第69話
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『ギリギリギリギリ』半漁人の村人が、洞窟の壁に備え付けてあるハンドルを回す。
どうやら、細いワイヤーが巻かれているようで、回転するごとに青い人型が段々と橋の方へと近づいてくるのが見える。
段々と近づいてくるそのタイツには、なぜかふくらみが・・・。
『ダッ』真っ先に駆け出したのはツバサだった。
俺も一本橋を駆けて、青いタイツに寄って行く。
「馬鹿な・・・。」
最初は、木の人形のようにも見えたそれは、全身タイツ姿の、まさにブルーマンそのものだった。
俺がその体を抱えて、首をつっているロープを外し、ツバサが後ろ手のロープをほどきにかかる。
そうしてブルーマンの体を抱きかかえると、一本橋を駆け戻る。
「はあはあ・・・、息はあるかい?」
胸の所に耳を当てて心臓の音を確認しようとするツバサに問いかける。
「は・・・はい・・、とても弱いですが・・・、何とか・・・。」
ツバサはすぐに袋の中から復活の木の葉を取り出すと、ブルーマンの口の中に押し込んだ。
「超人だか何だか知んねえが・・・、海竜様に食わせてみたって・・・吐き出してしまうし・・・。
首をつっても、いつまでも死にやがらねえ・・・、仕方がないから、あそこにずっと吊っておいただよ。
あの橋を通るたんびに見ちまうもんだから、終いに村人たちも一本橋の方へは誰も行かなくなっちまった。」
恐らく俺と同じように、だまし討ちのような事をして、ブルーマンが負けたことになり、海竜の生贄として捧げられたのだろう。
それが失敗して、更に殺すことも出来ないと知り、そのままずっと宙づりだって・・・?
そんな状態でも生きているブルーマンもすごいが、どうして逃げ出さずに・・・、あんただったら、こんなロープ軽々とぶちぎることだって・・・。
「うっ・・・うーん。」
「はっ・・、ブルーマンさん、ブルーマンさん、大丈夫ですか?」
ツバサがブルーマンの体をゆする。
「うん?君は・・・?」
復活の木の葉の効果か、意識を取り戻したブルーマンが、辺りを見回す。
「あ・・・あたしは、レッドマンさんの知り合いの、ツバサと言います。
アンズ村の生まれで・・・。」
「おうそうか、レッドマンの・・・。
奴とも久しくあっていないなあ・・・、このところの超人会合もさぼり気味だったしなあ・・・。」
さぼり気味って・・・、あんたはここでずっと捕まっていたんでしょ?
「ブルーマン、話せば長くなるが、この星は俺達のゲームの世界と合体してしまって、こんな大迷惑な奴らが、次元を超えてやって来てしまった。
魔物たちも多く出現して、イエローマンやレッドマンとも協力して、一般人に被害を及ぼさないようにしている所だ。
最終的には、この星中の魔物をすべて駆逐してから、俺達は元のゲームの世界に戻る様、願っているのだが、今回海に出てみて、どうしていつも顔を出してくる超人がやってこないのか疑問に感じていた。
こんなところに捕まっていたとは・・・、これも、俺達厄介者がこの世界に飛び込んできたことが原因だ。
申し訳ない気持ちでいっぱいだ。
本当にご迷惑をおかけした、こいつらには、2度と悪さをしないようきつく言っておくから、恨まないでくれ。
じゃあ、一緒にここを出よう。」
俺はそう言って、倒れたままの体を起こそうと、手を差し伸べる。
「いや、行けないよ・・・。
僕は最早世界最強ではなくなってしまったんだからね。
なにせ、彼に負けを認めたわけだから。
だからもう、この星の人たちを守っていくなんて言う、そんな偉そうなことは言えなくなってしまったんだ。
もうこのまま、だれにもみとられずに、朽ちて行く定めなのさ。」
ブルーマンはそう言って小さく首を振った。
そんなこと考えているから、逃げ出そうともしないで、たった一人でこの暗い洞窟の中で20年間も・・・。
「ブルーマン、こんなやつらの言う事なんか、真に受けることはない。
俺は今こいつと決闘をしたんだが、自分が負けた時には何も言わずに、俺が負けた時にだけ勝者は敗者の処遇を決定できるなんてとんでもないことを言い出しやがった。
最初のうちは冗談かと思っていたが、実は本気だったと分かり再度決闘をして今度は俺が勝った。
ところがこいつは、さんざん命乞いをして、何とかして許してもらおうとしやがった。
自分は本気で俺の事を殺そうとしていたにもかかわらずにだ。
こんなやつらの言う事を、まともに受け止める必要性なんかないって・・・。」
俺は、必死でブルーマンを説得しようとする。
「いや、駄目さ・・・、どんな形であっても負けは負けさ・・・、それは変えられないよ。」
ブルーマンも意外と頑固だ、
「負けって言ったって・・・、どうせ詐欺みたいな形で、負けたって言わされた訳だろ?
