第79話
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「あれ、ここに何か書いてありますね。」
源五郎の言うとおり、洞窟の脇に石碑が立っているようだ。
『竜道を極めし、竜の戦士たちよ。
その物語が終わる時、新たなる物語が始まるだろう。』
「どういう事ですかね・・・。」
源五郎が腕を組んで考え込む。
「もしかすると、この冒険のラスボスを倒した後に現れる、次の次元への入口かも知れないぞ。
そうでなくても、ラスボスを倒した後のボーナスステージみたいな、超強力な魔神がいるようなステージ。」
「そうね、その物語が終わる時だから、ラスボスを倒した後と考えるのが自然ね。
そうだとすると、ヤンキーパーティの奴らは、次のステージへ向かったって事?
うまくすると、元の世界へ帰れたって事なの?」
「そ・・・、そういう事かも知れない。
少なくとも、別次元である次の冒険へ向かった可能性が高いね。」
レイの言葉に、途端に色めきだす。
ツバサには悪いが、俺達の冒険の目的は、今のところはこの冒険の終結よりも元の世界へ帰る事なのだ。
勿論、一緒に連れてきてしまった魔物たちを、そのまま放って帰るようなことをするつもりはない。
責任を持って、最後の一匹まで倒してから戻って行くつもりではいる。
それでも、タンクのように、冒険でレベルを上げて行くつもりは全くなく、ただ帰れる時を持つだけのやつもいるのだ。
俺達だって、元の世界へ帰れる手段が明確になっている方が、魔物たちを一蹴することに対しても、励みになると言う訳だ。
「先へ行ってみよう。」
洞窟の先に続く道がある訳ではない。
草や木に覆われた、山肌が続いているだけだが、恐らくヤンキーパーティが向かったであろう、石碑の裏から続く斜面を、ひたすら登って行く事にする。
奴らがここを通ったのは、恐らく3ヶ月以上は前だろうから、当然のことながら足跡を辿れる様な痕跡は残されてはいない。
草も葉も、密集して生い茂っていて、行く手を阻んでいる。
「ほーっ、ほーっ・・・」
周りの木の上から、何かの鳴き声のようなものが聞こえてくる。
『ビュッ』『カーン!』俺の兜に、何かが飛んできて当たった。
「いてっ」
「きゃっ」
振り向くと、源五郎とレイが、額から血を流しているではないか。
ツバサが右手を開いて、その手に握っているものを指し示す。
「石・・・?」
それは、握りこぶし大のごつごつと角ばった、石だった。
飛んできたものを、ナイスキャッチしたのだろう。
どうやら、投石攻撃のようだ。
こんなものでも、当たり所が悪ければ大怪我か致命傷だ。
「盾で、頭を守れ。」
俺は、源五郎とレイに、身を低くして、盾を高く掲げ頭を守るよう指示をする。
『ビュッ』『カーン』『ビュッ』『カーン』
様々な方向から、石が飛んでくるようで、それぞれの盾に当たって弾かれていく。
幸いにも、クリスタルの盾は透明で、向こう側がはっきりと視認できるから、様子を伺いながらガードできるのがうれしい。
『ダッ』『ドーン!』動く影が見えた木に向かって、俺が体当たりをかます。
『シュタッ』『シュッシュッ』「っとぅー」
飛び出した影に向かって、源五郎が矢を射かけ、ツバサが跳躍する。
そいつは身も軽く、矢を巧みに躱しながら、枝から枝を渡って行く。
『タッッ、タッ』対するツバサも負けてはいない、木々の枝から枝へ、手や足を掛けてアクロバティックに、移動して行く。
「深追いするな!」
俺が叫ぶと、ツバサの動きが止まった。
『タッ』ツバサが、不満げな顔をしながら、木から降りてきた。
「どこかで、仲間たちが待ち伏せしている可能性がある。
一人だけで行っては危険だ。
離れずに、待ち受ける方が、危険は少ない。」
『ビュッ』『カーン』『ビュッ』『カン』その後も、投石を受けながら、何とか斜面を登って行く。
