第65話
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『ガタガタガタッ』洞窟の中へ入って収まっていた揺れが、また感じられるようになってきた。
どうやら、揺れの元凶の所に近づいてきた様子だ。
横穴の先は、広いドーム状の空間に続いていた。
見上げるほどの高さの天井には、小さな穴が開いているようだ。
ここまでの洞窟の下り傾斜と、曲がり具合を考慮すると、あの穴が光の池の底だろうと想定される。
光の池の底に貼りついていた奴が、照明の根を切り取ったがために、池の水ごとこの場所に落ちてきたと言う事のようだ。
『ばしゃっ、ばしゃっ』『ガタガタッ』目の前の池には何やら丸い物体が・・・、そいつが跳ねるたびに大地が揺れる。
「ナマズ・・・ですかね?」
源五郎が呟く。
確かに真っ黒く頭の丸い魚が、元気いっぱいに池の中で飛び跳ねている。
カメラのライトを当ててみると、丸い頭の天辺には少し突き出たこぶのようなものが・・・、俺が切り取った照明が生えていたのだろう。
「照明がついている間は、疑似餌を持ったアンコウのような生き物なんだろうな。
じっと魚が餌に食いつくのを待っているような、動きのほとんどない魚なんだろう。
ところが照明を根ごと取ってしまうと、ナマズの姿になって、暴れて地震を起こすという訳か、成程!」
俺は、納得して右こぶしで左手のひらを叩く。
『シュッシュッシュッ・・・、グサッグサッグサッ』先制攻撃とばかりに、源五郎が矢を射かける。
「ギャァオー・・・!」『ガタガタガタガタッ』
アンコウナマズは思いっきりその巨体を揺らし、池の水と共に刺さった矢を吹き飛ばした。
浅くしか刺さらなかったのか、矢は簡単に外れた。
大きく開いた口には、ギザギザの鋭い歯が・・・、噛みつかれると、大怪我しそうだ。
「うぉっとっとっとー」
こっちは激しい揺れで、立っているのも大変な感じだ。
「おりゃっ!」『グサッ』
そんな揺れの中、うまい事バランスを取りながら駆けだし、俺はマグマの剣を振りかざすと、アンコウナマズの横腹部分に突き刺す。
『バシャッ』しかし、強烈な尻尾の一撃で、体ごと吹き飛ばされてしまう。
皮は予想以上に厚くて固く、突き刺したはずが、浅かったようだ。
「たありゃ!」『グサッバチッ』
今度は雷の剣に持ち替えて、突き刺して見る。
『バシャッ』しかし、またもや尻尾に弾き飛ばされる。
「爆裂火炎弾!」『ツルンッ』
レイの火炎は、表面のぬるぬるのせいか、弾きとんでしまい効果がない。
「爆裂冷凍!」『ツルッ』
氷系の魔法も同様、効果がなさそうだ。
「爆裂水流弾!」
分っていたことだが、魚系魔物に水の魔法を唱えたところで、効果があるはずもない。
「強雷撃!」『ツルッ』
雷の電撃ですら、表面の粘液を伝って池に落ちてしまうようだ。
「強光弾!」『ビュッ』
光の魔法も同様に弾き飛ばされる。
「りゃっ!」
今度はツバサが跳躍して、炎の爪を突き立てようとする。
『バシャッ』『ゴンッ』しかし、やはり強烈な尻尾に弾かれて、壁に激突させられる。
『シュッシュッシュッ』見ると、源五郎も、弓を変えては射掛けているが、効果は認められない。
しまいに、レーザー光線銃を持ち出した。
『ピッ』『ジュッ』レーサー光線が当たると、その部分が黒く焼け焦げて煙が上がるが、大きな効果は上がらない。
「源五郎、目を狙って見ろ!」
レーザー光線なら、正確に狙えるのだから、あいつの小さなくぼみのような目でも、当てられないことはないだろう。
わずかな可能性に賭けて見る。
『ジュワッ』「ギュォースッ!」『ガタガタガタガタッ』
