街で魔物の襲撃なんてものもない。あったとしても青と白の制服が特徴の衛兵にライフルで退治されて終わり。変わった所といえば飛行場があるくらいだが、どの街にも飛行場はあるのでこの世界では平凡だ。むしろ少し小さいくらいだとか。


 父さんや母さんも普通の人で、俺の事を愛情を持って育ててくれている。

 平凡と少し違うのは、俺を慕ってくれている可愛い幼馴染が居ることと父さんの職業だろうか。幼馴染の名前がヒーエル・エルデフェルト。銀髪のショートカットで青い目をしたアホ毛が一本生えている可愛い女の子。胸も年に比べて大きく、目鼻立ちも整っていて、一見勝ち気に見えるが口を開けば優しい言葉遣いだ。将来はかなり期待できる。アホの子。

 父さんの職業とヒーエルの父さんの職業が一緒な事もあって家族ぐるみの付き合いだ。ヒーエルとはよくプロレスごっこをして遊んだものだが、その話は割愛する。


 父さんの職業だが、飛空便屋、この広い世界で飛空機と呼ばれる空を飛ぶ乗り物で手紙や荷物を遠くまですばやく運ぶ。その職業の需要は高く、父さんは毎日どこかに飛んでいる。


 この飛空機、前世の飛行機と何ら変わりない。変わりがあるとすればエンジンが魔法の力で動いていることくらいだろう。前世の飛行機とシルエットも似ている。エンジンだが、魔法の力と簡単に言っても色々と複雑な設計らしい。


 で、父さんが乗っている機体の販売名はキャリアー。基本スペックだが、最大6人乗りで単葉機の双発、荷物を積むスペースも確保されていて、機体後部がハッチになっており開閉可能。そのためにずんぐりむっくりとした見た目になっている。2つの垂直尾翼も特徴だろうか。


 販売元のランディング社に言えば改造も自由自在。大きくもできるし小さくもできるし、荷物格納スペースも広げられるし追加装甲も付けられる。流石に機銃は付けられないが値段もリーズナブル。だからか、民間で一番使われているのはこの機体と言っても差し支えはない。


 前世から空と飛行機に憧れていた俺としては父さんの職業を継ぐことにした。空軍という選択肢もあったのだが、自由に空を飛びたかったので止めておいた。この時、俺の年齢は15歳で、成人を迎えていた。


 そして案の定、成人の日に父さんに飛空便屋を継ぐことを伝えたら大喜び。ヒーエルの家族も巻き込んだパーティとなった。そこでヒーエルも飛空便屋になることを決意。ヒーエルの父さんも大喜びして大人二人組は朝になるまで飲み明かした。


 それから、一人で飛べるまで父さんに操縦の方法や計器の見方などを教えてもらいながら父さんの隣に乗って、飛空士資格取得に向けての勉強や副操縦士として経験を積んだ。

 俺の操縦技術の才能は並より少し上くらい、とは父さんの談。幼馴染のヒーエルは規格外の天才で、勉強し始めてから数ヶ月で一人で飛ばせるようになり、大人顔負けのテクニックも身に着けている。前世で、パイロットになるまで何年もかかるのを考えたらその規格外さがわかると思う。しかし、俺と一緒に飛びたいと駄々をこねているのでまだ副操縦士のままだ。

 俺のなけなしのプライドが刺激されて猛勉強したのは言うまでもない。それでも、一人で飛べるのを認められたのはその一年後の事だった。


 試験があるというので、試験の日に合わせ父さんの飛空機でこの国の首都までヒーエルと共に行ったが、まず目についたのが巨大な飛行場。これがかなり大きく、俺が住んでいる街くらいあるんじゃないかと思えるような大きさだ。滑走路もかなり長くて10kmはあるんじゃないかとすら思える。さすがは首都。


 そこに軍用の大型の飛空機まであってかなりテンションが上った。父さんに聞いた所、一度飛び立つと理論上は半永久的に飛べるらしい。衣食の問題で降り立たなくては駄目なのだが。中に護衛機も積めて飛ばせるようで、背中にある飛行甲板が目についた。大型ジェットエンジンを8発備えた全翼機のような分厚く大きい翼で、クジラのような巨大な胴体で尻には観音開きのハッチが付いていて、そこからは歩兵や戦車を出すらしい。ジェットエンジンは未だ小型化に成功しておらず、このような超大型の飛空機にしか使われていない。しかも軍専用。民間での仕様は許可されていない。されたとしてもあまりに高価で一流企業でも買えないだろう。なんでも、大型に収まっただけ奇跡だとか言われている。この飛空機の用途としては強襲揚陸だろうか。


