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もしも願いがかなうなら  作者: 飛鳥 友
第4章 自分の気持ち
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第54話

                     12

「コバンザメ野郎たちが向かった先に、ジャンプシューズなんてアイテムが出現しないことを祈るのみだわ。」

 レイが、怒ったように歩き出した。

 そうか・・・、そう言ったアイテムもあるわけだ・・・、事前に手に入れていれば、このダンジョンも無事に引き返せるのだ・・・というか、安全に降りられたかも知れない。


 恐らく、ここはこの城の2階部分だろう、外周の壁の手前に下へと続く階段が見て取れる。

 レイを先頭に階段を下りて行くと、その先に居たのは巨大な鎧武者だった。

 うーむ、段々と賢者のトンネルの鍵があるところには、鎧武者という構図が成り立ってきたようだ。


「愚かな人間どもよ、我が刃の錆となりにやって来たか。

 苦しませずに、一思いにその命を絶ってやる。」

 ここの鎧武者は自信家で、過激な発言をするようだ。

 鎧武者を前に、4人が1列に並び相対する。


「むん!」

 鎧武者が目を閉じて念じると、青白い稲光に辺りが包まれる。

 しかし、先ほど手に入れた暗黒系の防具の効果か、稲光は我々の体を避けて壁や床に落ちた。


『ズゴン!』すかさずツバサがジャンプ一番、5メートルはありそうな鎧武者の顔の高さまで飛び上がり、顎に強烈な前蹴りをお見舞いする。


「おりゃあぁ」

 俺も光の剣を手に、一気に間を詰め鎧武者に切りかかる。

『カキーン』しかし、鎧武者が持つ巨大な剣に受け止められてしまった。


強光弾(サン)!」

 すかさず放つレイの魔法が、鎧武者の胴部分に炸裂し、真っ黒い焦げ目をつける。

『シュッシュッシュッ』源五郎の矢が、鎧武者の目を狙って放たれるが、左腕の小手で簡単に防がれてしまう。


『ギリギリギリギリ』相変わらず、鎧武者とのつばぜり合いが続くが、相手は右手一本で、こちらは両手で支えているのだが、圧倒的な体格差から体重を乗せて押し込まれ、分が悪い。

