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もしも願いがかなうなら  作者: 飛鳥 友
第1章 始まり
6/213

第6話

                     6

 とりあえず、森の南へと進む。

 クエスト票を見ながら、名前を呼んでみる。


「マーリーンちゃーん!マーリーンちゃーん!」

「グルルルル!」


 右前方の茂みから、何やらうめき声が聞こえてくる。

 マーリーンちゃんなのか?

 息を飲んで、目を凝らしていると、茂みから出て来たそいつは、真っ黒でしなやかな肉体を持っていた。


「く・・・、黒豹?」

 俺はすぐに剣を抜く。


「待ってください、先ほどの洞窟内では魔物がいましたが、この森含め道中では魔物はいませんでした。

 更に魔物たちは、なにか少し地球の生き物とは違った感じがしました。


 目の前に居るのは、黒豹でしょう。

 動物園とかでしか見たことはありませんが、確かに黒豹です。

 もしかすると、我々とは次元が違うこの星の生物という可能性もありますが、こいつは明らかに我々に反応しています。


 という事は、クエストに関係する何かです。

 可能性の高いのは・・・、マーリーンではないかと・・・。」


 すぐに、源五郎が右手を広げて俺を制する。

 うーむ、確かに源五郎の洞察力は鋭いし、大抵は正しいことを言っている。

 とすると、親黒豹からの依頼という事になるが・・・。


 よく見ると、首に巻いたリボンのような紐には小さな鈴が付いていて、野生ではなく人に飼われていたことを、さりげなくアピールしている。

 クエスト票にちらりと目をやると、特徴欄に歩くたびに鈴のきれいな音がしますと書いてある。

 マーリーンちゃんで間違いなさそうだ。


「どうする?」

 俺は、今にも襲いかかってきかねない黒豹から、視線を動かさずに背後のメンバーに尋ねる。


「うーん、どうしましょうか・・・。」

 源五郎がうなる。


「なにか、体をマヒさせるとか、動きを止める魔法はないのか?」

 俺はチョボに確認する。


「調べて見るから、時間を稼いでくれ。」

 チョボに言われて、俺たちは黒豹を逃がさないように取り囲む。


 と言っても、食われるのは嫌だから、あくまでも遠巻きにするだけだ。

 剣を鞘に納めて鞘ごと握り、豹の鼻づらを押さえこもうとする。

 豹は嫌がり後ろへ逃げようとするが、タンクが回り込み構えて逃がさない。


 反対方向では源五郎が弓矢を構えて威嚇する。

 そうして、タンクが素早い身のこなしで豹を翻弄し続けて時間を稼ぎ、チョボが途中から何事か呟きだした。

 段々とチョボのつぶやきが、声になってくる。


麻痺(ビリ)!」

「キャゥン!」

 チョボの呪文に、黒豹は一瞬飛び跳ね、すぐにしびれた様に動かなくなった。


 電気ショックを受けたようだ。

 俺は、ギルドで松明と一緒に受け取った荒縄の意味をようやく理解し、細長い棒状の木の枝を見つけて、黒豹の足を縄で縛り付け、棒を通してタンクと共に棒の両端を肩で担いだ。


