第7話
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「同行って?」
「先ほど、受付の様子を伺っていましたら、今日のクエストは東の森の洞窟に関する内容でしたね。
僕たちも、その洞窟のクエストを受けて来たのですよ。
光コケの採取ですけど・・・。」
「ああ、それは俺たちも昨日やったクエストだ。」
「知っています。で、昨日済ませた方たちなら、結構簡単に洞窟内を進んで行けるのではないかと・・・。
それで、同行をお願いしてもよろしいでしょうか?」
ふうむ・・・、ここまでの会話で、俺には何のことかさっぱりわからない。
なにせ、クエストを引き受けるのはパーティ単位であり、別パーティのメンバーは参加したところで経験値も報酬の金も受け取ることは出来ないのだ。
一体何を言いたいのか・・・さっぱり判らん。
「洞窟内を進むときに、後ろをついてくるのは構いませんけど、クエストを完遂する為に倒さなければならない魔物は、自分たちで処理してくださいよ。
そこまでの面倒は見きれませんからね。」
源五郎が少しきつい目つきで、4人組に相対する。
まあ、一緒に来たいと言っているのだから、断る理由もないし、もう少し優しく言ってあげても・・・・。
「はい、もちろんです。」
そう言って4人が一斉に頭を下げる。
「じゃあ、行きましょう。」
源五郎はそういうと彼らに一瞥くれて、村の東側の出口へと向かって歩き出した。
「どういった事なんだい?
俺にはさっぱり・・・。」
事情が呑み込めないまま、彼について早足で歩き、小声で問いかける。
「どうって、そのままですよ。
僕たちのパーティで、洞窟内の露払いをしてもらって、自分たちは安全に目的地まで達しようという魂胆です。」
源五郎は、後ろを振り返ることもなく、早足で歩き続ける。
「ふうん・・・、そうか、いわゆるコバンザメ戦法だな。」
俺は、なかなか考えるものだと感心して、後ろの4人組を歩きながら振り返った。
まあ、別に禁止されていることでもないし、断ったところでこっそり後を付けてくる可能性だってあるし、なんにしても素直に申し出てきたのには感心した。
彼らには拍子抜けだろうが、魔物に出くわすこともなく、東の森へと到達した。
そのまま東へ歩き続け、丘にある洞窟へ入って行く。
洞窟の中には、昨日と同じくこぶヤモリとコロネサソリが群れをなしていた。
俺とタンクがこぶヤモリを主に担当し、源五郎とチョボがコロネサソリを担当する。
しかし、どうもコロネサソリは火には強いようで、炎の弾が当たっても一撃では倒せない。
数発撃って、ようやく倒せる様子なので、今度は俺がコロネサソリを担当し、チョボにはこぶヤモリを担当してもらう事にした。
炎の玉は連射が利くようなので、問題ないだろう。
俺も、鉄の剣を手に入れたので、コロネサソリの分厚い装甲をものともせずに、真っ二つに切り裂いていく。
やがて、洞窟の壁一面に光コケが生えている場所に出た。
「じゃあ、あとはよろしく。」
そう言いながら、俺たちは先へと進んで行く。
ライオン亀は、向かって行かない限り、横を通り抜けても平気なようだ。
残った4人組との戦闘が始まったようで、何やら後方がにぎやかになった。
「こんな形で経験値を稼いでも、うまくはいかないですよ。
なにせ戦闘経験は、戦って培っていくものだと僕は思っています。
折角洞窟内で弱い魔物たちと戦えたのに、それを避けていきなり強めの魔物と戦う訳ですからね。
いくら、戦いのたびに経験値や金がもらえるような昔のRPGと違うとはいえ、経験というのは重要となってくるはずです。
今頃彼らも、後悔しているでしょう。」
そう言いながら、源五郎はちらりと後方へ目をやった。
村を出てから、初めて後ろを気にしたのだ。
ふうむ、そういうことか、経験値などはクエストの質を高めていくための指標でしかなく、あくまでもそれまで戦ってきた経験がものを言うと。
現実世界同様に、繰り返し戦って行く事により、体が覚えていくのだ。
そう言う事なのだろう。
まあ、そう言い含めたところで、納得しないやつらは我を通そうとするだろうから、あえて説得はしなかった訳だ。
少し進むと、1本道だった洞窟内に分岐が現れた。
