第77話
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要はこういう事だろう。
本来ならば、賢者のトンネルの鍵を入手してこの地へ来てから、北東大橋を掛けて、再度北部大陸へ舞い戻る。
そのタイミングで、ペレン西の大河に橋が架かる頃なので、橋を渡って北部大陸西部へ進出すると言うのが、正規のルートだったのだと推測される。
それを俺たちがはしょって、地元のルートで川を渡り、北部大陸西部でのクエストをこなし、あろうことか冒険に必須な軍艦をも手に入れてしまった。
ここでの冒険の最終目標を途中で知ってしまってから、大体の筋書きを読んだヤンキーパーティの奴らは、もう一度逆転を狙ったのだろう。
イースト川上流というと、地竜の里があると言う場所だ。
ここに出向いて、冒険を進めようと考えたはずだ。
ルート通りに進んで行っていれば、何の事はない、大渦の海竜のクエストをこなした後は、カンダラ村へ上陸して、賢者のトンネルを通ってくれば、外洋経由で2ヶ月近くも航海する必要性はなかったと言う事だ。
まあ、外洋の魔物たちを退治できたのはよかったとは言えるが、もっと楽に進めることができていたのだろう。
当たり前だ、いくらなんでもこんなに長期間、ただ単に洋上で過ごすなんて事、シナリオにするはずもない。
冒険者たちが飽きてしまう。
「その・・・冒険者の方たちが姿を消してから2週間ほど経つと、突然イースト川上流の山の方角からたくさんの魔物たちが押し寄せてきました。
どれも、この地域の受付レベルをはるかに超える、強力な魔物達です。
おかげで、このギルドに課せられたクエストは、全て休止となってしまいました。
なにせ、今や平原に巣食う魔物だけでも、クエストのレベルをはるかに超えた強さで、しかも集団で襲い掛かって来ます。
とても冒険者の方々に、クエストを提示することは出来なくなりました。
おかげさまで、ギルドは現在開店休業状態ですー・・・。」
そう言って、受付嬢は泣き崩れた。
確かに、さっき遭遇した魔物たちと、レベルS程度で出会えば、間違いなく全滅だろう。
しかし、どういう事だ?地竜の里で何かクエストをこなすと、強力な魔物達でこの地域は埋め尽くされるとでもいうのだろうか?
それでは、後続の冒険者たちがやってこられなくなるではないか。
今でこそ、各クエストは1回限りの限定品ではあるが、本来ならば、どの冒険者でも平等にチャンスが与えられるはずだったわけだ。
そんな先着順のようなシナリオを描くのだろうか。
俺は、この先の冒険が、設定されたものとは異なった形になって行くような、嫌な気がしてならなかった。
「分った・・・、じゃあどうすればいい?
どうすれば普通にクエストを発行してもらえるようになる?」
俺は、彼女に復帰条件を聞いてみることにした。
「へっ?」
そう言われて、彼女は言葉を詰まらせる。
「だから・・・、復帰条件だよ、このギルドで予定通りのクエストを発行するための。
なにせ、イースト川にかける橋や、北部大陸との北東大橋なんて大きな事業、実施しなければ今後の冒険に支障が出そうでならない。
それらのクエストを発生させるための条件はなんだい?」
俺は、もう一度訪ねる。
「そ・・・・それはもう・・・、今この辺りに巣食う強力な魔物たちの一掃ですよ。
でもただ単に、この近辺を周回して、魔物たちを倒して行っても無駄だと思いますよ。
奴らは、イースト川上流から、後から後から湧いて出てくるようにやってきています。
ですから、臭いにおいと同じように、元から絶たなければなりません。
でも・・・それには・・・」
ここまで言って、受付嬢は絶句する。
「地竜の里だね、そこがカギを握っているという訳だ。
分った、俺達がそこへ行ってみて、何とかできるかどうか調べてみよう。」
「ほ・・・本当ですか・・・?」
途端に受付嬢の顔が、明るくなる。
美人系だが笑顔もかわいい。
「じゃあ、行ってくるよ。」
そう言い残してギルドを後にする。
「いいんですか?あんな約束をしてしまって。
魔物たちがイースト川上流からやってくるのを、止められる自信はあるのですか?
