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課長と移転と次長  作者: 馬場善英
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唐突な責任

日本一の大都市、東京。日本橋駅から徒歩5分ほどの場所にある小さなビル。そこで今日も眉間にしわを寄せて悩んでいるのが、春日晴彦である。

春日はこの加古根工業で、課長をしている。加古根工業は主に、海外に工場拠点を置く中小企業である。皆さんは自転車専門店やホームセンター等で、自転車のライト・ペダル・サドル・スピードメーターを見たことはあるだろうか。大半の人はある答えると思う。そのような自転車用品を作っているのが、岩下工業だ。


「中国からベトナムかぁ。おい竹田。お前は賛成か」


「これからのことを思えば賛成ですが・・・ 課長は反対ですか?」


やや控えめな口調でそう言ったのは、春日の部下である竹田祐護である。高校・大学とサッカー部をやって来ただけあって、先輩への対応はなれたものである。


春日は工場拠点を中国からベトナムに移転させる計画の責任者を任されたのであった。これも前々からの話ではない。社長から話があってからまだ一週間も経っていないのだから。


「春日くん。今度工場をベトナムへ移すことは知っているかな。」


「はい。私の周りでも、話題になっておりました。その件について何かあるのですか?」


「うむ。実は君を工場移転の、責任者にしようと思ってね。」


その瞬間、春日は数秒間この地球に意識がないように立っていた。

そしてそのあと春日の口が動いた。


「責任者・・・ですか。なぜ私が?」


「突然の話ですまないが、先日の役員会で決定した。よろしく頼むぞ。」


はいとしか答えようが無かった。

社長直々に承認を求められたのだから。

部屋を出ると、竹田達が立っていた。


「課長すごいじゃないですか!」


「なんだ、盗み聞きしていたのか」


「怒らないで下さいよ。でも責任者ってやっぱすごいですよ。」


竹田が慰めるように言った。その後ろで竹田の同僚たちが「うんうん」と首を縦に振っている。

春日もわかっていた。

もちろんこの移転を成功させることができたら、昇進するにきまっている。そのためのテストのようなものだ。

だが、今の春日はその「昇進」という言葉に乗り気ではなかった。春日は36歳で妻子もいる。

貯金もしているし、このままの給料でも家のローンは払っていける。もしこの移転を失敗させたら、会社や同僚・部下に失望されるだけでなく、近所に噂が流れたり、子供が学校でいじめられるかもしれない。

そんなことを考えると乗り気ではないのだ。


「頑張ってください。お力になれることがありましたら、ぜひ言ってください!」


「ありがとよ。じゃあ、またその時に連絡する。」


そう言って別れた。今日はそのまま話が進展することもなく、勤務時間が終わった。


家に帰ると、いつも通り長男の遥稀が玄関へ出てきて「お帰りなさい」と出迎えてくれた。

こんな出迎えもいつまでだろうなぁと若干の悲しみを感じながらリビングへ行くと、いつも通り妻の咲枝が夕食を作っていた。

そしていつも通り風呂に入り、夕食を食べ、晩酌をし、布団に入る。

この生活がいつまでも続けばいい。変えなくったっていい。

春日はいつも布団に入りふとこう思う。しかし今日はいつもと違う。いつもならこのまま寝てしまうが、春日の頭の中には「中国」と「ベトナム」と「移転」の言葉が並んでいた。


「どうするべきか」

ふと言葉が漏れてしまう。それくらい春日の脳内の容量をこの3つの言葉が占めているのだ。

まだ家族にも話していない。いろいろ考えるうちに春日は眠ってしまった。

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