「えりゃっ!」

 すかさず高く跳躍して支柱を蹴ったツバサが、鎧武者の横顔目がけて蹴りを入れる。


「うぐっ!」

 少しよろけた隙をついて、何とか剣を押し返す。

 誰かのフォローがなければ、まともに組み合う事すら出来そうもない相手だ。


強光弾(サン)!」

 レイの魔法が、今度は鎧武者の左肩口を焼け焦がした。

「おりゃぁっ!」

 その衝撃に乗じて、俺は剣の切先を滑らせると、奴の懐に飛び込み、今度は右肩目がけてジャンプした。


「ぐぅぉっ!」

 が、・・・高さが足らず下から突き上げ、俺の剣は鎧武者の右わき下をえぐったに終わったが、それでもわきの下の装甲の薄いところを突くことができた。

 行ける!このまま倒せそうだ・・・と思った瞬間、鎧武者は両手を広げてつま先立ちしたかと思うと、コマのように回り始めた。


 最初はゆっくりとした回転だったが、段々とスピードが乗り、高速回転となって行く。

 まずい、この間はレッドマンがいたから、奴の回転を止めてくれたけど、今はいない、俺達だけだ。

 たとえ、隙をついて2階へ逃げたとしても、ヒーリングゾーンすらないし、脱出の術もない。


 逃げ回ったとしても、いたずらに死への時間を引き延ばすくらいしか、出来はしない。

 巨大な駒と化した鎧武者は、その猛烈な回転力を維持したまま、1階の床を走り回る。

 そのスピードゆえか、すぐには曲がり切れず、壁に激突しては壁にひびを入れながら方向を変えて襲い掛かってくる。


「どうやら、出口を作ってくれているようだよ。」

 俺は、なるべく嬉しそうに笑顔で、レイたちに振り返る。

「出口ができるより先に、壁が崩れて天井が落ちてきますよ。」

 所々ひび割れて光が差し込むようになった壁を見ながら、源五郎が青ざめる。


「ひえーっ」

 俺たちは、ただひたすら巨大ごまの餌食にならないよう、城の1階部分を駆け回るしかなかった。


「テレビスタッフのみんな、この声が聞こえたら、すぐにスロープを降りて城から離れるんだ。

 恐らく、この城ごと崩れるぞ。」

 俺はとりあえずインカムに向かって大声で叫んだ。


 スタッフだけでも逃がしておかなければ。

 俺たちは、支柱を背に巨大ごまを待ち構えると、寸でのところで躱し、支柱に駒を激突させてみた。

 しかし、崩れ落ちるのは支柱だけで、コマの勢いは何ら変わる様子は見られない。


「えーい、こうなりゃ・・・。」

 俺は支柱を背に立ち止まると、巨大ごまが回転してえぐった床の岩と岩の隙間を利用して、マグマの剣を突き刺し、更にそのすぐ後ろに氷の刃と鋼の剣を渾身の力を込めて突き立てた。


 いわば、剣で作った暫定の柵だ。

 巨大ごまは恐ろしいスピードで突っ込んできたが、深く刺しこんだ剣の柵は簡単には破れずに、幾筋もの火花が散る。

 すかさず光の剣を突き刺そうとするが、コマの回転は衰えず、弾き飛ばされてしまった。


「りゃっ!」

 その時ツバサが、その支点ともいうべき鎧武者のつま先目がけて、スライディングする。

『ガッシャーン、ゴロゴロゴロゴロ』支点を弾かれた巨大ごまは、そのまま横向きに床を転がって行く。


強光弾(サン)!」

 鎧武者が壁に激突して止まったところへ、レイの魔法が炸裂する。

 今度は鎧武者の左ももの部分が黒く焼け焦げた。


「うぉーっ!」

 俺は光の剣を大上段に振りかぶり、一気に鎧武者の元へと駆け寄って行く。


強光弾(サン)強光弾(サン)強光弾(サン)強光弾(サン)!」

 レイの援護射撃が幾発も俺を追い越して鎧武者へ達し、手や足を焦がしていく。

『シュッシュッシュッシュッ』

 源五郎の矢も、鎧武者の肩口や脇腹など、鎧のつなぎ目目がけて正確に射ぬいて行く。


『カッキーン』それでも、俺の渾身の一撃は、仰向けのままの奴の剣に受け止められてしまった。

『ズゴッ』その時、天井まで達するような跳躍から、ツバサの膝蹴りが大きく開いた鎧武者の腹に炸裂した。

 分厚い鎧も、深くえぐられ変形する。


『グサッ』俺の剣を受け止めている力が弱まった隙に、一気にのど元目がけて今度は雷の剣を突き刺す。

『バチバチバチバチッ』「ぐぅぉー・・・・」

 断末魔の声を上げて、鎧武者が息絶えたのか動かなくなった。


「ふう・・・、何とか倒せたな。

 それと、本当に出口も確保されたようだ。」

 俺は、目の前の壁に開いた大きな穴を指して、笑顔で振り返る。


「なによ、たまたまあいつの攻撃がすごすぎて、壁まで粉砕したからじゃない。

 本来なら、あいつを倒せたところで、この地の底にも似た場所から 出ることも出来ずに途方に暮れていたところだわ。


 今までは的確な判断をしていたから、リーダーとして従っていたけど、ちょっと怪しくなってきたわね。」

 レイが疑いのまなざしを見せてきた。


 そりゃそうだ、俺なんかとてもリーダーの器なんかじゃない、チームを組んだ時からわかっていたことだ。

 更に、今までは必死に考えて、皆の期待に添うようにして来たけど、このところ結果オーライが続いたせいか、少しいい気になっていたというのも確かだ。


「悪かった・・・、少し調子に乗り過ぎていたのかも知れない。」

 俺は大反省をして、頭を下げてレイたちに詫びた。


「いいんですよ、もしかしたらヤンキーパーティの組でジャンプシューズみたいなアイテムが出てくるクエストがあるのかも知れないですけど、僕たちがそれを手に入れられる可能性はゼロでしたからね。

