第71話
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「おりゃっ!」
鉄の鎧に身を包んだ剣士が、鉄の剣を振るって大ダコに斬り付けるが、最初の攻撃は浅く簡単に弾かれてしまう。
「冷凍!」
魔法使いが大ダコの触手とも言える太い足を凍らせようとするが、効果は少なく1,2本程度しか凍らせられない。
『シュッシュッシュッ』狙撃手が矢を射かけるが、どれも浅く威力は大きくはない。
「どりゃあ!」『グザッ!』「ギャースッ」
拳法家が、刺さった矢を足で押し込むように蹴りを入れ、大ダコが身悶える。
「たぁりゃ!」『ズサッ』
更に、剣士が鉄の剣を振るうが、残った長い脚に絡まれてしまう。
「た・・・助けてくれ・・・。」
剣士は、必死で助けを求めるが、周りの仲間は強力な魔物に対して及び腰だ。
『ヒュンッ』そこへ、見かねたブルーマンが手刀で大ダコの足を切断し、剣士を助けだす。
「火炎弾!火炎弾!火炎弾!」
『シュッシュッシュッ』「たあやぁ・・・」
脚をもがれて攻撃能力のなくなった大ダコ目がけて、最後は炎の魔法と矢と拳法家のキックによる集中攻撃だ。
チーム北海メンバーが、ようやく、大ダコを倒した。
さすがに、少しレベルが上となる大ダコに関しては、多少の手助けが必要な様子だが、それでも彼らの戦いぶりは少しずつ様になって来た。
彼らのレベルも、UやVに上がって、更に受け取ったGで武器や防具もそれなりに買い揃えているようだ。
(コスチューム屋では、店頭に並んでいないだけで、普通の防具や武器も販売しているようだ。)
後は、ダンジョンに入って行けるレベルにまで成長できれば、アイテムも自然と手に入り、装備も拡張されていく事だろう。
しかし、まだ彼らの場合はいい、俺達とほぼ変わらぬチーム編成だから。
こういった冒険なのだから、クリアする目的で、ある程度戦うことを念頭に置いた職業を選択するのが、普通なのではないだろうか?
少なくとも、チームの大半メンバーは、それなりに攻撃力がある職業を選択するものだと思っていた。
アロハレベル・・・メンバー全員が、ちょっとおかしな職業に就いている。
リーダー、ぴえーろ・・・その名の通り大道芸の道化師を職業にしている。
大道芸でも、投げナイフ使いや猛獣使いなど、それなりに攻撃力や魔物を操ったりする技能がある職業もあると源五郎が言っていたが、道化師になると攻撃力どころか、そう言った特殊技能すらないそうだ。
玉乗り(攻撃力:0、防御力:100)の時に玉から落ちると、ごくまれに会心の一撃が発生するらしい。
レベル差がある敵でも、会心の一撃で倒すことも出来るということだ。
メンバー、しのぶ・・・これもその名の通りに、忍者を職業にしている。
一見まともそうだが、彼女の場合、索敵しかしない、というか、出来ない。
忍者でも、隠密、忍術使い、体術使い、草と分れているそうで、このうちの草というのは、敵の中に潜り込んで、相手の弱点を探ったり、攻撃の情報を得たりする役割をする職業で、彼女はそれだ。
つまり、戦いの最中、彼女は魔物たちの中に潜んでいるので、魔物達から攻撃されることはない。
しかし、自分から攻撃すると敵だとばれてしまうので、一切何もしないのだ。
ごくまれに、敵の急所を見つけて、そこを攻撃するように味方に伝えることがあるようだ。
メンバー、はたらくぞう・・・職業サラリーマン。
これはもう、攻撃力も防御力も、特殊技能すら持っていない。
戦いの最中、ひたすら頭を下げまくったり、魔物たちの中をてきぱきと動き回る事しか出来ない。
ごくまれに、戦いの最中に希少アイテムを調達してくることがあるらしい。
だが、今まで彼が調達してきた希少アイテムは、絶対に焦げ付かないフライパンとか、離れた位置でもゴミを吸い取る超強力掃除機など、およそ戦闘向きではないものばかりだそうだ。
その他の職業では、料理人や家政婦など、どうしてこんな職業がと頭をひねるようなものまで、バラエティに富んでいたと、源五郎が教えてくれた。
中でもすごいのは、メンバー、ポチ・・・職業ペット
これはもう、戦闘云々というより、職業ですらないのではないか?
