第60話
4
食事をしてすぐに仮眠をとり、ウトウトとしたと思ったら、交代の時間だ。
今度は船尾の担当なので、ツバサの居る方へ顔を出す。
「おりゃぁー、とうっ!」
船尾の縁を使って、イカ系魔物相手にツバサが華麗な跳躍を見せていた。
『ズバッビュンッ』巨大なイカは、ツバサの炎の爪で寸断されてしまう。
その光景をうっとりとしながら、チームメンバーが眺めている。
見ると、セーラー服姿ではあるのだが、スカートではなくズボンをはいているので、やや気落ちした。
いや・・・、決してパンチラを期待していたのではない・・・、こんな海の上の雑魚魔物ではなく、高度なダンジョンを攻略している時に、セーラー服姿で飛び跳ねられては、たまにちらっと見える白いものに気が行ってしまい、魔物から痛恨の一撃を食らってしまいかねないため、この方がよかったとは言える。
そうだ、これで安心して戦える・・・のだ。
「交代に来たぞ・・・、でもツバサ一人で戦っているようだったけど、大丈夫かい?
このチーム分けは、彼らのレベルを上げることが第1目的だから、少しは戦う余地を残しておいてあげないと、いつまでたっても成長しないぞ。」
スカートでなかったことに腹を立てている訳では決してないが、彼らの成長の為と思って、とりあえずツバサに意見する。
「へっへえー・・・、分ってはいるのですけど、どうも魔物相手に仕損じるのが出来なくて・・・、止めを刺してしまうのです。
仕方がないから、時々やってくる、1匹だけの魔物の時だけ、新メンバーで戦う事にしてもらっています。
ほらっ、今回のように。」
丁度その時、1匹のカニ系魔物が出現した。
「冷凍!」
魔法使いの魔法で、蟹のハサミ部分が凍りつき
『シュパッ・・・グサッ、シュパッ・・・グサッ』弓使いの矢が甲羅に突き刺さる。
「おりゃぁー!」
最後は剣士が一刀・・・いや10回は斬りつけたか・・・で、ようやく魔物を葬った。
ようは、3人による集中攻撃だ。
こういったやり方もありなのだと、俺の方が勉強になった。
それからは、たまにツバサ方式も織り交ぜながら、新メンバーたちと一緒のクエストをこなしていく。
日ごとに上がって行くレベル同様、段々と戦い方も様になってきたが、まだちょっと危なっかしい面は残っている。
「そろそろですよ、中央諸島の真東で、北部大陸の東端の延長線上・・・、占い師の海図に印があった地点です。」
源五郎が交代の時にそう言ってきた。
「そうか・・・、すまないが、一旦元のチーム編成に戻ってくれ。
俺たちはこれからクエストというか、新たな冒険に向かわなければならない。
それがどんなものか分らないが、下手をすると君たちまで巻き込まれてしまう恐れもある。
占い師の言葉によると、水難の相が出ているのは、シメンズメンバーだけのようだが、万全を期すため、これからは別チームとして行動しよう。」
突然の俺の発言に、彼らの反応は複雑だった。
「なんだなんだ、俺達がちゃんと戦えるようになるまで、手伝ってくれるんじゃなかったのか?」
「もうちょっと、戦法なども教えて欲しかったなあ・・。」
「レベルもそこそこ上がったし、適当にその辺の平原にでも降ろしてもらえれば、そこそこやって行けるぜ。」
「いつまでも甘えてばかりいられないから、これからは自分たちだけでやっていくよ。」
不満たらたらの言葉も多かったが、中には建設的な意見もあることはあった。
「今回チーム編成を戻すのは、さっきも言った通り、俺達のクエストに巻き込まないためだ。
だから、もし無事で戻ってきたら、もう一度チームを組んで魔物退治を続けて行きたい。
なにせ、航海と言ったって北部大陸と中央諸島間を巡ったくらいで、他の大陸間は回っていないのだから、この先もっと強い魔物が存在する海域だってあるはずだ。
さらに・・・」