 その事を考えていたら、このダンジョンをクリアーする事は出来なかったはずです。


 当たって砕けろは、やりすぎの面はあったけど、うまく行ったことだし、いいじゃないですか・・・、リーダー万歳ですよ。」

 それでも源五郎が、フォローに入ってくれた。


「そうですよ、あたしもリーダーのやり方は間違ってはいなかったと思っています。

 それよりも、早いところアイテムを獲得してここを出ましょう。

 いつ崩れてきてもおかしくない様子ですよ。」


 ツバサの言うとおり、先ほどからいくつもの小石などが、天井から落ちてきている。

 部屋の隅にあった宝箱の一つには、黒光りする大きな玉が入っていた。

 そして、もう一つの宝箱には小さな鍵が・・・、ついに賢者のトンネルの鍵を手に入れた。


 すぐにみんなで、壁に開いた穴から外へ出ると、そこには既に中継車が待ち構えていた。

 俺の指示を聞いて、すぐにスロープを下りてきたのだろう。

 そのまま中継車に乗り込み、城を後にする。


 暫く進むと、轟音と共に後方に土埃が上がった。

 城が崩れたのだろう、危なかった。あと数分遅れたら、俺達は下敷きになっていたかもしれない。

 鎧武者の攻撃で壁に穴が開かなかったとしたら・・・、それでもテレビスタッフがいたから、ロープでも上から垂らせてくれたのかも知れない。


 しかし、こんなに早く城が崩れるとなれば、ロープを伝って逃げ出すような時間などなく、恐らくスタッフもろとも瓦礫の下敷きになっていたことだろう。

 運が良かったと言えばそれまでだが、運に頼らなくてもいいよう、一層慎重に事を進めて行かなくてはならないと、再度深く心に刻み込む。


 放送の時間の関係上、賢者のトンネルに向かうのは明日にして、チコリ村へ戻る。

 いつものように全員でお祈りをした後、スタッフとは別れた。

 彼らは、この星の宿に泊まるためだ。


 本当は節約も兼ねて俺達もこの星の宿に泊まりたかったのだが、小さな村の小さな宿であり、スタッフだけで満室で、泊まる部屋がなかったので、俺たちは冒険者用の温泉宿に泊まることになった。

 みんなでヤンキーパーティの奴らの冒険を食堂で見る。


 段々と、ダンジョンでの奴らの戦いぶりも様になってきたようだ。

 まだまだ、グリーンマンあってのものという印象は消えないが、ボスキャラ以外なら何とかなりそうな雰囲気を感じさせるようになってきた。


 そう考えると、グリーンマンは良い指導者といえるのかもしれない。

 宝箱を開けるたびに、ジャンプシューズが出てこないでくれと祈りながら見ている自分が、少々情けなかった。


 奴らの放送が終わった後に解散というか、風呂へ行く。

 またまた、プールのように水着を着て入る温泉だったが、それでも気分はリフレッシュできた。

 部屋へ戻ってから、着替えているとドアをノックする音が・・・、開けてみるとレイが立っていた。


「あれ?だって・・・、俺の事怒っていたんじゃ・・・。」


「そうよ、この星の住民であるツバサちゃんを連れて行動しているってことを、忘れては欲しくないの。

 あたしたちの勝手な気持ちに、彼女を巻き込んで欲しくはないのよ。」

 レイがいつになく真剣な表情で告げる。


「勝手な気持ち?」

 しかし、俺には、彼女の言っている言葉の意味すら分からない。


「うまく言えないけど、あたしたちはいうなれば、死にたがりじゃない。

 元の次元に帰って、ゲームの世界に戻るんだなんて言っているけど、本当は帰れないくらいなら、死んだ方がいいと思っているんじゃないの?少なくともあたしは、そう思えて来たわ。


 なにせ、ここに居る自分はダミーで、本来の自分は地球で普通の生活をしている訳だから、今ここの自分が死んだとしたって、どうと言う事はないんだものね。

 元々遊びの・・・、つまりはゲームとしてこの冒険に自主的に参加した訳なんだし。


 言ってみれば、この次元へ移ったばかりの時に、死ねば元の世界に帰れると思って、半ば自殺気味にレベルの高いダンジョンに身を投じた冒険者たちと、何ら変わりはないのよ。

 無抵抗で殺されるだけの決心がつかないから、遮二無二戦って勝ち進んでいるだけでしょ?


 何時か、全てのダンジョンをクリアして、魔物たちがいなくなれば、あわよくば元の次元に帰れるんじゃないかという夢みたいな希望を持って何とか生き続けているけど、それまでの過程で、どこかで凄まじく強いボスキャラに抵抗むなしく倒されてしまうのではないかという気持ち、どっちもあるでしょ?