向こうは負けても負けても、何度でも挑戦してきて・・・、いい加減終わらせようとして、負けたっていった途端に、掌を返したみたいに、敗者には死を・・・、なんて言われたんじゃないのかい?」
「ああ・・・、照明の魔物を怒らせたとか言われて、その責任を取って魔物を退治してきたのはいいが、今度は村長の座をかけて決闘だって申し込まれて・・・、負けるわけにもいかないから、軽く殴っただけで、すぐに勝ってしまって・・、それでも、日が変わるたびに再戦だって言われて・・・・、切りがなかった。
そのうちに、2ヶ月も経ってしまったから、僕の担当地域をいつまでも留守には出来ないと思って、いい加減帰るっていったんだけど、戦いに勝っているうちは絶対に帰さないって言い張られて・・・、仕方がないから降参したんだ。
どの道、僕のパンチが当たったって、手ごたえがなかったし、相手もピンピンしていたからね。
毎回、相手が降参するのが不思議に思っていた位だったし・・・、それで・・・。」
ブルーマンが、恥ずかしそうにうつむき加減で答える。
やっぱり俺の時と同様の事が行なわれた訳か・・・、しかも、2ヶ月間も挑戦し続けたとは・・・。
恐らくアンコウナマズの皮の硬さから言って、光の池で眉間に剣を突き刺したところで、普通の力じゃ息の根を止めることなどできなかったはずだ。
だから、そんな忠告をすることも、なくなって行ったのだろう。
どの道アンコウナマズは毎回暴れて、それを勇者が退治しに行かなければならないわけだ。
それをもっともらしく、そいつのせいにするための段取りをしているだけなのだ。
「だから、騙されているんだって・・・。
ブルーマンが勝った時に、その相手は死を迫られるか、良くても追放だったわけでしょ?
それなのに、村に居座って、毎日挑戦し続けていた訳だ。
自分たちで作ったルールを、守ろうともしないやつらのいう事を聞く必要性はないよ。
それでもどうしても気が済まないなら、今度はブルーマンが挑戦すればいい。
ここの村人は、いつでも誰からの挑戦でも受けなければならないんだったね、ハチベエさん?」
俺はブルーマンが現れてから、段々と後ろの方へ下がって行く、ハチベエさんを最前列に引き戻した。
「あっああ・・・。」
ハチベエさんは、聞こえるか聞こえないかくらいの小さな声で答える。
「分った・・・・、そうだね、今度は僕から挑戦させてもらうよ。」
ブルーマンが立ち上がると、村人たちはさっと後方へ下がって、ハチベエさんと二人だけが残される。
「僕のパンチなんか、ちょっとも効いてはいないんだろうから、今日の所は本気で行くよ。
おりゃーっ!」
「参った・・・降参。」
ブルーマンのパンチが当たるどころか、構えに入ったところで、ハチベエさんは降参した。
そりゃそうだろう、奴は身代わりの指輪を身に着けていないのだろうからな。
「えっ・・・どういう事だい?
効かないパンチなんか、受ける必要もないって事かな?
でも、これじゃ、僕が勝ったことにはならないだろうし・・・。」
ブルーマンも、握った拳のやり場に悩んでいるようだ。
「いや、勝ったんだよ、ハチベエさんは身代わりの指輪を身に着けていたから、平気でブルーマンのパンチを受けることができたんだ。
ところが、今はその指輪がないから、恐ろしくてパンチなんか受けられないって事なのさ。
それでも、どうしても気が済まないんだったら、軽く殴ってやるといい。
本当のパンチを体に教えてやった方が、いいような気もするしね。」
俺が、納得できそうもないブルーマンに説明してやる。
「そうか・・・じゃあ、ごく軽めに・・・。」
「いや・・、本当に参った・・・、これ、この通り・・・降参。」
そう言って、ハチベエさんは、その場に膝をついて土下座した。
「これで、気が晴れただろう?