 試験の時間もあるので飛行場を後にして、発展し、賑わっている街もタクシーの中から見るにとどめて素通りして試験会場へと着いた。父さんはホテルで待っている。


 レンガ造りが特徴的なその建物は飛行場も併設していて、実地試験もここで行うようだ。笑顔が可愛い受付の人に話を通して待合室で待機する。受けた説明では、まずは筆記試験、これに合格すると実地試験の流れになるらしい。ちなみに、筆記試験と聞いて自信満々そうにニヤニヤしていたヒーエルがアホ毛をピンと伸ばして固まっていたのが面白かった。俺は自信があるから堂々としている。……実地が不安である。


 待合室には、教科書片手にブツブツ言っている人もいれば、他愛もない話をしている人たち、自身あり気に腕を組んでいる人まで居て見ていて退屈はしなかった。ヒーエルは俺に、教科書持ってきてない、と涙目で俺の肩を掴んで揺すっていた。涙目は可愛いのだが揺するのは止めてほしい。なので、揺するのをやめる代わりに俺が色々と口頭で教えていた。


 そして試験の時間がやってくると、試験官であろうスキンヘッドでマッチョな人が現れて部屋へと案内してくれた。部屋には机と椅子があり、机の上には裏返されているであろう試験番号が書かれた答案用紙とペンが置いてあり、各自自由に座っていいとのこと。試験番号が書かれた答案用紙に名前を書くとその番号が自分のものになるようだ。


 試験開始、の掛け声と共に答案用紙をめくると、専門用語がお目見えする。大体の内容は、計器の見方や六分儀を使った問題、トラブルに対処する方法、数学と国語だ。

 俺は問題なく全て答え、見直しをしている。名前を書くのも忘れていない。ヒーエルは隣でブツブツ言っていたのを試験管に注意され、今は貧乏ゆすりをしながら問題を解いている。

 

 試験終了、の声が飛んできたのは試験開始から一時間したあたり。答案用紙を各々試験官の前に置いて待合室へと戻っていく。次は実地試験なのでお腹が痛くなってきた気がする。

 部屋の外でヒーエルを待ち、魂の抜けたようなヒーエルを引っ張って待合室に連れて行く。そこで俺に泣きついてくるヒーエルを宥めながら合否の発表を待っていると、マッチョな試験管がやってきて名前を呼ばれる。それから、名前を呼ばれたやつは合格、と告げられて崩れ落ちる人が数名いたが、俺とヒーエルは呼ばれていた。

 

 それから飛行場に向かい、着くと試験用であろうキャリアーが並んでおり、番号がペイントされていた。各々その番号に向かうように、と言われ俺達は自分の番号のキャリアーに乗り込むと、隣に教官らしき人が座っている。

 赤い髪を背中まで伸ばしたストレートに吊り上がり気味だが凛々しい目と一文字に引き結ばれた唇は吸い付きたくなるような魅力をはらんでいた。美女である。

 俺が挨拶をすれば、厳しい言葉と共に注意点が話される。私語厳禁、質問はあり、三機で飛ぶこと。それ以外にもあったが少し長かったので省く。


 そして実地試験開始。内容は規定されたコースを三機編隊で飛ぶことだった。言ってしまえば簡単だが、コースは様々な場所を通るので空気の流れや気象に対応しなければならない。ここで魔導エンジンの仕組みを簡単に説明するのだが、空気中の魔素を取り込んで動く。

 魔素は高い所に多いので高度を高くして飛べば問題ないが、高度を低くして飛ぶとエンジンの回転数が落ちてしまう。落ちるのは少しだが、それも考慮して飛ばなければならない。しかも慣れていないであろう編隊で。場合によれば接触事故を起こして落ちてしまう。なんで編隊飛行をしなければならないのかは謎だが。父さんたちから念の為、と編隊飛行を教えてもらっておいてよかった。


