第67話
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大体あんたは、さっき負けただろ?
そりゃ手ごたえも何もなかったが、それでも降参って・・・、負けを認めたはずだ。
その時は、敗者を如何こうする話なんて、まったく出ずに、俺が負けた途端に敗者の処遇を決めていいだなんて。
そりゃ、あの時にどうするのかって問われたら、死なんていうはずもない、せいぜい追放としか言わなかっただろうけど・・・・、そうした上で、今度は俺も追放って事に、お互い様ってことになったんじゃないの?
俺は大勢の村人に取り囲まれて、下着姿のままで後ろ手に縛りあげられてしまった。
「ど・・・どうするの?
村人達とも戦うっていう、新しいスタイルのダンジョン?」
レイも源五郎も、対処を決めかねている様子だ。
『シュタッ』唯一ツバサだけが壁を蹴って跳躍する。
「ツバサ、止めるんだ。
村人たちに怪我をさせてはいけない。」
俺はすぐにツバサを制した。
「で・・でも・・・。」
ツバサは頬を膨らませる。
「大丈夫だ・・・、まさか、本当に命を奪うなんて事、するはずもないさ。」
俺は、未だにこの状況を、クエストの一環としてとらえている。
「では、これから海竜様に捧げる、生贄の儀式を行う。
連れて行け!
それから、照明を持ってこい。」
ハチベエさんが、厳粛な顔で指示を出す。
俺は村人たちに小突かれながら、窪地の階段を上がって、洞窟の方へ連れて行かれる。
洞窟の中はひんやりしていた。
既に2度入った洞窟だが、その時は鎧と兜を身に着けていたので、周りの雰囲気などほとんど感じることはなかったのだが、今はシャツとパンツだけの下着姿だ。
海底洞窟特有の、湿った空気と低い外気温。
加えて、無防備の自分の姿という、心細さも一層寒さを増幅しているようだ。
裸足で歩くごつごつした地面は、足の裏が痛いし、最悪だ。
少し下ってから登りに変わり、その先を左に案内される。
今なら光の池の底が抜けているから、そこに宙づりにでもされるのかと思っていたが違うようだ。
しばらく歩くと、一本橋に出る。
「歩け!」
村人に促されて、一本橋を進んで行く。
まさか、ここから突き落とすなんて事、・・・しないよね?
「止まれ!」
丁度一本橋の真ん中あたりで止められ、そうして横向きにされると、足を橋に結び付けられてしまった。
更に、遅れて明るい光の玉がやって来た。
照明だ、照明の棒部分をまたもや俺に並べて橋に紐で括り付ける。
明るくなって初めて分かったが、一本橋部分は結構広く、天井は遥か上方だし、左右の空間も思っていたより広い。
「この儀式も、20年ぶりだが・・・、前回もこの地にやって来た勇者様が、わしと決闘して破れ、哀れにも海竜様の生贄として捧げられた。
なあに・・・、苦しい事はない、死はほんの一瞬の事だ。」
橋の袂からハチベエさんが声をかけてくる。
何を言っているのか・・・、20年前にも同じようなことが起こったという事か?
いや、そんなはずはない、この冒険が始まってから、まだ何ヶ月も経っていないのだから、君達だって、この冒険の出演者なんだから、生まれたばかりでしょ?って・・、そうか、そう言う設定な訳ね。
あくまでも、ストーリーとして、こういったやり取りが必要という事だ。
だったら、命乞いとかしておいた方がいいのかな?
俺は、気になってハチベエさんの方に振り向く。
レイも源五郎もツバサも、心配そうな面持ちで洞窟の出口から、俺の方を見ている。
大丈夫だって・・・、これからまたイベントが発生して・・・、そうだな、俺の予想ではアンコウナマズの親玉が出現して、暴れ出して・・・、グラグラこの海底の村が揺れ出して、どうにもならんっていう事で、俺達に助けを求めてくる。
そんな村人たちに対して、恨み言なんかひとっことも言わないで、無言で鎧に身を固めて立ち向かっていく勇者・・・、いやあ男だねえ・・・。
こんなところかな?
