第89話
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翌朝、朝食の時間になると、レイとツバサ達がやって来た。
「あら、源五郎君、早いわね。」
レイが、源五郎の顔を眺めながら、テーブルに着く。
そりゃそうだ、昨日はここに泊まった訳だし・・・。
そう言えば、彼女たちは大丈夫だったのだろうか・・・、もしや・・・。
「きっ・・・昨日はよく眠れた?」
「えっ?そりゃもう・・・、でも船の生活が長かったせいか、横になるとなんか揺れているような気がして・・・。
でもまあ、久しぶりに落ち着いて眠れたわよ、4時間ごとに起きる必要もない訳だし。
そっちは、そうでもなかったというの?」
「はっはい・・・、あたしも久しぶりの土の上で、ぐっすりと眠ることができました。」
レイもツバサも笑顔で答える。
「そりゃよかった。
俺達も、快適に眠れたさ・・・、なあ。」
「はっはい・・・。」
俺は源五郎の方へ視線を移し、源五郎も笑顔で返す。
トシミさんが言うとおり、この集落には男っ気はないのだろうし、何より、ツバサが一緒だったから、安心だ。
「ふーん・・・、なんか変なの・・・。
大方、この集落の人たちの色っぽい格好が目に焼き付いて、眠れなかったとでもいうんでしょ?
恥ずかしい・・・。」
レイが残念そうに首を振る。
図星です・・・、ちょっと意味合いは異なるけど・・・。
「おはようございます、朝食をお持ちいたしました。」
トシミさんが、食事を運んできてくれた。
納豆と卵焼きに、味付け海苔に温かいご飯とみそ汁という、それはもう、典型的な日本の朝食メニューだ。
やはり、ここは冒険者ゆかりの地という事で間違いはないだろう。
「あらあら・・、こんな豪華な朝食まで・・・、お手伝いも致しませんで、申し訳ありません。」
レイが、社交辞令的にお詫びの言葉を述べる。
「いえ・・・、お客様なのですから、その様なご心配は無用です。
ゆっくり、お召し上がりください。」
ナガレさんと2人で4人分の食事をテーブルに並べてから、彼女たちは奥へ引っ込もうとする。
「あの・・・、他のメンバーはどうしました?
3人のテレビスタッフなんですけど。」
彼らの姿が見えないことは分っていたのだが、いずれ来るだろうと考えていた。
しかし、食事の支度が4人分しかしていないことは意外だ。
彼らはもう既に食事を済ませたとでもいうのだろうか?
「お連れ様たちは、もう既にこの地をお発ちになっております。
恐らく、もうしばらくすれば大洞窟手前まで、到着する事でしょう。
危険はありませんので、ご安心ください。」
トシミさんはそう言って会釈する。
なんだって?・・・、3人は中継車に戻ったって?
急な呼び出しでもあったというのだろうか、そうだとしても、断りもせずに勝手に帰っていくなんて。
何か怪しい・・・。
俺は、トシミさんの態度が気になったので、少し睨みつけて見た。
「でっでも・・・、か」
「昨晩は、あなた様たちをお試しするような事をしてしまいまして、大変申し訳ありません。」
トシミさんに彼らの事を詳しく聞き出そうとしたところ、先に話しだされてしまった。
というか・・試す・・・???
「試すって、昨晩みんなと別れた後に、何かあったの?