 兎にも角にも、折返しの山岳地帯を抜けた。隣は幸いにもヒーエルなので問題ないがもう一機が時折、変に動くので少し大変だった。なんで俺が真ん中なんだ。ちくしょう。


 5時間のフライトを終えて飛行場へと着陸する段となる。着陸は一番神経をつかうが、あまり緊張しすぎても失敗する確率が上がるだけなので、できるだけリラックスしながら着陸した。タイヤと地面が接地する瞬間、下から異音がしたので嫌な予感がしたが無理せずゆっくりとブレーキをかけ、無事に止る。降りて見てみると、タイヤにつながっている金属にヒビが入っていて、体がブルリと震えた。

 試験官はそれを見ると不快そうに鼻を鳴らし、オンボロが、と零した後に俺へと顔を向けて柔和な表情を作り、お疲れ様と優しく言えば、踵を返して建物へと戻って行った。これがギャップ萌えか。危うく陥落しそうだった。


 試験も終わり、合否の発表を待合室でヒーエルと待つ。筆記試験のときとはうって変わり、自信満々そうにニヤニヤして俺にどうだったかを聞いてくる。うざ可愛い。


 そしてやってきた試験管のマッチョさん。ここにいる受験者全員を見渡し咳払いを一つすると名前を読み上げる。何人か受からなかったが、俺達二人は無事に合格。写真撮影のために別室に呼ばれた。不合格者がいる手前はしゃげないのでじっとしていたがヒーエルは空気を読まずにはしゃぎだす。おい、俺の手を持って跳ねるのはやめろ。一緒だと思われ……もう睨まれてる。


 とにかく、他の合格者と撮影室へとそそくさと移って椅子に座って写真をとる。こういうのって目つき悪くなるんだよな。なんてどうでもいいことを考えながら再び待合室へと戻る。今度は合格者しか居ないのでゆっくりとソファに座って証明書ができるのを魔力灯の光をヒーエルが帰ってくるまでぼんやり見つめながら待った。


 やっと受付へ戻るよう指示されると、合格者たちは若干の疲労を見せながら受付に向かう。一日試験に使ったんだからさもありなん。俺も少し疲れている。ヒーエルは元気いっぱいの笑顔を浮かべているが。

 受付に行くと、写真が乗った鉄のプレートをもらう。ちょうど名刺サイズだ。ジッと登録証…免許証を見ると自分の姿が写っている。茶髪のショートヘヤ、黒みがかった茶色の目の普通の外見の青年。やはり目つきが悪かった。


 それから建物を出るとやはり外は暗く、静かだ。少し歩いてタクシーを見つけてホテルへと二人で戻ると、夜食もそこそこにヒーエルは眠そうに自分の部屋へと行った。言わずもがなシングルだ。俺は父が待っているであろう部屋へと入り、眠りこけていた父さんのベッドサイドテーブルに免許証を置く。朝起きたら驚いてくれることを祈ろう。


 そのまま俺はシャワーを浴びて、着替えてからベッドへと潜り込んだ。

ああ、やっと自由に空を飛び回れる。運ぶルートは考えないといけないだろうが、それだけだ。


 近い将来の自分を思い浮かべながら、ワクワクとした気持ちのまま眠った。



 


 ここはイリュジオン帝国で多くある飛空士資格取得試験場の一つ。その一室、そこで一人の壮年の男を前に一人の男が立っていた。部屋の雰囲気は重く堅苦しい、その中で座っている男が口を開く。


 「今回の試験合格者でめぼしいものは居たか」


 「はい、二名おりました。編隊飛行も難なくとは申しませんが熟しております」


 「ではその二名のデータを軍部に送っておけ」


 「了解いたしました」


 立っていた男は座っている男へと敬礼をすると二枚の資料を手に部屋を後にする。その資料に書いている名前は――

次からは普通に会話もしますので許して。

出てきたキャリアーという機体は飛空艇のPBMという機体を元にしております。格好いいです。

大型の機体はほぼ架空で原型はほぼ無いのですが、元はME323という機体です。これも格好いいです。某風の谷で、とある機体のモデルにもなりました。


気になることがございましたら感想をくださればと思います。


ちなみに作者は絹ごし豆腐のようなメンタルです。ご容赦を。


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