第83話
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「恐らく、歴史が書き換わって、南部大陸は百年前から魔物たちに支配された土地という事になってしまったのだろう。
ホワイトマンは百年前だから存在しなかったのか、あるいは倒されてしまったのか・・・、どちらにしても、その存在が消えてしまったことになる。
これは厄介だぞ・・・、魔神を探し出して倒すことは必須だけれども、時間を戻してホワイトマンの存在が消えた原因を修正しなければならない。
そうしなければ、彼の復活はありえないことになる。」
俺は、残酷な事を彼らに告げなければならない事態に、意識が混乱していた。
「そ・・・そんなこと・・・、一体どうやって?」
イエローマンが目を剥く。
いかに、世界最強の超人とはいえ、出来ることと出来ないことがあるのだ。
「分らない・・・、この辺りに魔王や魔神の住処のようなところはありますか?」
俺は、再び老人に尋ねてみた。
「ああ・・・、この地の遥か南に高い山に囲まれた盆地があり、その中央に大きな城が建っている。
そこは魔王の住処という事だが、いずれ勇者様がやってきて、魔王を葬って下さると言う言い伝えがある。
わしらはその言葉を生きる支えにして、何とか生き延びておるだけだ。」
老人は、さびしそうにうつむき加減で答えてくれた。
「行ってみましょう、魔王を倒せば、魔神も出てくるかもしれません。」
『ああ、そうだね。』
源五郎の一言に、超人たちも俄然色めき立つ。
「言っても無駄だぞ・・・、魔王城の周りには何にもありはせんし、入口さえも見つからないと聞く。
遥かな力を持った勇者が訪れる時、魔王城は真の姿を現し、その道を開くだろう・・・、という言い伝えがある通り、強大な力を持った勇者様が現れなければ、近づくことさえ出来ん。
見たところ、おまえさんたちは、まだまだケツの青いヒヨコのようだ。
お前さんたちが行ったところで、何の反応もありはせんわ。」
老人はそう言いながら、俺達を値踏みするかのように見回す。
「まあでも、行ってみますよ。
今は世界最強が何人もいますからね。」
源五郎が、やさしく老人に相対する。
まあ、行ってみるしかないだろう。
空からなら、魔神の居たドームのように、入る隙間があるかもしれないのだし。
超人たちに連れられて、上空へ舞い上がって南下すると、すぐに山脈に囲まれた盆地が見えてきた。
『シュタッ』降りて見ると、盆地の中央は平坦だが、荒れ果てて草木の一本も生えてはいない状態だ。
そうして、目の前には遥か見上げる程の巨城が・・・、いや、目の前ではない、そこへ行き着くには百メートル幅程の堀があり、どこにも橋はかかっていなかった。
それでもこの距離からほぼ真上に見上げる位、巨大な城なのだ。
恐らく、各地のダンジョンを全てクリアしてこの地に来ると、この大きな堀に橋が架かるか、もしくは別の場所から直接城の中に突入する道が開けるのだろうと想定される。
「うーん、城の周りを探ってみたけど、開いている入口らしき箇所は見当たらないね。
門扉などかなり力を込めても破れそうもないから、このままでは入ることは不可能だね。」
城の周りを確認していたパープルマンが降りてきて、残念そうに話す。
魔王城の近辺に降り立っているにもかかわらず、魔物たちが襲い掛かってくるわけでもなく、辺りに動く影すら見えない、不気味なくらいな静寂さが、逆に恐ろしくなってくる。
「向こう側に、何かわからないけど、白い建物が見えるぞ。」
レッドマンが何かを見つけた様で、興奮した様子で舞い降りてきた。
しかし、俺にはその建物について、ある程度予想はついていた。
「うん?入口には内側から鍵がかかっているようだね、入れないよ。」
超人たちと一緒に、巨大な城を飛び越えてやって来た先にあったのは、白いコンクリート製の四角い建物だった。
「賢者のトンネルじゃない。
ここにもあったのね・・・、というか、最終ダンジョンである、ここへ通じていたという事よね。」
レイが、納得したように頷く。
