第58話
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「おお、シメンズの奴らじゃないか。
最近は洋上の魔物退治ばかりで飽きて来たから、俺達に押し付けようって魂胆か?
確かに俺たちは、退治すべき魔物たちが近くに居なくなっちまって困ってはいるのだが、お前たちのいいなりになんかなるつもりはないぞ。」
あら、分っちゃったかな・・・?
いやいや、ここは何とかもうひと踏ん張り。
「別に魔物退治の役割を押し付けようってつもりじゃないさ。
俺達だって一緒に戦う。
でも、数も多いし大変なのは確かだ。
君たちが参加してくれるのなら、ありがたいと考えて誘いに来たという訳だ。
どうだろう、この地に魔物がいなくなったと言うのなら、次の冒険の旅に出ると言うのも、いいんじゃないかと考えるのだが・・・。」
俺は何とか、彼らを誘い出したいと考えていた。
「そりゃ、俺達だってできれば次の地へ向かいたいさ。
しかし、次に進むべき北部大陸の南側には既に魔物たちはもういない。
アレヘスやヨースルまで出向いたところで、俺達のレベルで引き受けることができるクエストなんか、ありゃしないだろう。
俺たちのレベルを知っているのか?レベルXだぞ。
結構がんばっている奴でもWが最高だ。
ここらに巣食っていた雑魚魔物たちを退治しまくって、ようやくあげたレベルなんだ。
なにせ、ボスキャラは1度倒されたらもう存在しないのだからな。
こんな状態で、どうやってレベルを上げろと言うんだ。」
確かに、今の北部大陸に出向いたとしても、彼らが引き受けることができるクエストが存在するかどうか、怪しいところだろう。
詰めかけた冒険者のレベルに合わせて、ある程度クエストのレベルも変えるようだが、それにしても対象となる魔物がいなければ、クエストを発生させることも出来ないだろう。
彼の主張は尤もだった。
「それだったら心配ご無用だ、君たちのレベルを急速に上げる意味でも、洋上での魔物退治はうってつけとも言える。
俺たちのチームメンバーが、それぞれ別々のチームを組み直す。
そうして各チームのリーダーになれば、かなり難易度の高いクエストだって引き受けることが可能だ。
と言っても、洋上で襲い掛かってくる魔物退治が主体だ、そんなに強い魔物はでやしないし、最初のうちはある程度我々が痛めつけた奴で、練習しながらだっていい。
そうやって経験を積み重ねて行けば、いずれ自分一人でも海の魔物を退治できるようになれるさ。」
俺は、練りに練った案を説明し始めた。
冒険者のチームというくくりに関して、別に人数などの制限はない。
そのクエストを引き受けたチームとして、そのメンバーに対して経験値やゴールドが与えられるだけで、いうなればたった一人だけでチームを名乗ってクエストを引き受けても構わないわけだ。
しかも、一人の冒険者が、複数のチームに所属していても構わないことになっている。
だから、シメンズというチームを解散せずに、それぞれがもう一つのチームリーダーに収まって、それぞれクエストを引き受ければ、結構高いレベルのクエストをこなすことが可能だ。
なにせクエストの申請基準は、リーダーのレベルにのみ左右されるのだから。
と言っても、船を襲ってくる雑魚キャラレベルなので、せいぜいTとかUランクなのだろうが、彼らにしてみれば相当上位なクエストになる。
すぐに経験値を溜めてレベルアップも夢じゃないと言った訳だ。
「ほ・・・本当だな、危なくなったら助けてくれるんだな・・・?」
「ああ、勿論だ、一緒に行くかい?」
結構真剣な表情で問い詰められたが、勿論、仲間を見捨てるようなことをするつもりは一切ない。
目的は、冒険者全体のかさ上げなのだ。
「いいだろう、チーム北海、リーダーのヤサ吉だ。
出遅れた責任を感じていたんだ。
ここで一気に挽回だ、一緒に行くぜ。」
竹で出来た防具に身を包んだ剣士が、手を差し出してきた。
「よろしく、お願いするよ。」
笑顔でその手に握手する。
「チーム山椒、リーダーのピリ辛だ、よろしく。」
「うちはアロハレベルという。よろしく。」
居残っていた全員、3チーム12名が参加してくれることになった。
全員、支度を整えて、明日の朝に港に集合という事にしておいた。
もちろん、復活の木の葉は必ず手に入れておくよう念を押して。
「ありがとうございました。」
美人の受付嬢が、ようやく笑顔を見せる。
先ほどまで、むさい男どもに囲まれて弱り切っていたのだから、ほっとしたことだろう。
「いや、こっちとしても、戦う人数を増やす必要性があったから、丁度良かったよ。
人数的にも理想的だし、ありがたいよ。」
そう言ってギルドを後にする。
でも、もうクエストは発生することはないだろうし、第一、この地に冒険者はいなくなるはずだ。
彼女は一体どうするのだろう?
