第66話
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「分った、その決闘を申し込むよ。
やり方はどうするんだい?
まさか、武器を持って戦いあうなんてことはないんだよね?
こっちは冒険者で、戦い慣れているんだから、せいぜいボードゲームか何かで、競う訳だろ?」
俺は、決闘を申し込むことにしたが、あまり知らないゲームでも持ち出されてきたらどうしようか、内心ドキドキだった。
「い・・・いいんですか?決闘って、そんな危ない事を・・・。」
すぐに源五郎が寄ってきて、俺を制する。
「仕方がないだろう、事の成り行き上・・・、やむを得まい。
このダンジョンは、こういった筋書なんじゃないのか?」
俺は、ここでの摩訶不思議な対応も、クエストの一環ではないかと捉えていた。
話しに乗って行けば、何とか進んで行くのだろう。
「はあ、まあ・・・、確かに話しの持っていき方が、無茶苦茶ですけどね。
これがクエストの進行上の筋書きというのなら、意外性は十分高いですよね。」
源五郎は、尚も納得できないと言った表情だ。
「まあ、大丈夫だろ。決闘って言っても、せいぜいすごろくゲームとか・・・、あるいはカードゲームなんかで、単純に競い合う程度なんじゃないのか?」
俺は安気に構えている。
「まあ、決闘と言っても・・・確かにわしらは海竜の民ではあるが、戦闘民族ではないから、剣技や飛び道具などに秀でた特技がある訳ではない。
だから、素手で戦う。
防具も禁止だ、良いか?
だが、わしらは頑丈だぞ、ちょっとやそっとの攻撃など、ちっとも効きはしない。」
ハチベエさんは平然と告げる。
はあ?・・・またもや意外な言葉・・・、魔物以外と戦うなんて事、あってもいいのだろうか。
いや待て・・・、奴はヘタレのふりをしていただけで、実は筋肉もりもりの・・・、なんてことはないにしても、それでも決闘の最初のうちは無敵モードなんかだったりして、俺の攻撃は全く効かずに、ぼっこぼこにされて、それでも倒れずに何とか踏ん張っている俺に対して、最後は引き分けで良いよなんて許してもらって、宝物を分けてくれると言うストーリーかな?
俺は、頭の中でこのダンジョンクリアの仕方をイメージしていた。
「いいだろう。」
『カチャッカチャッ』俺は急いで鎧と兜を外して、下着だけになった。
半漁人の十四朗は、防具はおろか下着すら身に付けてはいないようなので、パンツも脱げと言われたらどうしようか。
「では、開始だ。」
ハチベエさんの合図で、住居前の広場で決闘開始だ。
「へへーんだ・・・、おまえなんかのよわっちいパンチなど、オラには全く効かねえだよ。」
十四朗が、あっかんベーをして挑発してくる。
相当自信がありそうだ。
と言っても、こちとらさんざん修羅場をくぐってきた身だ。
防具を外して剣を持っていなくても、充分に戦える。
無敵モードに対してどこまでやれるか、頑張ってみるとしましょう。
『ダッ』俺は十四朗の目の前までダッシュすると、『ズゴッ』そのまま奴の腹目がけて、思い切り左拳を振りぬいた。
『スカッ』ところが、まったく手ごたえがない。
躱されたのかと思っていたが、十四朗の腹に間違いなくパンチは入ったようだ。
やはり、無敵モード・・・、と思ったが???
「参った参った・・・。」
何故か左手をさすりながら、すぐに十四朗は降参してきた。
「良く判らんが、まずは1勝だな。
それで、この決闘は何番勝負なんだい?」
俺は、自分のパンチの手ごたえがなかった事にも驚いていたが、にもかかわらず、すぐに降参してきたことも意外だった。
腹にパンチが当たる瞬間に後ろへ飛びのいて勢いを殺して、それでいてパンチが当たったのかのように振る舞う。
油断させておいて、隙を突いて大逆転を狙う作戦なのかもしれない。
「決闘に何番勝負もありはせん。
お前さんの勝ちだよ。
お前さんが新しい村長で、わしの娘婿という訳だ。」
ハチベエさんが、にっこりとほほ笑みかける。
はあ?どういう事?ドッキリか何か?