とか、えらそうに演説をしていると・・・
「大変です、進路の先に巨大な渦が出現しました。」
ボーダーシャツの船員が、真っ青な顔をして知らせてきた。
「避けられないのかい?」
すぐに船長の居る操舵室へ駆け込む。
「駄目だね、舵が全く効かないし、強い追い風だから止まることも出来ない。」
船長はさじを投げた状態だ。
「巻き込まれるぞー・・・」
マストに上がって、航路の警戒に当たっていた船員が、高い位置から叫ぶ。
『わぁー・・・・』
巨大な洗濯機に入って、ぐるぐると洗われているかのように、船は渦の中心へと導かれていく。
『ピチョーン、ピチョーン・・・』「うん?」
気が付くと、どこか広い場所に身を投げ出されていた。
周りを見回すと、3人の人影が・・・・
「レイ、しっかりしろ、レイ・・・、大丈夫か?」
俺の胸元で倒れているレイの体を揺り動かす。
巨大な渦に巻き込まれ、体を持っていかれそうなときに、傍らに居たレイをかばうために抱きしめたのを思い出した。
「うっうーん・・・、ここは?」
レイは、すぐに気が付いて、辺りを見回す。
「分らん、どこかの島か何かか?」
『ボワッ』レイが炎の魔法で灯りをともす。
上は空かと思っていたら、天井がある・・・岩肌の天井・・・、どうやら洞窟か何かのようだ。
「源五郎、しっかりしろ。」
「ツバサちゃん、大丈夫?」
続いて、俺が源五郎を、レイがツバサを揺り起こす。
俺の場合は、頑丈な甲冑に身を守られているが、他の3人は防具に守られているとはいえ、それなりの衝撃はあっただろう。
源五郎もツバサも頭を打ったようで、後頭部をさすっている。
「他のみんなは、どうなったんですか?」
源五郎が、辺りの静けさを気にする。
「分らん・・・、ちょっと待ってくれ。
こちらサグルだが、聞こえているかい?
聞こえていたら返事をしてくれ。」
俺は、頭に装着しているインカムのマイクを下げて、話しかけてみた。
戦いのときに激しい動きをしても外れないよう、しっかりと装着しているようだ。
「はい、こちらPTVスタッフです、サグルさんですか?音声映像共に、受信状態良好です。」
すぐにいつものテレビスタッフから、イヤホンに返事が返ってきた。
「ああ、無事でよかった、こっちは洞窟の中のようだが、そっちはどうなっている?」
まずは、向こうの様子が心配だ、俺達とは離れた洞窟のどこかにいる可能性もある。
「こちらは、未だに船の上です、というか、船自体は渦に巻き込まれていってはいません。
サグルさんたち、シメンズメンバーだけが渦に巻き込まれたかのように、回転しながら消えて行ったようです。
でも、こちらも身動きは取れません、軍用艦は、丁度渦の真上で停止した状態で、前進も後退も出来ません。」
驚きの様子が伝わって来た。
恐らく、俺達がこのダンジョンをクリアできない限り、船はどこへも行けないのだろう。
あるいは、俺達が全滅でもしてしまわない限りは・・・。
幸いなのは、電波状態も良く、中継が続けられることだ。
「どうやら、渦の中のダンジョンのようだね。
先へ進んでみるか・・・。」
きょろきょろとあたりを見回すが、右も左もどころか・・・、前後含めて結構広い空間が繋がっている。
一体、どっちへ進んで行けばいいのだろうか・・・、とりあえず、ヘッドカメラ脇のライトをつけて見る。
「まずは手当たり次第、進んでみましょう。」
源五郎がいつものように、洞窟の地面に進行方向へ矢印と、数字の1を白のチョークで書き込む。
いつものように、2時間ほどまっすぐ歩いて、何もないとまた戻ってきて今度は反対方向へ・・、繰り返す事3回目、最初の地点から右方向へ歩いて行くと、15分ほどで先に明かりが見えてきた。
久しぶりに見る暖かな光に、自然と早足になって行く。
「もうオラは、こんな暗くじめじめしたところで、暮らして居たくはねえ。