『ガタン!ゴン!ゴン!』目を焼かれて苦しいのか、アンコウナマズがいっそう激しくその身を揺らすと、天井が割れて岩のかけらが落ちてきだした。
『メキメキメキメキッ』更には地割れまで、起き始めた。
「まずい、このままでは生き埋めになってしまう。
ハチベエさんは、目と目の間、つまり眉間に剣を突き立てろと言っていた。
恐らく、そこが急所なのだろう。
そこを狙って攻撃してくれ。」
激しい揺れの中で、何とかバランスを保って踏ん張りながら叫ぶ。
『シュッシュッシュッシュッ』源五郎が、頭を狙って銀の矢を射かける。
しかし、激しく体を揺らすアンコウナマズには、なかなか突き刺さることはなく、刺さっても浅いせいか、すぐに抜けてしまう。
『グッグッグッ』俺は一歩一歩踏みしめながら、ゆっくりとアンコウナマズに近づき、逆手に持った氷の剣を思いっきり突き刺す。
『グサッ』『バシャッ』しかし、やはり尻尾の一撃でふき飛ばされた。
次は光の剣だ、思い切り突き立てるが、やはり分厚い皮を突き抜けることは出来そうもない。
念のために、鋼の剣と銅の剣も試してみるが、皮を貫いて突き刺さることはなかった。
研ぎに出すのをさぼっていた訳ではない、切れ味は悪くないはずなのだが、アンコウナマズの皮が堅すぎるのだ。
「とりゃぁー!」
ツバサは高く舞いあがると、トンボを切ってマグマの爪を頭上に掲げ、そのまま突っ込む。
『グサッ』『バシャッ』それでも、尻尾に弾き飛ばされてしまった。
勢いが少ないせいか、硬い皮に阻まれて急所まで突き刺させないため、そのまま弾かれてしまうのだ。
何か方法はないものか・・・、俺はふと上を見上げた。
ようし・・・
「源五郎とツバサとレイは、引き続き攻撃を続けて、あいつの気を惹いておいてくれ。
俺に考えがある。」
俺はそう言い残して、横穴を戻ると緩やかなのぼりを駆け昇って行く。
動く歩道は自動感知で進行方向に動いたが、更にその上を駆け抜け、炎が噴き出している通路では、衝立を利用しながらアヒル歩きで進み、アップダウンを繰り返し、一本橋も駆け抜け、その先で方向転換。
そのまま分岐を右へまっすぐ進み、ついた先のすり鉢状の窪みの中へ。
思った通り、だいぶ地盤が緩んできている。
俺は、そこに開いた穴目がけて、炎の剣を突き立てた。
『ガガーン!』すると底が抜けて一気に広い空間に落ちて行く。
俺は油断なく剣を構えて、そのまま落下していく。
『ズン!』『グザッ』足がアンコウナマズについた瞬間、衝撃を吸収するために膝を曲げ、更に腰をかがめて勢いをつけたまま、全体重を乗せ一気に剣を突き刺した。
『バシャッ』俺の体は尻尾に弾かれるが、炎の剣は眉間に突き刺さったままだ。
「とぉりゃー」
ツバサが舞い上がり、俺が付き立てた剣に体重を乗せて更に押し込む。
そうして2度3度と、剣の上で跳躍する。
「ぎゃぁうぉー・・・・」『バシャッバシャッ』断末魔の雄たけびを上げて、アンコウナマズは動かなくなった。
マグマの剣は、アンコウナマズの眉間をきれいに突き刺していた。
見回すと、ツバサはあちこちスリ傷だらけで、額から血を流しているようだ。
すぐに袋から薬草を取り出して傷口に当て始めた。
源五郎はというと、持ち替えた弓を袋に戻していた。
色々と試したようだが、効果的な弓は見いだせなかったようだ。
レイも、茫然として突っ立っている。
彼女の魔法が全く役に立たなかったのは、初めての事だ。
「ふえー・・・、ようやく倒せたな・・・、長かったあー。」
俺はそう言いながら、眉間に突き刺した剣を引き抜く。
『コロコロ』すると、何か光る丸いものが・・・、拾ってみると指輪のようだ。
「うん?これって・・・???