「ふと見ると、レイがハチベエさんに詰め寄っている。
一体どうしたと言うんだ?
早く助けを求めろとでも言っているのか?
そんなこと言ったって、まだイベントは発生していないのだから、焦り過ぎだって、レイさん。
とおもっていたら、源五郎まで参加して、ツバサはダッシュで駆けて来るし・・・、
「火炎弾!」『ボワッ』
レイの魔法で、後ろ手に縛られたロープが燃え上がる。
あっちっちっち・・・、ちょっとレイさん・・・、乱暴ですよ。
『シュッシュッシュッ』『ボワッ』今度は、足を縛り付けていたロープが、源五郎の矢で燃え上がる。
あっちーって・・、冷静な源五郎までもが・・・、一体どうして・・・?
「走って逃げてください!」
ツバサが、一直線に俺の元に駆け寄って来て、手を伸ばしてくる。
なんだかわからんが、俺もツバサの元へとダッシュする。
『ザッパーン』『ガギッ』俺のすぐ後ろに、水しぶきが上がる。
振り向くと、ギザギザの鋭い歯を蓄えた巨大な口が、一本橋ごと豪快にひと噛みしていた。
はあ?どういう事・・・?
俺があのままあそこに居たら、本当に食べられてしまっていたってこと?
『ズーン』巨大な顎は、暫くは橋を咥えたままぶら下がっていたが、やがて遥か下へ落ちて行った。
恐らく、あれが海竜なのだろう。
「どう言った事なんだい?」
俺は目の前のツバサに問いかける。
「あ・・・、あれ・・・。」
ツバサが、橋の右側の壁を指さす。
壁までは相当距離がありそうだが、照明に照らされているので、何とか視認できる。
そこには、青い布が垂れ下がっているように見える。
「見つけたのは、レイさんです。」
ツバサの言葉の意味が、最初は判らなかった・・・。
しかし、よく見るとそれは布ではなくて、人型をしているようだ。
人・・・?いや、そうではない、あれはここへ来てから良く目にする、全身タイツだ。
そう、無敵の超人が着用している・・・。
青いと言う事は、その名もブルーマンだろう。
うーむ、海を担当している超人という事だろうか。
でも、彼のタイツが、どうしてこんなところに・・・?
もしかすると、ハチベエさんに敗れた勇者って・・・、ブルーマンの事?
敗れたことで、海竜の生贄にされたってこと?
だって、ブルーマンって、この星最強のはずじゃ・・・、いや、20年前は最強じゃなかったのか?
いやいや・・・、そんなはずはない、その頃だって最強のはずだ。
しかし、今回の俺と同じようなシナリオだったとしたら・・・、村長の座や村長の娘ばかりか、宝さえ不要なブルーマンだったら、勝ち続けている限り、決闘というループが終わらないことは、すぐに気づいたはずだ。
だから、俺と同じように、負けを認めた・・・・。
そうして、有無を言わさず縛られて、海竜の生贄に・・。
もしかしたら、負けを認めた時点で世界最強じゃなくなってしまったのかも知れない。
なにせ、負けたわけだから。
俺は橋に立てた照明を引っこ抜くと、そのまま一本橋を戻り、十四朗の姿を探した。
「馬鹿な・・・、生贄の儀式を冒涜しおって・・・、海竜様の怒りをかうぞ。」
ハチベエさんが、厳しい目つきで告げる。
「海竜の怒りよりも、俺の怒りが収まらん。
なにせ、殺されかけたんだからな。
十四朗、もう一度決闘しろ、勝負だ。」
俺は、ハチベエさんに照明を手渡し、村人たちの後方で逃げ出そうとしている奴の目の前に駆けて行って宣言する。
「いや・・・決闘なんて、そんな野蛮な事はもう御免だ。」
十四朗は及び腰だ。
「だめだろ、村長たる者、いつでも誰からの挑戦でも受ける必要性があるのだろ?」
俺は十四朗の胸ぐらをつかんで持ち上げ、ハチベエさんへ振り返る。
ハチベエさんは、ゆっくりと首を振りながらうな垂れる。
「これで、1勝1敗な訳だ。
