第64話
8
すぐに、辺りは静寂に包まれた。
丸岩が一本橋を伝って来ることを恐れていたが、どうやら芯がずれていたようで、数メートル程進んだ後、脇からころげ落ちたようだ。
一本橋の遥か下の方では、大きな水音が聞こえたので、下は水面となっているのだろうが、その音までの間隔から、相当な高さがあるのだろうという事は、容易に想像できる。
源五郎を促して一本橋を渡り切ると、レイを下ろす。
しかし、余りの恐怖の為か、レイは2本の脚で立つことができずに、そのままへたり込んでしまった。
怖いのは俺も同様で、鎧の中では膝がガクガクといっている。
ゲームの画面で俯瞰視するのとは、恐怖感に大きな違いがあるようだ。
とりあえず、休憩を取って落ち着いてから出発だ。
ここからは少し登りこう配のようだ。
『ブォー・・・ブォー・・・ブォー・・・』少し歩くと、洞窟の側面の壁の至る所から、炎が噴き出している場所に出くわした。
一番手前が頭の高さの位置から噴き出していて、それから1mほどで2本目は腰当たりの高さで、また1mほど向こうは、今度は膝くらいの高さだ。
とりあえず、少し屈んで1本目の炎を避けて進み、更に、膝をついて四つんばいになって2本目をクリア、また更に大きく足を上げて炎をまたいで3本目をクリア。
何だ簡単じゃないかと思ったのもつかの間、そこから先は炎が間欠的にふき出していて、腰くらいの高さの1本だけの炎と、頭と膝の高さの2本の炎が同時に噴き出しているのと、1m間隔で交互に噴き出している。
その光景は延々と続き、恐らく50m位は続いているだろう。
これは参った・・・、先頭の俺が立ち止っていると、後方からツバサがやってきて、狭い立ち位置で並ぶ。
「こうやれば行けますよ。」
ツバサはそう言うと、両手を高く掲げて頭から飛び込んだ。
上下の炎の間をくぐり抜けて両手をつくと、そのままの勢いで両手でジャンプし、今度は腰の高さの炎をそのまま足から飛び越えて着地。
これを何度も繰り返して、炎の向こう側から手を振る。
まるで体操選手だが、こんなことができるのはツバサくらいだ。
俺は、自己申告カードの特技欄に、器械体操を入れていなかったのを、今更ながら後悔した。
とりあえず、膝の高さの炎を盾で防げないものかと、クリスタルの盾を当ててみたが、瞬く間に赤熱し、すぐに引っ込めた。
鋼の盾なら熱伝導率もより高いし、余計に炎を避けることは難しいだろう。
「いいものがありましたよ。」
考えあぐねていると、炎の向こう側のツバサが板状のものを、蹴って送ってくれた。
どうやら衝立の様で、膝の高さの炎を防ぐことができる。
幅は2mほどあるので、3人で並んで腰を低くして、衝立と共に進んで行けそうだ。
『ブン!』『シュタッ』『ブンブン!』進み始めたところ、通路の先の方が騒がしくなっている。
どうやら、おなじみのミノ○ウロス風のやつが2体いて、ツバサに襲い掛かっているようだ。
『シュッシュッシュッ』すぐに立ち止まって、源五郎が矢を射かけるが、間欠的にふき出す炎の熱で陽炎が立ち、ただでも見にくいうえに、炎に弾かれることもあり、この距離では射とめることも難しそうだ。
「まずは急いで渡ることだ。」
俺はそう言うと、一層体を低くして、アヒル歩きのような状態で衝立と共に、進んで行く。
『シュッシュッ・・・バチバチッ』「ブモー・・・」数メートル手前まで近づき、源五郎が立ち上がって炎の隙間から矢を射かける。
どうやら、雷の弓を使っているようだ。
ツバサを前後から挟み撃ちにしている奴の背中に突き刺さり、そいつの動きが止まる。
『ダッ』ジャンプ一番、噴き出す炎をかいくぐり、『グザッ・・・バチバチバチッ』雷の剣を背後から腰のあたりに突き刺した。
「グォーッ!」
ミノ○ウロス風のやつは、左手で雷の剣の刃を掴み、それ以上押し込ませないように止めるが、俺は更に一歩踏み出して、体重をかけて剣を押し込もうとする。
『ブンッ!』苦し紛れか、右手の斧を大きく上から振りまわして、背後の俺を狙うが、腰をかがめている俺の背中をかすめる程度で、当てることは出来ない。
