第62話
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その後も、いつものように大蟹や大ヤドカリなどおなじみの魔物が出現。
さほど強い魔物の出現もなく、順調に洞窟を進んで行き、暫く進むと、前方が明るくなってきた。
洞窟はどちらかというと下り傾斜で、どんどん深く潜っていたにもかかわらず、地上に出たのかと思わせる位の明るさだ。
「この先が、光の池だ。」
俺の背中から十四朗が話しかけてくる。
そこは、奥行き幅、高さとも十メートル程の広さの空間で、全面に池が広がっている。
光はどうやら、池の中から出ているようで、池全体がまぶしく光っている。
「この池の中に照明があるだ。
でも、オラは泳げねえから、採って来てもらいたいだぁ・・・。」
十四朗が、池を指して話す。
なんと、半漁人のくせに泳げないと・・・、どういう事だ?
「分った、俺が行って来よう。」
しかたがないので俺が、水中であることを考慮して、鋼の剣を咥えて池の中へ潜って行く。
自己申告カードの特技欄に、素潜りで5分は潜水可能と書いておいたのが幸いした。
思ったより深い池の中は、光に満ちていた。
それもそのはず、すり鉢状になった直径1メートルほどの円形の池の底には、電球の玉のような光の玉が、池の底から伸びた太い棒の先についていて、池底の棒の両側に細長いくぼみがあるのが見える。
とりわけ、それを守っている魔物がいる訳でもなく、俺は鋼の剣で棒の根元をゴリゴリと切って、明かりを手に入れると、急いで浮上した。
「ほれ、意外と簡単に手に入ったな。」
そう言いながら池から上がる。
『ザー・・・ジュルジュル・・・ジュポッ』すると、背後から大きな音が。
見ると、池の水がすごい勢いで減っていくではないか。
ふろの栓を抜いたかのように渦を巻きながら、すぐに水は無くなり、先ほど光の玉が生えていた池の底には、穴が開いていた。
どうやら、光の玉の根が池の栓の役割をしていたようで、それを切り取ってしまったので、池の水が抜けてしまったのだろう。
「ありゃりゃ・・・、参ったね、どうしよう。」
俺は、突然の事態に言葉を失う。
「まあいいべさ・・・、照明は手に入ったんだもんでな。
じゃあ、帰るべさ。」
十四朗は、その光景を見ても少しも動じず、今度は先頭に立って歩き出した。
「あ・・・ああ・・・。」
どうやら、こういった事態は予想していたという事だろう、俺達も彼の後を追ってその場を去る。
照明と言われていた光の玉は、これ自体が植物なのか動物なのか、果たして生き物なのかさえ不明だが、まばゆいばかりの明るさで、周囲を照らし続けている。
確かに、日の光のような温かみのある光だ。
「なあ、オメ達は、どうして照明を手に入れる手伝いをしてくれたんだ?
怖い魔物たちがいっぱい出ただろ?
そんな危険な真似までして、何の得にもならないことを・・・、最初は照明が欲しいのかとも思っていただが、照明は村さ届けてくれるんだろ?
一体何が目的だ?
まさか・・・、次の村長を狙っている訳じゃああんめえな・・・。
それとも・・・、はっ・・・ナナセか?やっぱり、ナナセのナイスボディが狙いなのか?」
帰りの道中で、突然十四朗が疑い深そうな流し目で、ちら見してくる。
どうやら、村長が言っていた通り、照明を持ち帰ったものが次の村長候補という事なのだろう。
更には、村長の娘であるナナセの嫁ぎ先を気にしているのか。
「いや、俺達は冒険者だから、ここの村の村長になる気なんかさらさらないさ。
それと・・・、ナナセさんとも出会ったばかりだし・・・、彼女の事を如何こう思っている訳でもない。
俺たちの仲間には、女性もいることだしね。
そう言ったことが目的じゃなくて、俺達の冒険を続けて行くうえで、この村での依頼をこなすことが、必要だと感じたから手伝っただけさ。
それによって、村からお礼の宝物などもらえたりして、それが次の冒険に繋がって行ったりするのさ。」
俺はロールプレイング形式のゲームの大筋を説明してみる。
ゲームの、しかもダンジョンのキャラクターに、こんな話をするのも変な感じだが、彼らも俺達と一緒に現実世界に飛び出してしまったため、自我を持ち、戸惑いなどもあるのだろう。
「へえ・・・、お宝ねえ・・・・、オメ達は村の財宝目当てなんだか・・。
オラ達が苦労して溜めた村の財産を、根こそぎ持っていくつもりだな?