まさか、失業という事はないだろうなぁ・・・、ちょっぴり心配になって来た。
そのまま一旦港に戻る。もし、奴が来ていなければ、街中をしらみつぶしに捜すつもりだったが、いた、レイと一緒に埠頭に立っていた。
「久しぶりだね、最近は全然電話が無くて、たまにレイさんの声が聞こえる位だよ。
忙しいのかい?
何度も断った通り、僕は一緒に冒険するつもりはないよ。
誘ってくれるのは、うれしいけどね。」
タンクは相変わらず、レベルを上げるつもりはなさそうだ。
「いや、誘いに来たことを否定するつもりはないのだけど、しかし、冒険者としてではない。
単に同行者として誘いに来た。」
「へっ?・・・どういうこと?」
俺は、ここへ来たもう一つの理由を説明し始めた。
「帆船ではあるが、軍用艦を手に入れて、比較的自由に世界中を回れるようになった。
このまま、最終ダンジョンまで到達してしまうと、恐らくタンクはその地までやって来られなくなるんじゃないかと考えてね・・・、なにせ、船が無ければ行けない場所だと、困るだろ?
だから、一緒に魔物たちと戦ってレベルを上げる必要性はない、一緒に船に乗ってその地まで行こう。
最終ダンジョンを越えて、元のゲームの世界へ戻る手段を見つけたら、その時はタンクも行くだろ?」
別に船に乗ったからと言って、戦う必要性はない訳だ。
現に、軍用艦でありながら、船員たちは魔物と戦う素振りすら見せない。
幸いにも、俺達の都合で好きな所へ行けるようだし、しかも人数制限も受けてはいない。
だったら、一緒にタンクも連れて行ってしまおうと言う計画だ。
「ええっ・・・、僕なんかが一緒に行って・・、邪魔にならないかい?」
突然の申し出に、タンクは及び腰だ。
無理もない、戦いから遠ざかって、結構な日々が経過している。
しかし、最早この地に残ったところで、同業の冒険者は1人も居なくなるのだ。(タンクは既に冒険者ではないのだが、少なくとも同じゲームの世界から来た存在が、一人もいなくなってしまうのだ。)
そんな場所に、タンクを一人だけ置いて行くことはとても出来ない。
俺は、居残った冒険者たちを船に誘おうと考えた時に、同時にタンクも連れて行く必要性があると思いついた。
そうして、レイに頼んで呼び出してきてもらったのだ。
「邪魔も何も・・・、元は同じチームの仲間じゃないか。」
「そうですよ、遠慮は無用ですよ。」
源五郎も一緒になって説得してくれる。
「分った・・・、一緒に行くよ、ありがとう。」
タンクもようやく頷いた。
「じゃあ、明日の朝に出航するから、それまでに船へ来てくれ。
俺たちは、今晩も船の中に泊まるつもりだから、今晩から来てもらっても構わないぞ。」
そうして、タンクとは一旦別れた。
レイとツバサには、12人のメンバーを引き入れたことを説明し、明日の朝にでも班分けをやると言っておいた。
とりあえず、それぞれの職業をうまくばらけさせるためにも、各チームからそれぞれ一人ずつ、4チームに振り分けるつもりでいた。
そうすれば、2チームずつで2交代で船の警護に当たることができ、俺も源五郎も部屋でゆっくり寝ることができるようになる。
しかし、俺の言葉にレイの表情は浮かない様子だ。
「占い婆だって? あの、これからの進む方向を教えてくれるとか、そのほかにもアイテム獲得に必須なコインのありかを教えてくれる、伝説の占い婆かい?」
さすがにファブの港町に停泊している限り、魔物たちに襲われることもなく、平穏な夜を過ごせると考え、レイを誘ったところ、変な事を言い出した。
「そ・・・そうよ・・・、でも占い婆って言ってはいるけど、本当は違うわ。
