第95話
11
翌朝早朝から、身支度を整えて出発だ。
途中、悪魔の尾ハートには悩まされたが、何とか退治しながら進んで行く。
そうして、柱の下についたのは、昼になってからだった。
「なあに、ここ。何もないじゃない。
ただ、細長い棒のような柱が、ただ伸びているだけ。
入口はないし、外についているコの字の金具は何?
もしかして、梯子代わりにこれを伝って登って行けって事?」
レイの言うとおり、何もない大地に、直径2ートルほどの丸い柱が、ひたすら天に向かって伸びているだけのようだ。
入口のようなものはどこにも見られず、仮に入口があったところで、こんな細い柱内部に階段があるとも考えられないし、エレベータ―も無理だろう。
上に登るには、柱の側面に取り付けられた金具を伝って登って行くしか、方法はなさそうだ。
電信柱のちょっと太くなったような、ただの棒というか柱にしか見えないが、まあ、自立しているし高くそびえているし、塔と呼ぶことにするか。
それよりも大丈夫だろうか、登っている途中で折れたりしないだろうか。
あらかた魔物は倒してきたつもりなので、スタッフたちはここに残しても大丈夫だろう。
彼らだって、マシンガンを持っているのだし、大丈夫だよね?
という顔で見たら、笑顔で頷いた。
「ぜ・・・絶対にほどけないよう、きつく結んでよね。」
中継車に積んであったロープを借りて、命綱代わりに全員の体に順に結びつける。
先頭はツバサだ。
梯子を伝って、ひょいひょいと登って行く。
その次が俺で、源五郎、レイと続く。
各人の間隔は5メートル程あけて結んでいるので、最初は、それぞれ自分のペース配分で登り始めればいい。
もし、レイたちが足を踏み外したとしても、2人分の体重を支えられる自信はある。
問題は、恐怖心から途中で動けなくなってしまう事だ。
そうなると、狭い足場では励ますために近づくことも難しい。
最悪レイ一人くらいなら、そのまま吊り上げるつもりで、ロープで輪を2つ作って、それに片方ずつ足を通させて、腰と股で体重を支えるよう、括り付けておいた。
「怖くない怖くない・・・、下を見ない・・・。」
念仏のように唱える源五郎の呟きが聞こえてくる。
彼も、高いところは苦手なのだ。
『バリバリバリッ・・・ダーンッ』
「うおっ、あぶないっ。」
衝撃音と共に、下から源五郎の叫び声が・・・。
辛くも避けたようだが、雷撃を食らった様子だ。
見ると、悪魔の尾ハートが攻撃を仕掛けてきたようだ。
下の2名は、ビビりながら梯子を登っていると言うのに、容赦ないね。
近場の魔物はほぼ退治したはずだが、俺達の姿を遠くから見つけて、やって来たのだろう。
俺は、梯子に右肘を掛け、右足も膝までからませて体を固定し、源五郎やレイが攻撃をよけようとして梯子から落ちてもいいように、身構えた。
「強雷撃!」
レイが、半分目をつぶりながら、それでも魔法攻撃を仕掛けるが、素早く避けられてしまう。
「とうっ!」
ツバサも大きく塔の壁を蹴ると、そのまま跳躍して、別の悪魔の尾ハートを攻撃。
そのまま、俺が支えるロープを利用して、ブランコのように加速をつけて円軌道を描きながら移動して、源五郎を攻撃している悪魔の尾を蹴り落とす。
ツバサはその反動を利用して、再び俺の頭上に戻ってきた。
彼女の場合は、足場がどうとかいう制限はないのだろうか。
その後も感電バトの襲撃を受けたが、それまでで、ある程度の高さまで上がると、魔物たちも襲っては来なくなった。
気温も下がってきたようで、吐く息が白くなり、手先も冷たく感じてきた。
恐らく下界は遥か下で、人なども小さな点でしかないのだろう。
いくら高いところは得意と特技欄に書いておいたとはいえ、とっくに精神的な限界は越えている。
俺はともかく、レイや源五郎はかなりつらいことだろう。
何とか登って行くと、周りが白い靄のようなものに包まれ、それをくぐり抜けると一気に視界が開けた。
そこは、真っ白い綿を敷き詰めたような空間だった。
「よっと!」
ツバサが、跳躍してその綿の上に着地する。
人が乗っても落ちないようだ、雲の絨毯と言ったところか・・・言葉の使い方を間違っているだろうか?
「つっ・・・着いたぞ、あと少しだ頑張れ。」
俺は下の二人に、声を掛ける。
「ほ・・・ほんとですか?」
一気に源五郎の顔が明るくなる。
「ふえー・・・、ようやく着いたの?」
レイが何とか登り切って、全員集合だ。
「少しこの場で休憩がてら、腹ごしらえだ。」
そう言って、久しぶりに道具屋の弁当を袋から出す。
このところ、テレビスタッフが準備してくれる弁当ばかり食べていたから、何か懐かしい。
緊急時以外では、冒険者用の弁当から遠ざかっている。
自分で食べるよりも、他の人にあげる場面の方が多いくらいだ。
理由は簡単だ、値段の事もあるが、それは日々のクエストをこなすことで、充分に足りうる。
しかし、次元を移ってきたことによって、宝箱が1回限定となったように、道具屋の弁当もなくなる日が来るのではないかという、懸念を抱いているからだ。
この世界では、雑魚魔物の数だって有限なのだ、弁当だって有限ではないのか?
何より、報奨金としてもらうゴールドは、どうやって生み出しているのだ?