道が二股に分れているのだ。
「さて、どうする。
俺は分岐の際には、必ずどちらか方向を決めて進んで行き、駄目なら直近の分岐へ戻って反対方向へ進むという、いわゆる総当り的なやり方をする。
中には、勘に任せてジグザグに進んで行く奴もいるようだが、余り得策とは思えんね。」
俺は、皆の顔を見回す。
「ああ、俺もそう言ったやり方がいいと思う。
やみくもに動くと、同じところを何度も回る破目になりやすい。」
チョボの言葉に、源五郎もタンクも同様に頷いている。
「じゃあ、まず分岐は全て右へ行く事にする。
もし、はぐれた場合は、そうやって後を追ってくれ。
3方向へ分岐している場合は、最初は右で次は中だ。」
俺はそう告げると、右へ折れた。
暫く進むと、また分岐だ。
俺は指を折って、2つ目を数える。
よく見ると、源五郎は紙に何か書いている。
洞窟内の略図を描こうとしているようだ。
そう言えば、道具屋では紙とペンなど文房具も売っていた。
大抵のゲームでは売ってはいないのと、結構高値だったので俺は素通りしたのだが、奴は購入したのだろう。
さすがだ、薬草の2〜3個くらいは分けてやらなくては・・・。
この分岐はすぐに行き止まりとなった。
ここでは、天井からぶら下がった蝙蝠のような魔物たちに襲い掛かられた。
キーンという耳をつんざくような高音を浴びせられ、思わず蹲ると背中から噛みつかれる。
胴巻きをしているので、背中からの攻撃もダメージはなかったが、竹を削られた。
俺は、やみくもに刀を振り回すが、なかなか当たるものではない。
ひらひらと簡単に躱されてしまう。
「火炎弾!」
チョボが呪文を唱えると、いくつもの炎の玉が発射され、そいつはぱっと空中で燃え上がる。
魔法攻撃は有効なようだ。
一瞬燃え上がった灯りで洞窟内が照らされると、蝙蝠たちは一瞬たじろいだように感じた。
強い明かりは苦手なのだろう。
俺は剣をしまい、地面に置いた松明を振り回して、蝙蝠たちを追い払う。
よく見ると、体の割に大きな頭をしていて、顔の半分はありそうな大きな目玉が2つのすぐ下には、牙が並んだ口が頭の後ろ側まで回って裂けている。
見た目、かなり狂暴そうだ。
すぐに戻って、2つ目の分岐を今度は左に曲がる。
蝙蝠たちは追ってはこないようだ。
そうして、上ったり下ったりも繰り返しながら、こぶヤモリやコロネサソリに加え、口裂け蝙蝠の相手をしながら先へと進んで行く。
そのうち、蝙蝠にも剣を振るえば当たるようになってきた。
ひらひらと飛ぶ奴らに、タイミングが合ってきたようだ、これも慣れなのか上達したのか。
そうして、洞窟の最深部とも言えるような場所に、そいつはいた。
夕闇を思わせるようなオレンジの淡い光に照らされた、大きな鈴のような花弁の花。
「どうやら、こいつが黄昏草のようだな。」
タンクはそう言うと、花を摘もうと茎に手を伸ばす。
すると、鈴のような花がひょいと動き、そこから真っ赤な舌が出てきて、タンクの手を舐めようとする。
「おおっ!」
慌てて手を引っ込めるタンク。
「待て待て、黄昏草の樹液は猛毒となっている。
一応毒消し草は皆持っているだろうが、触らないに越したことはない。」
俺はそう言って、皆を制した。
「おいおい、早く言ってくれよ。」
タンクが、悲しげな目つきで見つめてくる。
「申し訳ない、うっかりしていた。
凍らせて捕獲するのがお勧めとなっている。
チョボ、凍らせる魔法は使えるかい?」
俺は、チョボの方に振り返る。
「ああ、調べるから、時間をくれ。」
そう言ってチョボは、初級魔法の本のページをめくる。
突然ドスンという音と共に、真っ赤な塊が上から落ちてきた。
「ウォー!」
雄叫びと共にそいつは立ち上がる。
昨日と同じ、ライオン亀だが色が違う、昨日は青みがかっていたが、今日のは赤っぽい。
「グゥォー!」
そうして、火炎を吐いてきた。
どうやら、黄昏草の番人(亀?)の様で、採ろうとすると出現するのだろう。
タンクが奴の目の前を素早く動き、注意を引く。
同時に俺は火炎を躱すと、脇腹目がけて剣を突いた。
昨日の戦いで、なんとなく脇腹が弱点のように見えたのだ。
「くぅぉーん」
案の定、悲しそうな遠吠えを吐き、そいつは崩れ落ちた。
