第73話
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「まあ、組合長さんの所へ行って、もう少し詳しい話を聞いてみよう。」
そうして俺たちは、港の倉庫脇にあるプレハブの2階へと上がって行った。
「こんにちは、先ほどはどうも・・・、この町の周りに居る魔物たちについてお伺いしたいのですけど・・・。
魔物たちの出没はともかくとして、この町の門を閉じたのは、3年も前のことだって伺いましたけど、半年前の間違いではないのですか?」
俺は、どうしても納得できない疑問を投げかけてみた。
「いえ、海の魔物に関しては、内海は魔物たちもまだ少なくて、半年ほど前までなら船の行き来もある程度はありましたが、陸の魔物は5年ほど前から急速に増え続け、3年ほど前に竜王様のお達しで、各地の町はその城壁を閉じて、市民を守ることになったのです。
魔物たちは、暗黒大陸とも言われる、南部大陸で発生したと言われております。
それが、東部大陸へ伝わり、更に大西部大陸を経由して、この小西部大陸にまでも進出してきたのです。
かつては、東部大陸と北部大陸は北東大橋で繋がっておりましたが、魔物たちの流入を避けるため、橋を取り壊したと聞いております。
それというのも、東部大陸北部の地竜の里が陥落したのが原因と言われております。
今では、東部大陸北部にまで凶悪な魔物たちが住み着いていると伝わって来ております。
あなたたちは冒険者のようですが、無茶はいけません、ここよりもはるかに危険な東部大陸には、近づかない方が無難です。」
タリンさんはそう言って目を伏せる。
うーむ・・・、そう言う訳ですか・・・、尚更東部大陸とやらへ行ってみる必要性がありますな。
というより、南部大陸に行ってみるのも手ではあるのか?
なにせ、ここから目と鼻の先だ。
「海図を見る限り、南部大陸とこの町は、それほど距離がないように感じるが、そちら側からは魔物たちはやってこないのかい?」
俺は海図を広げて、組合長の目の前のテーブルに置いた。
「はい、南部大陸の北西部分は、高い岩山に囲まれておりまして、魔物たちもそこを越えてまで進出しては来ない様子です。
南部大陸の南東端は、東部大陸を間近に見ることができるそうですし、そちらを伝って他の大陸へ渡っていると聞いております。」
組合長は、その長い髪の毛をたくし上げながら、海図を指して教えてくれた。
その仕草一つ一つにも、源五郎が反応する。
彼は、彼女のようなお姉さんタイプに弱いのだろうか。
「分りました、ご助言はありがたいのですが、我々の目的は、魔物たちの全面駆除です。
ですから、凶悪だろうがなんだろうが、退治しに出向かざるを得ません。
そうすることが、我々が元の世界へ戻る、唯一の方法だと考えておりますので。
色々と情報をありがとうございました。」
俺は小さく会釈すると、応接用のソファから立ち上がる。
レイとツバサも続くが、源五郎だけは、ぼんやりと前を見つめている。
「おい、行くぞ。」
「はっはい・・・。」
組合長に見とれていた源五郎に声をかけて事務所を後にする。
「とりあえず、もう一度ギルドに寄ってみよう、これから向かう外海方面のクエストでも出ているかも知れないからね。」
そう言って、再度坂道を少し登り、ギルドの中へ・・・。
「よう、遅いじゃないか。
もう、クエストは頂いたぜ。
レベルUのクエストなんだが、この地の担当であるブラウンマンと協力して戦うと言う条件付きで、レベルVの俺達でもクエストを引き受ける許可を頂いたぜ。
俺たちは、ここまでにするよ、なんせ、これから先は凶悪な魔物たちが、うようよいるんだろ?