婆じゃないけど、入口に婆って書いてあるからそう呼んでいるだけ、行けばわかるわ。」
俺と源五郎は、ツバサとレイに付き添われ、船倉奥へと進んで行く。
その途中に、なぜかセーラー服やブレザーなど吊り下げられた一角が・・・、見るとコスチューム屋と看板がかかっている。
ははあ・・・成程、レイたちの着ている服は、ここからの調達品ですか。
見ると、戦隊ヒーローものの戦闘服のような物まで陳列されている。
源五郎が、その衣装を目を輝かせながら眺めているのが、俺にも分った。
「ここよ。」
船尾の、恐らく舵の真上ではないかと言った奥まった位置にその部屋はあった。
確かに占い婆の部屋と書いてある、だから、そう呼んでいるのだろう。
「失礼します。」
そう言って、レイが扉を開けて中へと入って行く。
ツバサに続いて源五郎が、最後に俺が続く。
中は、オイルランプに照らされた2畳ほどの広さの部屋で、大きながっしりとした机の向こう側に彼女はいた。
頭からベールをかぶり、アラビアンナイト風のセクシーな衣装に身を包むその人は、そのような呼称は似合わない程、若くてそして美しかった。
占い美女・・・更にその肉体的特徴を付け加えて呼ぶのであれば、占い巨乳美女と言った方がいいだろう。
「彼がチームリーダーのサグルです。
あたしたちの時のように占ってあげてくれます?」
そう言って、レイが俺の事を紹介してくれた。
「ほう・・・、もう少しこっちへ寄って、顔を見せてくれ・・・。」
そう言いながら、占いバ・・いや巨乳美女は、両手で俺の顔をまぢかに引き寄せると、じっと目を合わせてくる。
真っ黒い瞳に吸い寄せられそうになり、思わず顔をそむけようとしてしまう。
多分耳たぶまで真っ赤っかだろう。
「ふうむ・・・水難の相が出ておる・・・、そうか、お二方と一緒の・・・。
特に彼に強く、出ているようじゃの。」
突然ショッキングなことを言い始めた。
す・・・水難・・・の相・・・だって?
「じゃあ、こっちはチームメイトの源五郎君。
彼も占ってあげてください。」
今度は源五郎を紹介して、彼女の顔が源五郎に急接近する。
傍から見ると何ともうらやましい光景なのだが、実際、あそこまでの美女に迫られると、息をするのさえ難しくなってしまう。
源五郎も、耳たぶまで真っ赤にして、頭から湯気を出しそうな雰囲気だ。
「ふうむ・・・、君にも水難の相が出ておるな・・・。
つまり、そなたたちのチーム全員に水難の相が出ているという訳だ。」
占い美女は、またまた意味不明な言葉を口走る・・・?
そうか、そういう事か、レイもツバサも、彼女が水難の相っていったものだから、航海中に魔物たちに襲われても、戦おうとしなかったのだろう。
やれ魚臭いだの、スカートが気になるだの言いだして、戦わないようにしていた訳だ。
水難の相って言われれば、水の上での戦闘は不安になるよね、そのまま海の中へ引きずり込まれるんじゃないかなんて・・・。
「水難の相って・・・、単に魔物だらけの海を航海しているから、その相手にてんやわんやって意味で水難なんじゃないのかい?
もっとも俺も源五郎も、君たちが戦わないものだから、ほぼ不眠不休で戦わされて、既に水難に会っていると自負しているけどね。
特に俺に、その相が強く出ているっていうのは、そう言った事なんじゃないかね?」
俺は、なるべく厭味ったらしく、レイとツバサの顔を順に眺めながら答える。
「いや、そうではない、そなたたちが受ける水難は、生死にかかわる激しいものだ。
恐らく近いうちに、その時は訪れる事だろう。」
俺の、名探偵さながらの推理は、あっさり否定されてしまった。




