第61話
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「わしは、この村の村長のハチベエと申すものだ。
20年に一度の照明の取り換えには、次の長候補が出向いて取ってくることになっている。
ところが、そいつがまたしょうもない弱虫野郎でな・・・、もう何ヶ月間も戻ってこないのだ。
おかげでこんな暗いところは嫌だと、わしの最愛の娘までが出て行ってしまいおった。
明かりが復活すれば、娘も戻ってくるのだろうがの・・・。」
ハチベエと名乗る村長は、涙ながらに訴える。
「その、照明っていうのはどこにあるのですか?
よかったら、僕たちが取って来ましょうか?」
なんだかよくわからんが、照明というのが、このクエストの必須アイテムなのだろう。
話に乗ってみることにした。
よそ者には任せられないだの、一悶着あったりして、結局依頼してくるようなストーリーかな。
「おお・・・・それはありがたい・・・、わが村の照明はこの先の洞窟の二股を右に行った先にある、光の池に潜んでおる。
では早速お願いいたします。」
何とあっさり、依頼を受けてしまった。
「ささっ、どうぞこちらへ・・・。」
ハチベエさんは、すぐに俺達を入って来た方向とは逆方向に導き、窪地の階段を昇らせる。
その先には、これまた洞窟の入り口が・・・。
こちらは住居用の洞窟とは違い、ひたすら奥行きがあるようで、先が全く見えない。
こんな速い展開で良いのだろうか・・・、もう少し村の様子を探るとか、照明とはどのようなものかを他の村人に聞いてみるとか、した方がいいんじゃないか?
「この先ですじゃ、狂暴な魔物が出ますからお気をつけて。
一旦下へ下がって、それからまた少し登った先の二股を右ですので、お間違えの無いよう・・・。」
俺達4人は半ば強引に、ハチベエさんに押し込まれてしまった。
こうなりゃ、仕方がない、照明を取ってきてあげるしかなさそうだ。
意を決して、暗い洞窟を先へと進んで行く。
進む順番は、ツバサに続いて俺で、その後ろにレイと源五郎が二人並んでしんがりを担当。
以前まではツバサの後ろがレイと源五郎で、しんがりが俺と言うダイヤフォーメーションだったが、今は逆さYフォーメーションだ。
俺達と違って、この星の住民のツバサに関しては、一つしかない命なので、大事に扱うと言う事には賛成したが、どの道クエスト時のフォーメーションに関して、安全な場所など存在しない。
やはり、反射神経が良くて身の軽いツバサが先頭に適任という事となったが、背後がレイとか源五郎だと、避けた流れ弾が当たる事を気にして、ツバサが躱すのを躊躇することを危惧し、要は俺が弾除けの壁という訳ね。
確かに、頑丈な甲冑に守られているので、否定はしませんよ。
これからは、このフォーメーションでクエストをこなす方針だ。
「照明って・・・、明かりの事でしょ?
松明とは違うって言っていたけど、温かみがあるって・・・、どういう物なの?」
後ろからレイが問いかけてくる。
「うーん、よくわからんね・・・、最初のうちは光ゴケの類かと考えていたんだが、それだと池に潜んでいるっていう言葉が引っ掛かる。
壁一面が光るって言っていたから、間違いないって思っていたんだがね・・・。」
俺も、何を目的に捜していいのか分からずに、首をひねる。
「そうですよね、僕も光ゴケが怪しいって思っていました。
池の周りの岩肌に自生しているのではないのですか?」
源五郎も推理に参加する。
「まあ、水生の光る生物っていうのは結構種類がいるようだしね。
蛍なんかはその代表例だけど、それ以外にもホタルイカとか海ほたるなんてのもいるし、クラゲなんかはネオンサインみたいに華やかに光るやつもいる位だ。
だから、池の周りも怪しいし、池の中も可能性があるよね。」
俺は、俺なりに思いついたことを話しておく。
別に正解していなくてもいい、何かのヒントになって、照明と言われているものが、見つかればいいのだから。
とりあえず、いつも担いでいる袋の中には、中継箱がある程度は入っているので、入り口付近に貼り付けておく。
少し進むと、細い洞窟が開けた場所に出た。
結構広い空間で、うすぼんやりとした灯りの向こう側の壁に、また洞窟の穴が開いている、そのすぐ手前に何やら動く物体が・・・。
「誰かいますよ。」
ツバサが、先を指さす。
「いつまでも、こんなとこさ居たって、照明は手に入らねえべさ。
先へ進めねえんだったら、オラと一緒にここを逃げ出すべ。」
「そ・・・そったらことしちまったら、オラは一生笑いもんだ。
なんとしてでも、照明さ手に入れて、村長様に認めてもらうだ。」
「そったらこと言ったって・・・、この先は魔物が出るだべ。
それが恐ろしくって、一歩も進めねえだろ・・・、ここに留まって、何ヶ月経つだあ?