 黒豹を逆さ吊りの格好で運ぶのだ。

 俺が前を歩き、タンクが後ろを担当して、村までの道のりを延々と歩いて行く。

 途中、チョボと源五郎組にバトンタッチして尚も歩き、ようやく村へ辿りついた時には日も暮れていた。


 黒豹を担いだままギルドの建物の中へと入って行き、受付でクエスト票と吹き出し草と光コケを詰めた袋と共に、縛った黒豹を渡す。

 いつもの受付嬢が忙しそうに手続きをしていたと思ったら、突然場内にファンファーレが鳴り響いた。


「おめでとうございます、サグル様、源五郎様、チョボ様、タンク様、それぞれYへレベルアップされました。」

『おおっ!』

 受付嬢の言葉に、周りの冒険者たちも色めき立つ。


 結構速い出世なのかもしれないな。

 注目を浴びて、なんか照れくさい感じがする。


「これは、マーリーンちゃんを見つけ出したことに対する、飼い主からのお礼です。」


 と言って、魔法使いの服と鉄の爪に加えて、竹で出来た胴巻きを2つくれた。

 チョボが魔法使いの服を貰い、タンクが鉄の爪を貰い俺と源五郎が胴巻きだ。

 更に成功報酬を受け取る。勿論均等割りだ。


「また明日も、このメンバーで冒険に行きたいね。」

 そんなことを言いながら、記録をしてこの日は終了する。



 週明けの月曜日から、課長からお呼びがかかった。

 加納も一緒だ、何の事かと一緒に向かうと、そこは部長室だった。


「先週末に、YJ社からクレームが来た。

 先週月曜日の納品、約束より3日も遅れたそうだね。

 村木君が配送したんだね?」

 部長は、俺たちが部屋に入った途端に切り出してきた。


「はい、その件なら、先週の火曜日に村木から報告を受けております。

 加納が担当の会社でして、彼が月曜日は手が離せないという事で、代わりに村木が配送に伺っただけです。」

 課長が、俺の代わりに答えてくれる。


「ふうむ、どちらにしても先方はカンカンで、担当者を変えてほしいと言っている。

 どうやら月曜日に伺った村木君がいいと言っているのだが、それでいいかね?」


 さすがに得意先からも苦情が出始めたか、加納の悪運もこれまでだ。

 俺は、内心しめしめと思っていた。

 しかし、俺も担当が少ない訳ではない、今でもギリギリで、YJ社まで抱えるとなると、相当にきつい。


 そう考えていると、

「村木君が担当しているKD社だが、先日ようやく最初の取引が成立した。


 さほど大きな契約ではないが、会社規模から考えて、今後は大口契約が望めるだろう。

 そこで、KD社の担当を加納君に変更するつもりだ。

 やはり、大手にはエースをぶつけないとね。」


「はあ?」

 俺は、部長が言っていることの意味が分からなかった。


 KD社は、長年契約が取れなかったので、どの担当者も敬遠していた会社だ。

 それを俺が、時間が出来るたびに繰り返し訪問し続け、ようやく先週最初の契約にまでこぎつけた、いわば俺が開拓した会社なのだ。

 それを、なんで加納なんかに。


「しかし、KD社は私が・・・。」

「いや、何も言わなくてもいい。

 これは、決定事項なのだよ。


 KD社は大手だが、見積もり比較がシビアで、なかなか契約を取ることが難しい会社だ。

 ここを、加納君以外の担当者に任せていたのが間違いだったんだ。

 加納君ならすぐに大口契約を持ってくるだろう。


 じゃあ、引継ぎをお願いする。」

 有無を言わせぬと言った態度だった。


 一体何があったのか・・・、開いた口が塞がらなかった。

 俺は、意気消沈して部長室を後にした。

 課長も、掛ける言葉が見つからないのか、じっと押し黙っていた。


 一人、加納だけが・・・、

「まあ、そう言う事だから、KD社の担当者名簿をよろしくな。

 俺が担当すれば、すぐに最大顧客になるさ。」


 加納はそう言いながら、やりかけの書類を俺の机の上に放り投げてきた。

 見ると、YJ社宛の途中までの見積書だ。

 ところが、発注先すら何も書いてはいない。


「これは・・・、納期が来週早々になっているが、どこへ発注する予定だ?

 納期の詰めと、見積もり価格はどうなっている?」


「ああ、そいつはまだだ。

 今日中に何とかする予定だったけど、俺はKD社にあいさつ回りに行かないとな。


 村木が一緒だといいんだが、これをやらなければならないだろ?