『ゴッホッホ』時折、赤マントヒヒが樹上から突然襲い掛かってくることもあり、油断は出来ない。
盾を頭上に掲げたままだと、その上に乗りかかられ、そのまま押し倒されてしまいかねない。
そうなると、相手の体も大きいので、反撃もままならなくなってしまう恐れがある。
更に、7色お化けまでが出現して、遅々として進んで行かないどころか、場所を移動しながら戦わねばならないので、段々と進んできた方角すらわからなくなってきた。
とりあえず、今回の目的はヤンキーパーティたちの足取りを追ってみることだから、魔物達との交戦を極力避けて、逃げられれば逃げるようにして、ただひたすら、山の斜面を登るよう、進んで行く事を心掛けた。
そんな必死の行軍も、終わりが見えてきた。
そこは山の頂上ではなく、さらに続く切り立った崖のように山肌が切り取られていて、遥か上方の山頂も見えないような場所だった。
あたりには、迂回できそうな斜面は存在しない。
直角に近いような崖は、これ以上進んで行く事は出来ないと、告げているようだ。
『カンカン』「これって・・・。」
岩肌を触っていた源五郎が、自分の弓で岩肌を叩いてみると、金属音が返ってくる。
「そうか、ここが次のステージへの入り口という訳か。
巧妙に岩肌のように見せているが、実は金属でできた壁のようだね。
ラスボスを倒せば、ここの扉が開くのだろう。」
「ウッキーッ」
突然どこから現れたのか、尾長猿のような魔物が、小石を手に襲い掛かって来た。
『ザシュッ』すぐに俺は、マグマの剣で一刀両断にする。
「サグルさん・・・、ここ・・・。」
魔物が現れた方向を見に行ったツバサが指す先には、岩壁のように見せる飾りが剥がれて、捻じ曲げられた鉄板がむき出しになっている。
そうして、そこから白い靄のようなものが、流れ出てきているようだ。
その靄は、空気より重いのか、地面に溜まっていき、塊のようになるとやがて、徐々に色がついて行く。
「ゴッホッ」
そいつは、一瞬で赤マントヒヒに姿を変え、ツバサに襲い掛かった。
「たぁりゃぁっ」
回し蹴り一閃、ツバサは赤マントヒヒを一蹴する。
「強力な魔物たちが増えたのは、こういった訳だったのか・・・。
誰かが、というか、恐らくこんなことができるのは、超人ぐらいだろうからグリーンマンだろう。
彼が、無理やりここを開けようとして、岩壁に見せかけた鋼鉄の扉を破壊しようと試みたのだ。
ところが、人が通るほどの穴は開けることができずに、あきらめたというか、別のルートを見つけに行ったのだろう。
その穴を伝って、中の瘴気が漏れ出てきて、そいつが魔物に変化するという訳だ。
レイ、この穴を塞ぐように凍らせられないか?」
俺は、レイの方に振り向いて尋ねる。
「やってやれないことはないと思うけど、凍らせたところで、融ければ同じよ。
永久に融けないようには出来ないわ。」
レイはそう言って首を振る。
「まあ、とりあえず、暫定で凍らせてみてくれ。
まずは、流れてくる瘴気を追い払うように、強風を吹きかけてやってくれ。」
俺は凍らせる前の処理も注文する。
ここまで来て、何もしないで帰るのも癪な気がしたからだ。
「分ったわ。爆裂真空波・・・これでいい?」
レイが強烈な真空波を発生させて瘴気を追い払う。
「ああ、じゃあ、頼む。」
俺の言葉に、レイが無言でうなずき、もう一度壁の穴に向かう。
「行くわよ、かっ・・・」
「おーい、待ってくれ・・・!
君たちは、冒険者の方たちだな?
もしかするとシメンズの面々か?」
レイが呪文を唱えようとしたところ、叫び声が・・・、しかも扉の向こう側から。
「だっ・・・誰だ?や・・・ヤンキーパーティのメンバーか?」
思いもかけないことに、多少戸惑いながら、声を掛けて見る。
奴らは既に、別次元へ旅立ったのではなかったのか?