とてもじゃないが、俺達が相手にできるレベルじゃあない。
無理はしたくないんだ、この地で城壁を越えてくる魔物たち相手に、少しずつでもレベルを上げて行くさ。」
そこには、8人の冒険者たちがいた。
チーム北海とチーム山椒のメンバーたちだ。
確かに、彼らにこの先の冒険レベルは辛いかもしれない。
しかし、船の上で戦うのであれば、我々だってサポートできるし、ブルーマンだっているはずだ。
それでも彼らがここに留まると言っているのは、この地を守る冒険者が一人もいないことを心配しての事かも知れない。
なにせ、ブラウンマンは小西部大陸全てを担当地区としているのだから。
少なくとも戦うことができる、彼らが町の護衛をするという事は、魔物の被害に遭う人を一人でも少なくすることに役立つだろう。
「そうか・・・、分った。
俺たちは、これからも旅を続けるし、恐らくまたこの地に戻ってくるだろう。
その時は、この大陸の中への冒険も出来ると思うし、それまでレベルを少しでも上げていてもらって、一緒に冒険を続けて行けるようになるといいね。」
「おう、任せておいてくれ。
なにせ、冒険者はおれたち2チームだけだ。
だから、クエストはほぼ独占状態な訳だから、街中限定とはいえ、相当なレベルアップが望めるだろう。」
そう言ってチーム北海のリーダーは明るく笑った。
「とりあえず、この町を出ることは出来そうもないようだから、この地での用事はこれと言ってない。
明日には出航予定だが、君たちはどうするんだい?
他の2チームと同様、この地での警護を担当するつもりはないのかい?
外海に出ると、船上に現れる魔物たちのレベルも、上がるという話だぜ。」
船に戻ると、アロハレベルのメンバーが甲板にたむろっていたので、それとなく聞いてみた。
「いや、俺達はこのまま船に乗せてもらえるなら、その方が都合がいい。
なにせ、相手が強ければ強いほど、俺達の特性が生かされるし、効率よくレベルが稼げるという訳だ。
だから、魔物のレベルが上がることに関しては、文句がないぜ。」
頼もしい返事が返ってきた。
「分った、じゃあ、交代で航海中の警護を行うとして、強さのレベルを揃えるために、最初の時と同様、チーム編成をやり直そう。
2人ずつで組み直すとしよう。」
こちらからは、俺とレイ+アロハレベルから、しのぶとポチで1チーム。
ついで、源五郎とツバサに加えて、ぴえーろとはたらくぞうで、もう1チームにした。
2チームで、交代制で船の警護を行う約束にした。
とりあえず、今日の所は民間の宿もあることだし、陸の上で眠ることにした。
夜になって、テレビ局スタッフがやってきて、今日の所は昨晩の海上での魔物との戦いと、その後はこのターリキー町を見て回った時の紹介映像で放送すると言っていた。
それと、これから洋上での魔物が強くなっていくと言う事に関して、少し喜んでいた様子だったが、やはりマンネリ気味なので、この町にチーム北海達が居残ってくれることに、注目していた。
すぐにこの町の支局に連絡を取って、ここでのクエストの状況も並行して録画し、放送することに決まったようだ。
この日は、宿の前でお祈りをして部屋へ戻る。
そう言えば、奴らの冒険はどうなったのか、と思って誰もいない宿の食堂に行ってテレビをつける。
このところ、我がチームは洋上では夜の警護ばかり行っていた(夜の方がやはり魔物の出現率が高いため)ので、奴らの放送を見る暇もなかった。
どのレベルまで上がっているのだろうか、我々と違って地上でクエストを続けているのであれば、ダンジョンも相当数こなし、レベルも上がったことだろう。
そう考えながら、チャンネルを切り替えると、そこでは何と歌番組を放送していた。
あれ?と思って、何度もチャンネルを確認してみたが、間違っていないようだ。
「ヤンキーパーティの冒険だったら、もうずっと前からやっていないわよ。
あたしたちが、船に乗ってすぐからもう別の番組に代わっていたから。」
不思議に思ってチャンネルを切り替えていると、レイがやってきて教えてくれた。
航海当初は、彼女たちは洋上での戦いを拒否していた為、俺と源五郎の2人だけで昼夜問わずに甲板に上がってくる魔物たちの相手をしていたので、もうずいぶん前からあいつらの番組を確認してはいなかった。
一体どうしたんだ?
基礎的な訓練みたいなことばかりやっていたから、視聴率が上がらずに番組降板となったという事か?