「と・・・、十四朗さー・・・、だぇじょうぶだべか?
散々殴られて・・・、ひでぇことされたなぁ・・・。」
すぐにナナセが十四朗の元に駆け寄り、介抱する。
散々殴られてって・・・、一発しか入れていませんけど?しかも、スカって・・・。
「オメさ・・・、オラの十四朗になんてことすんだ?
そりゃ・・・、オラのこの・・・、ナイスボディがドンだけ魅力的に映っているかもしんねぇが・・・、オラは身も心も十四朗の物だ。
後から来た、オメなんかの入る余地などねぇんだ。
とっとと負けを認めて、けぇってくんな!」
ナナセは、単に尻餅をついただけの十四朗を大事そうに抱きかかえると、厳しい目つきで俺を睨みつける。
「勝ってどうするのよ・・・、何とかいい勝負をして、相手に認めてもらって宝を分けてもらう作戦だと思っていたけど・・・、そんなにこの村の村長になりたかったの?」
更に、レイにまでも冷たい視線を向けられてしまう。
そんなこと言ったって・・・、スカって・・・スカっですよ・・・、何にもしていないと一緒なのに勝ちって・・・。
俺は今の状況に、どう対処していいのか分からなくなって来た。
とりあえず、下着のままじゃ恥ずかしいので、鎧を身に着ける。
なんか、大衆の面前で脱いだものを着るなんて・・・、結構恥ずかしいものだ。
必要なものだけでも確保しておいて、後は成り行きに・・・、無理なら逃げてしまえば・・・。
「い・・・いや・・・、俺には君とどうこうしようなんて気持ちはさらさらないよ・・・、前にも言っただろ?
村長にもなるつもりは全くない。
これからの冒険に必要な物さえ手に入ったら、引き上げさせてもらうから安心してくれ。」
俺はそう言って、住居用の小さな洞窟内に入って行った。
奥の倉庫へ向かうと、そこにはいつものように見張りの村人が・・・・。
「十四朗との決闘に勝ったんだから、村の宝物は俺が自由にする権利があると言う事だよね。
開けてくれるかな?」
俺は、その見張り番に鍵を開けるよう命じた。
「えっ・・・?」
すると、見張り番の半漁人は意外そうな顔をしていたが、俺の後方へ視線を移すと、鍵束を取り出した。
振り向くと、そこにはハチベエさんの姿が・・・、彼がいいと合図をしたのだろう。
太い材木で組まれた格子の扉を開けて、中へ入って行く。
そこにはいくつもの宝箱が・・・。
「海竜のヒゲっていうんだから、そんなに大きなものじゃないよね。
これかな?」
俺は、一番小さな宝箱を開けてみる。
すると、中には煌びやかな宝石類が・・・。
いかんいかん、すぐに箱を閉めると次に向かう。
「へえ・・・、こんなお宝も全てあたしたちの物なのよね?」
いつの間にかレイも入って来ていて、先ほどの宝箱の中のキラキラしたネックレスなど取り出してうっとりと見入っている。
「駄目だよ・・・、これはこの村の人たちのお宝なんだから。
このまま、置いて行くんだよ。」
俺はネックレスをレイの手から奪い取ると、宝箱に戻してふたを閉めた。
「いいじゃないのよ、一つや二つくらい・・・、こんなにたくさんあるんだもの。」
レイは、倉庫内に積まれた宝箱の山を、嬉しそうに眺めている。
「駄目だって・・・、そりゃ、アンコウナマズの体から出てきた、身代わりの指輪なんかは頂いたけど、あれは冒険者用のアイテムだから、俺達が貰っていいもののはずだ。
しかし、今見た宝石はそう言った特典があるものじゃないだろ?