オラが気を利かせて家を抜け出してきたから良かったものの、そうでなかったら、オメ一生ここに留まるつもりだったか?」
「そうはいっても、魔物は恐ろしいべ・・・、出会ったら食われちまうだぁ・・・。
そんなところに、とても入って行けねえべさぁ・・・。」
「だから、こんなとこ見切りをつけて、オラと一緒に行くべ・・・。
都会さ行けば、なんとかなるさぁ・・・。」
「そ・・・そったら・・・」
男女の入り乱れた話し声が、少し離れた俺たちの所にまで聞こえてくる。
どうやら、俺達が入ってきたことに全く気付いていない様子だ。
「こんにちは、俺達は冒険者の者だ。
村長さんに照明を取って来てくれと頼まれてしまった。
君たちは、照明を採りに来たと言う、次の村長候補の人かな?」
ずっと会話を聞き続けているのは失礼となるので、切りのいいところで大声を張り上げてみた。
俺たちの存在に気づけば、堂々巡りの会話も一旦は中断される事だろう。
「だれだ?オメ達・・・?」
すぐに向こう側の黒い影が反応する。
「だから、俺達は冒険者で、20年に一度取り替える照明という物を、この洞窟の中の池から取ってくるように、村長のハチベエさんに依頼されてきたものだ。」
俺は、なるべく手短に説明する。
「とっつぁんが・・・?
ほれみい・・・、最早オメには愛想を尽かして、別の村長候補を見つけてきたべさぁ・・・、下手したら、オラこいつらの所へ嫁に出されるかも知んねえ。
そうなる前に、オラと一緒に逃げるべ。」
女性のような甲高い声で、もう一つの影に向かって語りかける声が聞こえてくる。
「そったらこと・・・オラがさせねえ・・・。
照明は、オラが持って帰るんだぁ・・・。」
尚も頑張るという声が聞こえてくる。
「まあ、こっちとしてはどちらでもいいんだがね・・・。
どうだろう、こちらはその照明という物がどんなものかも知らないから、その場所へ案内して、どれか教えてくれないか?
そうすれば、無駄に動き回らなくても済むし、的確に必要な物だけを持って帰ることができて助かるんだが。」
俺は、折角ここに居るのだから、彼らの協力を仰ぐことに決めた・・・というより、そう言ったストーリーなのだろうと、解釈した。
「まあ、オラ達に手伝えっていうんだったら、そうしないこともねえだ・・・。
しかし、手に入れた照明はどうするだ?
まさか、オメ達の物にするつもりじゃあんめえな?」
黒い影の目の部分がきらりと光る。
「そんなことはしないよ。ちゃんと村に持って帰って、更に君らに協力してもらったって説明するから。
どうやら君たちも照明がなければ帰ることが出来ない様子だし、それならいいだろ?」
俺は協力し合って、手に入れたことにすれば問題ないだろうと考えていた。
「わ・・分っただ・・・、但し・・・、オメ達が先に歩け・・・。
オラ達は、後ろから指示するだ・・・、それで嫌なら、オメ達だけで行け。」
「いや、別にそれで構わないよ。」
俺は、話しながら近づいて行っていたので、すぐ目の前に彼らの姿を見ることができた。
やはり、先ほどの村人同様、半漁人のようだ。
見た目では判断つきにくいが、声の高さと会話の内容から、男女の二人組と言った様子だ。
「俺は、シメンズという冒険者のチームリーダーで、サグルというものだ。
続いて、彼女がツバサ、こちらの彼女がレイで彼が源五郎だ。」
俺はとりあえずメンバー紹介をしておいた。
「オラは十四朗ってえ名だ。」
「ふうん・・・、オラはナナセっていうだ。
あんた達・・・都会もんだね?