「そうだね、どこかで鍵を手に入れて、この地へ通じる扉からやってくるのだろう。
誰かがやってきて、一度内側から開けないと、この扉は開くことはない。
外から開けるための鍵穴もないようだね。」
そうなのだ、中央諸島の賢者のトンネルのように、鍵を使ってその建物の扉を開けて別の地へ向かう場合と、よそからやってきて内側から開ける場合と、それぞれの場合で扉の構造が異なるようだ。
この地の場合は、よそからやってきてここへ出てから、魔王城へ向かうのだろう。
賢者のトンネルの鍵がなくても、この地にたどりつくことは出来るようだが、そのカギを入手するためのクエストをこなさなければ、肝心の魔王城へ入ることは叶いそうもない様子だ。
「やはり、冒険者に与えられたクエストをクリアしてからでないと、魔王城には入ることも出来ないのだろう。
魔王城に入れないとなると、更にその後に出会うべき魔神に辿りつくことは難しいだろうね。
仕方がない、一旦戻ろう。」
魔神の元居た場所に、長いことテレビスタッフたちを置き去りにしておくわけにもいかない・・・と言うもっともらしい理由を述べてこの地を後にする。
来た時同様、全員で連れだって、魔神が居たドームへと戻って行った。
「駄目だったよ、魔神どころか魔王にも辿りつけなかった。」
俺は、帰りを待ちわびていたであろう、テレビスタッフに残念な報告を告げる。
しかし、俺自身は内心ではほっとしていた。
なぜなら、超人たちに連れ添われて魔王や魔神に出会ったとして、戦うのは超人たちであり、今のレベルの俺達では決してない。
俺たちがしゃしゃり出て行けば、恐らく瞬殺だろう。
対して、超人たちは世界最強なのだし、魔王はおろか魔神だって倒してしまうかもしれない。
そうして、グリーンマンはもとよりヤンキーパーティやテレビスタッフたちも無事解放されるかもしれない。
当たり前の話だが、それを望んでいなかった訳ではない。
しかし、これは俺達の冒険であり、俺達の力で片を付けるべき事柄であるべきだ。
せめて一緒に戦うのであれば兎も角、この星の平和を守る超人だからと言って、全くお任せでいいのか?否、いい訳がないと、段々と考え始めていたからだ。
現実の俺だったら、当たり前の話だが、トラブルに関しては、その問題に強い人たちにお任せして、字分は一歩も2歩も後方から事の流れを見守るだけであろうが、幸いにも今は違う。
対抗出来る力を持っている、いや、今はまだ持ってはいないが、いずれ頑張って努力して活動を続ければ、その様な解決力を得られる希望が見えているのだ。
努力を惜しまず頑張るから、そうして自分たちの力で解決したいと願う事は、間違ってはいないと信じたい。
だから、超人たちには申し訳ないが、もうしばらく猶予を与えられたことに俺は、内心感謝していた。
なにせ、琥珀に閉じ込められたヤンキーパーティたちの体は、確保できてはいるのだ。
「こちらでも様子は衛星を通じて見ていました。
しかし、南部大陸の突然の豹変ぶりには驚きましたね。
その瞬間は映像が乱れてしまって詳しく分析は出来ませんでしたが、ヨランダの町が寂れた集落に切り替わったのは確かなようです。
それと、ホワイトマンの存在が・・・。」
テレビスタッフも、残念そうにうつむく。
「今の所、出来ることはなさそうだね。
僕たちは、自分たちの持ち場に戻るから、必要な時には、また声を掛けてくれ。
ホワイトマンは・・・全てが解決すれば、戻ってくるのだろう?」
イエローマンが、いったん解散を告げてくる。
更に、難しい問いかけを・・・、魔神まで倒してしまえば、ホワイトマンが復活するのか、あるいは今後時間が経つにつれ、ホワイトマンの存在すら忘れ去ってしまうのか、どちらになるのか分からない。
何とか、ホワイトマンが復活できるようなエンディングを望むのだが・・・、今のところは彼らを取り戻すための、戦いに出向くための準備すら整ってはいないのだ。
悔しいけど、やむを得ないだろうが、あっさり引いてくれたことは意外であった。
「ふうん・・・、そうなると、ヤンキーパーティの面々はどうなるのですか?
