第82話
12
「一寸不謹慎ではありますが、次の次元への入り口というのも、見当たりませんよね。」
源五郎が、周囲を見回しながら囁く。
確かにそうだ、洞窟の最深部にもそれらしい入口もなく、外へ出て見ても、どこへも行き場はなさそうだ。
「まあ、魔神を倒したわけではないからね。
そいつを倒すと、次のステージへの入口が、現れるっていう仕組みかも知れないな。」
「やっぱりそうですよね・・・。」
俺の言葉に、源五郎も残念そうに頷く。
どこかに書いてあったわけではないが、少なくとも、俺はそう信じたい。
「これからどうするんだい?
魔神が行った先を追ってみるかい?」
イエローマンが、琥珀の塊をひとまとめに集めながら、俺に尋ねてくる。
魔神を倒さない限り、グリーンマンはじめヤンキーパーティやテレビスタッフたちの復活はない。
「うーん、しかし、奴がどこへ行ったのか、現状では確たる証拠はないから、想像するしかない。
最早、ゲームのシナリオ通りとは言えない状態なのだから、奴がどこへ行っていても、不思議ではないのだが、中央諸島はじめ、船で各所回ってみたが、奴がいた形跡はどこにもなかった。
という事は、俺達がまだ言っていない場所に居ると言う事になる。
だから、当面俺たちは冒険を続けて行くしかなさそうだ。
なにせ、俺達は自由に空を飛べないからね。
冒険を続けて行くことにより、世界中を行き来できる手段を手に入れて行くだろうから、その流れに乗っていくしか方法はない。
遠回りのようだが、恐らくそれが一番早くて確実な方法だと思う。」
俺は、さっきからずっと考えていたことを話す。
シナリオが変わったと言うのに、そのシナリオに沿って進むと言っているのも変な話だが、少なくとも冒険が進んで行くにつれ、様々な移動方法が確立していくことは明白だ。
賢者のトンネルだって、まだ何ヶ所も扉が残されている。
魔神がどこへ行ったのかは知らないが、例えその場所が分ったとしても、そこに到達する手段がなければどうにもならない。
だから少なくとも、この世界中どこへでも行き来出来る術を、まずは入手する必要性があるのだ。
「分った・・・、じゃあ、僕たちも各自の持ち場に戻るよ。
そうして、それぞれの担当場所をくまなく捜索する。
特に、まだ冒険者たちが入っていない、小西部大陸や大西部大陸担当者は気を付けてくれ。
僕は、グリーンマンの代わりに、ここ東部大陸を見回ってみるよ。
魔神が見つかったら、一人で戦わずに、必ず皆に連絡する事を約束しよう。
グリーンマンの二の舞だけは、避けなければならないからね。」
『分った』『了解』
イエローマンの言葉に、各超人たちも同意する。
「でも、もう行ったことがある場所に行っていたとしても、おかしくはないはずですよね。
魔神は我々冒険者を恐れるってことは、まずないでしょうから。
だったら、まずは僕たちが行った場所を再度回ってみるのもいいんじゃないですか?」
源五郎は、まず足元から見まわしてみようと考えている様子だ。
「いや、恐らくその必要性はないと思っている。
ヤンキーパーティが、魔神に琥珀に閉じ込められたのは、いつの事だったか覚えているかい?」
俺が、αテレビ局のスタッフに質問をする。
「あっああ・・・、まだ何ヶ月も経っていないような気がするが・・・、メモを見る限り、あれは5年前の事だね。」
『5年前?』
スタッフの言葉に、源五郎もレイも絶句する。
「そうだろうな・・・。」
「どういうことですか?」
俺の言葉に、源五郎が詰め寄ってくる。
「つまり、歴史が書き換わってしまったという事さ。
魔神の戦い方を見ていてわかっただろ、あいつは時を操ることができるんだ。
時を戻せるってことは、時を戻して過去に移動できるっていう事だ。
あいつが時を戻して、過去の世界へ移動したために、こちらの歴史も所々書き換えなければならなくなったのだろう。
グリーンマンとの戦いのときにも、魔神は何度も時を戻していただろう? ああいう風に時間を戻して、ヤンキーパーティたちがお宝をゲットする前に、この場所の時が戻ったから、俺達の時にもアイテムが出現したのだと俺は考えている。
まあ、単にお宝をゲットした奴が戦闘不能になったから、アイテムが出現したとも受け取れない事もないがね。