単にきれいなだけの装飾品だ、そう言ったものは持っていっちゃ駄目!」
俺は、きっぱりと言い切った。
「何よ・・・ケチ!」
きれいなアクセサリーの山を前にして、お預けを食ったレイは不満顔だ。
その他の宝箱は、どれを開けても中身は空っぽだった。
「うん?これは・・・?」
それは宝箱というより、筒だった・・・。
開けてみると、直径5センチほどの真っ黒い棒が入っている。
「確かに、海竜って書いてありますね。
ヒゲがこれだと・・・、実物は相当に大きいようですね。」
一緒に捜し始めた源五郎が、その筒を手にする。
長さは2メートルほどの堅い棒のようなひげだ。
間違いはないだろう、お宝ゲットだ・・・ちょっと予想よりはるかに大きいけれど。
それでも、冒険者用の袋の中には、このような長いものですら簡単に納まってしまった。
「じゃあ、目的は達したし、帰るとしますか。」
俺は、これでこのダンジョンは終わりと考えて、倉庫の中から出てきた。
「オメ達なんかに、この村の宝は自由にさせらんねえだ。
決闘だ、もう一度勝負しろ!」
住居用洞窟から出ると、そこには十四朗が待ち構えていた。
「勝負してやってくれ。
この村の民は全て、いつでも誰からの挑戦でも受けなければならんのだ。
お前さんも、わしの娘婿となって村長となったからには、避けられねえことだ。
それが出来なければ、村長失格だ。」
ハチベエさんも、十四朗の隣で頷いている。
やはり、こういった筋書きか。
今度こそ、十四朗が無敵モードで、俺はコテンパンにやられてしまうのだろう。
それでも、結構いい勝負をしたとかで、最後は海竜のヒゲを貰って帰って行くと言うシナリオだ。
と言っても俺は、村長になった覚えもなければ、ナナセの婿になった覚えも全くないがね。
まあいい、ここは話に乗ってやろう。
「分った、いいだろう、勝負だ。」
俺は、もう一度鎧と兜を脱ぎ、下着だけになった。
「じゃあ行くぜ、前の時と同じと思うな・・・。
オラは生まれ変わったんだ。」
って・・・、まだ1時間も経っていませんけど?
「じゃあ、勝負開始!」
ハチベエさんの合図で、再び住居前の広場で決闘が始まった。
『ダッ』俺はまたもや先手必勝とばかりに十四朗の元へと駆け寄り、今度も思いっきりその腹に一撃を入れる。
『スカッ』しかし、またもや空振り?かと思いきや、見た目は確実に十四朗のみぞおちあたりに決まっている。
「ま・・・」
「参った・・・、俺の負けだ。」
またしても十四朗が、両手を上げて降参しそうな様子を見せたので、今度は俺の方が折れた。
『オオーッ』『流石、十四朗!』『パチパチパチ!』先ほどとは違って、村の人々から歓声が上がる。
やはり、アウェーの環境での戦いだったのね。
「やったあ・・・、最後に勝つものが一番強いんだ・・・。
オメも結構よくやったけど、やっぱりオラの十四朗さが一番強いんだ。
へっへーんだ。」
そう言いながらナナセが十四朗に駆け寄り、抱きしめると俺に向かって、あっかんべーをする。
まあいいですよ、喜んでもらえるならそれでいい。
これでこのまま帰してもらえれば、なんかしっくりは来ないけど、このダンジョンは終了という事で・・・。
「まあ、最後はやっぱりこうなるんでしょうね。
あいつはやっぱり無敵モードでしたか?」
源五郎が近寄ってきて小声で囁く。
「いや、・・・それがどうにもわからん・・・、なにせ、手ごたえがなかったからな。
あれを無敵モードというのかも知れんが・・・。」
俺も、戦いに関しては訳が分からず、首をひねる。
「じゃあ、早いところ防具を身に着けて・・・、帰りましょ。」
レイも、この結果には満足しているようだ。
鎧の胸当て部分を拾い上げて持ってきてくれる。
「それでは、勝者の特権だ。
負けた者の処遇を決めることができる。
あいつには死がふさわしいか、あるいは追放か?」
ハチベエさんが十四朗の元に寄って行き、声高に問いかける。
「そんなもん、分り切っている・・・、こんな決闘で死なんて・・・、俺達冒険者相手なんだから、追放でしょ?」
俺はこれでここを離れられると、ほっと胸をなでおろす。
「そんなこと決まっている、敗者に許されるのは死だけだ・・・。
奴には永遠の死を。」
またまた十四朗がとんでもないことを・・・。




