第72話
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「そうすると、大きく北部大陸を迂回して、小西部大陸との間の海峡を抜けて、また戻って来るしかなさそうですね。」
源五郎が、海図を広げて航路を確認する。
「いや、小西部大陸との間の西北海峡も浅瀬が多くて、小舟程度しか通過は出来んよ。
北の海へ出るのなら、小西部大陸も迂回して大西部大陸との間の西洋を通るしか方法はないのじゃ。」
おじさんが、海図を見ながら説明してくれた。
「ええっ・・・・、それじゃ、ほとんど世界半周くらいの回り道になってしまいますね。
これは、大きなロスですよ。」
源五郎は、余りの事に茫然と固まってしまった。
「まあまあ・・・、この冒険に関しては、早く終えればいいとかそう言ったものではないのだから、時間がかかっても、安全に一人の脱落者も出さずに、ということが大事なんだ。
だから、ゆっくりでもいいから、確実に進んで行こう。
これだけ航海が長ければ、他のチームもそれだけ成長できるわけだから、うまく行けば東部大陸あたりで活動できるかも知れないし、そうなれば、まさに1石2鳥とも言えるさ。」
焦っても仕方がないと、ここは源五郎をなだめる。
「まあ、そうかも知れませんけどね」
それでも、源五郎は不満顔だ。
「まあ、航海の途中に上陸できそうな港があれば、情報収集がてら寄ってみればいいだろう。
その時に、冒険のレベルが合えば、その地でもクエストをこなすことができるかもしれない。
クエストをこなしながら、東部大陸へ向かえばいいさ。」
「分りました、そうしましょう。」
ようやく、源五郎も納得した様子だ。
その後、船長にもう一度海図を見せて、小西部大陸迂回のコースを説明する。
西北海峡へ行ってみて、通れなくて引き返さなくて済んだことを、おじさんに深く感謝した。
「港が見えたぞー。」
見張り番が大声で叫ぶ。
カンダラ村を出発してから、3週間後の事だ。
海図で確認すると、小西部大陸の南端に位置する町のようだ。
ロープレのゲームなどをしていると、町の外を歩いている時や、航海している時もそうだが、画面が暗くなったり明るくなったりを、点滅のようにして何度も何度も繰り返す。
あれは、1日が経過して行っていることを現しているのだろうが、今は現実世界となっていて、その世界に存在しているのだから、当然のことながら、時間をはしょったりするような事は行えない。
と言っても、このゲームに関して言えば、通信で地球とこの星を繋げて、時間経過も1対1で活動していた訳だ。
そうすると、こういった航海などで過ごす時間は、やはり必須だったのだろうか?
あるいは、単純すぎる生活の繰り返しを避けるため、ショートカットのような方法が用意されていたのだろうか?
その為の工夫が、賢者のトンネルだとすると、ヤンキーパーティに占有されている、あの扉の奥の場所にも船などを使えば、いくことができるのかも知れない。
そう思いながら着いた港は、洋風建築の建物が並ぶ、大きな港町だった。
「港町ターリキーへ、ようこそ。
ここへ船がやってくるのは、半年ぶりです。
海洋には、様々な魔物が潜んでいて、航海には危険が伴います。
恐らく、あなたたちのような軍艦でなくては、とても船旅を続けることは難しいでしょう。
更に内海に比べて、外海である西洋にはもっと強力な魔物が生息しています。
これ以上の航海はあきらめた方がいいですよ。」
港に着くと、すぐに美しい女の人が出迎えてくれた。
ほうそうなのか、ここから先へ進むと、出現する魔物も強力になって行くと言う事か。
軍艦であろうがなかろうが、魔物と戦うのは、俺達冒険者になってしまうのだから、関係ないのだがね。
「初めまして、シメンズリーダーのサグルと申します。
冒険者をしております。
この町へは、四竜に関するクエストをこなす為、次なる目的地である東部大陸の北部にある川の上流を目指しております。」