決定戦という事で、文句はないですね!」
俺は尚も念を押す。
「あ・・・ああ、仕方がないだろう。」
ハチベエさんも、渋々頷く。
すぐに村人たちが左右に分かれて、洞窟内で決闘再開だ。
「始めっ!」
『ダッ』今回も、俺はダッシュで十四朗の元に駆け寄り、腹目がけて左手で渾身の一撃を放つ。
『スカッ』しかし、今回も手ごたえはない。
『スカッ』こうなりゃ右手で・・・、と思って顔面を強打したつもりが、またもや空振り・・・と言うか当たっているように見えるのだが、手ごたえが全くない。
「効かねえなあ・・・、オメさんの攻撃なんか、ちっとも効きゃしないんだが、それでも最初は降参してやっていたんだぜ。
素直に負けを認めないと、オラの灼熱の攻撃を食らうだよ。」
十四朗は今までとは違い、余裕の笑みを浮かべている。
こいつはこんにゃく人間か?とも思ったが、殴られる都度、十四朗は左手を気にしているようだ。
ふと見ると、奴の指には光るものが・・・、そうかそう言う訳か・・・。
『ダッ』『スカッ』十四朗を背負い投げで投げ飛ばし、馬乗りになって顔面を強打する。
手ごたえなど全くないが、お構いなしだ。
『スカッ』『スカッ』『スカッ』問題は、奴がいくつ指輪をしているかという事と、致命打を与え続けなければいけないと言う事だ。
恐らく、奴ら半漁人の体は、魔物などと違ってあまり丈夫には作られていないのだろう。
その為、少し強めに打撃を加えれば、それが致命傷となってしまうのだ。
ところが、身代わりの指輪をしているから、指輪の効力が発動して、その致命傷の攻撃は全て指輪が吸収してしまう。
だからこそ、強く攻撃させるよう、最初から挑発気味なのだ。
下手に加減をすれば、身代わりの指輪が発動せずに、打撃は十四朗が受けることになってしまう。
「いい加減あきらめろ、そうでないと、オラの攻撃を食らって、粉みじんだぞ。」
十四朗は尚も余裕の表情を続けている。
しかし、その余裕もいつまで続くか・・・。
『スカッ』『スカッ』『スカッ』
「分った分っただ・・・、今攻撃を止めれば、オメさんの功績を認めて、生贄は中止って事にしてやるだ。」
さすがに在庫切れが近いのだろう、少し焦りの色が見えてきた。
『スカッ』
「こっこれ以上戦ったって、意味はねえべ・・・。
元々何の恨みもない関係なんだから・・・。
かっ海竜のヒゲも、持って行って構わねえだ・・・。
だから、もうやめるだ。」
ようやく品切れという事か・・・・、両手の指に一つずつはめていたという事のようだ。
半漁人の水かきが付いた指では、指先に1つずつひっかける位しか出来なかったのだろう。
一つの指に、いくつもの身代わりの指輪をされていなくて、良かった。
「ふうむ・・・・それではお前の負けを認めるのだな。」
俺は厳しい目つきで問いかける。
「い・・いやあ・・、負けだの勝ちだの・・・、そんな事、全てを水に流そうじゃないか・・・。」
十四朗はしどろもどろだが、今回は簡単に負けを認めない。
それはそうだろう、負けイコール死だと自分で言ってしまったのだからな。
「じゃあ、このまま死ね!」
俺は低く呟くと、思い切り振りかぶり、右手の拳に力を込めた。
「やっや・・・分った分った・・・、降参降参、負けを認めます、ごめんなさい。」
『ズッゴーン』十四朗の耳のすぐ脇の岩が砕け散る。
さすがに俺も、素手で人をなぐり殺すつもりはないし、本当の俺なら人を殴る事すら恐ろしくて出来やしない。
しかし、こいつの態度は、俺を切れさせるに十分だった。
危うく人殺しにさせられるところだ、それが本来はゲームキャラだったとしても、そんなことはごめんだ。
馬乗りを止めて、十四朗を放してやると、レイが薬草を持ってきて、俺の右手に当ててくれた。