しかし、海竜の里ではブルーマンが20年も前に捕えられたことになっていたりして、随分と歴史は書き換えられている事実がある。
それから考えると、魔神が行った先で一番怪しいのは、南部大陸だ。
なにせ50年も前から、魔物たちの住処という事に書き換わったのだからね。」
丁度、魔神が南部大陸に向かって飛んで行った航跡に沿って、時間軸がずれて行っているのではないかと考えている。
奴は時間軸を戻しながら飛んで行ったのだ。
だから、ここから直線で南部大陸と結んだ線上が、南部大陸に近づくにしたがって、だんだんと時間がずれて行っているのだろう。
そうして、ずれた時間軸のひずみが、段々と周りの大陸にも、押し寄せて来ているのではないか・・・と俺は考えている。
「だったら、南部大陸へ行ってみよう。
ホワイトマンに案内させればいいさ。」
一旦は通常業務に戻ることを納得した超人たちだったが、イエローマンが蒸し返す。
「うーん、行ってみたところで、そう簡単に見つかるかどうか・・・。」
俺は、あまり気乗りしていない。
とりあえず、すぐ見えている魔神の存在があったからこそ、超人たちに協力をお願いしたのだ。
ところが、その相手の魔神がどこかへ行ってしまい、魔神探しが必要となってしまった、
行った先は南部大陸だろうと目星はついていても、向こうが看板を出して待っていてくれるはずもない。
探すと言ったって、どうやって探すのだ?その当てはあるのか?
向こうは強い挑戦者を求めているのだよ、そう簡単に探し出せる場所に居るはずもない。
「これだけ超人が居れば、魔神相手でもなんとかなりますよ。
ヤンキーパーティの方たちを、早いところ助け出すためにも、行ってみましょう。」
俺の考えを知ってか知らずか、源五郎が南部大陸行きに賛成する。
「そうね、いやな奴らだったけど、このままじゃかわいそうすぎるわ。
助け出してあげないと。」
レイも賛成する。
ツバサも、大きく頷いた。
「分った・・・、じゃあ、申し訳ないが南部大陸まで、我々も連れて行ってくれ。」
仕方がない、行ってみて、駄目なら駄目であきらめもつくだろう。
イエローマンにお願いして、遥か南部大陸まで連れて行ってもらう事にする。
今度は超人1人に我々一人ずつ連れだって飛び立つ。
テレビスタッフは、相当な危険が予想されるので、今回は待機してもらう事にした。
その代わりに、電波が飛ばない場合に備えて、録画機能を持った受信機を手渡された。
『シュタッ』遥か遠方の南部大陸も、超人たちのスピードならひとっ飛びだ。
着いた先は、何もない荒れ果てた茶褐色の大地だった。
「よう、珍しいじゃないか、一同おそろいで。」
着いたとたん、すぐに空から真っ白なマントが舞い降りてきた。
この大陸担当のホワイトマンだろう。
「この地に魔神が逃げ込んだ可能性が高い。
最近になって、魔物たちが頻繁に出現するようになった地域はどこか分るかい?」
イエローマンがホワイトマンに、魔神の行き先のヒントになるような情報を聞き出そうとする。
「うーん・・・、魔物たちの出現に関しては、ごく最近からだったような気もするのだが・・・、この地のようにいつの間にか荒れ果てて、魔物たちが生息するようになった土地も多くある。
だから、どこがとは言えないが、この辺りは見渡す限り荒野で、人が住むような建物すらないよ。」
ホワイトマンが指し示す通り、辺りは地平線までも見渡せそうなくらい、何もない。
木々もほとんど生えていない、不毛の土地のようだ。
「きぃーっ!」
すぐに大きな三つ又の槍を持った、魔物の群れが襲い掛かって来た。
ダイヤ尻尾悪魔・・・かと思ったが、今度は尻尾の形がスベードだ。
「目から光線を出すから注意してね。」
ホワイトマンはそう言うと、群れの中心へと突進していく。
『ピカーッ』なるほど、目からレーザー光線のような光を放つようだ。
『バズッ、ズバッ』イエローマン達も舞い上がり、魔物たちを粉砕していく。
雑魚魔物とはいえ、何匹も一度に相手は出来ないようで、魔物たちを散らしては1匹ずつ片付けて行く。
『シュッシュッシュッ』源五郎が矢を射かけるが、スペード尻尾悪魔に、簡単にふり払われてしまう。
「爆裂雷撃!」