今ではゴールドだって、冒険者たちの中だけで、回っているわけではないのだ。
街中の普通の店での買い物にだって使っているのだ。
そんなこんなを考えていたら、ゴールドもおちおち使っていられないし、貴重な弁当はなるべく消費は避けようと言う事になってしまった。
貧乏性なのかね・・・。
幸いにも回復の指輪を手に入れたので、魔力の回復が必要なレイだって、普通の弁当で十分回復可能となった。
そんなわけで、本当に久しぶりの弁当だ。
「どうだい、映像は届いているかい?」
一服した後、インカムのマイクに向かって呼びかける。
「はい、受信状態良好です。
空から魔物たちが落ちて来た時はビックリしましたが、穴を掘って埋めておきました。」
ツバサが蹴り落とした魔物たちの事だろう。
あんなのが降ってきたら、そりゃ驚くわな。
電波は届くようすなので、周囲の探索に向かう事にする。
いつものように、方角を決めてまっすぐ歩いて行く。
雲には何も書けないので、塔に印をつけておいた。
最初の方角へ歩いて行くと、すぐに雲の切れ間に辿りついてしまった。
一旦戻って別方向へ進んで行く。
しばらく歩くと、雲の上の集落へたどり着いた。
これが天竜の里という事だろう。
こんなところに、一般人が住む集落などあるはずもない。
中へ入って行き、最初の家のドアをノックする。
「こんにちは、旅の者です。
こちらは天竜の里ではありませんか?」
玄関先で大声で声を掛けて見る。
『ガチャリ』扉を開けて出てきたのは、真っ白い羽毛の羽を背中に持つ、天使・・・?
「ようこそ、天竜の里へ。
君たちは冒険者の方たちだね。
よくぞここまでたどり着いた、大変だったろう。
さあどうぞ、お入りなさい。」
大きな羽の生えた天空人が、家の中へと招き入れてくれた。
家の中は結構広く、数人の天空人が居間のソファに腰かけていた。
「天空城のお堀は、今年も多くの蓮の葉に覆われてしまった。
あれでは堀の役に立たず、簡単に堀を越えて城へ侵入されてしまいかねない。
すぐにでも、蓮の葉を撤去すべきだ。」
「いや、蓮の葉を撤去するのは、そんなに簡単な事ではないぞ。
なにせ、葉を摘んでもすぐに株が分裂して、増殖してしまうのだからな。
分裂するよりも早く、蓮の葉を摘み取って行かなければならないのだが、それにはそれぞれの連の中心となる株を押さえなければならない。
中央の株を引き抜けば、そこから芋づる式に関連する蓮を手繰り寄せることができるのだが、その株を見つけ出すのは容易ではないぞ。」
何か知らんが、議論を交わしている様子だ。
俺たちが入って行っても、平気で大声で会話を続けている・・・と言うより、俺達に聞こえるようにしている?
「それは承知している。
だが、その株を見つける方法を見出したのだ。」
「方法?」
「ああ、天空城の堀には、自立式のホバーが設置してあるが、うまく蓮の連の端に合わせて動かせば、ホバーの1ストロークが蓮の連に匹敵するので、今度は半分の距離だけ戻って、その位置の株をつまみあげれば、その連の株を一網打尽という訳だ。」
一人の天空人が自慢げに胸を張る。
「しかし、その方法が分ったところで、蓮の葉を採取した途端にあの獰猛な奴らが、襲い掛かってくるのだろう?
トビッコ・・・、世にも恐ろしい肉食生物。
蓮の葉は、ある意味トビッコが水から跳ねあがらないように、蓋をしているようなものだからな。」
もう一人の天空人が、恐ろしい事を思い出したかのように、小刻みに震えながら話す。
「だからいけないんだ、あれでは堀が天空城を守っていることにならない。
早いところ蓮の葉を除去しなければ。」
「いや、だから、そう簡単には行かない・・・。」
延々と議論が続いている様子だ。
しかも棒読みのセリフではなく、会話もスムーズだ。
どうやら、天空城の堀を埋め尽くしている、蓮を除去したいと言うのだな。
そうしなければ、堀が役に立たないと。
しかし、素早く摘んで行かなければ、蓮が増殖して行ってしまうのと、採取したらしたで、堀に棲むトビッコという魔物に襲われやすくなってしまうと・・・そう言う事なのだろう。
まあ、名前から推察するに、トビウオの卵のような感じだが、卵がそんなに恐ろしいのだろうか?
で?それを俺達にやって来てもらいたいと、暗にほのめかしている訳だろ?
「あのう・・・、その蓮の葉の採取、俺達がやって来ようか?」
クエスト頂きましたとばかりに、名乗りを上げる。
「ああ・・・、君たちには無理だよ。
羽根がないから、飛べないだろ?
天空城はこの雲と繋がっている訳ではないから、飛んで行かなければならない。
だから、無理だよ。」
あっさり断られてしまった。
ありゃりゃ・・・、そうでしたか。
「いや、天空城までだったら、一人が一人ずつ運んであげればいいんだよ。
そうすれば行けるんだし・・・、君たちはトビッコが恐ろしくはないのかい?
トビッコは、獰猛で集団で襲い掛かってくるから、厄介な相手だよ。」
別の天空人がフォローに入ってくれる。
「ああ、俺達は、魔物退治をしている冒険者なので、魔物を恐れることはないさ。
飛ぶことは出来ないが、目的地まで連れて行って頂けるのなら、後は自分たちだけで、十分対応できる。」
そう、これが天竜の里でのクエストというのであれば、この先へ進むためには必須という事になる。
是が非でも、参加させていただきたい。
トビウオの卵であれば、確かに集団だが、獰猛という事はないだろう。
「ふうむ・・・分った。
今日はもう遅いから、明日の朝出発にするとして、君たちはここに泊まって行きなさい。
俺は二三男という、この里の長だ。」
この日は二三男さん宅に厄介になることになった。