こんなやつ、殴るにも値しないよ。
もう帰ろう。」
「ああ、そうだね・・・、敗者は死だって平気で言っていた割に、自分の時は殴られるのも拒否するんだものね。
こんなやつらの言う事を、正直に受け止めていた自分が情けないよ。」
ブルーマンはそう言って、洞窟を戻り始めた。
「今までは、イベントやダンジョンの人たちに、これと言ってお願いすることはなかったが、この村の人たちを見ていると、確かに自我を持っているようだ。
そうなると、俺達が必死に毎晩祈っていたところで、君たちが願っていなければ関係者全員の願いという事には、ならないかも知れない。
そこで俺からのお願いというか、これは命令だ。
これから毎晩、テレビ放送を見て、俺達と一緒に元のゲームの世界へ戻ることができるように祈り続ける事。
1日でもサボってはいけない。
カメラをセットして、中継ボックスと一緒に置いておくことにする。
テレビ局スタッフにお願いして、毎日見張っていてもらうからな。
お祈りをさぼろうものなら、必ずもう一度やってきて、決闘を申し込ませてもらう。
今度は指輪なしで、更に手加減なしで相手をさせてもらうので、覚悟しておくように。
いいね!」
俺は、村人たちにこの世界で起こっていることを簡単に説明した後、毎晩テレビ放送の時に祈るよう命じた。
そうすることが、この村の為でもあることを、じっくりと言い含めて。
テレビは持っていないだろうから、後で届けると言っておいた。
「わ・・・分っただ・・・、敗者は、勝者の言いつけを守らねばなんねえだ・・・。
これが生かしてもらった敗者の務めだ・・・。」
十四朗も、観念したように頷く。
「じゃあ、又冒険者がこの村を訪れることがあるかもしれないが、その時は詐欺まがいの行為はせずに、丁寧に応対するんだよ、いいね。」
俺は更に念を押してから、彼らに別れを告げた。
そうしてブルーマンと一緒に崖に設けられた、きつい傾斜の坂を登って行く。
「なんだかんだ言って、うまく行きましたけど、これがゲームのシナリオだとしたら、随分と複雑なことしますね。」
源五郎が真っ先に俺の所に寄って来た。
「うーん、あんなのがシナリオだとすると・・・、相当ひねくれた奴が書いたものだな・・・。
それに、あのやり方だと、もっと別な方向に話が流れて行ってしまう懸念があるから、普通はやらないだろ。
なにせ、ずうっと勝ち続けられたらどうなる?
身代わりの指輪も無くなって、本当に決闘相手を殺してしまうとか・・・、そうすれば宝は全て手に入れて、更に村を出て行くことも出来たはずだ。
それでもいいのかも知れないが、本当はもっと別のシナリオだったんじゃないかと思うよ。
多分決闘とかはあったにしても、もっとこう・・・、本気でやり合ってみたいな・・・。
なにせ最初のうちは、本気で相手を殴ろうなんて考えても居なかったからね。
挑発されたせいもあったけど、身代わりの指輪を使っていたから、力を込めて殴っても手ごたえが全くなかったから、段々と本気になって行っただけであって・・・、もっと違った戦い方が・・・。」
俺は、何度も思い描いた理想の結末を想像する。
「どうかしらね・・・、最初はお宝も何もなしで帰される時に、たまたま地震が起きたわけでしょ?
そんな偶然ってある?やっぱり全て含めてシナリオ通りなのよ。」
レイは俺の考え方に否定的だ。
「しかしだ・・・・、本来ならば、関わりのないはずの、ブルーマンが関係しているんだぜ?
少なくともその時点でシナリオは変わっているはずだ。
しかも、20年も前って・・・、時間軸までもがズレてこの世界に融合したと言う事かい?」
俺は俺なりに組み立てた理論を振るう。
「だから・・・・、そのブルーマンも含めてシナリオな訳よ。
じゃなきゃ絶対におかしいでしょ?
まだあたしたちがこのゲームを始めて、何ヶ月も経っていないわけだし、こっちの現実世界へ来てからだって、まだ4ヶ月位なものよ。
それがどうして20年も前からってことになるの?」
レイがいう事は尤もだが・・・。