それに、αテレビのスタッフやグリーンマンは・・・、まあ、グリーンマンは不死身のようだから大丈夫かもしれませんが、他の人たちは生身の人間ですよ。」
源五郎が、並べられた琥珀の塊を眺めながら、心配そうに確認してくる。
「分らんが無事であることを信じるしかない。
すまないが、彼らの体を、中央諸島のファブの港町にある、元ギルドの建物まで運んでくれないか?
恐らく、あそこが一番安全だろうし、もうギルドは無くなってしまって空き部屋だから丁度いい。」
俺は、我儘ついでにイエローマン達にお願いすることにした。
彼らの体を変なところに保管して置くわけにもいかないし、かといって船に積むことも難しいだろう。
船の揺れで倒れて割れてしまったり、あるいは船が沈みでもしたら大変だ。
「ああ、いいよ。
とりあえず、我々が協力できるのは、まだ先のようだから、担当地域へ戻るついでに運んであげるよ。」
イエローマン達は快諾してくれた。
「それともう一つ、これは非常に重要な事なんだが、イエローマン達超人も、冒険者登録をしてもらいたい。
そうすれば、一撃剣や一撃ナックルなど、特殊アイテムを使えるようになるはずだ。
世界最強の超人が放つ会心の一撃であれば、いかな魔神だってダメージを受けるはずと思う。」
グリーンマンと魔神との戦いのような結果は、何があっても避けなければならない。
5人いるから、大丈夫とは言えないのだ、なにせ、相手は時を戻すことができて、これから受ける攻撃を知っていて、それに対抗できるのだ。
一撃で倒してしまうのが一番だ。
「それは無理だよ、前にも言ったかもしれないけど、僕はこの星の住民の安全を守るために世界最強となることを願ったんだ。
だから、この星の住民のため意外に力を使おうとすると、世界最強ではなくなってしまうかも知れない。
だから、ゲームの世界の冒険者にはなれないよ。」
レッドマンが、残念そうに首を振る。
「いや、でも・・・、魔神を倒すことは、この星の住民を守ることに繋がる訳だから・・・。」
俺は、何とか説得をしようと試みる。
世界最強で無くなるなんて、彼の思い込みにすぎないのかも知れないのだ。
「魔神がこの星の人たちの脅威であれば、超人として戦って倒せばいい訳だ。
何もゲームのキャラの冒険者になる必要性はない。
だから、無理だよ・・。」
今度は、イエローマンも一緒になって首をふる。
そうか、そんなに全身タイツ姿が気に入っているか・・・。
仕方がない、頑なな超人たちを説得するのは無理なようだ。
俺達自身がレベルを上げて、会心の一撃で魔神を倒す事になりそうだ。
イエローマン達の力を借りて、ドームの外まで出してもらい、ここで彼らとは別れる。
ヤンキーパーティたちの体と、αテレビスタッフを連れて、中央諸島まで行ってもらい、彼らはそこで解散予定だ。
俺たちは、そのまま山を下り、山道が現れたところにある洞窟の中へ・・・、早速、地竜関連のクエストをこなすつもりだ。
すぐに数匹のダイヤ尻尾悪魔が襲い掛かってくる。
「おりゃぁ!」
『シュッパーン』俺の一振りで、悪魔の体が真っ二つに裂ける。
「たありゃぁ!」
『バッシュン!』ツバサの正拳突きで、悪魔の体が粉々に砕け散った。
あれ?・・・、俺とツバサは互いの顔を見合わせる。
「たあぁぁっ!」