まあ、大体特性は想像できるが、敵にかわいがられて(もちろん味方からも)、攻撃対象から外されるのが目的。
たまに魔物からエサ(食料)がもらえたりするらしい。
とりあえず、噛みつき攻撃とかできるようで、しのぶが見つけた急所攻撃をすることがあるようだ。
かわいらしいペットが突然豹変する事に対しての心理的ショックも含め、大きなダメージを与えることができるということだ。
俺は剣士だが回復系の魔法も使える様に経験値の一部を回し、源五郎も攻撃系の魔法に経験値の一部を回しているように、その職業以外の事柄にも経験値を分配することも可能なのだが、彼らの場合は純粋に現在の職業にのみ、特化して経験値を当てているらしい。
一つの職業のみにこだわっているというのは、レイだって同じことだが、彼女の場合は魔術者(魔法使い)の職業100%だが、回復系3:攻撃系7というように配分している。
一つの職業の同じく一つの特性のみに経験値を全て当てているのは、珍しいと言えるだろう。
会心の一撃的な攻撃以外は防御に特化しているため、レベルは低くても防御力は高く、痛恨のダメージは受けにくいがゆえに、生き残っていると言える。
おおよそ娯楽目的のチームの様子だが、大物食いというその特性ゆえか、参加した3チームの中では一番レベルが高く、レベルWだったチームで、今はレベルUに上がったようだ。
決して彼らだけに、航海中に甲板に上がってくる魔物退治を任せている訳ではなく、俺達も交代制で戦っているのだが、俺達のレベルはこの間のダンジョンをこなしたのを含めて、ようやく3人がレベルPで、ツバサがレベルSに上がった。
何のことはない、海竜の里でのクエスト獲得アイテムは、やはり海竜のヒゲだった。
「ふうむ・・・、穴倉の奥の水の中で、右往左往する事に注意した方がよさそうだな・・・。」
占い巨乳美女は、大きな水晶玉を見つめながら答える。
「それは、次に向かうべき目的地でのクエストに関連することですか?
穴倉の奥の水に入るようなことは避けるべき・・・つまり、洞窟系のダンジョンには入らないようにするのか、あるいは前回のように、水難に関わるようわざわざ進んで行ったりした方が良いのでしょうか?」
俺は、期待に胸を膨らませて質問をする。
「うーん、占いは当たるも八卦、当たらぬも八卦・・・じゃ。
その言葉をどう解釈するのかは、お主たち当事者に任されておる。」
彼女は、それ以上多く語ることはなかった。
これでは、どうすればいいのか全く分からないのではないか?
これから起きる出来事に対して、流れに身を任せるのであれば、占ってもらう事に意味はない。
まあ、占いの最中にあの美女の間近にいられるだけでも、かなり興奮するのではあるが・・・、それにしても、行き先へのヒントくらいあってもよさそうなものだ。
「それはそうと、海図はどうなっていますか?
あれからもう、1週間くらい経っていますけど・・・、確か、数日で渡してくれることになっていたような・・・」
レイが、いい加減焦れて来たのか、催促する。
このところ、海図目当てに毎日占ってもらいに来ているのだが、一向に約束が果たされないのだ。
海竜のヒゲを持ち帰れば、海図を貰えることになっていたはずだ。
なにせ、次の目的地がはっきりとしないため、中央諸島周りの海域の周回コースから出られないのだ。
「おお、そうだったな・・・、ふうむ・・・、いつまでもこのままにはしておけんという事か・・・。
分った、海図は明日渡す事にしよう。
そのことが、お主たちにどのような影響を及ぼすのか、心配で躊躇っておった。」
占い巨乳美女は、突然厳しい表情に変わり、少し考え込んだ後そう告げた。
なになに・・・?我々の運命が変わるほどの事があるのか?