レイ、ちょっと来てくれ。」
俺はレイを呼び寄せて、指輪を手渡す。
「これは身代わりの指輪じゃない?
生贄の山羊のマークが入っているから、きっとそうよ。」
レイが指輪を鑑定してくれる。
「何でこいつの体から・・・?」
なんにしろ儲けもんだ。
俺はもっとないか、アンコウナマズの体を探ってみる。
すると、更にもう2つの身代わりの指輪を見つけた。
どうやら、照明がついていた根の部分に埋まっていた様子だ。
「こんなものが出て来たぞ。」
すぐに源五郎も呼び寄せ、レイと一つずつ身代わりの指輪を渡す。
ツバサは既に身に着けているから、これでチーム全員が一つずつ持てたことになる。
これで一応終わりのようだが、もう一仕事・・・ハチベエさんが言っていた通り、アンコウナマズの尻尾を切り取ると、それを持って、またまた来た道を引き返していく。
炎が噴き出している場所では、またまたツバサに先に行ってもらい、衝立を蹴飛ばして送ってもらった。
さっきは急いでいたので、戻し忘れていたのだ。
光の池のすり鉢状の底には大きな穴が開いているので、その辺を見回してツルを見つけると、それでアンコウナマズの尻尾を結んで、底の部分に吊ってみた。
うまく復活できれば、あの巨体が池の底も兼ねるだろう。
「まあ、こんなところだろう。
じゃあ、戻るとするか。」
皆もうフラフラで、体力の限界と言ったところだった。
源五郎やレイが一本橋で足を踏み外さないか心配しながら、何とか洞窟内を戻って行く。
道中の魔物はあらかた倒しきっていたので、出てくることはなかったが、帰りの昇りこう配は距離が長いので結構堪えた。
それでも、ようやく洞窟の出口が見えて来た時には、自然と早足になって行く。
「何とかあいつを倒したようだな。
よかったよかった、村には照明も来たことだし、これで今回は安泰だ。」
洞窟の出口でハチベエさんが出迎えてくれた。
「じゃあ、海竜のヒゲは貰って帰りますよ。」
俺はそう言って、村長宅の洞窟へ入って行こうとする。
「待った待った・・・、村長の許可もなく、そんな事してはいかん。」
ところが、ハチベエさんに止められる。
「えっ・・・、村長って・・・?」
「オラの事だ・・・、今はハチベエのとっつあんではなく、オラが村長だべ。」
村長宅の洞窟から十四朗が出てきた。
「ええっ・・・、だって十四朗のウソがばれたわけだから、村長の儀式も無効なんじゃ・・・。」
照明を採ってきたことが嘘だとばれてしまった訳だから、奴が村長ではいられないはずだ。
「そんなことはねえ・・・・、村長の儀式さ受ければ、それでもう立派な村長だ。
後から何を言ったところで、決まったことは変えられないのさ。
オメ達は、照明の魔物さ怒らせるっちゅう致命的ミスを犯してしまったが、それでも奴を退治して治めて来たから、そのミスは帳消しにしてやるだ。
だで、もう帰っていいだよ。」
十四朗は、口元にいやらしい笑みを浮かべながら、とんでもないことを告げてきた。
「帰っていいって・・、俺達はようやくあのアンコウナマズを退治して来たんだ。
苦労して倒して来たんだから、その褒美として海竜のヒゲを貰う事は、当然の権利なんじゃないのかい?」
俺は、何がどうなっているのか、さっぱり理解できなかった。
これでは話が進んで行きやしない。
「だめだな・・・、あれはこの村の大切な財産だからな。」
十四朗は、大きく首を振る。
そんな・・・、どうすればよかったんだ?どこかで、対応を間違ったとでもいうのか?
今はリセットなど、効きはしないのだぞ。
「お前さんたちが不服だと言うのなら、村長に対して決闘を申し込む権利は持っているだ。
但し、決闘に負ければ待っているのは死か追放だ。
それでも良ければ決闘を申し込めばいい。」
今度はハチベエさんが、とんでもないことを・・・、決闘って・・・。