「いや、私はαテレビのスタッフだ。
彼らの冒険の様子を放送していた。
実は、彼らはこのダンジョンに無理やり入り込み、魔神とも言える敵キャラクターに一瞬で倒されてしまった。
頼みのグリーンマンも善戦したのだが、あと一歩のところで魔神を倒すまでには至らず、最終的には倒されてしまった。
我がテレビスタッフも、全員同様に倒された。
私は、辛くも逃げることができ、この事実を伝えようと扉の近辺に潜んでいた。
すると、扉の外で魔物たちが騒ぐ声と、断末魔の叫び声がして、その後に靄のような煙が扉の向こうからの一陣の風で吹き飛ばされたではないか。
冒険者の方たちが来たのではないかと思い、駆けて来たんだ。
扉が開かないと言う事は、君達もまだ、ラスボスを倒すまでには至っていないと言う事だね。
悪いが、こ・・・これを持って行ってくれ、そうして、スタッフのご家族には、申し訳ない事をしたと・・・。」
『ゴソゴソッ・・・、ドン!』扉の小さな隙間から出てきたのは、真っ黒い箱の様だった。
「この中での様子が、映っているメモリーだ。
すまないが、これをなんとかαテレビの本社へ、届けてもらえないだろうか。」
扉の向こう側は見えないが、手を合わせているのが、気配で分る。
「ちょっと、待っていてくれ。
いま、この扉が開けられないかどうか、試してみるから。」
俺はそう言って、マグマの剣を小さく開いた穴に突っ込んでぐりぐりと、動かしてみた。
しかし、鋼鉄の扉が赤熱するのは、マグマの剣と接している部分だけで、熱が伝わって行くこともなければ、穴が広がることもなさそうだ。
あまり無理をすると、剣が折れてしまいそうだ。
「たありゃっ」『ドーンッ』
ツバサが、思い切り回し蹴りで、踵から蹴り込むが、大きな音はしても、扉はへこむ事すらなかった。
「無理だ、この扉は、グリーンマンですら開けられなかったのだからね。
私は、ここを出られないことは十分に承知している。
この冒険のルールを無視して、無理やりこのダンジョンに入り込んだ罰だとも認識している。
だから、私に構わずに、戻ってくれ。
だが、ここに来たヤンキーパーティの面々やグリーンマン、及びテレビスタッフがどんな活動をしたのか、それだけでも記録として残したいと考え、過酷な環境だったが、誰かが来るまでと考え、何とか生きながらえてきた。
これで、私の役目も終ってほっとしているよ。」
扉の向こうからは、妙に明るい口調で声が返ってきた。
「分った・・・、冒険者でなければ、冒険者の袋は使えないし、保存も効きそうもないから余り渡しても意味はないだろうが、弁当を置いて行く。
腹が減っているだろう、食べてくれ。」
あまりここで長い事時間を費やすのは、向こうの身にとって得策ではない。
魔物たちに見つかったら、餌食にされてしまうのは間違いがないのだから。
弁当を6つと町の雑貨店で買った小さな布製の袋を、穴から送り込んでやった。
「おお、ありがたい・・・、久しぶりに人間らしい食べ物にありつける・・・。
このダンジョンに居る限り、腹は空かない・・・、餓死もしないってずっと願ってはいたのだが、やはり食べ物にありつけるのは、幸せだ。感謝する。」
『タタタタッ』そう言い残して、扉の向こう側の足音が遠ざかって行く。
「じゃあ、頼む、思いっきり凍らせてくれ。」
「分ったわ・・・、爆裂冷凍!」
レイの魔法で、扉に開いた穴ごと、辺り一面真白く凍りついた。
木陰でもあるし、恐らく、2,3日は融けないだろう。
「じゃあ、戻るか・・・、ヤンキーパーティの奴らがどうなったのか、見てみる必要性もあるしな。」
そう言って、来た時と同じ道なき山道を、下って行く。
里に戻ると、入口脇には魔物たちの死骸が山と積まれていた。
三四郎さんが、倒したのだろう。
やはり、彼と一緒に出掛けなくて正解だ、彼が里に居なければ、この里は全滅していたかもしれない。