そんな大事な事なら、尚更、はやく・・・・、まあいい、明日ですね、明日を待ちましょう。
「でも、何があるのでしょうね、僕たちの身に災厄が降りかかるのか・・・。」
占い部屋から出た後で、源五郎が不安そうな顔をする。
「まあ、どんなことが起きるにしても、あくまでも冒険がらみのクエストだ。
危険な事はない・・・と言う事はないだろうが・・・、今やリセットもリプレイも効かないのだからね・・・。
でも、身代わりの指輪を大量導入したことだし、ちょっとやそっとの災厄であれば大丈夫だろう。
何とかなるさ。」
俺は、なるべく明るく答えた。
ツバサの事もそうだが、我々は最早ゲームキャラではなく、一個の生き物であるわけだ。
やはり、死にたくはないと思うし、何とか生き延びて、元の生活に戻りたいと言う気持ちは持ち続けている。
例え元の世界へ戻れないとなったとしても、恐らく死にたいとは考えないんじゃないかと思っている。
それは、俺だけではなくて、レイや源五郎もそうだろう。
そうして、タンクもそうであってほしいと願っている。
「これが海図だ。」
「おお、これが・・・って、あれ?」
何も書かれてはいないじゃないか。
この間まで行っていた、北部大陸の港町の所在が記載されている以外では、中央諸島のファブの港町と、海竜の里があった大渦の位置が記されているだけだ。
こんなんじゃ、次に行くべき道筋なんて・・・。
「仕方がないのだ、冒険者が行ったことがない土地の詳細を教えることは、禁じられておる。
冒険者の前に道は無し、冒険者の後に道は出来る・・・だ。」
占い師は、なんか訳の分からないことを言い始めた。
「この川の上流の位置に、×印が打たれていますよ。
恐らく、ここが次の目的地なんじゃないでしょうか。」
俺が途方に暮れていると、横から源五郎が地図の一点を指す。
「おお・・・、ちょっと手元が狂って、インクが垂れてしまったようだな・・・。」
占い師は俺の手から海図を奪い取るようにすると、すぐに服の袖で、ごしごしと擦り始めた。
そんなことをしたって無駄だ、場所はもう頭に入っている。
東部大陸北部の川の上流だ。
俺は、再度手渡された海図を持って、船長の所へ向かう。
「ふうむ・・・、東部大陸北部ねえ・・・、確か手前に大きな山脈があって南北を分断しているから、南側からは行く事が出来ないんだな。
一旦、東部大陸北側に上陸してから川をさかのぼるしかないはずだが、北部大陸との間の海峡には、北部大陸との間に架かる橋が作られていて、船が通れなかったんじゃなかったかな・・・?
いや、その橋が壊れちまって、人が渡ることも出来なくなったとも聞いたなあ・・・。」
船長が、海図の1点を指して説明する。
東部大陸西端の一部が突き出ていて、北部大陸東端と、接するくらいに近づいている場所がある。
その部分に橋が架かっているというのだ。
しかし普通ならば、橋の下側を船が通れるくらい、高い位置に橋を架けるのではないだろうか。
そうでなければ、跳ね橋みたいに可動式にするとか・・・、なんにしても、この場所に船を通すような工夫をするはずだ。
「まあ、まずは行ってみよう。」
船長の記憶もあいまいなので、確かめるために船を走らせる。
「港が見えるぞ・・・。」
暫くすると、船のマストの最頂部に上っている見張り番が、大声で叫ぶ。
「寄港してくれ。」
俺のリクエストに答えて、船が港へ入って行く。
「ここは北部大陸東部の、カンダラ村じゃ。
お前さんたちは、冒険者じゃな。
このさびしい村にも、つい先日までは冒険者たちが押し寄せておった。
村の外に出没する、魔物たちを狩ると言う事でな。
それももう、半月ほど前には終わってしまって、この辺りには魔物は1匹もおらん。
もう冒険者も、一人も居なくなってしまったぞ。
少し来るのが遅かったようじゃな。」
小さな漁村で定置網の手入れをしているおじさんが、さびしそうに話してくれた。
そうか、火山の噴火を沈めるために、俺達は時間がなかったから大凧を使って山脈を越えてショートカットをしたが、ヤンキーパーティたちが通常ルートで来た時に寄った村だろう。
こんなところまでも、他の冒険者たちはやってきて、発生した魔物たちを一掃して行ってくれたのだ。
本当にありがたい事だ。
しかし、この言葉に一番がっかりしたのは、他の3チームのメンバーたちだろう。
あわよくば、ここに残っている魔物たちを退治することで、レベルを上げることができたかもしれないのだ。
比較的魔物たちの出現率の高い、ダンジョンなども魔物が一掃されているから、クエストも発生しそうもない。
やはり、地道に海上の魔物たちを退治していくしか、方法はなさそうだ。
「それはそうと、この先の海峡に橋が架かっていて、船が通れないかも知れないと聞いたのですが、今はどうなっているか分りますか?」
俺は、おじさんに緊急の課題について聞いてみることにした。
「おお、北部大陸と東部大陸は、北東大橋で結び付けられていたから、昔は人の行き来が盛んだった。
元から船が通れない程、浅い海峡だったのでな、どこからも苦情は出なかった。
その頃は、ここは交易の中心地として栄えておったのだよ。
ところが、ある時を境に魔物たちが押し寄せてくるようになったんじゃ。
その、異形な者達が流入してくるのを止めようと、橋を壊してしまった。
今から5年ほど前の事じゃ。
それからは、人の行き来が無くなり、この村はどんどん寂れて行ったんじゃ。」
おじさんは、段々と涙目になってきたようだ。
かわいそうに・・・、というか、5年前だって???
俺たちがこっちの世界へやってきて、まだ半年も経過していないと言うのに、どうして5年も前から魔物たちが・・・、というか、そうか、このおじさんも俺たち同様にゲームの中のキャラな訳か・・・。
ギルドの受付嬢もそうだが、この星の人たちの外見に合わせて作られているので、時々間違ってしまう。