「んもーっ」
今度は斧を持ち替え、下から手首をひねって攻撃してくる。
『ダッ』『グサッ』「ぐぉー・・・」
危険を察知して、剣から手を放して俺が後方に飛び退くと、哀れそいつの斧は自分の腰のあたりに激突。
『グザッ』俺は袋からマグマの剣を取出し逆手に持つと、少しジャンプしながら、ミノ○ウロス風のやつの首のあたりに全体重をかけて突き刺した。
「んももーっ・・・」
ようやく、ミノ○ウロス風のやつの息の根を止めることができた。
背後からの急襲だが、向こうだって2対1でツバサに襲い掛かっていたので、卑怯という点では同等だ。
「強雷撃!」
「ブモーッ」レイが雷系の魔法を唱え、ツバサと戦っているもう1体のミノ○ウロス風のやつを攻撃する。
『シュタッ・・・グサッ・・・ボワッ』ツバサのマグマの爪が炸裂。
『シュッシュッシュッ・・・バチバチバチッ』源五郎の矢も攻撃に参加する。
「強雷撃!」『バチバチッ・・・』
更にレイの魔法が、源五郎の矢を避雷針代わりに炸裂する。
『ブサッ・・・ドゴーンッ』最後はツバサのマグマの爪が、みぞおちあたりにヒットして、ミノ○ウロス風のやつは、そのまま仰向けに倒れた。
ここから先は、また急な下り坂のようになっていて、心なしか右方向へカーブしているような感じだ。
そうして、周囲の気温が上がってきているようで、汗ばんでくる。
『さわさわさわさわ』更に進んで行くと、今度は地面を這う青色の液状の物体が・・・。
「うん?ス○○○って奴か?」
俺はそいつの中心目がけて、鋼の剣を突き刺す。
『にゅるにゅる』しかし、何の手ごたえもなく、そいつは鋼の剣を伝って這い上がってくる。
「うぉっ!」
俺はとっさに剣を放して、後方へ飛びのく。
『シュッシュッシュッ』源五郎が矢を放つが、何の効果もなく、そいつは動きを止めない。
見ると、至る所から、青色のジェル状のやつがウニョウニョと這い出てきた。
攻撃力がどれほどのものなのか全く分からないが、攻撃しても手ごたえなく、そのまままとわりついてくるのは、なんとなく不気味だ。
『グサッ・・・ピキーン』俺はすぐに氷の剣に持ち替え、そいつに突き刺すと、一瞬で凍りついた。
『ズン!』そうして、足で氷を踏みつけると、そいつは粉々に砕けた。
『ウニョウニョ』ところが、砕けた破片の氷が溶けると、分裂したス○○○がそれぞれ動き始めた。
「こいつは厄介だ・・・・、倒せないぞ。」
小さな小片だったス○○○は、合体して行き、元の大きさに戻って行く。
「強火炎弾!」
レイが、炎の魔法を唱えると、ようやくそいつは動きを止めた。
「上手いぞ。液状だから、炎の魔法で乾いてしまうんだ。」
レイの魔法でス○○○は、水分を失い動かなくなってしまった。
それからは、炎の剣に炎の爪、炎の矢で攻撃し、次々に乾燥させていく。
乾燥して干からびたス○○○は、踏みつけると、そのまま粉状に散って行くようだ。
集まったまま水がかかると復活でもするのではないかと、冷や冷やしながら倒しては踏みつけて散らしていく。
更に進んで行くと、今度は真っ黒いジェル状の物体がうごめいている。
『ビュッ』そいつは俺達の姿を見つけると、飛び掛かって来た。
『カーン!』金属の甲高い衝突音が、洞窟内に響き渡る。
とっさに盾で防御したのだが、強い衝撃にビビる。
「メタルス○○○か?」
『ビュッ』『カーン!』盾ではじかれても、そいつは何ともない様子で、すぐにまた飛び掛かってくるようで、このままでは盾が持ちそうもない。
黒い液状の物体は、伸びあがって後方へ反りかえると、その反動で勢いをつけて飛び掛かってくるようだ。
衝突の瞬間だけ体を堅くするのか、液状のうちに炎の剣を突き刺して見たが、全く手ごたえがない。
会心の一撃でも出なければ、倒せないのだろうか。
「強雷撃!」
金属性のようなので、レイが雷の魔法を試してみたが、一瞬動きは止まるが、またすぐに動き出す。
あまり効果はなさそうだ。