そったらこと、させらんねえ。」
突然、十四朗が訳の分からないことを言い始めた。
クエストをクリアして、そのお礼として村にある宝箱の中身をご自由にお持ち帰りください、と言う設定のはずだろ?
それとも、村人たちの生活用品まですべて持っていくとでも思われているのだろうか・・・、それでは強盗のたぐいだ。
「いやいや、お宝と言ったって、今回のクエストのお礼として設定されているお宝を頂くだけで、それ以上の物を要求するつもりはさらさらない。
今回のクエストに、そう言った設定がないのであれば、何ももらえなくても文句は言わないよ。」
とりあえず冒険が進んで行けばいいのであって、何も常にお宝目当てに行動している訳ではない。
先へ先へと進んで行って、ラスボスを倒すのが目的なのだから。
「ふうん・・・、何ももらえなくたっていいっていうのは、ますます怪しいな。
ナナセには興味がねえって・・・、そったらこと言ったって、口だけじゃオラは信じらんねえ。
オラとナナセの関係は知っているだろ?」
そう言って、十四朗は後方のナナセをチラリと見てから、俺に視線を合わせてきた。
「あ・・・、ああ、なんとなく、二人は恋人同士なんじゃないかと・・・。」
「なんじゃないかじゃない!オラ達2人は付き合っているだ。
結婚の約束までしているだ。
それを何だ、後から来て、たかが照明を採ったからと言って、オラの大事なナナセは渡すわけにはいかねえだ。」
そう言いながら十四朗は、ナナセを自分の背後に隠すような姿勢を見せる。
「いやいや、だから・・・、その・・・、ナナセさんをどうこうなんて、全く考えていないから、信じてくれ。
お・・俺には・・・・、レイという大切な女性がいるんだ。
同じチーム内なので、普段はそう言ったそぶりは見せないようにしているが、たまの夜には・・・。」
俺はそう言いながら、レイの体を引き寄せる。
突然の告白だが、成り行き上仕方がない。
おそらく俺の顔は、湯気が出る程真っ赤っかだろう。
そんな俺の姿をみて、源五郎は平然とニヤついている。
「へえ、お二人はそう言った関係だったのですか・・・、全然気が付きませんでした。」
ツバサはやはり天然の様子だ。
「馬鹿っ・・・、突然何を言い出すのよ、恥ずかしい・・・。
これって、この星中に放送されるのよ。」
レイは顔を真っ赤にして、そっぽを向いてしまった。
「へえ、そうだか・・・、だども安心は出来ねえな・・・、なんせナナセはナイスボディだかんな。
更に、村長の地位までついてくっだからな・・・、そんな魅力的な話・・・、断る方が不思議っちゅうもんだべ。」
尚も十四朗は首を振る。
「十四朗っさ・・・、すまねえだ・・・、オラがあまりにも魅力的すぎるのが悪いんだ・・・。
遠くっからでも、噂を聞きつけて、こうやってやってくるだよ・・・。
止められねえんだぁ・・・。」
そう言いながら、ナナセは悲しげに顔を伏せる。
「だから、違うって・・・。」
もうどうしていいのか分からない、この展開にどうやって対応すればいいのか・・・。
「だったら、こうするべ・・・、この照明を採ったのはオラだってぇことにしてくれ。
そうすりゃ、オメさん達が村長の地位もナナセも狙っていないことを信じてやれるだ。
なにせ、このまま村さけえって照明さ採って来たっていえば、すぐにナナセとの祝言が始まるんだかんなぁ。
そのまま断わりもせずに、その流れに乗っちまうつもりじゃねえってところを、見せてくんな。」
とんでもない事を言い始めた。
彼が照明を取ってくると言うクエストを達成したと言う事にしてしまったら、お礼に頂ける宝も情報もない事になってしまうのではないか?