あたしたちは、そのまま眠っちゃったけど?」
レイが、不思議そうな顔をして、俺の方に向き直る。
寝ちゃった後の事なんですけど・・・・ね。
「この村は、もうお分かりの通り、冒険者様の道を切り開くための役割を担っております。
その為、この村にお立ち寄りいただく方は、冒険者様たちだけの筈でございました。
最近になって、幾人かの方たちがこの地に訪れる様になったのですが、私たちがご案内する文言の意味を推し量ろうともせず、ただ単に怠惰な日々をこの地で過ごしておられるだけでした。
どうしてなのかお訊ねしたところ、冒険などと言った事とは無縁の、ただの村人とかおっしゃる方たちという事が分りました。
それからは、冒険者様とただの村人とおっしゃる方とを区別する為、失礼ではありますが、その信念をお試しさせていただくことになりました。
なぜなら、この集落の財産を守る者は、私たちのような女しかおりません。
冒険者様と間違えて、宝のありかを教えてしまい、宝を横取りされてしまっては、冒険者様たちの今後の冒険に差し支えることになりかねないからです。
あなた様たちは、信念を持って魔物たちと戦う、冒険者であることが分りましたが、他の3人の方たちは・・・、ですから、お帰り頂きました。
申し訳ございません。」
そう言って、トシミさんはもう一度頭を下げる。
そうですか、昨夜の事は、我々を試す試験のようなものでしたか・・・。
それに乗ってしまうと、そのまま帰されてしまう訳ね・・・、あぶなかったあ・・・。
そうして、2度とこの地に足を踏み入れることは出来ないと。
幻の村として、噂になるはずだ。
その日の事が忘れられなくて、もう一度訪ねたくなってしまうのだろうな。
俺だって、レイという存在が居なかったらどうなっていたか、いや、特別な存在がいたとしても、常に行動を共にしていなかったら、どうなっていたことか・・・。
多分、誘惑に乗ってしまったことだろう。
源五郎は、妙に生真面目だからなあ・・・。
しかし、俺達以外の冒険者だったとしたら、恐らく全員がアウトなんじゃないの?
レイやツバサのような女性ならともかく・・・、いや、女性としたって、イケメンに誘われれば・・・。
「なんなの・・・、何があったっていうの・・・?」
レイが、少し慌てたように、俺の顔を見つめる。
「いや、別に、何でもないんだよ・・・。」
まさか、昨晩の事を話せるはずもない。
俺はうつむき気味に首を振る。
「昨晩、私共が殿方の寝床に忍び込んだのです。
ですが、サグル様と源五郎様には、やさしく断られました。」
何と、トシミさんが自ら告白してしまった。
しかも、やさしくって・・・、ただただ、パニクって逃げ出しただけですけど・・・。
「へえ・・、そんなことがあったんだ・・・。」
レイが、何か嬉しそうにニヤニヤと俺の顔を見つめる。
「そっそれで・・・、この集落が冒険者たちのための施設であることはよくわかりました。
という事は、青竜の里という事で、間違いはありませんね?」
俺は、何とか話を本筋に戻そうとした。
昨晩の事は、もういいではないか・・・。
「はい、ここは青竜の里です。
それでは改めまして・・・。
困った困った・・・、もうすぐ雨季が始まり、青竜の儀式が行われると言うのに、祭壇に供えるべき雨つゆ草が手に入らないではないか。
これでは祭りも行えぬ・・・。」
トシミさんが突然、セリフを棒読みにするような言葉を発し始める。
「仕方がありませぬ、姉上。
極楽鳥が清廉の谷に住み着いてしまい、こともあろうに、雨つゆ草の自生区を自分の巣としてしまいました。
普段はおとなしい極楽鳥も、卵を抱えた今は狂暴性を増しており、とても近づくことは出来ません。
雛鳥が孵化して巣立つまでは、雨つゆ草を手に入れることは難しいかと・・・。」
今度はナガレさんが棒読みのセリフを返す。
なるほど、2人は姉妹という設定なのか。
先ほどまでも丁寧な口調だったけど、更に時代がかってきたようだ。
「しかし、30年に一度の大切な儀式を、私の代で絶やすわけには・・・、何とかして、ここ数日のうちに雨つゆ草を手に入れる事は出来ないものか・・・。」