俺は、まずは、この美女と親しくなって、情報を聞き出そうと考えていた。
「ああ、ご挨拶が遅れました。
私、ターリキーの港町の管理組合長のタリンと申します。
この町でお困りの事がございましたら、何でもご相談ください。
すぐそこの、倉庫脇の階段を昇ったところが、事務所となっております。」
タリンと名乗る美女が指したのは、巨大な倉庫の脇にある、プレハブのような2階建ての建物だった。
西洋風の街並みとはおよそ似つかわしくない建物だが、こちらはゲームキャラ用の建物という事だろうか。
「ありがとうございます。
先を急ぐ旅ではありますが、この辺りの魔物退治も兼ねておりますので、もしかすると滞在もあり得るかもしれません。
その節はよろしくお願いいたします。」
俺はそう言い残して、この場を去ることにした。
「きれいな人でしたね・・、それに随分若そうでしたけど、この港の管理組合長だなんて、きゃしゃな体にはちょっと似合いませんよね。」
すぐ後ろを歩く源五郎が、随分と後ろを気にしながらついてくる。
彼が、他の女性に関して話をするのは、恐らくこの冒険始まって以来の事だろう。
ああいうタイプが好みなのだろうか・・・、髪が長く清楚な顔立ちの、美しい大人の女性だ。
コンクリートで作られた堤防を出ると、そこは石畳の道路で、両脇にはレンガ造りの家が立ち並ぶ、港町にはありがちの、坂の多い街並みだ。
丘というか、山と言ってもよさそうな急な斜面に、貼りつくように家々が建ち並んでいる。
屋根の色は青やら赤やら黄色まで、カラフルに彩られて、景観の一部となっているようだ。
そんな中に、ひときわ異彩を放つ大きな建物が・・・、この冒険が始まってから、いつも目にするギルドの建物だ。
町が変わっても、建物の外観が変わることはないため、すぐに分って大変ありがたい。
「いらっしゃいませ。」
扉を開けると、すぐに若い女性の元気な声が聞こえてきた。
見ると、ショートカットヘアーの、かわいらしいタイプの女性が、受付のカウンター越しに声をかけてくれたようだ。
よほど珍しいものでも見るかのように、じっと視線が注がれてくる。
無理もないのかも知れない、ギルドの中は閑散としていた・・・と言うより人っ子一人いない。
まあ、そうだろう、俺達が最初に訪れた冒険者なのだろう。
そうすると、ここはヤンキーパーティたちが行った先ではないと言う事になる。
そのまま部屋の中央にある柱に向かって見るが、クエスト票は1枚も貼りだされてはいない。
『ギィ』がっかりしていると、カウンター脇から受付嬢が出てきて、すぐに1枚のクエスト票を貼りだした。
『ターリキー街中の警護』受付嬢に内容を聞くと、火吹き大ガラスや、感電バトなど、町を守る防御壁を越えてやってくる魔物たちを退治するクエストのようだ。
「へえ、街中にも魔物が出没すると言う事かい。
それは危険だねえ、でも俺たちが来てからクエスト票が貼りだされたところを見ると、普段はどうしていたんだい?」
そんな危険な魔物たちを、町の人たちはどうしているのだろう。
「はい、普段はこの地を守るブラウンマンを呼ぶのです。
すぐに飛んできてくれますが、なにせこの大陸全体をカバーしている訳ですから、魔物の出現が重なってしまうと、間に合わずに被害に遭ってしまうケースも出てきております。
ですから、こういったクエストが発生するわけです。」
クエストレベルはUか、船の上の冒険者チームでも、何とか受けられそうなレベルではあるな。
俺はそう思いながら、クエスト票を柱に戻した。
そうしてギルドを出ると、そのまままっすぐ坂を上り、町はずれの巨大な壁の所までやって来た。
レンガ造りの巨大な城壁のような高い壁は、街中を取り囲むように作られていて、所々に出入り口が設けられているようだ。
甲冑に身を固めた門番が立っている。
「悪いが、外へ出してくれないか?
空を飛べる魔物たちが、この壁を越えて時々やってくるのだろう?