「いいんじゃないのですか?まずは我々の事を信用してもらった方が、いいですよ。」
何時になく源五郎が積極的に意見を述べてきた。
いい加減、堂々巡りの話に疲れて来たのであろうか・・・、確かに終わりのない話に近くなってきている。
それとも、この流れ自体がクエストの進行によるものと、解釈でもしているのだろうか。
「分った・・・・、いいよ、この照明は君からハチベエさんに渡してくれ。
俺たちは、君をサポートしたと言う事にしてくれればいい。」
仕方がないので、俺は手にしていた光の玉を十四朗に渡した。
「おお、これでいい・・・、これでオメさん達を信じてやれるだ。」
照明に照らされた十四朗の表情がまさに明るくなり、また、先頭に立って歩き始めた。
行きであらかた魔物たちは倒してしまったのか、帰りは何も出現せず、何の事はなく、簡単にクエストを達成し村に戻ってきた。
「おお、手にしているのは、新しい照明ではないか・・・、先頭に立っているのは、十四朗・・・。
何ヶ月間も戻ってこなくて、臆病者のお前の事だから、とっくに逃げ出してしまったものだと、あきらめておったのだぞ。」
灯りが村に近づいて来たので、住居の洞窟から出てきたのだろう、ハチベエさんが迎えてくれた。
「へっへーんだ、オラは約束は必ず守るだ。
少し時間はかかってしまったが、約束の照明さ持って帰って来ただ。
これで、ナナセはオラのもんだ、文句はねえな。」
十四朗が胸を張って、眩く光る玉が先についた棒を村長に手渡す。
「お・・・おう・・・、新しい照明を持って来たものが、次の村長であり、村の共有財産を全て手にできる。
更に、わしの娘のナナセと結婚も出来るのだ、だから、問題はないぞ。
だが、本当にこの照明は、十四朗が一人で手に入れたものか?
このお方たちに手伝ってもらったのではないのか?」
ハチベエさんが、手にした照明を村人に手渡し、その村人は急いで住居の中へと入って行った。
照明をセットでもするのだろう。
「そったら恥ずかしい事、出来る訳ねえべ・・・。
この照明は、オラが一人で魔物たちと戦って、更に池に潜って採って来たもんだ。
あんな都会もんなんかに、この洞窟の中の魔物なんか相手にできる訳ねえべ。
洞窟の奥までついては来たが、俺の背中の後ろで震えていただけだ。」
「んだんだ・・・、こいつら都会もんは、格好ばっかで、いざとなるとちっとも役に立たねえ。
足手まといにならなかっただけ、ましだった。
それに比べて十四朗のかっこよかった事・・・。」
十四朗が声高らかに、真っ赤なうそを並べ立て、それを証明するかのように、ナナセが同調する。
俺の背後で震えていたのは、君たちの方だろ。
「あっ・・ああ・・・、う・・・うん・・・。」
俺は、空ぜきをしながら十四朗の目を見て、打ち合わせ通りの事を言い出すように促す。
(ここは、このまま堪えて下せぇ・・・、成り行き上、仕方ねえべ・・・。)
すると、十四朗に小声でささやかれてしまった。
まあ、仕方がない。話を合わせておくか。
と言っても、彼の活躍が目覚ましかったとか、更に騒ぎ立てることもない、否定も肯定もせずにおとなしくしていればいいだろう。
「ふうむ・・・、よくやったぞ。
今夜は二人の祝言だ。
お客人たち・・・、期待に背いて何もできなかったようだが、わしら海竜の民の心は広い。
一緒に祝うとしよう。」
ハチベエさんは、上機嫌で俺達も家の中へと招いてくれた。
前とは比べ物にならないくらい、小さな洞窟の中が明るい。
きれいに整理された家具や台所に、2階のベッドの下は倉庫になっているようだが、太く頑丈そうな木で組み上げられた格子に囲まれていて、中には入って行けないよう、入口には鍵がかけられている。
以前は暗くて見えなかったが、倉庫の奥には煌びやかな宝箱がいくつも・・・、これが村長になるともらえると言う宝だろうか。
話しのつながりからみて、十四朗がお礼として宝の中のアイテムをくれるのだろう・・・と考えられる。