トシミさんは、厳しい表情のまま俯くが・・・、なぜか視線はこっち側に向けられているようだ。
「こま・・・」
「そういう事でしたら、我々が協力できるかも知れません。
極楽鳥ですか?その鳥の巣がある場所に生えている、雨つゆ草という草を採取してくればいい訳ですね?」
こちらの反応を待ちきれないのか、トシミさんが再度セリフを言い直そうとした時に、気が付いて言葉を返す。
段々と、こういったシチュエーションにも慣れてきたようだ。
「そっそうですか・・・?でも・・・、相手はあの極楽鳥ですよ。
怒らせると、獅子ですらも尻尾を巻いて逃げて行くと言う・・・、とても普通の方では、敵う相手ではありません。」
トシミさんは残念そうに首を振る。
セリフは抑揚のない棒読みだが、表情や仕草は、結構自然体だ。
「大丈夫ですよ、我々は魔物を退治する冒険をしている者です。
その、極楽鳥とかいう鳥も、狂暴で危険というのであれば、退治してきましょう。
そうして、雨つゆ草を手にいれてきますよ。」
俺は笑顔で答える。
「そうですか、それはありがたいです。
ですが、極楽鳥は出来れば殺さないでやってください。
今は卵を温めているので狂暴となっていますが、普段は人懐っこい、やさしい鳥なのです。
ですが・・・、どうやっても仕方がない時には・・・、あなたたちの命の方が大事ですから、その時は・・・、強烈な炎で一気に燃え尽きさせてやってください。
その方が・・・苦しまないで済みますから。」
トシミさんは、ためらいながらも、少しずつ言葉を発する。
「分りました。極力、極楽鳥は傷つけずに、雨つゆ草を採取できる様努力してみましょう。」
俺は、なるべく安請け合いをしたくはなかったが、彼女たちの意思も尊重したいとは考えていた。
魔物を殺さずに、クエストアイテムを採取できるかどうか、自信がある訳ではないが、殺すなという設定にも興味があるので、その筋書きに乗ってみようと思っている。
「ありがとうございます。
清廉の谷は集落を西に向かった山間にございます。
昼なお暗き渓谷で、魔物たちも多く潜んでおります。
どうか御気を付けて。
雨つゆ草というのは、4つの丸い葉をもつ植物で、常に葉の表面にいくつもの水滴をたたえております。」
トシミさんが寄って来て、俺の手を両手で包み込みながら、嬉しそうに笑顔を見せる。
近い近いって・・・・、昨晩のあの姿を思い出してしまい、思わずどぎまぎしてしまう。
なにせ、あんなに形のいい乳房が間近に・・・、今考えると惜しい事をしたような・・・、いやいや、そんな場面をレイにみられようものなら、どんなことになったか・・・。
「はっはい・・・、がっがんばります・・・。」
俺は、かちんこちんになりながら、何とか答えると立ち上がる。
少し前屈み気味に歩く姿を、変に思われてはいないだろうか・・・。
集落の人たちに、一晩のお礼を述べると、西の方向を教えてもらい、出発だ。
なぜか霧は晴れていて、見通しはバッチリだ。
人数が減ったので、リアカーを引いて進むのは大変になったが、まあ何とかなるだろう。
「もしもし、聞こえるかい?
スタッフ3人は今朝になって帰されたって聞いたけど、もう戻っているかい?
まだだとしても心配はないはずだ、いずれそちらに戻るだろう。」
俺は、インカムのマイクを通じて、テレビスタッフに連絡してみる。
「3名のスタッフは、けさ早くにこちらに戻ってきました。
昨晩よほどいい事があった様子で、すぐにまた引き返そうとしましたが、小一時間もすると行き着けずに戻ってきました。
あきらめきれずに、中継車の中でうじうじとしていますが、どこにもけがはなく、元気ではあります。
そちらは大丈夫でしたか?」
テレビスタッフの返事にほっとする。
彼らは無事に帰ったか・・・、それにしても相当いい思いを・・・。
「こちらは、これから青竜の里で依頼されたクエストに向かうところだ。
いきさつの部分を撮り忘れてしまってすまない。
大筋としてはこうだ・・・。」
俺は雨つゆ草採取のクエストを、引き受けたいきさつを簡単に説明する。
なにせ昨晩の事があったものだから、今朝の会話もそのまま放送に使う訳にはいかないだろうと考え、カメラもマイクも止めておいたのだ。




