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出会い

さて、今日から働かないとなー。


数日ぶりに愛刀を腰に下げ、部屋を出る。

1階の共同リビングを通って玄関へ。

管理人さんの「いってらっしゃい。」に「はい。」と返して家を出る。


家を出た俺の目に真っ先に飛び込んできたのは、ただただデカいとしか言えない大きな円柱状の建物。

それこそが俺の目指すところ。

一般に''ダンジョン''と呼ばれている場所だ。


住宅街を抜けて市場に出る。

朝7時だというのに市場では朝市!という上りが並んでおり、活気が溢れている。

人混みに流されながらもなんとか通り抜け、ダンジョンへ向かう。


歩くこと1時間、ようやくダンジョン前にある広場へ到着した。

一般の人達からの依頼の管理を行っている公共事業に鍛冶屋、ダンジョンを探索する際に組むパーティー募集や、ダンジョンへ入るための料金をとる料金所があり、多くの同業者達で賑わう場所だ。


「あれ?」


そんな場所のはずなのだが様子がいつもと違った。

入口前の料金所の周りに人集りが出来ている。


「すいません。ちょっと通りますねー」


人集りを押しのけながら、一番前へ。

どうやら、この人集りの原因はトラブルの類のようだった。

料金所の係員と少女が何やら揉めていて、ダンジョンに入れないらしい。


「あのー、あれは何を揉めているんですかね?」


隣にいた男に声をかけてみる。

男は困り顔でこう話した。


「いやね、どうやらあの嬢ちゃんは新参者らしくてね。ダンジョンに入るのに金がかかるって知らなかったみたいなんだ。

金を払おうにも持ち合わせがないみたいでね。ああやって頼み込んでるみたいなんだ。

地方の村から出稼ぎにでも来てるのかな?」


「なるほど・・・ありがとうございました。」


礼を言って再び少女に目を向ける。


なるほど、確かに砂埃を被っているフードケープに泥だらけのブーツ。

いかにもこんな大都市にいるような身なりじゃないな。

しかし困った。これじゃ仕事を始めることすら出来ない。

・・・・・・仕方ないか。


ふう、と息をついてから今も頭を下げて係員に頼み込んでいる少女の隣へ。

どうすればいいのか、と困り顔の係員に声を話しかける。


「あのー、ちょっといいですか?」


「はい?」


係員がこちらに顔を向ける。

俺の隣で頭を下げている少女も初めて俺に気がついたようでビクッとしてから、俺を見上げる。

フードで見えていなかったその顔は、まつげが長くて目が大きくとても可愛らしかった。

それに少しドキッとしつつも、係員に提案した。


「あの、この子の分の料金俺が払いますから、通してあげてくれませんか?」


「えっ?いいですか!?」


隣で少女が驚いているが、無視。

係員はというと相変わらずの困り顔で言う。


「はい、料金さえいただければもちろん。」


「えっと、ならこの子の分の料金50000と俺のパスはこれです。どうぞ。」


ポーチから紙幣とダンジョンへ無料で入ることを許可する旨の書かれた契約書を出す。

係員はそれらを確認する。


「はい、確かに。では、いってらっしゃいませ。」


係員がマニュアル通りの挨拶と会釈をしてくるので返してから、隣で俺と係員とを交互に見やっている少女に話しかける。


「あの、もう入っていいから取りあえず奥に行きましょう?

ここにいると他の方に迷惑がかかってしまいますから。」


少女はハッとして周りを見渡し、自分のせいで流れがストップしてしまっていることに気付いたようで


「すみません、ご迷惑おかけしました。」


と、頭を下げてから歩き出している俺の隣に小走りで並んだ。


「ありがとうございました。お金を出していただいて。」


「あ、いえ、いいんですよ。

あのー、おいくつですか?出来れば敬語を使いたくないので。」


人見知りが少しあるのと、相手が美少女なのとでスラスラ話せないのは我ながら恥ずかしい。


「あ、はい。16です。あの、あなたは?」


「まだなんですけど今年で16です。」


「なら、同い年です。」


「あ、なら敬語なしで。

お金のことは気にしないで、ちょっと俺も思うところがあったから出したんだ。」


思うところ、という言葉に引っかかったのだろう。

彼女は少し首を傾げた。


「思うところ、ですか?」


ああ、同い年でも敬語は続けるんだ。


「ああ。ダンジョンに入りたいってことは、それなりに腕に自信があるんでしょ?

なら、仕事を頼みたいなって思ってさ。」


「お仕事いただけるんですか!?」


「うわっ!」


仕事という言葉にテンションが上がったようで声を大きくしたから、ちょっと驚いた。

彼女は大声を上げてしまったことを恥じているのか少し頬を染めた。


「す、すみません。で、お仕事って?」


「ああ。俺っていうか俺達なんだけどね、このダンジョンの7階に行かないといけないんだ。」


「な、7階ですか!?す、すごいですね。」


彼女が驚くのも無理はないことだ。

なにせダンジョンは推定30階層からなる円柱状の塔で、モンスターと呼ばれる生き物が多く存在し、それらの多くは人間をも襲ってくる。それらの強さは階層を上がる程に強くなっていて、現在人間が到達しているのは7階まで。

つまり、俺の向かう階層は言わば最前線だからだ。


「それでさ、7階まで行く間にもモンスターに襲われるわけだ。」


「そうですね。7階まで行くのにどれくらいの時間がかかるのか分かりませんけど。」


「多分10日くらいだな。で、その間に襲われる度に戦ってたら7階に着いたときには、もうヘトヘトで戦えないかもしれないだろ?」


「なるほど。つまりその間に襲ってくるモンスターを倒せばいいんですね?」


「ああ、そういうことだ。で、頼めるか?

報酬は1日3万、往復20日だから計60万でどうだ?

受けてくれるならさっきの5万はもちろん経費ってことにするから返さなくていい。」


「そ、そんなにいただけるんですか!?」


また彼女のテンションが上がった。


「そんなにって、相場よりは5万があるから高いことには高いけど。割と普通だぞ?」


「そ、そうなんですか。故郷の平均の3倍ですよ・・・」


やはり、田舎から出てきたのか。


「まあ、命のかかった仕事だから他のより高いんだろう。多分。

で、受けてくれる?」


「もちろんです!あ、でも20日間2人っきりですか・・・?」


「ああ!ごめん。違うよ。2人きりじゃない。俺のパーティーメンバーがあと2人いるから。内1人は女子だから大丈夫。」


彼女はホッとしてから笑顔で言った。


「あ、そうですか。なら喜んでお受けします。

自己紹介がまだでしたね。私はクラーネです。」


「ありがとう。俺はルイン。よろしくな。」


「はい!」

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