見りゃわかるよ・・・、それで、あんたとあんたはギャルじゃねえか?
隠したって無駄だよ、オラには判っちまうだよ・・・、オラがどんだけギャルに恋焦がれているか・・・。
なあ、どうすれば、オメ達みたいなギャルになれるんだ?」
なぜか半漁人の娘であろうナナセが、レイたちの元へとよって来た。
「あ・・・あたしは・・・、アンズ村の生まれで、都会に住んだことは一度も・・・。
それにギャルってなんですか?」
そう言われてツバサが首をかしげる。
「あたしはギャルなんかじゃないわ、ただの冒険者よ。
どうして、ギャルなんて言葉を知っているの?
あたしたちが知っている、この星の人たちのファッションは、どちらかというと牧歌的で、派手な服装なんか好みそうもないんだけど、やはり、地域によって好みは様々あるのかしら?」
レイも同様に首をかしげる。
「とぼけなくってもいいだぁ・・・、オラには分っているだ。
ほら、ここに書いてあるべさ・・・、あんた達みたいな恰好をした娘が変身してギャルになるところを・・・。
変身ポーズみてぇもんがあるのか?」
ナナセが見せてくれたのは、何年前の物か分らないが、日本のファッション誌で、高校の制服姿の子の普段着を紹介しているページのようだ。
確かに制服姿と並べて私服のハデハデファッションが掲載されているので、一瞬で変身したように見えなくもない。
「この格好で、世界の平和を守っているんだべ?
ここにちゃぁんと、ギャルが世界を救うって書いてあるだ・・・。」
「うーん、なんだか、ちょっと知識が偏って・・・、更に情報が交錯しているみたいね・・・・。」
レイも、突然の事に対応に苦慮している様子だ。
「でも、間違いないわ、これはあたし達冒険者のためのクエストで、これをクリアすれば次の冒険への道が開けるという訳よね。」
レイの言葉に、俺達は大きく頷く。
「じゃあ、ぐずぐずしていてもなんだから、早速出発しよう。
この洞窟の奥へ進めばいいんだね?」
俺はツバサを促して、先頭を歩かせる。
ツバサ、俺、レイと源五郎が続き、遥かに遅れて半漁人の2人組が付いてくる。
「この先には魔物が出るって言っていたけど、あんまり離れていると、後ろからも襲われるかもしれないよ。」
と、俺が声を掛けると、彼らはダッシュで追いついて来て、俺の後ろにへばりついた。
「この辺りから、魔物が出るのかい?
この先にはどんなものがあるか分るかい?」
俺は、大きな声を出さなくても会話が可能になったことに満足しながら、彼らに尋ねる。
「この先は2つに分岐していて、右へ向かうと光の池に向かう。
左へ行くと、暗闇の池に行くらしいのだけんど、オラの村の中では暗闇の池に行く者はいねえだ。
そっちへ行っても池どころか何にもねえんだかんな。
照明があるのは光の池の方だ。」
十四朗は怖がっているのか、洞窟の前方を俺の肩越しに盗み見ながら答える。
『シュタッ』前を歩いていたツバサが突然飛びのき、俺が反射的に盾を構える。
『ダンッ、ダンッ、ダンッ、ダンッ』俺の盾に連続的に衝撃音が生じる。
『ぴちゃっ、ぴちゃっ、ぴちゃっ』見ると足元には、無数の小魚が・・・、どうやら、小魚系の魔物たちが、すごいスピードでぶつかって来た様子だ。
小魚でもまとまれば、それなりの衝撃にもなるだろうが、クリスタルの盾に阻まれて、おおよそ自滅と言った感じだ。