被害に遭っている方もいると聞いた。
あの魔物たちは、俺達のゲームの世界に居た魔物たちを連れてきてしまったものだから、俺達にもいくばくかの責任がある。
退治してくるから、この町の外へ出してくれ。」
俺は、門番にそうお願いした。
テレビ局スタッフは、この町の支局に用事があるとかで、一緒に来てはいないが、ヘッドカメラはつけっぱなしにしているから、放送用の映像は問題ないだろう。
受け身ばかりでは、いつまでも魔物の襲来を受けるだろうから、ここは攻めに転じよう。
魔物の巣を叩いて、元から絶ってやるつもりでいた。
「申し訳ありませんが、竜王様のご命令で、この門から人を出すわけには参りません。
城壁の外には、危険な魔物たちが多数徘徊しております。
定期的に竜王軍が巡回で回っておりますが、魔物たちの駆逐は難しく、一般の方たちが通れるような状態ではとてもありません。」
門番にあっさり断られてしまった。
「竜王様?竜王様というのは、この小西部大陸を管理しているのかい?
だったら、どこへ行けば竜王様に会えるんだい?
直接会って、俺達が冒険者で、魔物たちを退治するために来たってことを説明するよ。」
俺は、彼に直接何を言っても無駄だろうと思い、竜王とやらの居場所を尋ねてみた。
「竜王様は、小西部大陸には居ない。
竜王様は、この地全てを統治されている、大変偉いお方だから、お前たちのようなものがただ行っても会えることはないだろう。
会いたいのであれば、功績を立てて、お呼びがかかるのを待つしかないぞ。」
門番は、そう言ってにやりと笑みを浮かべた。
まるで、俺達なんか逆立ちしたって竜王様と、会えるはずもないとでも言わんばかりに。
ふうむ・・・、城壁は海側以外の全てを囲んでいるようなので、門を通らなければ、町の外へ出ることは叶いそうもない。
魔物を退治しに行くと言っているというのに、魔物がいて危険だから外へは出さないと言うのは、矛盾していないか?
だがまあ、そう言った設定で、恐らくこの地の冒険をするレベルに達してはいないと言う事だろうか。
四竜を制して竜の騎士として認められる必要性があるのかも知れない。
なにせ、竜王様なのだからね。
だが、こういった設定は、あくまでもゲームの中での設定だろ?
元からこの星に住んでいた人たちは、このように外界と隔絶されてしまって、不自由ではないのだろうか?
「こんにちは、冒険者のサグルと言います。
この土地の方ですか?
突然、このような形で城壁の外へ出られなくなって、不自由を感じてはいませんか?」
俺は、壁のすぐ手前にある一軒の古道具屋さんのおじさんに声をかけてみた。
少し古ぼけたタンスなどの家具や、アンティーク調の椅子やテーブルなどを並べている。
これは、冒険には関係のない、在来の方の店だろう。
「ふあ?町の壁かね?
まあ、仕方がないわな、外には魔物たちがわんさか出没すると言うから。
たまに町の中へ入ってくる魔物でも手を焼いていると言うのに、外にはもっと凶悪な奴らがいると言われている。
わしは怖くて町から出たことはないから、見たこともないがね。
だから、もう3年間もこの町の門は閉ざされたままだ。
まあ、安全な生活が第一だから、仕方がないだろう?
少し前までは、船がたまにやってくることはあったが、今ではお前さんたちが乗ってきたような軍艦だけに限られるようだな。」
おじさんは、はたきで家具の埃を払いながら教えてくれた。
3年前って・・・、俺達がこの地へ出現して、ようやく半年くらいだろう。
それなのに、どうして・・・。
いや、これも設定なのか?ゲームとしての・・・、だったら他の人にも聞いてみないと。
その後、定食屋さんのおかみさんや、宿のご主人などにも話を聞いてみたが、どの人の話も、同じような内容だった。
宿代から言っても、どう考えても現地の宿のようなのだが、それにしてもどうして3年も前から・・・。
「本当に3年も前から城壁が出来ていて、閉ざされていたのであれば、僕たちの冒険とは異なる冒険が以前に始まっていたという事になりますね。
一体どう言ったことなのでしょう。」
源五郎も、首をひねる。
それはそうだろう、俺達がこのゲームの最初の購入者であったはずだ。
それとも、外国などで試験的に運用したゲームとでもいうのだろうか?