 というあたしも、源五郎君に言われて気づかされたようなものなのよね。

 彼は、いつ死んでもいいようにって、色々と考えているわよ。

 ここまでに出会った人々に関してもそうだけど、魔物たちに関しても、出現場所に加えて魔法特性に攻撃の種類、弱点とか色々と記録しているみたいね。


 最初のうちは、流石はパソコンおたくって感じで聞いていたんだけど、どうやら、自分が倒れた後も、この冒険を誰かに引き継いでほしくて、攻略のための指標になるように記録しているようなのね。

 だから、記録している手帳は、冒険者用の袋に入れずに、普通の手提げ袋に入れているって言っていた。

 これなら、自分が死んだ後でも、誰にでも取り出せるからって。


 あなたもそれなりに、自分が倒された後の事を考えているのでしょうけど、だからこそ、命がけの行動にも出られるのでしょうけど、それはあくまでもこちらサイドの人間の感情でしかないのよ。

 そんな勝手な思いにツバサちゃんを巻き込まないであげて欲しいの、ツバサちゃんはたった一つの命なのよ。


 もっと慎重に考えて行動して。

 身代わりの指輪をしているから大丈夫、なんていう事は出来ないのよ。

 魔物からの攻撃が、一撃だけなんて限らないのだからね。」


「俺が、死にたがり・・・、そんな思いに、ツバサを巻き込んでいる?

 そ・・・そんな事・・・。」


 俺は、レイの言葉に、絶句した。

 源五郎とレイは、いつも死についての話などをしていたという事か。

 少し嫉妬心というか、やきもちのような感情がこみ上げてくる。


 いや、恐らく俺のこれまでの命知らずの行動について、相談しあっていたという事だろう。

 リーダーを任せるにふさわしいものかというようなことを。


 そんな事より、源五郎はいつ死んでもいいように常に身構えているという事か・・・。

 俺はどうなんだ?


 リーダーなんて、がらでもないことを引き受けて、それでも必死に考えてみんなの顔色を窺いながら、クエストを選んだり、戦い方を指示したりしていた。

 良いリーダーであり続けようとしていた。


 なぜか運よく、うまい事行っていたところが、化けの皮がついに剥がされたと思っていたが、意外な言葉を突きつけられた。

 冒険を続けることに関して、何度も自問自答したはずだが、死にたがっているとは考えたこともなかった。

 少なくとも俺は、生きたがっているはずだ。


「本当に生きて帰りたければ、あなたたちの元メンバーのタンクさんのように、安全なところで帰れる機会を待ち望んで、静かに暮らしているわよ。

 帰れる算段が付いたところで、それから安全を確認しながら行動すればいいのだからね。


 冒険をするという事は、その前に死んでしまう確率が、限りなく高い・・・だって冒険だものね。

 だから、握手券なんてとんでもないことを考えて、他の冒険者たちを冒険に引き入れることだって、あたしは反対だったのよ。


 なにせ、彼らだって命の大切さを感じて、生きたいと願っているから、危険な冒険を避けていた訳でしょ。

 でも、源五郎君が素晴らしいアイデアだって感心して言っていた。

 なにせ、あたしたちの冒険が道半ばで終わってしまった場合、誰かが後を引き継がなければならないから、それまでにもある程度のレベルになっていなければならない。


 これは、あなたからも何回か聞かされたことだから、分っているけど。

 でも、源五郎君が言うには、加えて別の理由として、他の冒険者たちが食い詰めて、また悪さをしないよう、定期的に小銭を稼がせる目的もあるのだろうって。


 しかも、生活の為に魔物退治を斡旋してもらうのではなくて、目的は握手券だから、彼らのプライドは保たれるって言っていた・・・レッドマンのフォローもあるし、そんなに命がけでもなさそうだしね。

 そんな深い思惑があったのかと、あたしも感心していたのよ。


 でも、ツバサちゃんの事は別。

 彼女が、あたしたちの仲間になって冒険をしたがっている本当の理由は分らないけど、少なくとも死にたい訳ではなさそうよ。

 だから、巻き込まないであげて欲しいのよ。」


 レイの言葉に、頭を鈍器で思い切りたたかれたんじゃないかくらいの衝撃が走った。

 あまりの事に、言われた言葉の数々が、ぐるぐると頭の中を巡っている。

 まてまて、冷静に一つ一つ検討しろ。

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