海外への道
次の日の朝。
会社に出勤すると、また机に付箋が貼ってあった。しかしこの前とは違い3枚も。
「この一週間で海外へ行く際の予定を立てますので、毎日午後1時30分に第一会議室へ来て下さい。」
「海外に行く予定日は次の通りです、6月12日から19日の一週間です。」
「尚、海外へ向かえるのは我々3人のみです。」
やはり。
春日はそうだろうと思っていた。
またもし行けることになっても自費だろう。
そこまでして家族を連れていこうとは思っていなかったので、怒りや悲しさや悔しさは無かった。
そして約束の時間になる。春日は会議室にいた。
そして片本に問い掛ける。
「中国の方の移転準備は終わったか?」
「それがまだなんです。」
「現地の従業員はどうなるんだ?」
「現在中国工場に勤めている従業員は約2000人います。そのうちの約1800人は私らと付き合いがある会社に勤める予定です。残りは、働くことをやめるかベトナムについて来ます。」
「そうか。」
片山が答えたとき春日はほっとした。自分の職をなくされるような条件だったら、抗議が殺到し大変なことになると考えていたからだ。この条件でもう決定しているなら、中国の方は問題ないだろう。
いつも通り仕事が終わり帰ろうとしたとき竹田が「飲みに行きましょう」といってきた。
きっとまた移転の話が聞きたいのだろうと思ったので付き合うことにした。
「今日の会議はどうでしたか?納得いくものでしたか?」
「そうだな。確認したかったことも確認できたし、満足だな。」
「良かったですね!」
そう竹田は言うと、グビッとビールを飲んだ。
竹田にこのプロジェクトがやけに気になっているようだなと聞きたかったが、妻が寝てしまう前に帰りたかったので、早めに切り上げた。
玄関につきドアを開ける。
いつもより遅かったため、息子は出迎えには来なかった。
そして妻に海外へはいけないことを告げる。
「今日の会議でなぁ、聞いたんだが海外へは俺達しかいけないんだ。」
「そうなの!?どうしよう。私とあの子だけでは心配だわ。」
「まぁプロジェクトチームの他の人の家族も同じなんだから、辛抱してくれよ。」
「分かったわ。あなたがいない間、あたしの両親に来てもらうわ。その方が安心して行けるでしょ?」
分かってくれて良かった。
この日の夜は、久しぶりによく眠れた。