第86話
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「大ダコが出現しました。
船尾で協奏曲の皆さんが、対応しています。」
舳先のリゾートチェアーに寝ころびながら、のんびりと過ごしている俺達の元へ、船員が魔物の襲撃を告げてきた。
「おおそうか・・・、久しぶりの獲物だね。
邪魔しちゃ悪いから、彼らに任せるよ。」
俺はそう言いながら、再び目を閉じる。
生真面目な源五郎ですら、動こうともしない。
ファブの港を後にして、船は順調に西へ向けて進んでいる。
外洋とは違い魔物のレベルも低く、更にこの海域は何回も周回しているので、魔物の出現率も激減している。
以前は、1日8時間船上に出現する魔物たちを相手にしていればクエスト達成だったが、今では20匹の魔物を退治して初めて、1クエストとカウントされるようになった。
時間制から数量制に切り替わってしまったのだ。
クエストレベルは、Sをキープしてくれているのだが、今ではクエストをこなすのに3、4日かかってしまうようになった。
その為、レベルを上げる必要性のある、他のチームに海上の魔物退治は任せて、俺達のチームは待機しているという事になったのである。
2チームずつのチーム編成に分けて、俺達のチームと、チーム協奏曲が夜間の時間を担当し、他の2チームがブルーマンと一緒に、昼間の時間帯を担当することに区分けをしたのだが、今ではブルーマンも時間を持て余して、大半の時間を海上のパトロールに費やしているという事だ。
この間やり残した、北極近辺の魔物たちを一掃すると言っていたが、すでに激減していて、1日飛び回っても数匹の魔物に遭遇できれば、いい方らしい。
「よっしゃあーっ、ヒット。」
源五郎が、竿をしならせながら、勢いよくリールを巻き上げる。
「やりましたよ、結構形のいい鰹に似ている魚です。
魔物たちが多い時はあきらめていましたが、魔物が激減して、魚たちも戻って来たのでしょう。」
源五郎が、ピチャピチャと勢いよく動く大きな魚の尻尾を掴みながら、自慢げに見せびらかしてくる。
釣りが趣味だったらしく、釣竿やらリールなど調達してきて、最近は釣り三昧だ。
釣り人という職業もあったようで、この船の武器屋で道具は揃うと言う事のようだ。
趣味は釣りで、大物を釣り上げることが多いと、特技欄に記入しておいたのが良かったと、ご満悦の様子だ。
何にしても、久しぶりに魔物以外の食材が手に入ったのはうれしい限りだ。
この船の料理長も喜ぶことだろう。
海はきれいだし気候も最適で、絶好のクルージング日和だ。
このまま快適な生活が続けばいいと願うのは、俺だけではないのだろうが、早々のんびりとはしていられない。
船は北向きに進路を変え、やがて熱帯の気候に変わって行く。
「港が見えたぞーっ!」
見張り台の上から、船員が叫ぶ。
海図に印がされていた、小西部大陸の東岸、北部大陸西岸のヨースルの町の、ほぼ真西に位置する地点のようだ。
『ガッシャーン』船はゆっくりと接岸し、やがて着岸した。
「ヨーリキーの町へようこそ。」
上陸すると、すぐにこの港町の組合長さんという若者が、迎えに来てくれた。
どうやら小西部大陸の町は、港の組合長さんがメインで切り盛りしているのだろう。
精悍な顔つきの、がっしりとした体つきの男性だ。
やはり、この地でも自警団など組織しているのだろうか。
「我々の冒険の魔物たちが流出してしまい、ご迷惑をおかけしております。」
俺はそう言いながら頭を下げる。
俺達が全ての元凶とは言えないまでも、原因の一端を担っているのは確実だ。
俺達がこの星でゲームをしてさえいなければ、このような事態にはなっていなかったはずなのだ。
「魔物?ああ、漁に行くと出てくる変な形の生き物の事だね。
最初のうちはビックリもしたけど、今では慣れたよ。
それに君たちが、あらかた退治してくれたんだろ?