なんか、体の動きが良い、さっきまでたくさんの魔物たちを相手に戦ってきたから、体が温まっているのか。
「冷凍!」
チョボが唱えると、一瞬で黄昏草が凍りついた。
タンクが根元から摘みとり、袋へと入れる。
すると、目の前に鉄の足当てと道着のズボンと、とんがり帽子と魔法使いの靴が現れた。
拳法着のズボンと魔法使いの靴に関しては、もめることなくそれぞれの手に。
問題はとんがり帽子と鉄の足当ての分配だが、なぜか源五郎はとんがり帽子を取った。
「鉄の足当ては重いので、動きが悪くなるから。」
というのが奴の見解だ。
俺が鉄の足当てを獲得し、すかさず着替える。
そうして、
「悪かった、先にクエスト票を確認しておかなければならないな。
ちなみに、次の宿り木は狂暴で、粘液を吐きかけてくると書いてある。
粘液自体に毒性はないが、体の動きが悪くなるので注意となっている。」
気にしていないつもりではあったが、会社でのことがあって、ぞんざいになっているようだ。
俺は気を取り直してタンクに対して頭を下げて詫びると、宿り木のクエスト票を確認して、皆に注意事項を知らせた。
その為のクエスト票なのだ、色々と相手の情報が記載してあるので、その情報を共有しなければならない。
俺は、改めてリーダーの役割を認識した、ただ、奉られていればいいという訳ではないのだ。
「と同時に、何かルール的な事が分って来た。
今の戦いでは、俺が亀野郎にとどめを刺したし、チョボやタンクはそれなりに加勢していた。
源五郎は対応が遅れたのか、何もできなかった。
そうして出て来たアイテムがこれらだ。
つまり、そのクエストで活躍したり、中ボスのとどめを刺した奴に対し、有利な品物が出現するように考える。
昨日のクエスト後に出現したアイテムを考えても分かるだろう。
だから、次のクエストは、源五郎が活躍というかとどめを刺してくれ。
これからも、順にそうやって各人にアイテムが配分されるよう、分担して行こう。
勿論、その順の奴だけが戦うのではなく、痛めつけるまでは全員でやって、最後のとどめだけ順にすればいいと思っている。
毎回アイテムが出る訳でもないだろうが、やはりゲームの性格上、初期のうちはアイテムが出る確率は高いだろう。
なにせ、攻略させたい訳だからね。
アイテムが出なければ、順番はそのまま次へ持ち越すことにして、各自公平に良いアイテムが渡る様にしよう。」
「おお、そういうことかぁ、分った。」
「ああ、いいとも。店で買うアイテムを減らすことができるから有利だしね。」
「了解しました、次は頑張ります。」
俺のつたない説明を理解してくれたのか、全員順番制を納得してくれたようだ。
どうやったらそんな器用な事が出来るのかは全く分からないが、活躍順に出現アイテムを変えているのは間違いないだろう。
とりあえず、薬草を使って各自体の怪我を治す。
チョボは相変わらず弁当を食っている。
薬草は、2枚使ったら元気になった。
来た道を戻り、洞窟中部の分岐へ出る。
ここを左へ行けば、新たな道だ。
新たな道に入った途端、つま先に異変が。
地面を見ると、モグラのように土の中から顔を出した魔物が、俺のつま先にかじり付いているではないか。
たまたま鉄の足当てに履き替えたから良かったが、革製のブーツだったら、指を食いちぎられていたかもしれない。
それくらい、大きな口と鋭い牙の持ち主だ。
「やばい、下からの攻撃だ。
足元に気を付けろ。」
俺はそう言うと、地面に剣を突き刺した。
「ピキュー」
と言って、確かな手ごたえはあった。
しかし、1匹だけとは限らない。
「俺が先頭を歩くから、みんな俺の足跡に従って、付いて来てくれ。」
俺はそう言いながら、袋の中から銅剣を取り出すと、地面に突き刺し始めた。
鉄剣が痛むので、もう使わない銅剣の活躍の場だ。
今朝売り忘れたのが幸いした。
なにせ、普通のRPG同様、袋に入れてしまえば、道具の重さや大きさは、さほど気にならないのだ。
ぽ○ぽ○カプセルのような感じの袋だ。
金に困らない限り、アイテムは売らない方がいいのかも知れない。
但し、あくまでも自分が使う道具やアイテムに限られ、クエスト対象の黄昏草などは採集用袋に入れて、袋に保管できるが、クエスト対象以外の草木などは袋に入れることは出来ないそうだ。