それでも、少しずつクエストめいたことを、やりだしていたような気がしたのだが・・・。
ふうむ・・・、それだったら、もっと前に教えてくれても良かっただろうに・・・、教えてもらったとしたって、何かできたわけでもないのだろうが・・・。
まあ、レイはあいつらの事を、良くは思っていなかったから、あまり話題にする気もなかったのだろう。
俺は、何か納得できないまま、仕方なくテレビを消した。
「ああ、ヤンキーパーティさんたちの冒険ですね。
もう、2ヶ月近く前から放送していない様子ですね。
どの道、最初から特訓放送なんて言って、彼らメンバーを鍛えるためにグリーンマンが平原の魔物たち相手の基礎的な戦い方を、指導している場面ばかりで、人気はなかった様子です。
途中から、そのような内容が飽きられてきたせいか、簡単なダンジョンなどへ入って行くクエストも放送され始めましたが、それでもシメンズの皆さんの冒険には遠く及ぶものではなかったと聞いております。
おかげで、予想をはるかに下回る低視聴率で、番組打ち切りなどもささやかれていた様です。
起死回生の逆転を狙うなんて言うような声も聞こえてきていたらしいのですが、ある日からばったりと放映されることは無くなってしまいました。
放送に値するような、いい冒険映像が撮れないと言ったことがあるとも考えられましたが、それならば、番組枠を残してとりあえずダイジェスト放送で繋ぐとか、あるいは特番を組んで不定期に放送するなんてことが行なわれるはずなのですが、彼らの放送に関しては、これ以降も全く予定が組まれていない様子です。
その為、彼らの身に何かあったのではないかと、まことしやかにささやかれているのが現状です。」
翌日、いつものインカムを付けたテレビスタッフが、乗船時に教えてくれた。
「地球の放送などは、民法などと言って、スポンサーを付けて金を出してもらう代わりに、その企業の宣伝をする。
だからこそ視聴率と言って、その番組をどれだけの人たちが見てくれるかと言ったことが重要となってくるようだ。
しかし、この星ではそう言った視聴率争いなどと言ったことは、無縁なはずだろ?
なにせ何でも望みがかなう訳だから、スポンサーなどもいらないし、自分たちの好きなように番組を作って行けるんじゃないのかい?」
俺は、彼らが視聴率にこだわる理由が分らなかった。
そりゃ、いい番組を作りたいという気持ちは、職業人であれば持っているだろうと言う事は、理解できるのだが。
「いえ、この星でも視聴率は大事です。
テレビ放送などに使う衛星費用をはじめとして、電気代や車のガソリン代及び維持費は、やはりスポンサー料で賄っております。
我々の給料も勿論そうですが、まあ、それらはお金の流れとして設定されているだけで、基本的に生活に使う支出と相殺されるものですから、大きな意味は持っておりませんけどね。
しかし視聴率というものは、望んでも克ち得ないものですので、我々テレビ業界人にとって、番組制作上の指標として重要な意味を持つのです。
なにせ、関係者全員が望まなければ、望みは叶わなくなったわけですから、我々サイドがどれだけ視聴者の指示を望んでも、視聴者の方たちに受け入れられなければ、叶わないわけです。
ですから、視聴率の低下した番組は存続が難しく、打ち切られて新たな企画がなされるわけです。」
テレビスタッフは、いつもと違い、真剣な表情で答える。
つまり我々の冒険だって、面白くなくなれば、つまり視聴率が稼げなくなれば、打ち切られると言う事もあり得る訳だ。
心しておきましょう。
それよりも、奴らがどうなったのか気になるところだな・・・。
グリーンマンが付いていたのだから、恐らく大丈夫であろうとは考えたいが、それにしてもテレビ局関係者にも分らないとは・・・(まあライバル社の事だから、秘密にしているだけかもしれないが)。
まあいいだろう、船に乗り込むと、早速ギルド部屋へ行って、受付嬢に新しいチーム分けを告げる。
すると案の定、船の警護のクエストレベルは何とSに跳ね上がっていた。
俺たちのレベルがPなのだから、うかうかしていると、雑魚キャラの相手も出来なくなってしまうと言う事のようだ。
「魔物が出現しました、レイさんが戦っていますが、苦戦しています。
ブルーマンさんは、近海を泳いでいたクジラ系の魔物の相手をしている様で、手が離せません。
すぐに来てください。」
出航してすぐに船員が、舳先を担当している俺を呼びに来た。
急いで船尾へ向かうと、船よりも巨大な大王イカのような魔物が襲い掛かって来ていた。
おいおい・・・、巨大な魔物には、大砲をぶちかますのじゃなかったのかよ・・・。
「爆裂冷凍!」
レイが唱えるが、長い触手の先端が凍る程度で、とても奴の動きを止められそうもない。