『シュッパーン』またもや俺の一撃で、今度は2匹のダイヤ尻尾悪魔の体が、分断される。
一体どうして・・・、そうか、一撃剣だ、会心の一撃が出やすいから、あんな難敵も一撃な訳だ。
これは楽だ・・・、足取り軽く、自然と前に出るようになる。
続いて、7色お化けが襲い掛かってきた。
エクストラステージのお化けだが、漏れ出た奴が洞窟の中にも生息し始めたのだろう。
「おりゃあ!」
『シュッパーン』素早い動きの7色お化けに対して、一撃剣はその重さを利用して振りおろすことで、特段力を必要としない。
逆にいうと、かなり重いため振りかぶるのは遅くはなるが、構えてしまえばその剣先のスピードは、以前より増していると言えるのかも知れない。
7色お化けが姿を現す前から上段に振りかぶって油断なく身構えてさえいれば、姿を現してすぐに狙いを定めて素早く振りぬくことができ、7色お化けが姿を消す前に叩き斬ることができた。
「たありゃぁっ!」
『パッシュン』同様にツバサの一撃ナックルが炸裂する。
こんなに会心の一撃ばかり続けざまに出てもいいものだろうか・・・、余りにも気持ちがいいために、次々と魔物たちに斬りつけて行く。
「あのう・・・、二人だけで魔物たちを退治してしまっては、こっちの出番が無くなってしまいます。
チーム戦なのですから、こちらにも魔物を分けてください。
新しい武器を試しておかないと、いざという時に困りますから。」
ツバサと二人だけで魔物たちを退治しながら進んで行くと、さすがに源五郎たちからクレームが出てきた。
ああそうか・・・、そりゃそうだよね・・・、君達だってスペシャルアイテムを試したいよね・・・。
分りました、ちょっと残念だが、レイと源五郎を先頭にして、俺とツバサは一歩下がる。
『シュタッシュタッ』『ズザッズザッ』源五郎が矢を射かけると、遥か遠くでうごめく影がばたりと倒れる。
どうやら、魔物を一撃で仕留めた様子だ。
急所を的確に射ぬいたのだろう。
「魔法力増強?(ダブル)・・・爆裂雷撃!」
洞窟のはるか向こうで閃光がきらめいたかと思うと、少しの間をおいて爆撃のような雷鳴が洞窟中に響き渡る。
レイの唱える魔法効果は凄まじく、前方に居る魔物だけではなく、洞窟中の魔物たちが一瞬で消滅したかと思えるほどだ。
魔法効果を倍増させて、雷系の呪文を唱えた様子だ。
その後もはるか前方の魔物たちを一瞬で葬ってしまうため、魔物の影も見ることはなかった。
これには、カメラスタッフも慌てた様子で、急遽、俺達に出番が回って来た。
やはり、倒すべき相手が見える状態で戦わなければ、お茶の間に戦闘状況が伝わらないと言う事のようだ。
「たりゃっ!」
『シュッパッ』一撃剣一閃・・・、投石尾長猿達数匹を一瞬で葬り去る。
うーん、これはすごい・・・。
『パッシュッ』ツバサも負けじと、投石尾長猿を数匹まとめて宙に飛ばす。
段々と快感になって来た・・・。
ほぼ無敵状態で洞窟最深部に到達すると、そこには大きな池とその中を伺う、いくつもの金色の影が・・・、あれ?ここのボスって金色ゴリラだったけ・・・?
そいつが手にしているのは・・・、白地に赤や黒に黄色など鮮やかな色彩の丸い体型の魚が・・・。
錦ナマズ・・・そうだ、あいつがクエストアイテムだ。
そいつをどうして金色ゴリラが・・・、と思っていたら『ガブッ』奴は、錦ナマズにかぶりついた。