『ビュッ』『スッ』『ビュッ』身の軽いツバサが一歩前に出て、メタルス○○○の攻撃をひらひらとかわしていく。
しかし、躱せるだけでは倒すことは出来ない。
次第に、周り中をメタルス○○○に取り囲まれてしまい、バランスを崩してツバサがよろける。
『シュッシュッシュッシュッ』源五郎が雷の弓で矢を射るが、液状のうちは突き刺さっても効果がなく、また硬くなってからは表面を傷つけることも出来ずに弾かれてしまう。
「強雷撃! 強雷撃!強雷撃!」
レイが、雷の魔法で数匹の動きを止める。
『ビュッ』『ビュッ』『ビュッ』しかし、残った3匹がツバサの頭めがけて同時に襲い掛かる。
『ドッガーン』ツバサが屈みこんで躱すと、頭上では大爆発が・・・。
硬くなったメタルス○○○同士が勢いよく衝突して、砕け散ってしまったのだ。
ツバサは、これを狙っていたのか。
『ビュッ』『ビュッ』『ガガーン』その後も、隙を見せて攻撃を仕掛けさせては同士討ちを誘い、メタルス○○○を倒していく。
倒し方は分ったが、避け損ねると致命傷となりかねないので、さすがに同じように同士討ちを誘うようなことは出来ず、ツバサに任せて俺たちは後方支援に徹した。
更に進んで行くと、今度は動く歩道が3本、並行して伸びている。
ためしに俺が真ん中に乗り、レイと源五郎が左に、ツバサが右に乗ってみた。
すると、すぐに右側の道が無くなっていて、ツバサはジャンプ一番、真ん中の動く歩道に飛び乗って来た。
右側の道の先はなく、そのまま乗っていたら奈落の底へまっさかさまと言ったところだ。
更に進んで行くと、今度は左側の道の先がない・・・
「レイ、源五郎、跳べ!」
俺は両手を伸ばしながら叫ぶ。
『ダッ』「あーれー・・・」
二人とも跳躍したが、惜しくも届かず、伸ばした手も空振りに終わり、暗闇の底へと落ちて行った。
恐らく大丈夫だろう、ルートが変わるだけだ。
俺は自分にそう言い聞かせて、そのままツバサと先へ進む。
動く歩道の後は、また少し下りこう配が続いて行く。
すると、またまたガソリン蛾と火吹き大蝙蝠が襲い掛かってきた。
炎に包まれては敵わないので、俺は氷の剣を振り回して、火吹き大蝙蝠から片付けて行く。
『シュタッ』ツバサも洞窟の壁を蹴って舞い上がると、ガソリン蛾や火吹き大蝙蝠を蹴り落としていく。
緩やかな右カーブの下りこう配を、ガソリン蛾と火吹き大蝙蝠を倒しながら下って行く。
当然のことながら、足元には倒したガソリン蛾の放つガソリンが、流れ落ちている。
下りこう配が終わりかけた先は、横穴に続いているようで、その先から時折光が漏れてくる。
『ボワッ』『ボワッ』と定期的な光と共に、女性の声が・・・。
「強火炎弾!」『ボワッ』レイが唱えているのだろう、段々と声が大きくなってくる。
まずい、この先にはガソリンが・・・。
『ダッ』俺はダッシュで駆けおり横穴へ、そこには青ス○○○に向かって炎の矢を射かける源五郎の姿が・・・。
「炎はまずい!」
『シュッシュッ』俺が叫ぶが、間一髪間に合わず矢は放たれてしまった。
『ボワッ』ス○○○に矢が突き刺さり炎を上げるが、すぐ横までガソリンが流れてきていて引火寸前だ。
俺はその火種に向かってダイビングする。
「爆裂水流弾」
レイの魔法で横穴中が猛烈な水流に包まれ、俺は流されないように、突き出た岩にしがみつく。
『ピュー』水流が収まった後、俺は口から水を吐き出しながら、辺りを見回す。
レイもツバサも源五郎も水びたしだが、何とか無事な様子だ。
どうにもこのダンジョン、魔物自体はさほど強くはないが、一歩間違えれば命を失いかねないトラップ満載だ。
「ふう・・・、無事だったか、良かった・・・。」
俺は、久しぶりの再会を喜んでいた。
「落ちた先は、ス○○○の集団の中でした。
それはもう・・・気持ち悪いくらい・・・。」
源五郎が、顔をしかめる。
攻撃力はほとんどなさそうだが、燃やして乾燥させる以外に倒せそうもないし、何より不気味だ。
レイたちと合流して、先へ進む。




