第70話
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長い長い坂を登っては折り返し、また登る。
段々と上の方が明るくなってきて、やがて気が付くと、いつの間にか船の上に居た。
戻って来たのだ。
「本日の放送分の編集はすでに終わっています。
後はお祈りの時間に、また集合していただきます。」
インカムを付けたテレビスタッフが、笑顔で出迎えてくれた。
もうそんな時間か・・・、俺はテレビスタッフにお願いして、防水仕様のテレビ受信機を貰って、それを渦の中に投げ入れた。
これで、奴らも毎晩テレビ放送を見ることができるようになるだろう。
長い1日というか、2日間だった・・・、まあ、まずは飯だ。
レイを誘って、船の中の食堂へ・・・、あれ?真っ暗だ・・・
『パーンッ』『パーンッ』突然の銃声に身構える。
『パチッ』明かりがついて、周りにはたくさんの人が・・・、中には源五郎やツバサも・・・・。
「おめでとうございますー!」
いつものテレビスタッフが、インカムも付けずにやって来た。
手には大きなケーキを持って。
なに?誰かの誕生日か?そうか、レイの・・・?
俺はそう思って振り向くが、レイも小さく首を振る。
『お二人の事、応援しますよー!』『婚約おめでとう』『いつ結婚するんだい?』一斉にみんなから祝福されて、ようやく思い出した・・・、そう言えばレイとの関係を昨日、カミングアウトしたんだった・・・。
「知らないっ・・・。」
そう言い残してレイは、走って部屋に戻って行ってしまった。
「いやあ、昨晩の放送から、本社の電話が鳴りっぱなしなようですよ。
中にはレイさんは俺の物だとか、手を引けなんてのもあるようですが、大半がお二方を応援する声の様です。」
スタッフが、豪華な料理をテーブルに並べてくれる。
まるで結婚披露宴だ。
この日は、みんなから冷やかされて、酒を振る舞われて終わった。
顔を真っ赤にしてお祈りに参加するのは不謹慎とも思ったが、おめでたいんだから問題ないと、スタッフに励まされての出演だ。
料理はオリに詰めてもらって、レイの部屋のドアの脇に置いておいてやった。
明日には機嫌を直して出てくるだろう。
翌朝、新人3チームを呼び出して、全員に一つずつ身代わりの指輪を手渡した。
さらに、チームリーダーを呼び出して、こっそりと・・・。
「各チームに、予備として3つずつ渡しておく。
放送を見ていてわかっただろうが、こちらは13個で、そっちは1チーム当たり7個で3チーム合計21個だ。
俺達のチームの方が多めに貰っているが、悪く思わないでくれ。
俺達の方が、多少なりとも危険が高い冒険をするのだからね。」
俺は正直に配分の説明をしておいた。
後で少ないとか言われる面倒を避けたいからだ。
「いや・・・、まさか、俺達にまで身代わりの指輪がもらえるとは意外だった。
だから、ありがたく頂戴しておくが、一人一つずつで良い。
その9個は、君たちが予備として持っていた方がいいだろう。
なにせ、俺達はあくまでも後方支援というか、平原や太洋の魔物たちを相手に戦うだけだからね。
身代わりの指輪が必要な場面なんか、恐らくやってこないだろう。
だから、アクセサリー代わりに一つだけ貰っておくよ。
ありがとう。」
そう言って、彼らに頭を下げられてしまった。
おいおい・・いいのかい?
みんな欲のない・・・。
「ええっ・・・、あたしだけが、こんなたくさんの指輪を付けられませんよ。
皆さん公平に、3個ずつつけましょ。
サグルさんはリーダーなんだから、4個付ければいいんですよ、いっつもみんなの盾となって働いているんだし。」
全ての指に身代わりの指輪を付けろと命じた途端に、ツバサが頬を膨らませた。
「いや、そうはいかん。
俺達と違って、ツバサはたった一つの命だ。
俺達は別に死にたい訳ではないと思っているが、万一死んだとしたって、俺達の本体は遥か遠くの地球という星で元気に生活しているのが分っているから、悔しくはない。
もともと、ゲームとしてこの世界に来た訳だからね。
それに、俺達の冒険は中継をされているから、ツバサが倒されてその命を散らすところを、君の家族に見せるわけにはいかない。
だから、これは命令だ。
指輪を全部つけなければ、今後俺たちの冒険には参加させられない。」
俺は、きっちり宣言した。
こんなものがなかった時ならともかく、今は身代わりの指輪という物が現実として存在するのだ。
最大限、有効に活用させていただくつもりだ。
「わ・・・分りました・・・。」
ツバサは頬を膨らませたまま、涙目で俺を見つめてくる。
「で・・・でも、そうですよ・・・。
あたしは身が軽くて、すぐにどこへでも飛んで行けますから、誰かが危うくなって身代わりの指輪を使ってしまった時に、あたしがそこへ飛んで行って指輪を届ければいいんですよね。
すぐに指輪を渡せば、みんな助かるんですものね!」
ツバサは、そう言って自分自身を納得させるかのように頷く。
「まあ、そういう事も・・・ありかも知れないね。」
俺は小さく返事をした。
「はいっ、身代わりの指輪の補給係を仰せつかりました!」
そう言って、元気にツバサは返事をした。
なーんてことがあったというのに・・・、仕方がないので、源五郎とレイに3個ずつ指輪を渡して、ツバサにもそう断わっておいた。
そんなことを考えていると、船の上に青い光が・・・、ふと見上げると、ブルーマンだ。
「昨日はありがとう、久しぶりに家に帰ってゆっくり寝たよ。
これを君に返さなくっちゃね。」
ブルーマンが手にしているのは、青々とした木の葉・・・、復活の木の葉だ。
そう言いながら降りてきて、木の葉をツバサに手渡す。
わざわざ採って来てくれたんだ、なんて律儀な・・・。
「君たちの事はイエローマンから話を聞いて、それからレッドマンとも話し合った。
それで彼が行なっている、君たちの仲間の訓練の手伝いというのも見学してきた。
それを見て僕も考えたんだ、この船にも君たちの仲間が沢山いて、戦いのための訓練をしているんだろ?