先週末から、魔物たちの姿を見かけることは、ほとんど無くなった。
おかげで、今週から漁が解禁となったよ。」
組合長さんは、嬉しそうな笑顔で教えてくれた。
確かに、内海では魔物が船上に襲い掛かってくるようなことは少なくなり、今ではクエスト達成の為に、魔物の取り合いになりかねないような事態になりつつあった。
ただ無駄に、洋上をさまよっていた訳ではなかったことが、証明されたようでうれしい。
「でも、ここ小西部大陸では、大西部大陸を経由して、南部大陸から魔物たちが押し寄せて来ていると伺っています。
この町も高い塀に囲まれていますが、街の外へ出ることは禁止なのでしょ?」
俺は、城壁都市とも言える、小西部大陸の都市の構造に対して、不安を抱いていた。
町の外へ出ることを禁じられては、魔物退治どころか、冒険を続ける事すら難しいのである。
「いや、この町も城壁に囲まれてはいるが、これはこの地の街づくりのルールであって、外へ出ることを禁止している訳ではないよ。
自由に町の外へ出て行ってくれても構わない。」
組合長さんの答えは、意外なものだった。
「でも、一度出ると、今度は戻ってこられないんですよね。
そうなると冒険の継続が・・・。」
俺は、ジーリキーで聞いた話を、もう一度確認する。
「そんなことはないよ、この町では出入り自由だ。
大西部大陸からの魔物に悩まされているのは、この大陸の西岸の都市だろ?
小西部大陸は縦に長く、中央に高い山脈を抱えているから、その魔物たちは、こちら側にやってくることはないようだ。
弱い魔物たちは当初いた様子だが、ブラウンマンがやってきて、一掃してくれたよ。
それからは平和なものさ。
ああでも・・・、冒険者たちに悪いから、洞窟や山などに巣食う魔物たちは残しておくと言っていたよ。」
そうですか、ここは自然の要害に守られているという訳だね。
しかも、ダンジョンの魔物たちは残したままにしておいてくれたと・・・、ありがたい事だ。
「そうですか、それはよかった、安心しました。
それはそうと、青竜の里という場所をご存知ですか?」
俺は次なる目的地の情報を、聞き出す事にした。
海竜の里、地竜の里とくれば、次なる目的地は青竜の里のはずだ。
「青竜の里?・・・うーん、聞いたことがないね。
でも、半年ほど前に、北の地に突然村が出現したと言う噂を聞いたことがある。
北の地とも中央山脈で分断されてはいるんだが、ここから北に向かった山裾に大きな洞窟があって、そこを通って行けば、山の向こう側である北の地に出られるのだ。
なんでも幻の村と言われていて・・・、北の地は竹林ばかりで、かつてはタケノコ採りに出かけたものだけど、誰も住んでいないはずの竹林なのだが、深い霧に包まれている場所があって、タケノコ採りに行った村人たちが迷い込んで出られなくなりさまよっていると、ふと村の明かりに出くわすそうだ。
そこで一晩お世話になって帰るのだが、昼過ぎ辺りになって洞窟近くで気が付くようで、どうやってそこまで戻って来たのか覚えていない。
もう一度その村に行きたくなって、何度も足を向けるのだが、2度とその村にはたどり着けないようで、仕事も手につかずに何度も北の地に向かう村人たちが続出したが、誰も2度目に辿りついたものはいないようだ。
その村が出現してからは、魔物たちが多くなったので、段々と北の地に向かうことも出来なくなってしまった。
ブラウンマンに退治をお願いしたのだが、その他の地域の魔物の相手が忙しいので、生活区以外の魔物までは、相手をしていられないと断られた経緯がある。
だから、その洞窟含めて、狂暴な魔物たちが巣食っているはずだから、もし行くのだったら十分に気を付けたほうがいい。」
おお・・・、なかなか有益な情報をくれたようだ。
しかし・・・、幻の村?一度入ったら抜け出せない・・・じゃなくて、もう一度行きたくても行きつけない。
一体どんな村だ?霧と共に、現れたり消えたりするとでもいうのだろうか?