 まあ、本来なら引継ぎをしっかりやって欲しいところだが、仕方がない、勘弁してやるよ。」

 そう言って、奴は部屋を出て行った。


 後で女子社員に聞いたのだが、部長と一緒にKD社に向かったらしい。

 しかも、今朝早くに加納は、部長室を訪問していたとまで聞いた。

 つまり、奴はYJ社から苦情が来たことを察していて、先手を打って担当変更を申し出ていたのだろう。

 しかも、部長にダイレクトに告げることによって、あたかも業務上の必要性があるかのように。


 やられた、1年以上にわたって努力してようやく作った、KD社とのコネクションをただ取りされてしまった。

 奴がエースと言ったって、先輩達から受け継いだ主要取引先のうち、懇意にしてくれる会社だけを選択して、しかも利益が出るギリギリの契約ばかり取ってきているだけだ。


 契約金額は大口だが、利益率は全然大したことはない。

 俺は、そう言った派手なパフォーマンスは嫌い、小さな契約でも堅実で継続性がある物を主体にし、更に新規顧客確保の努力を続けて来たんだ。

 どうして、そう言った影の努力が評価されないのか。


 今回も、たまたまKD社に赴いたら契約が取れただけのように思われているのだろうか。

 男子たる者、表へ出れば7人の敵がいると古くから言われているが、本当に仲間とか同僚なんて信じることも出来やしない。


 俺は、夜遅くまで掛けてようやく発注先を見つけ、見積書を作成すると急いで帰宅した。

 明日は、早朝からYJ社へ訪問して契約してこなければならない。



 ふと気が付くと、今日もギルドの中に居た。

 昨日と違うのは、源五郎の外に2人の男と一緒に居ることだ。


「じゃあ、今日の仕事を探してみますか。」

 俺は、そのまま部屋中央にある柱へと向かう。


 そうして、宝探しの面を物色していると・・・

「せっかくレベルが上がったんだから、Yレベルの仕事にしませんか?

 その方が、経験値も稼げますし、報酬もいいですよ。

 勿論、それなりに危険も伴うとは思いますがね。」


 源五郎に言われてふと気づくと、俺はZレベルの欄の紙をじっと眺めていた。

 昨日までは何枚もなかったのだが、今日はYレベルの欄にも仕事が掲示されている。


「あ・・・、ああ、そうだな。Yの仕事を探そう。」

 言われて初めて気が付いた俺は、視線を上側に切り替えた。


 Yレベルの仕事は難しいのかどうか、依頼内容だけでは判らない。

 しかし、報酬の経験値と金額が多いので、やはりそれだけ難しいのだろう。

 それでも、クエストによって、経験値も金額も幅があるようだ。


 俺は、東の森の洞窟の奥に自生している黄昏草の採取と、洞窟最深部にある宿り木の根の採取の2枚の紙を取った。

 どちらも、4人パーティで1日の仕事となっているが、同じ洞窟内なので、何とかなるだろう。


「これでいいかな。」

 残る3人の意見を聞こうと、紙を向こう側にして掲げて見たが、皆はそのまま受付へと歩き出していた。

 仕事内容はお任せですか・・・、信頼されているねえ。

 そう思いながらも、悪い気はしなかった。


「サグル様、源五郎様、チョボ様、タンク様のパーティですね。

 チーム名はお決まりですか?

 そうなされば、毎回参加者のお名前を読み上げなくても済むようになりますが・・・。」

 いつものかわいらしい受付嬢は、満面の笑みで問いかけてくる。


「あ・・・、ああ、そうだったね。

 忘れていたから、今回のクエストの最中にでも決めておくよ。」

 そういえば、そんなことがあったなあと感じつつ、今日は気がせいていた為に、何も設定していなかったことを後悔した。


「判りました、リーダーの変更もございませんね。

 では、頑張ってきてください。」


 受付嬢は、人懐っこい笑顔とは裏腹に、あくまでも事務的に処理をしてクエスト票を渡してくれる。

 俺は、それを受け取り、ギルドを後にした。


「じゃあ、まずは昨日貰った金で身支度を整えよう。

 クエストをこなすと、アイテムがもらえることは判ったが、死んでしまったら金が半分になってしまう。

 最初のうちは、ものに変えておくに越したことはない。」


 俺たちは武器屋や道具屋を回ることにした。

 胴巻きを手に入れたので、ブーツを購入した。

 よく考えると、裸足のままだったのだが、不思議と平気で歩いていた。


 しかし、今後ダメージがある毒の沼などに、はまる危険性もないとは言えない。

 そうなった時に、少しはダメージが軽減されるだろう。

 残りは、薬草と毒消し草の外に弁当も購入しておいた。

 他のメンバーも、同じような買い物をしているようだ。


「すっかり忘れていて申し訳ない。

 チーム名を決めないか?