レイの魔法も当たる瞬間に掻き消えてしまい、不発に終わった。
どうやら、俺達の敵う相手ではなさそうだ。
『ズバッ、ドバッ、ザシュッ・・・シュタッ』超人たちが、スペード尻尾悪魔の群れを退治して戻ってきた。
「まずは、近くの町か村へ行って、情報を集めよう。
魔神に対する、情報も中にはあるかもしれない。」
「分った・・・、この近くにある町は、ヨランダと言って結構大きな街だよ。」
ホワイトマンを先頭に、超人たちに抱えてもらい南へ飛んでいく。
そこは、確かに空から見ても大きな街の様だった。
ホワイトマンに続いて、街へと降り立っていく。
『ゴゴゴゴゴッ』その時、地震とも地鳴りともつかない轟音と細かな振動が、上空に居る俺達の所にまで、ピリピリと伝わって来た。
「ええっ・・・、さっきまであったビルや舗装された道路や家々は、どこへ行ったのでしょうか?」
源五郎が驚くのも無理はない。
上空から見た時には、近代的な街並みだったのに、降りて見るとそこは赤茶けた閑散とした風景だった。
「あれ・・・、おかしいね。
ここは、南部大陸の主要と・・・」
そう言いながら、辺りを見回すホワイトマンの影が薄く・・・、ええっ、後ろが透けて見えるのは、何も白いタイツのせいという訳では・・・。
『ほっ・・、ホワイトマン!』みんなが叫ぶが、その様子に次の言葉が続かない。
やがて、ホワイトマンの姿はどこにも見えなくなってしまった。
「どういうことだい?」
俺は、首をかしげながらイエローマンに問いただす。
彼らには、姿を見えなくする能力でもあると言うのだろうか。
「わっ・・・分らないよ・・・、ホワイトマンはどこへ行ってしまったのか・・・。」
イエローマンも心当たりがない様子で、大きく首を振る。
「あっ、あの人に聞いてみたら、何かわかるかも。」
レイの指す先には、1人の老人の姿が・・・。
この星では珍しい、結構歳のいったお年寄りの姿が見える。
「あっあの・・・、ここはヨランダの町ではないのですか?
結構大きな南部大陸の主要都市と聞いたのですが。」
俺は、わらにもすがるつもりで、老人に尋ねてみた。
今この場で目に映る物、全てが信じられないことばかりだ。
「うん?そりゃ確かにこの集落はヨランダだ。
だかのう・・・、この南部大陸には長いこと都市なんて洒落たものはありゃせん。
魔物達から逃げ惑って潜む、小さな集落がいくつかあるだけだ。」
老人は、骨が透けて見えそうな位細い腕を、寒そうに擦りながら答える。
着ているものは服とは言えないくらいにボロボロに擦り切れて、元の布地の質感など全くないような代物だ。
「さっきまでこの地を守っているホワイトマンがいたのですが、彼は助けには来てくれないのですか?」
こんなひどい状態の集落があるなんて、さっきまで一言も彼は言っていなかった。
彼の目に届かない場所なのか、あるいは突然魔物たちに襲われて壊滅的打撃を受けたのか、どちらにしろ、予想外のことが起きていることは事実のようだ。
「ホワイトマン?なんじゃそれは・・・。
この大陸には、我々を守ってくれる存在など、おりはしない。
他所の大陸では竜王様という存在が、市民の安全を守ってくれていると聞いたことがあるが、さすがにこの大陸までは進出しては来られない様子だ。
我々も助けを求めようとも、その日を生き延びるだけで手いっぱいな状態だ。
そんな生活が、もう百年も続いておる。」
老人の言葉は衝撃的だった。
百年だって?ホワイトマンは50年と言っていたじゃないか。
しかも、彼の存在を知らないとは・・・。
「うーん、この老人の言っていることが、嘘とは考えられない。
現に、大きな街と言っていたヨランダが、こんな小さな集落に切り替わっているのだからね。
恐らく、ここへきて歴史が書き換わったのだろう。
魔神は過去の世界をどんどん遡って、歴史を書き換えて行っているとみていいだろう。
どうやってそれに対抗するのか・・・、君たちは時間を戻す能力とかはないのかい?」
俺は、念のために超人たちに聞いてみた、あくまでも念のために・・・。
「いや、僕たちにそんな能力はないよ。
それよりも、ホワイトマンはどうなったんだい?」
レッドマンが、首を大きく振りながら答える。