まあいいや、行ってみれば分るだろう。
組合長さんにお礼を言って、港を後にする。
行き先は、いつも通りなじみの建物、ギルドだ。
「よう、遅かったじゃないか・・・、この地のクエストはあらかた俺たちが頂いたぜ。」
ギルドには既に戦闘集団や協奏曲に加え、アロハレベルの面々がクエスト票を手に、受付をしている最中だった。
「チーム戦闘集団様。
ヨーリキー郊外の寄木戸池に巣食うゼブラぬっしーの退治、及び悪魔の尾クローバーの尻尾の採取ですね。
クエストレベルは全てRです。
リーダーの変更はございませんか・・・。」
受付嬢が、クエスト内容を読み上げて行く。
ここの受付嬢も、やはり飛び切りの美女だ。
この地には、ダンジョンも残っていそうだし、彼らがここに残りたいと言い出すかもしれないなと、考えながら部屋中央の柱に向かう。
言っていた割には、クエスト票は結構な数が掲示されているようだ。
・・・なるほど、レベルはどれもOとかNばかりだ。
彼らのレベルで引き受けられるクエストは、全て引き受けたという事だろう。
全てのダンジョンの魔物退治が最終目的ではあるのだが、冒険に加わってくれている他の冒険者たちの事も考えて、ここは、次の目的地へ向かうための最低限のクエストだけにしておくことにして、ヨーリキー西方の洞窟に関するクエストはそのまま残し、北の洞窟の案件だけをピックアップした。
「チームシメンズ様。
北の大洞窟内に巣食う、灰色ナマズのヒゲの採取及び、イタチモグラの尻尾の採取及び、悪魔の尾ハートの尻尾の採取及び・・・。
クエストレベルは全てNです。
リーダーの変更はございませんか・・・。」
ギルドの受付嬢が、クエスト票を読み上げて行く。
正規にクエストを引き受けるのも久しぶりな気がする。
まあ、船上を襲ってくる魔物たちを相手にするのも、途中からはクエストにしてくれていた訳だが、海竜の里にしても地竜の里にしても、事前にクエストが発生しておらず、清算は出来たがクエスト内容も分からずに対応しなければならなかった。
今回も青竜の里に関するクエストというのはないのだが、それでも北の地に関するもの含め、4件のクエストを引き受けることにした。
『おりゃあっ!』
ギルドを出て中継車に乗り込んで少し経つと、中継車の中は結構にぎやかになった。
ヨーリキー近郊のクエストに出向いた奴らの奮闘ぶりが、中継車の中のモニターに映し出されたからだ。
彼らの分の冒険も、今後は放送されることになったらしい。
これからは、何元中継か分らないくらいの多元放送となりそうな雰囲気だ。
町を出て1時間くらいで、北の山裾に到着、大きな洞窟が見えてくる。
平原の魔物たちはブラウンマンが一掃したと言うとおり、途中、魔物に遭遇することは一切なかった。
「このまま、入って行けそうだね。
でも洞窟の中へ入ってしまうと、他の奴らの冒険の電波が受信できなくなってしまうね。
どうしようか・・・、中継箱をいくつも持って、我々だけで向かおうか?」
他のチームすべてを含めた冒険の放送の都合もあるので、スタッフに方針を聞いてみた。
「いえ、他のチームの冒険内容は、この中継車でも受信可能な限りは受信しますが、あくまでもサブです。
メインは衛星中継を通して、本社で受信していますので、我々はシメンズさんの冒険に同行いたします。」
そうか、よく考えてみれば、ターリキーに残ったチームの冒険内容だって、編集は本社で行っている様子だものね。
ここにいるメンバーは、あくまでも我々のチーム専属のスタッフという事のようだ。
そう考えて、少し特別扱いされている状況が、こそばゆく感じられた。
大洞窟という名の通り、中継車が中ですれ違えるくらいの大きさはありそうだ。
そのまま中継車で洞窟の中に入って行く。
「じゃあ、源五郎たちは後方の警戒に当たってくれ。」
魔物たちに襲われることを想定し、俺達は中継車を下りて、俺とレイが前方を守り、源五郎とツバサが後方を守りながら進んで行く。
中継車に重機関銃とかレーザー光線銃とかを装備してくれれば、そのまま乗り込んで、銃の操作だけしていれば・・・、なんてことも思いつく。
次からは装甲車みたいなのを用意してもらおうか・・・。
すぐに火吹きこぶヤモリが襲い掛かってくる・・・と思ったら、
『バリバリバリッ、ドーン!』閃光と共に、稲光が頭上から襲い掛かって来た。
とっさに身をかわしたが、あやうく直撃を食らうところだった。
火吹きではなく雷こぶヤモリのようだ。
色は白地に黄色がジグザグ模様に入っている。
威力は、それほど大きくはなさそうだが、それでも直撃を食らえば、気を失ってしまうくらいは想定される。