都会に出て、ギャルっていうのになるんだ。
これからの時代は、ギャルのものだ。」
はるか向こうに人影が見えて、それなりに距離がある割にははっきりと会話が聞こえてくる。
甲高いが、いつものように、棒読みのようなセリフだ。
どうやら若い女の子が、あこがれの都会に出て行こうとしている様子だ。
「馬鹿な事を言うでねえ、オラ達海竜の民は、この地を守って暮らして行かねばなんねえだ。
都会?とかってのは、恐ろしいところだっていうじゃねえか。
そんなところへ、オメを出すために、苦労して育てて来たんじゃねえぞ!」
更にそれを引きとめようとする声。
海竜の民と言ったか・・・、やはりここは占い巨乳美女が言っていた、海竜にゆかりのある地という事のようだ。
「こんな、明かりもねえ所なんかにゃ、居られねえだ。
オラはもっと光が欲しいだ。」
『ダッ』「お・・・おい・・・待てって・・・」
突然駆け出す足音と、それを呼びとめる声・・・
歩いて行くと、段々と人影も大きくなってくる。
「こんにちは、僕たちは冒険者です。」
とりあえず、まずは挨拶だ。
「なんだ、オメ・・・、冒険者・・・?冒険者が、こんなところに何の用事だ?」
人・・・かと思っていたら・・・2本ずつの手足に直立歩行だが、全身をおおう鱗に、耳かと思いきや四角いヒレが付いていて、その影にはエラか?・・・いうなれば半漁人のようだ。
「実は・・・、この辺りを航海中に、渦に巻き込まれてしまって、気が付いたらこの洞窟の中に・・・。」
俺は正直に、ここに来た経緯を説明する。
「なに?大渦に巻き込まれて?・・・ってことは、遭難者って事か?
だったら、わしら海竜の民は、遭難者を大事に扱うぜ。
それが、海竜様との約束だかんな。
来なさい来なさい・・・。」
半漁人は俺達を、奥へと案内してくれた。
窪地を降りて行く階段が作られていて、下段では円周状にかがり火が焚かれている。
半漁人の歩いて行く先は、小さな洞窟のような横穴が開いていて、入口は小さいが中は結構広いようで、1階は倉庫のようになっていて、2階はベッドが並んでいて居住スペースのようだ。
灯りと言えば、松明の火のみで、居住部分では煙いので松明もあまり置けないのだろう、明かりもなく非常に暗い。
「暗くてすまねえな・・・、本来なら照明に困ることはねえんだが・・・、今回の照明係ってえのが問題児でな・・。」
俺たちを案内してくれた半漁人は、そう言って頭を抱える。
見ると、周り中、同じような姿をした人たちばかりだ。
という事は、ここは半漁人の村という事だろうか。
「照明ですか・・・、照明って、松明の事ですか?
それとも、こんな電気的な明かりですか?」
薄暗い中に、ライトをつけて驚かせてもいけないので消していたが、ヘッドライトを灯して見た。
「オオッ・・・まるで伝説のお天道様の明かりだ・・・・ありがたい、ありがたい・・・。」
俺の付けた灯りに向かって、半漁人たちは両手を合わせて拝み始める。
「いやだなあ、これはライトって言って、電気で光らせているだけですから、特別ありがたいものでも何でもないですよ。
僕たちは、全員持っています。」
そう言って源五郎たちにもヘッドライトを付けさせた。
薄暗かった洞窟内が一気に明るくなる。
「おおっ・・・、ありがたい、ありがたい・・・。
しかし、わしらの照明は、もっとこう・・・温かみのある照明だ。
この壁が光るんだな・・・、少しの量だとぼんやり明るいだけだが、この壁一面ともなると・・・、そりゃもうすごく明るくて、眩しいくらいだ。
そんな照明も、20年に1度は取り換える必要があるのだが・・・・、担当のやつが逃げ出してしまって・・・、未だに届かねえ・・・。」
半漁人は、まぶたの無い目に涙を浮かべて話しはじめた。