僕にもその手伝いをさせてくれないか?
まる20年間も閉じ込められていて、まだ体の動きが堅いから、迷惑かも知れないけど、何か君たちの役にたつことをしたいんだ。
いや、これはどちらかというと、僕の為でもある。
なにせ、僕の担当は、この広い海洋担当だからね。
ここの魔物退治は、今の僕の緊急課題なのさ。」
突然、とてつもなくうれしい事を言ってくれる。
そりゃ、ブルーマンが来てくれるのなら・・・、俺達なんかよりはるかに強い世界最強が、彼らの面倒を見てくれるなんて・・・。
「ありがとう、迷惑だなんて・・・、世界最強のブルーマンだもの、ちょっとくらい体がなまっていたって、俺達よりもはるかに強いはずだから助かるよ。
彼らは、ちょっと出遅れてしまったが、元々こういった冒険好きの集まりだ。
レベルさえ達成すればすぐに独り立ちできる。
申し訳ないが、それまでよろしく頼むよ。」
俺は手を差し出して、ブルーマンとがっちりと握手をした。
彼らがある程度のレベルに達するまでは、どこへも寄港しないつもりでいた。
なにせ、これから上陸する土地は、恐らくどんな場所でも彼ら新人たちよりはるかにレベルの高い場所のはずだ。
そんなところへ彼らを連れて行く訳にもいかないが、かといって今のレベルでは海に巣食う魔物ですら、対抗は難しいだろう。
連れ出してしまって今更ではあるが、彼らの成長なくして俺たちの冒険の再開はないとまで、覚悟していたくらいだ。
それなのに、彼らの面倒を見ていただけるなんて・・・、最高だ。
早速、最寄りの寄港地へ行って、冒険再開と行こう。
「おお、これが海竜のヒゲか・・・、硬く真直ぐだから海図を巻く芯には最適なのだ。
これで、本格的に海図をまとめることができるぞ。
数日後を楽しみにしておるがよい。」
とは、占いバ・・じゃなかった、巨乳美女のコメント。
なんとまあ、海図を丸める芯棒を探していたとは・・、そんなもの、何でもいいんじゃないのかい?
だがまあ、なんにでもこだわる人はいる訳だし、そう言う人の方が仕事は丁寧な場合が多いのだから、海図の出来上がりに期待しておきましょう。
海図が出来上がれば、寄港するべき港の見当もつくはずだし、冒険の再開が近いのは間違いがない。
後は四竜がどうとか言っていたことが気になるな・・・、昨日までのが海竜だろ・・・。
まあそれとなく色々と占ってもらっていれば、次に行くべき場所に導いてくれることだろう。
「みてみるだ・・・、昨日までの冒険ってとこに映っているのは、オラ達でねえか・・・?
やっぱりオラ達だ・・・、映ってる映ってる・・。
あの人さ言っていたこと、ほんとだったんだべさ・・。
それにほれ、海の上に出てくる魔物たちの凶悪そうなこと・・・。
冒険者の人たちが、苦労して苦労してようやく倒せるくらいにつええんだ・・・。
こんただ魔物さ出てくる世界なんて・・・、絶対危険だ・・・。
もう毎日必ず、はよ元の世界さ戻して下せえって、祈らねばなんねえ。
ぜってえだかんな、忘れちゃいけねえぞ。」
半漁人の村では、冒険の放送を村人総出で視聴していた。
そうして、ナナセの言葉通り、しっかりと祈りも・・・。
「それにしても、ハチベエとっつあん・・・、こんどのやつには一杯食わされちまったな・・・。
村のお宝ばかりか、大事な身代わりの指輪まで、根こそぎ持ってかれちまっただ。」
十四朗が、頭を掻きながら苦笑いを浮かべる。
「まあ仕方がねぇ・・・、こんなこともあるさ。
それでも照明は手に入れてくれたし、魔物は片づけてくれたし、万々歳だ。
これでまた、20年間は安泰という訳だ。
それで、20年も経てば、照明が朽ち果てるとともに、お宝が・・・。
今度の照明は、ひときわ明るいからな・・・、あれはすごいぞ、俺の見立てでは、身代わりの指輪、百個は入っているだろう。
そうなりゃまた、それを使って一芝居うてば、おれ達に代わって、照明を採って来てくれたり、魔物を退治してくれたりする、ありがたい御仁が現れてくれるさ。
俺たちは、なーんにもすることはねえ、勝手にやってくれるんだから、楽なもんだ。」
ハチベエは、そう言って高らかに笑った。
続く
終わりよければすべて良しとまではいえませんが、何とか無事に海竜のお宝をゲットしたサグルたち。さらなる波乱の次章へ向かいます。