どうも、あの受付嬢の態度を見る限り、通常の定められたクエストとは状況が違うようですよ。」
ギルドを出た途端、源五郎が心配そうに尋ねてくる。
「それは分っている。海竜の里と言い、ゲーム要素としての演出とは思えないような事が、発生しているようだ。
だから、自信は全くない・・・、というより、どうして地竜の里が関わっているのか、俺には理解できない。
今の時点で俺は、地竜の里と強力な魔物たちがやってくるようになったこととは、まったく関係がない事ではないかと思っている。
だから、魔物たちの流入を止められる自信というものは、持ち合わせてはいないのだが、どの道、地竜の里にはいかなければならないんだから、その周りの状況も観察して、対処できるものであれば対処したいと考えている。
なにせ北東大橋がかかれば、北部大陸に残った奴らも、そのまま先へと進んでこられるわけだ。
これは大きいぞ。」
俺は、これは俺たちに与えられた試練ではないかと考えている。
運よく先人を切って冒険しているが、それはあくまでも運がよかったからであって、俺達の実力とは関係ない力が働いていたからだ。
これからこそが俺達の手腕を試される時なのではないかと。
このまま先へ先へと進んで行ってもいいものかどうか、試されているのではないのだろうかと・・・。
「まずは、この辺りを回ってみよう。
見慣れた建物が必ずあるはずだ。」
俺は、イースト川までのルートを、中継車で周回する様指示する。
途中、ダイヤ尻尾悪魔やヨロイサイなどが襲ってくるが、中継車のスピードがあるため、まとまって襲われるのは避けることができた。
2〜3匹程度であれば、何とか倒して進むことができる。
そうして、見慣れた真っ白いコンクリート製の建物を見つけた。
「そのまま中へ入って行ってくれ。」
中継車のまま建物の中に入って行き、長い長い通路をひたすらまっすぐに走って行く。
目の前に扉が見えると、その扉を開けて出た先は、賢者のトンネルの分岐である各扉の前の通路だ。
「この扉にヤンキーパーティの奴らは、鍵を掛けて行ったわけだが、開けておこう。
そうすれば、いつでもこの地に戻ってこられるようになる。」
そうして、この場は出てきた扉にそのまま入って戻って行く。
万一、俺達の身に何か起こっても、後続の奴らは放送を見て、賢者のトンネルを使ってこの地にやってこられるようになる。いわば保険だな。
準備が調ったら、さあ出発だ。
川沿いを上流に向けて車を走らせる。
すぐに、空から真っ白な布のようなものが飛んできた。
いや、白から黄色や赤な青など・・・カラフルに色が変わって行く。
『ゴォッ』近づいてきたその布の色が赤に変わった途端、炎を吹きかけてきた。
『キキィッ』すぐに中継車は急ブレーキをかけて停まる。
『ダダッ』ツバサを先頭に、俺たちはすぐに車外に出て身構える。
「なんだ、あれは・・・?」
形だけから言うと、前に見たお化けに似ているが、色がくるくると変わる。
「おりゃぁー!」『シュッ』
マグマの剣で切り付けて見るが、そいつは一瞬で姿を消した。
どうやら、お化け系に間違いがなさそうだ。
「みんな、光系の武器だ。源五郎は銀の矢を使ってくれ。」
すぐに光の剣に持ち替え叫ぶ。
『ピカッ』姿を現したそいつは、今度は白くなって、頭から光線を発した。
「うおっ・・・、危ない、色の変化に気を付けろ。
それぞれの色に合った攻撃をしてくるぞ。」
『シュッ』『スカッ』ツバサが、光の爪で切り付けるが、そいつはまたもや姿を消した。
「強光弾!」『スカッ』
姿を現したところをレイが狙うが、すぐにまた姿を消してしまう。
「前の時を思い出せ、あの時は奴が姿を現す一瞬前に、床が光ったはずだ。