 俺は当面このメンバーのままで、パーティを組みたいと思っている。

 だから、チーム名は必要だろう。」

 買い物を済ませた後、村を出るまでの間の道すがら、俺は皆に少し待ってもらう事にした。


「いいですね、僕も考えてきました。」

 すぐに源五郎が賛同してくれる。


「ああ、いいよ。」

「僕も、一応考えてきた。」

 チョボもタンクも賛成してくれた。


「じゃあ、俺から・・・・カムラッドというのはどうだろう。

 英語だが同士や戦友という意味の言葉だ。」


 俺は、今朝、バーガーショップで朝食を取りながら、検索した結果を告げる。

 別に英語が得意な訳ではないが、まあ、カッコいい意味と発音だ。

 無難な線だろうと思って、記憶しておいたものだ。


「ああ、いいですねえ、僕も英語で4人の男ばかりのパーティだから、フォーメンズなんて考えていましたけど。」

 源五郎が感心したように話しかけてくる。


「ああ、いいね。

 俺はリーダー名を取って、チームサグルでいいと思っていたが、そっちの方がいいや。」

「僕はダンジョンマスターなんて考えていましたけど・・・。そっちが良いです。」

 チョボもタンクも同意してくれた。


「ふーん、そうかあ・・・。

 俺と源五郎君は実は日本人なのだが、チョボさんとタンクさんはどうなんだい?

 個人情報にはなるが、国籍くらいは平気だろ?」

 俺はふとある考えがよぎったので、念のために聞いてみることにした。


 なにせ、視線の下部にある会話画面には国籍不明の記号なのか文字なのか、判別もつかないのような物が羅列されているだけだから、それでも俺自身は理解できているという事は、自動翻訳されているのだろう。


「俺は日本人だよ。それと、さんはいらないからチョボで良い。俺も、サグルと呼ばせてもらう。」

「僕も日本人。僕もさんはいらない、タンクで良いよ。リーダーって呼ばせてはもらうけど。」

「じゃあ、僕もリーダーって呼びます。君付けも外してもらって構いません。」


「あ、ああ、ありがとう。

 源五郎のフォーメンズだが、4人だからシメンズはどうかな。

 クエストが掲示されている柱も4面だし、そう言った意味も込めてヨンメンズとかシメンズと言ったチーム名もありじゃないかな。」


 俺は、ふと思いついたことを口に出していた。

 あまり自分の考えに自信を持つタイプではないので、みんなが賛成してくると、逆に不安になってしまうのだ。

 実は心の中は、面白く感じていなかったりして・・・・、なんて余計な事を考えてしまうタイプなのだ。

 源五郎の案だって馬鹿に出来ないし、ちょっと変えればそれなりに聞こえるんじゃ・・・。


「おおいいね、ダイレクトな英語でないのが気に入った。」

「僕も賛成。」

「僕も・・・やっぱり流石ですね。」


「じゃあ、ヨンメンズはあまりにもダイレクトすぎるので、シメンズにしたいと思う。」

 何が流石なのかは分らんが、とりあえず俺一人だけの案は避けたいので、源五郎との共同制作のような形に落ち着いてほっと一息だ。


「あのー、昨日東の森へ行って、クエストをこなしてきた方たちですよね。

 僕たちも今日は東の森のクエストを引き受けて来たのですけど、同行してよろしいでしょうか?」

 立ち止まって長話をしていたら、見ず知らずの4人組に声をかけられてしまった。



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