それを目標に攻撃を仕掛けてくれ。」
と言ったのはいいが、薄暗い塔の中と違って、真昼間の明るい屋外では、少々地面が光ったくらいでは、ほとんど目立たない。
そうこうしているうちに、1匹、2匹と7色お化けがやってくる。
1匹だけでも苦戦していると言うのに、数がまとまると、大変なことになりそうだ。
『ボワッ』『ボワッ』『ピッ』『ドドッ』至る所で、炎や光線に加え、大量の水流の攻撃が始まった。
みんな避けるだけで精いっぱいと言った様子で、じり貧状態だ。
「・・・・、ギラ・・・爆裂光弾!」
レイが唱えると、まばゆい光が、周囲を包み込む。
『プッシュー』すると、数匹の7色お化けが、消滅した。
「はぁはぁ・・・、グループ用の光の魔法を、辺り一面に使ってみたわ。
何とか当たるものね・・・。」
レイが、ほっとしたように笑顔を見せる。
「癒しの風!」『プシュー』
一瞬、7色お化けの動きが止まったので、すかさず光の剣で切り付ける。
ついでに、回復系の呪文も唱えてみた。
攻撃が当たらなくても、みんなの傷がいえるのなら、しめたものだ・・・と思ったが、以前ほど体が回復したようには感じなかった。
「爆裂光弾!」『プッシュー』『プッシュー』
「りゃぁっ」『プシュー』
ツバサもすかさず光の爪で攻撃だ。
『シュッシュッシュッ』『プシュー』
源五郎の銀の矢も炸裂し、襲い掛かってくる7色お化けを何とか退治することができた。
「ふうむ・・・、どこかのダンジョンで発生するような魔物が、平原に流出して来たって感じだね。
何とか倒せたけど、この先どうなるものか・・・。」
平原を進むだけで、これだけ厳しいと、ダンジョンに入ったらどうなる事か。
俺達のレベルで、来るべき地ではなかったような印象だが、一体どうなっているのか。
「それはそうと・・・、なあに、あれ。
回復系の呪文なら、初級じゃなくて中級以上を唱えないと、あたしたちのレベルが上がっているから、効果が薄いわよ。」
レイがそう言いながら、回復系呪文の魔術書を見せてくれる。
ほうそうか、回復の水だな・・・、メモしておこう。
その後も、魔物たちに襲われるたびに、何とか切り抜けて川沿いの道を進んで行く。
途中、山間に続く細い道に切り替わり、がたがたと揺れながら、車は走って行く。
そうしてようやく、まっすぐな材木を立てて塀にしている、砦のような集落が見えてきた。
『シュバッ』『シュタッ』『バズッ』『ズバッ』その人はたった一人で、次々と襲い掛かってくる、見たこともない大柄な魔物や7色お化けを、手に持った長い棒のようなもので、粉砕していた。
「急げ、加勢に行くぞ。」
俺は、すぐに中継車を下りて駆け出す。
そのすぐ脇をツバサが追い抜いて行く。
『バシュッ』『ドバッ』と、ツバサが応援に駆け付ける前に、最後の魔物が地に臥した。
辺りは、魔物たちの死骸が山となっているようだ。
「お強いですね。」
その光景に、ふと口をついて、そんな言葉が出た。
村の入口の門を閉じて、その前を守るようにして、その人は立っていた。
いや、遠目から見て人と見えていたが、近くまで来て見ると、顔はどうやらトカゲのような顔をして、服の袖から出た腕にも鱗のようなものが・・・。
爬虫類と人間との中間の様な出で立ちだ。
その人(?)は、今の今まで多数の魔物たちと戦っていたことなど感じさせないくらい、息も上がっていなく、平然としているのだ。
「いやあ、そんなことはない。魔物たちがうようよいる、こんな山奥まで平然とやってくる、おまえさんたちの方がすごいさ。
さて問題です。
帆船の軍艦の船倉奥に居る、占い師の名前はなに?」
「へっ・・・?」
どうしたの・・・?
俺達は、互いの顔を見合わせた。




